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018:カレルの論文の原典翻訳(外科学会雑誌 投稿論文)(望月吉彦先生) - ドクターズコラム

大人の健康情報

望月吉彦先生

更新日:2015/05/25

あまりノーベル賞論文を読む機会も無いと思うのですが、ノーベル賞論文の全訳をご紹介したいと思います。心臓血管外科領域でノーベル賞をもらったのはフランスの外科医アレクシス・カレルだけです。彼は円い血管を三角にする事で血管吻合が簡単に出来るようにしました。カレルが29歳の時(1902年)に書いた論文です。

私は、このカレルの論文を入手し、訳出して1996年外科学会雑誌に投稿しました。原文はフランス語です。
まず血管外科、移植外科の基礎を築いたカレルの論文の原典を探しました。彼の血管吻合に関する論文は1902年、リヨン医学会雑誌に発表されている事は解っていたのですが、原典を入手する事は中々出来ませんでした。教科書に出て来る有名な3点支持による図はこの論文が初発です。
たまたま、リヨンに留学する友人がいて、捜してもらいました。1902年の論文ですからリヨンでもなかなか入手が難しかったそうです。

今から見ても完璧な論文と思います。この論文を書いた後にカレルは自分の腸結核の末期患者が「ルルドの奇跡」と称される南仏ルルドの泉水を飲んで治ったのに驚き、その事を論文に書いた結果、リヨン医学会から追放され、アメリカに渡り、ロックフェラー医学研究所において血管外科、移植外科、心臓外科の基礎を作り、後にノーベル賞を受賞しています。野口英世の同僚でした。野口をノーベル賞に推薦したのもカレルである事が解っています。そのことはさておき、この論文がヘパリンも無い、糸も現在我々が使っている血管吻合用糸や針の無い時代に書かれた事彼の着想のすばらしさに圧倒されます。以下が論文の訳です。

この文献が凄いのは

  1. カレルが臓器移植の方法の1つとして、血管吻合を開発した事
  2. 血管吻合の基礎が全て書かれている事

の2点だと思います。
この論文の題からも解る様に、血管吻合だけがこの論文の眼目ではありません。先ず、臓器移植があり、その方法として、血管吻合を開発している事が解ります。フランス人は時に思いもよらない発想の論文を書きますが、一体何が違うのでしょうか。余談ですが、腹腔鏡手術も同じリヨンの外科医フィリップ、ムレー が1987年に発表し、現在に至っています。

フランス リヨン

追記:カレルは刺繍師のおばさんに縫い方を教わったそうです。織物産業で昔から有名な町ですから、刺繍の上手い方が昔からたくさんいたのでしょう。なお、1996年にはリヨンでサミットが開かれました。美食でも有名で、フランスで有名なシェフのほとんどはリヨンで料理を学ぶそうです。

望月吉彦先生

望月吉彦先生

所属学会
日本胸部外科学会
日本外科学会
日本循環器学会
日本心臓血管外科学会
出身大学
鳥取大学医学部
経歴
東京慈恵会医科大学・助手(心臓外科学)
獨協医科大学教授(外科学・胸部)
足利赤十字病院 心臓血管外科部長
エミリオ森口クリニック 診療部長
医療法人社団エミリオ森口 理事長
芝浦スリーワンクリニック 院長

医療法人社団エミリオ森口 芝浦スリーワンクリニック
東京都港区芝浦1-3-10 チサンホテル浜松町1階
TEL:03-6779-8181
URL:http://www.emilio-moriguchi.or.jp/

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