インフルエンザは、時には社会に大きな影響を及ぼす病気なので、まことしやかな憶測が飛び交い、誤解が生じて都市伝説化することがあります。例えば、「今年は流行が早くはじまったからピークも早い」、「あの薬は耐性があるから飲むと危ない」などと断定していても、事実とは異なることがあります。お住いのエリアの現状を把握することが重要です。2019年10月に都内で開催されたセミナー*1で、日本臨床内科医会インフルエンザ研究班の池松秀之先生が最近の流行事情と治療動向などを解説しました。
目次
池松先生は、同医会で毎年発行するインフルエンザ診療マニュアルの最新版(2019-2010年シーズン版)などから、インフルエンザの最新情報をふまえて講演しました。
講演によると、ヒトに病気をもたらすインフルエンザウイルスはおもにA型、B型、C型の3種類です。このなかで、C型の症状は一般的に非常に軽く、最近の流行で問題となるウイルスはA型とB型です。
A型は香港型(H3N2の系統)と2009年の新型インフルエンザで出現したH1N1の亜型の2種類*2、B型は山形系統とビクトリア系統に分類されます*3。
A型のH1N1に関しては、新型ウイルスとして出現した2009年は10代の感染例が多く、40歳以降の感染例は少なかったのですが、最近は中年~高齢者の感染例が増えています。
同じA型で香港型(H3N2)は、1968年のいわゆる「香港かぜ」の原因で、半世紀も流行が続いています。成人以降の感染例も多く、高齢者で肺炎の合併やインフルエンザの集団発生が問題になります。
B型に関しては、子供をはじめ19歳以下に多かったのですが、最近は中高年層でもインフルエンザ迅速診断キットを使用して診断される機会が増えていること、39℃を超える高熱のケースは少ないことが知られています。症状は、高齢者では軽い例が少なくないことから、「隠れインフル」という言葉が世間を賑わしましたが、それらにはB型が多く含まれていたのかもしれません。
最近10年間の流行状況を見ると、例年では流行は12月から顕著になり、ピークは1月末くらいのケースがよく見られます。
1月のピークはA型の流行が多く、B型のピークはそれより遅いことが多いのですが、2013-14年と2017-18年のシーズンは同時流行しました。2018-19年のシーズンは、B型の流行は見られませんでした。
A型に関しては、最近10年間ではH1N1と香港型(H3N2)の2つの亜型のウイルスによる流行が交互にみられることが多かったのですが、隔年現象とは言い切れません。
「去年はB型の流行がなかったので今年はBに注意」、「昨年は香港型(H3N2)が流行したから今年はH1N1」という憶測には必ずしも信憑性はありません。
現状に関しては、国立感染症研究所のインフルエンザ流行レベルマップ2019年第49週 (12月2日~12月8日)2019年12月11日現在(https://nesid4g.mhlw.go.jp/Hasseidoko/Levelmap/flu/new_jmap.html)を見ると、警報レベルを超えている保健所地域は15か所(1道6県)、注意報レベルを超えている保健所地域は181ヵ所(1都1道2府31県)でした。
A型インフルエンザでも、H3N2(香港型)とH1N1では、症状に違いがみられるかは関心事です。池松先生らが最近の数シーズンで患者さんの最高体温を集計して分析した結果を見ると、H1N1、H3N2ともに0歳~19歳の最高体温の平均は39℃以上でした。どちらのウイルスに感染しても最高体温に大きな差はありません。つまり、病原性が強いウイルスはどちらかとはいえません。
流行時の患者さんの症状は毎年同じではなく、微妙に異なります。インフルエンザウイルスは変異を頻繁に繰り返すので、毎年の流行ウイルスの特徴や感染による病状は年度ごと変化している可能性があります。
流行予測は難しいです。どのウイルスが強い病原性を持つのかは、実際の流行状況と患者さんの病状を把握しないといけません。憶測は都市伝説になりやすいので、惑わされないことが大切です。
インフルエンザは、ウイルスが細胞に侵入して増殖し、さらに別の細胞にウイルスが侵入して増殖していきます。急に高熱になるのは、ウイルスが急速に増殖するからです。
高熱が発症のサインといえますが、その段階で何もせずに放置すると、まれに重症化する危険性があります。
子供では急性脳症や異常行動、高齢者や免疫が低下した人では肺炎などが問題になります(異常行動に関しては、これまでの調査結果から薬を服用していない場合でも現れることがあるとの報告があります)。
そこで、まずは予防接種を受けることが重要です。
高熱になって発症したら、体内でウイルスが増殖するのを食い止める抗インフルエンザ薬の服用が重要です。池松先生らが患者さん800人以上を対象にした研究結果があります。
研究では、発熱(発症)した日時、治療が始められた日時、解熱まで記載してもらった日誌記録を解析して、発症して治療を受けるまでの時間が12時間以内、13~24時間、25~36時間、36~48時間でグループ分けして、治療開始から解熱するまでの時間と発症後から解熱するまでの時間を検討しました。
結果を見ると、治療開始から解熱するまでの時間はどのグループでも同程度で、発症後に治療を受けるまでの時間が短いほど発症から解熱するまでの時間が短く、発症後12時間以内に治療を受けたグループと36~48時間後で治療を受けた人のグループでは、解熱するまでの時間の差が大きいことが明らかになりました*4。
高熱に苦しむ時間を減らして重症化しないために、発熱したら早く治療を受けることが推奨されます。
国内の治療薬はノイラミニダーゼ阻害薬4種類、2018年に発売されたキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬など*5がありますが、池松先生らの検討では、発症後から解熱までの時間に薬剤間で差がありません。飲み薬、吸入薬、注射などがあります。
A型インフルエンザで解熱までの時間は25~30時間に対し、B型では40時間程度と長い可能性があるとの研究結果はありますが、薬剤間では差はあるとはいえません。
薬で問題となるのは耐性ウイルスです。2019年はキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬の耐性ウイルスの話題が報道されました。
また、医学会から12歳未満の子どもについて、「臨床データが乏しいなかで使用を慎重に検討すべき」との提言があり、さまざまな憶測が飛び交いました。
池松先生によると、さまざまな誤解を解くために、以下の事実を述べていました。
インフルエンザは学級閉鎖をはじめ社会に大きな影響を及ぼします。だから、都市伝説のような風評が広がりやすいのですが、ネット上で飛び交う情報には気をつけましょう。
インフルエンザの流行がはじまって、流行のピークや患者さんの病状の特徴、流行によって社会的にどのような影響があるのかどうかはリアルタイムの情報でないとわかりません。
国内の流行状況については、国立感染症研究所のインフルエンザ流行レベルマップやインフル様疾患発生報告(学校欠席者数)などのサーベイランス情報を閲覧できます。下記を参考にしてください。
■参考
■関連記事