パーキンソン病は、手足の震えや、動きがにぶくなること、不安やうつ、落ち込みなど、さまざまな症状があります。病気のメカニズムと最新治療に関して、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)ブレインバンク主催の市民講演会*1から、国立病院機構仙台西多賀病院院長の武田篤先生の講演「パーキンソン病ってどんな病気?」を中心に紹介します。
目次
武田先生は、パーキンソン病になぜなるのか、そして治療の最前線として日常生活の悩みをやわらげるための治療法や、病気のメカニズムに着目した新薬に関して解説しました。
講演によると、体を動かすことや心を落ち着かせることは、脳内で神経と神経が連絡を取り合い、情報が伝達されることにより調節されますが、パーキンソン病という病気はスムーズに調節することができません。
原因は、脳内の神経情報の伝達に関わる物質のドパミンが減るためと考えられています。ドパミンは、脳幹の中脳にある黒質というところのドパミン神経細胞でつくられますが、ドパミン神経細胞が減ってドパミンが欠乏してくると、脳内の運動調節に関わる線条体や、思考や心の調節に関わる前頭葉に神経情報をうまく伝えられません。
そうすると。手足の震えや動きがぎこちない運動症状、不安やうつ、落ち着きのなさ、神経障害の便秘や嗅覚の障害、睡眠障害などの非運動症状が現れます。
パーキンソン病の治療はドパミン不足を補うために「さびた自転車に油をさす」、「脳内の潤滑油になる」という考えかたです。薬は、L-ドパという脳内に移行したらドパミンに変わる作用を持つ薬(レボドパ製剤ともいいます)が中心になります。
しかし、薬の効果持続時間が短いことと、長期にわたり服用することで薬が効く時間帯が以前よりも短くなるケース、脳がL-ドパに反応しやすいケースなどにより、運動合併症という日常生活に影響する問題がおこることがあります。
運動合併症には、1日の中で薬の効果が途切れる時間帯がでてくるウェアリング・オフや、薬が効きすぎて自分の意思と関係なく勝手に動くジスキネジアがあります。
そこで、L-ドパのドパミン補充効果を補助することや調節することをおもな目的として、ドパミンの作用を促すための薬(ドパミンアゴニスト*2)などのほか、薬が脳以外の体内で分解されることを防いで脳内に移行されやすくする代謝酵素阻害薬*3などもあります。
日本神経学会の医師向けのパーキンソン病診療ガイドラインでは、発症早期の患者さん、病歴が長い進行期の患者さんなど、それぞれ治療方法が提案されています。
発症が60歳代以下で発症早期のケースでは、ドパミン神経細胞がまだ十分に残っていることもあり、L-ドパ以外の薬剤も比較的有効性を示しやすいと考えられます。こうしたケースでは運動合併症の予防のために、ほかの薬(ドパミンアゴニストなど)と組み合わせて、L-ドパの投与量を減らすL-ドパ回避療法が選択されることがあります。
一方で70歳代以上など比較的高齢で発症したケースや認知機能障害が加わったケース、さらに運動機能障害の強いケースなどでは、もっとも有効性の高いL-ドパを第一選択とします。
進行期の患者さん、高齢患者さんではドパミンをつくるドパミン神経細胞がかなり欠乏していると考えられるので、不足したドパミンを補うためのL-ドパが治療の中心になります。
L-ドパは効果の持続時間が短いことや、長年にわたり薬を服用することなどにより、ウェアリング・オフやジスキネジアなどの運動合併症が問題になります。対策の1つとして、最近は機器を用いたデバイス治療も使われています。
デバイス治療については、胃に穴を開けて小腸までチューブを入れ、体外式ポンプ機器を装着して一定かつ持続的に服用することでL-ドパの効果を途切れないようにする治療法が健康保険で受けられます*2。
また、皮下注射のデバイス治療(持続皮下注入療法)についても開発が進んでいます。
最近、パーキンソン病、アルツハイマー型の認知症、ALS(筋萎縮性側索硬化症)といった変性性の神経の病気は「タンパク溜まり病*5」であるといわれています。
というのは、神経細胞にタンパクが凝集して溜まると、封入体というタンパクのかたまりができて、神経細胞にダメージを与えることが発症原因になるからです。
パーキンソン病では、ドパミン神経細胞のなかにαシヌクレインというタンパクが蓄積してレビー小体という封入体ができると、ドパミン神経細胞にダメージを与えてドパミンが欠乏することが明らかになっています*6。
そこで、ドパミン神経細胞に異常蓄積したタンパク(αシヌクレイン)を減少させて封入体のレビー小体を除去する抗αシヌクレイン抗体薬が保険承認に向けて開発されています。
その他の新薬関連では、脳内でαシヌクレインのタンパク合成自体を防ぐ核酸医薬の開発研究が進められています。また、ドパミン神経細胞を再生させることでドパミンを多くつくることを目的としたiPS細胞を応用した再生医療の研究が進められています。
最後になりますが、パーキンソン病患者さんのなかには、薬の福作用に悩んで服用を自己判断でやめる人がいます。しかし、体内で減ってしまったドパミンを補充しないと、ますます病態が悪化していくので、薬を中断することは避けなければなりません。
患者さんの状況に応じて、個人に最適な治療を受けられるよう、さまざまな選択肢があります。患者さんは、日常生活で困っていることなどをメモして持っていくなど、医療者に理解してもらったうえで、治療法について相談しましょう。
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