緑内障は、40歳以上で20人に1人といわれるほど患者さんが多い病気です。奈良県立医科大学の研究グループは、通院中の緑内障患者さんを対象にした研究*1から、普通は夜間の睡眠中に下がるはずの血圧が、緑内障患者さんでは下がりにくいことがあり、さらに睡眠中の血圧が高いと心血管系の病気になりやすいので注意すべきと、眼科系学雑誌Ophthalmology*2に報告しました。
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緑内障は、視覚情報を伝える視神経が障害されて、視野や視力に支障をきたす慢性の神経変性疾患です。眼圧が高くなって視神経が圧迫されて障害を受ける以外に、眼圧が正常でも視神経がダメージを受けることがあります。
「多治見スタディ」(2000~02年に岐阜県多治見市の40歳以上の住民3021人を対象にした大規模研究)*3によると、緑内障の有病率は5%(20人に1人の割合)で、過半数が正常眼圧でも緑内障と判定され、さらに大半が未受診であったことが明らかになりました。
緑内障は、40歳以上では20人に1人といわれていますが、眼圧が正常で自覚症状に乏しいので未受診の人が多いこと、中途失明の原因で第1位とされていることが課題です。
超高齢化が進む日本で、視機能障害が生活の質の悪化や医療コストの増大をもたらすことをはじめ、大きな社会的問題になることが危惧されています。
緑内障は早期発見・治療により、失明の危険性を少しでも減らせる病気です。緑内障の発症や悪化、合併症の防止に関わる要因をみつけることが重要です。
そこで、奈良県立医科大学吉川匡宣先生らの研究グループは、下記に着目しました。
実際、先生らの研究グループは緑内障患者さんでは生体リズム関連疾患であるうつ症状と関係しているという研究結果を報告しています*4。
生体リズムに関しては、血圧は1日のなかで変動があり、夜間の睡眠中に下降しますが、睡眠中の血圧が下がらずに高い状態だと心血管系疾患を発症しやすいことが知られています。
心血管系疾患の発症予測をしやすいのは日中の活動時の血圧よりも夜間の血圧なので、この生体リズム(睡眠中の血圧の状態)が重要な指標になります。
研究グループは、緑内障が1日における血圧の変動(特に夜間の血圧)に関わるとの仮説を立て、緑内障患者さんとそうでない人を対象に研究(LIGHT study)を実施しました。
LIGHT studyは、奈良県立医科大学附属病院に通院中の緑内障患者109人(平均年齢71.0歳)と地域住民対象の疫学研究参加者から緑内障を除外した708人(平均年齢70.8歳)に24時間連続で血圧を測定してもらい、それぞれのグループで比較・検討したものです。
24時間連続血圧データを比較した結果、夜間の睡眠中の血圧は緑内障患者さんのグループでは平均119.3mmHgと、緑内障でないグループの同114.8mmHgに比べて、統計学的に有意に高いことが明らかになりました(図)。
出典:奈良県立医科大学プレスリリース「緑内障が睡眠中の血圧上昇と関連」
http://www.naramed-u.ac.jp/university/kanrenshisetsu/sangakukan/documents/houdousiryou702-1.pdf
Ophthalmology.2019 May 25. pii: S0161-6420(18)33407-9. Doi
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31230793
また、睡眠中の血圧下降が不十分な人(non-dipperといいます*5)の割合は、緑内障患者さんグループでは緑内障でないグループに比べて1.96倍になるとの結果も得られました。
さらに、年齢、肥満、糖尿病などを調整して解析した結果、緑内障患者さんグループと緑内障でないグループでは夜間の睡眠中の血圧の平均値に4.1mmHgの差があり、緑内障患者さんグループのほうが統計学的に有意に高いことが明らかになりました。
研究結果から、緑内障患者さんでは年齢・肥満・糖尿病等とは独立して、緑内障が夜間の睡眠中の血圧上昇との関わりが認められました。夜間の睡眠中の血圧が上昇することで心血管系疾患を生じやすいことや死亡に至りやすい可能性が推察されました。
緑内障は、眼圧が正常でも発症しているケースがあり、未受診者が多く自覚症状に乏しいという特徴があります。中途失明の原因で第1位なので、超高齢社会の日本で患者さんが増加してしまうと、将来にわたって大きな社会問題になります。
緑内障を早期に発見して治療を受けることにより、失明の危険性を減らすことができます。
研究グループは、今回の研究結果から、「緑内障は見えかただけでなく、全身にも影響を与える可能性が推察されました。また、緑内障患者さんでは心血管系疾患のリスクが高い場合は、血圧管理により注意を払う必要があると言えます」とコメントしています。