肝臓は、栄養素の代謝・貯蔵や解毒作用など重要な機能がありますが、肝臓がほぼ機能していない重度の肝硬変(非代償性肝硬変といいます)になってはじめて特徴的な症状が現れることが問題です。非代償性肝硬変とはどのような病気なのでしょうか。メディアセミナーで武蔵野赤十字病院の黒崎雅之先生の講演内容を紹介します。
目次
肝臓は、食べ物が消化された後の栄養素の代謝や貯蔵、体内における解毒作用など重要なはたらき(機能)を持っています。
肝臓は気付かないうちに悪化して、慢性肝炎の状態が続くと、肝細胞が壊れた跡に線維が沈着して肝臓が硬くなる肝線維化を起こしやすくなり肝硬変にいたります。その後は、肝不全や肝がんへと移行していきます。
原因としては、ウイルス(C型肝炎ウイルスやB型肝炎ウイルスなど)、アルコール、薬剤性、遺伝性(先天性といいます)があるほか、非アルコール性の脂肪肝から進行するケースもあります。以下の順で肝臓は悪化していきます(図1)。
図1:肝臓の病気の経過
慢性肝疾患(ウイルス性、アルコール性、薬剤性、先天性などがあります)
↓
肝硬変の中でも、肝臓の機能がある程度は保たれている代償性肝硬変
↓
肝臓の機能が低下して、特徴的な症状が見られる非代償性肝硬変
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肝不全
慢性肝疾患では、3大症状の「体がだるい」、「足がつったり、こむら返りをする」、「全身がかゆい」はあります。ただ、体調が悪いときや他の病気でも見られる症状なので、肝臓に特徴的とはいえません。
非代償性肝硬変の状態になるまでは、特徴的な症状があまり見られないので、肝臓が悪くなっていることを自覚できないのが問題です。
肝臓の機能が弱まっている状態になるまで特徴的な症状が現れない理由は、肝臓に痛覚がないことや、筋肉が肩代わりして栄養素の代謝や解毒作用などをしてくれるからです。だから、肝臓は沈黙の臓器といわれます。
肝硬変は、肝機能がある程度は保たれている代償性肝硬変から、肝機能がかなり弱まった非代償性肝硬変へと進行していきます。
非代償性肝硬変に進行すると、以下のような特徴的な症状があります。
2010年4月より、肝臓機能障害による身体障害者手帳が交付されることになり、肝障害の重症度によっては医療費の一部などが軽減される制度があります。
対象となるのは、認定基準に該当する肝臓機能障害のある患者さん、肝臓移植を受けて抗免疫療法を受けており、重症度はChild-Pugh分類で3ヵ月以上グレードB(中等度)に該当する代償性肝硬変から非代償性肝硬変に移行する患者さんです(以下の表を参照)。
なお、適用には地域差がありますので、専門医と住民票のある自治体に相談ください。
1点 | 2点 | 3点 | |
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脳症 | ない | 軽度(Ⅰ、Ⅱ) | 時々昏睡(Ⅲ~) |
腹水 | ない | 少量(1~3L) | 中等量(3L~) |
血清ビリルビン値(mg/dL) | 2.0未満 | 2.0~3.0 | 3.0超 |
血清アルブミン値(g/dL) | 3.5超 | 2.8~3.5 | 2.8未満 |
プロトロンビン活性値(%) | 70超 | 40~70 | 40未満 |
各ポイントを合計して、その合計点で判定する。
出典:厚生労働省「肝臓機能障害の認定基準に関する検討会」資料
患者さんの予後を見ると、肝がんによる死亡はC型肝炎ウイルス由来では6割、B型肝炎ウイルス由来では5割、肝不全による死亡はアルコール性肝炎では6割を占めます*1。
肝硬変から肝不全や肝がんに進行していく可能性があります。肝臓移植という選択肢もありますが、適合するドナーが見つかりにくいという問題もあり、非代償性肝硬変の患者さんでは肝機能を悪化させずに維持できる治療が必要です。
そこで、2019年2月26日からC型肝炎ウイルス由来の非代償性肝硬変患者さんが保険適用で治療を受けられる抗ウイルス療法*2の飲み薬が国から承認されました。
次回、紹介します。