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うつ病チェックで糖尿病悪化を防ぐ

うつ病が悪化するほど糖尿病にも悪影響をもたらすため、うつ病を予防することが大切です。また、心身の不調があるときに、うつ病かもしれないと考えてチェックすることが早めの対処に繋がります。東京女子医科大学の石澤香野先生に、うつ病チェックについて海外の研究報告を踏まえて解説してもらいました(2018年6月の第39回荒川糖尿病セミナーの講演内容をもとに本記事を作成しました)。

体調の変化がうつ病のサインかもしれない

疲れがとれない

海外では、一般の診療(プライマリ・ケア)の場において、うつ病を合併する患者さんの半数でうつ病が見逃されていることが報告されています*1
病院での診察は慌ただしくなりがちですが、医師も患者さんも、うつ病のことを知り、早めにうつ症状に気が付くことが大切です。
うつ病では、抑うつ気分や、興味・喜びの喪失といった精神的な症状のほか、食欲が落ちて体重が減ったり、逆に食べ過ぎたりといった食行動の変化や、不眠や過眠といった生活リズムの乱れが目立つこともあります。
また、「疲れがとれない」「頭痛がひどい」「おなかの調子が悪い」といった身体の症状がなかなか良くならず、身体の症状を調べている過程で、うつ病が発見されることもあります。

うつ病のリスクをPHQ-9でチェックしよう

うつ病に気づくためには、まず簡便な方法でうつ病のスクリーニングをすることが勧められます。自分で記入するうつ病の自己記入式質問紙には、さまざまなものがありますが、「うつ病+糖尿病の人は食生活に注意!」「女性は糖尿病とうつ病の合併率が高い?」にもあったPatient Health Questionnaire-9(PHQ-9)*2は、日本語版の妥当性が評価されており、概ね1分以内で回答が可能であることから、一般の診療(プライマリ・ケア)でも使用しやすい質問紙だと思われます。
PHQ-9では、表1にあるように、過去2週間に9つのうつ症状が、どれくらいの頻度で持続したのかが問われます。
回答する人は、「全くない」「数日」「半分以上」「ほとんど毎日」から選んで回答します。「全くない」「数日」「半分以上」「ほとんど毎日」を、それぞれ0から3点にスコア化して、各項目の得点(0~3点)と総合得点(0~27点)を算出します。
総合得点で、0~4点はうつがない状態、5~9点は軽度のうつ状態、10点以上は中等度以上のうつ状態と判定されます。

表1:Patient Health Questionnaire-9 (PHQ-9)スコア

この2週間、次のような問題にどのくらい頻繁に悩まされていますか? まったくない 数日 半分以上 ほとんど毎日
1 物事に対してほとんど興味がない、または楽しめない
2 気分が落ち込む、憂うつになる、または絶望的な気持ちになる
3 寝付きが悪い、途中で目がさめる、または逆に眠りすぎる
4 疲れた感じがする、または気力がない
5 あまり食欲がない、または食べすぎる
6 自分はダメな人間だ、人生の敗北者だと気に病む、自分自身あるいは家族に申し訳がないと感じる
7 新聞を読む、またはテレビを見ることなどに集中することが難しい
8 他人が気づくぐらいに動きや話し方が遅くなる、あるいはこれと反対に、ぞわぞわしたり、落ち着かず、普段よりも動き回ることがある
9 死んだ方がましだ、あるいは自分を何らかの方法で傷つけようと思ったことがある

総合得点

0~4点:うつがない状態
5~9点:軽度のうつ状態
10点以上:中等度以上のうつ状態

*2より引用改変

うつ状態を把握して、うつ病と糖尿病の適切な診断・治療を受けよう

うつ病と糖尿病はお互いに関わりやすく、どちらの病気もライフサイクルに影響を与えます。日々の生活やセルフケアにストレスを感じやすくなるため、糖尿病の病態が悪化したり、うつ病が長引いたり、うつ病を繰り返しやすくなったりする危険があります。
PHQ-9などの簡便なスクリーニングによりうつの状態を把握して、うつ病ならびに糖尿病に対する適切な診断・治療を受けることで、こうした悪化を防ぎやすくなります。糖尿病がある患者さんでは、PHQ-9で自己チェックしたうえで医師に相談することも有用といえます。

PHQ-9が10点以上のときは心身の負担を早めに見直そう

海外の研究DIACET研究など、いくつかの研究の結果は、PHQ-9が10点以上の中等度以上のうつ症状が、糖尿病に影響を与えるカットオフポイントであることを示唆しています。
PHQ-9の総合得点10点以上では大うつ病の可能性もあるので(感度・特異度 各々88%)、主治医や看護師といった身近な医療スタッフが相談にのったり、精神科や心療内科などの専門家の診断を受けたりすることが大切です。
糖尿病の治療法やライフスタイルの見直しをすすめたり、精神科や心療内科などの専門家の診察を受けてメンタルヘルスを整えたりすることで、糖尿病の悪化を防ぐことができる可能性があります。
海外では、うつ病を合併した糖尿病患者さんに対する「協同ケア」と呼ばれる精神科的介入が試みられています。
うつ症状をマネージメントするケアマネージャーと呼ばれる看護師さんが中心となって多種職で協同して、患者さんの心理的、精神科的支援を行うもので、うつ症状のみならず、血糖コントロールが良くなることや、血圧やコレステロール値が改善して心血管疾患のリスクが低減したことが報告されています*3
石澤先生は「うつ病と糖尿病を同時に取り組み、うつ病と糖尿病の悪化を防ごうとする試みが、始まっています」としています。

糖尿病のストレスを抱え込まないで:石澤先生から患者さんへのメッセージ

糖尿病のみならず、うつ病に対しても食生活をきちんとして、十分な睡眠時間を確保し、日光を浴びながら体を動かすことが、病気の予防に役立つことがわかっています。また最近は、「認知行動療法」という手法も注目されています。ストレスを受けるとつい悲観的に考えがちですが、ストレスの受け取り方や考え方を柔軟にすることで、つらい感覚が和らぎ、上手にストレスに対応できるようになります。
糖尿病に伴うストレスに対して負担を感じているとき、糖尿病に関する心配事や不安があるときには、糖尿病の正しい知識と 対処法を確認するためにも、まずは身近な医療スタッフに自分の気持ちを伝えて相談してください。そこから、支援の糸口が見つかることも少なくありません。そのうえで、つらい気持ちが続くような場合は、心療内科や精神科などの専門外来で相談し、うつ病の有無の診断や薬物治療を検討することも必要です。ストレスやつらい気持ちを抱え込まず、糖尿病やうつ病の治療につなげていただければと思います。

  • *1:Li C, et al.: Prevalence and correlates of undiagnosed depression among U.S. adults with diabetes: the Behavioral Risk Factor Surveillance System, 2006. Diabetes Res Clin Pract 2009;83(2):268-79.
  • *2:Kroenke K, et al. J Gen Intern Med 2001;16:606-613,
  • *3:Katon WJ, et al. N Engl J Med 2010; 363:2611-2620.
公開日:2018/12/03
監修:東京女子医科大学糖尿病センター 石澤香野先生