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絶滅危惧「言語」を残すことこそ「文化」 日本語について思うこと(5)(望月吉彦先生) - ドクターズコラム

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望月吉彦先生

更新日:2019/2/25

山梨から鳥取に行き、カルチャーショックを受けた経験が…

日本にはいくつ言語があるかご存じでしょうか?
「日本語だけだ」と思っている方が多いのではないでしょうか?実は日本ではさまざまな言語が使われています。

話は逸れます。
大学時代、アメリカに2週間ほど滞在して英語の勉強をする機会を得たことがあります。ネバダ州のリノにあるネバダ大学(University of Nevada, Reno)で研修しました。リノは同じネバダ州にあるラスベガスと並んでカジノで有名な町です。大学のすぐそばにカジノがあります。勉強もしましたが、カジノにも行きました。カジノでは「ブラックジャック」というカードゲーム賭博にハマりました。1回につき1ドル程度の賭け金でのゲームです。やり始めたら結構面白く、どうしたら勝てるかの「研究」にいそしみました。
リノから車で1時間くらいのところに、スキー場で有名なタホ湖(lake Taho)があり、こちらにもカジノがありました。そのタホ湖のカジノで当時大人気だったそのカーペンターズが公演をしているのに気付いた友達がいて、皆で知恵を出し合い稚拙な英語を駆使して(こういうときは必死になります!(笑))、なんとかチケットを入手し、4人で聞きに行きました。良い思い出です。それから数年後、カーペンターズの妹さん(カレン・カーペンター)さんがお亡くなりにるのですが、この時の彼女はとても元気でした。

それはともかく、2週間の英語研修の最後に、修了試験がありました。英文法と英作文です。ここで点数を取らないと英語の単位が取れないので必死でした。英文法の試験は大学入試レベルの問題で比較的簡単でした。しかし、問題は英作文でした。

「ネバダ大学での研修中について考えたことを書け」

という問題でした。内容は自由、制限時間は2時間。
さて?何を書こうか、迷ったのです。ブラックジャック必勝法、ルーレット必勝法、カーペンターズ観劇の思い出、ヨセミテへの小旅行などが脳裡に浮かび上がりました。「必勝法」を書こうと思いましたが、それには数学的に「凝った」表現が必要です。それを英語で書くのは難しいので、諦めました。カーペンターズ観劇の思い出は、一緒に行った友人が書きそうでした。相手は米国人の英語学の教官です。なにか言葉に関することがないかなあと考えていて、思いついたのが、「言語」と「方言」の関係です。

大学生活

当時、私は大学に入学し、山梨から鳥取に行き「言葉」でカルチャーショックを受けていました。まったく意味がわからない鳥取方言、関西の「言葉」があったのです。同じ言葉でも発音の仕方が、出身地により随分と違います。同級生の大半は西日本の出身です。友達との会話では関西弁が多用され、私には、まったく意味がわからない言葉も多かったのです。
それで試験の小論文に、
「英語は日本語とは違う言語だから、解らないことが多いのが当然だけれど、同じ日本語でも、私の出身地で使っている山梨の方言(甲州弁)と鳥取弁、関西弁には違いがあり、まったく理解できないこともある」
「dialect(方言)とlanguage(言語)の違いはどこにあるのだろう?」
という要旨で小論を書きました。もちろん英語で書いたのです。いま考えてもそれは結構「良い線をいっていた」と思います。最後に、ネバダ大学の英語学の担当教官から試験の講評があり、英作文の上位3名が表彰されることになりました。思いがけないことに、私の書いた小論が、1等賞に選ばれたのです。名前を呼ばれて壇上が上がり、誉め言葉をかけられたと思うのですが、大変残念なことに、なんと言って誉められたかよくわかりませんでした(笑)。19歳の時の出来事です。それ以降、あまり表彰されることもなく過ごしていますので(笑)、今でも思い出すと嬉しいです。

後年、言語に関する本を読むにつけ、「方言と言語の違いは無い」ことがわかりました。
実際、医師になり、東北地方の病院で当直のアルバイトをしたことがあります。その時、地元の人(特にお年を召された方)の言葉がわからず難渋しました。看護師さんの通訳があって初めて診療できました。「方言と言語の違いは無い」ことを実感しました。
「ああ、ネバダ大学で書いたのは間違いなかった」と一人でよろこんでいました。

日本にはいくつ言語がある?

さて、そこで本題です。日本語にはいくつ言語があるかという問いは、日本にはいくつ方言があるかという問いと一緒です。私にも実はまったく解りません。
ユネスコ(United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization:国際連合教育科学文化機関)は、日本諸言語のうち、8言語が絶滅の危機に瀕していると警告を発しています。ユネスコの「日本言語」担当者も、当然のことながら、方言も「言語」だと認識しているのです。
消滅の危機にある8つの言語を以下に挙げます。

  • アイヌ語
  • 八重山語
  • 与那国語
  • 八丈語
  • 奄美語
  • 国頭語
  • 沖縄語
  • 宮古語

の8言語です。ユネスコのサイトに詳細が載っています。興味がある方はご覧ください(UNESCO Atlas of the World's Languages in danger:http://www.unesco.org/languages-atlas/index.php)。

とにかく、日本には言語(方言)が多数あり、世界的にも認められているのですね。一旦消滅した言語を復活させることは、ほとんど不可能です。文法や語彙は残るかもしれませんが、発音の仕方を残そうとすると大変だからです。

シャンポリオンのお墓
写真:パリ、ペールラシューズ墓地にある「シャンポリオンのお墓」

世界には、消滅してしまった有名言語(文字)がたくさんあります。例えば、エジプトのヒエログリフ(hieroglyph、聖刻文字、神聖文字)です。
紀元前までは、多くの人々に普通に使われていました。エジプト各地にある遺物、遺跡には無数のヒエログリフが残っています。しかし、ギリシア文字が使われるようになり、いつの間にか誰もヒエログリフを読めなくなってしまいました。
しかし1822年、フランスのシャンポリオンが言語学と数学を駆使して、ロゼッタストーン(大英博物館に展示されていますね)からヒエログリフを解読に成功します。シャンポリオンは、小さい時から言語の勉強が好きで、17歳の時に書いた論文が絶賛され、19歳にして、フランスの大学の教官になります。20歳になった時には、各種言語(母語フランス語、ラテン語、エジプト古語のコプト語、中国語、ペルシア語など)を「習得」したとされています。シャンポリオンは数学も駆使することができました。語学力があり、数学ができて、初めてヒエログリフの解読ができたのですね。一旦言語が消失すると、それを再度読み解くのがいかに難しいか、ヒエログリフの事例でもわかります。 この辺りの事情は文献1に詳しいです。

日本国内でアイヌ語を不自由なく喋ることができる方は10数名となっています。ユネスコもアイヌ語は「Critically Endangered」(極めて深刻な状態である)と記しています。私はアイヌ語には縁が無いのですが、日本の言語から「アイヌ語」が消滅してしまうのは寂しいです。アイヌ語は使う機会も激減し、言語としての役目を終えつつあるのだと思いますが、それでも、何とかして、後世に残して欲しいです。AIが発達しつつある今日、スパコンなどを使えば、アイヌ語の音韻、文法、語彙、発音を残すことは可能だと思います。後世の人々にもわかるカタチで「アイヌ語を残すこと」こそ「文化」だと思います。
色々と書き連ねましたが、冒頭の「日本にいくつ言語があるか」ですが、「不明」が正解だと思います。

【参考文献】

  • 暗号解読 サイモン・シン(著) 青木薫(訳) 新潮文庫
    米国のサイエンスライター「サイモン・シン」と青木薫が組んだ本には「外れ」が無いです。
    この本には、旧日本軍の暗号が簡単に解読されてしまった経緯、絶対に解けないと言われたナチス・ドイツの暗号「エニグマ」を解いた天才数学者の話や、太平洋戦争当時、米軍が日本軍に対して使っていた「単純だけれど日本人には絶対に解けない暗号」の話が載っています。米軍が使っていた暗号は「北米大陸先住民の言語(インディアンの使っていた言語)」でした。インディアンの言語も多数ありますが、あまり知られていない、使われなくなっていたインディアンの言葉を暗号として用いていたのですね。もちろん、インディアンを教育して英語を使えるようにして、それらのインディアンを戦争に送り込み、通信をインディアン語でしていたのです。戦争末期まで、日本軍は米軍の暗号(インディアン語)を解読できませんでした。インディアン語を暗号に使おうと思いついた米軍の知力に負けたとも言えます。

望月吉彦先生

望月吉彦先生

所属学会
日本胸部外科学会
日本外科学会
日本循環器学会
日本心臓血管外科学会
出身大学
鳥取大学医学部
経歴
東京慈恵会医科大学・助手(心臓外科学)
獨協医科大学教授(外科学・胸部)
足利赤十字病院 心臓血管外科部長
エミリオ森口クリニック 診療部長
医療法人社団エミリオ森口 理事長
芝浦スリーワンクリニック 院長

医療法人社団エミリオ森口 芝浦スリーワンクリニック
東京都港区芝浦1-1-1 浜松町ビルディング1階 プラザ 111 内
TEL:03-6779-8181
URL:http://www.emilio-moriguchi.or.jp/

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