望月吉彦先生
更新日:2016/08/01
前回、冠動脈が血栓(血の塊)で閉塞するのを予防する薬「アスピリン」についてお伝えしました。ここから先はアスピリンと「癌」の話です。こちらもセレンディピティの話です。冠疾患には関係無いですが、余話として読んでいただければ幸いです。
関節炎でアスピリンを服用している患者さんに大腸癌を発症することが少ないことは昔から何となく言われてきました。アスピリンは安価な薬ですから、それで癌予防の大規模スタディを行う企業はありませんでした。
1970年代後半、コロラド大学健康科学センターの、ウォッデル(William R. Waddell)医師はびっくりするような発見をします。まさにセレンディピティです。
彼は家族性大腸腺腫症(大腸にポリープが数百、数千できそれらはいずれ癌化する、そういう病気です)の患者さんにたまたまアスピリンを投与したところ、ポリープが完全に消えたのでびっくりします。
その患者さんの家族3名(家族性大腸腺腫症を発症している)にもアスピリンを投与したところ、やはりポリープが消失することを発見しました。
この発見も一流雑誌には掲載されず、1983年ようやく「外科腫瘍学雑誌」に掲載されましたが、相手にされませんでした。健康科学センター勤務で、癌が専門では無い医師の報告だったからでしょう。
しかし、6年後、今度はジョンホプキンス大学の大腸癌専門医、フランシス M. ギアディエロ(Francis M. Giardiello)医師が22名の家族性大腸腺腫症の患者さんにNSAID(エヌセイド;非ステロイド系抗炎症剤;アスピリンもその一つ)を投与したところ、ウォッデル医師の報告と同様にポリープの消失や著明な減少を発見します。
それを1993年ニューイングランド医学雑誌に報告、これは超一流雑誌ですから世界中でアスピリンなどのNSAIDの癌予防に関する研究が始まり、今も続いています。なぜアスピリンが大腸ポリープを縮小、消滅させるかも解明されています。
2015年1月20日にも英国の大学から、低用量アスピリンを服用すれば、癌死が減るとの報告がありました。今でもホットな話題です。
以前、ある方と話をしていたら「私はこれを毎日飲んでいるから、癌にはならないし、脳梗塞にもならない」と言って小児用バッファリンを見せてくれました。残念なことに小児用バッファリンには、ややこしいのですが、アスピリンは入っていません。アセトアミノフェンがその主成分で、アセトアミノフェンにはがん予防効果も脳梗塞予防効果も認められていません。
その方の勘違いを訂正し、服用するなら、低用量アスピリンの方が良いですと伝えました。それも、主治医とよく相談するように話しました。低用量アスピリンでも出血を生じることがあるからです。
話は冠疾患に戻ります。狭心症、心筋梗塞予防に低用量アスピリンはよく効きます。高脂血症、高コレステロール血症、肥満、糖尿病、家族歴、高血圧、喫煙などの危険因子を持っている方はぜひ相談ください。
望月吉彦先生
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