2020年4月から75歳以上を対象にフレイル健診が実施されています。フレイルとは、加齢により筋力や体力が衰え、認知症やうつ病といったリスクがある要介護手前の状態のことです。フレイルは予防できますし、フレイルを進行させずに「元気長寿」、「健幸華齢」を達成することも可能です。人生100年時代を満喫するために、キャンサーフィットネス・体力増進スマートライフ講座から筑波大学名誉教授/株式会社THF代表の田中喜代次先生の講演を紹介します。
目次
一般社団法人キャンサーフィットネスは、健康増進につながるセミナーとして、ヘルスケアアカデミーを定期的に開催しています*1。 ヘルスケアアカデミーは、がん経験者さんと専門医などが患者さんの闘病経験を振り返ったうえでセミナー内容を考えているので、つらい思いをしている人、治療終了後の生活に悩んでいる人に役立ちます。もちろん、健康な人がより健康になる耳寄り情報も満載です。 2020年2月18日のヘルスケアアカデミーでは、筑波大学名誉教授/株式会社THF代表の田中喜代次先生が「がん患者のための体力増進法」のテーマで講演されました。 講演から、フレイルの判定基準や対策として健幸華齢を目指す意義について紹介します。
フレイルとは「frailty(フレイルティ、日本語で老衰や虚弱といった意味)」が語源です。ただ、frailtyは「虚弱、衰弱」と言い切ってしまう断定的な強い表現になります。 そこで日本老年医学会は、要介護の手前の状態だと適切な介入により予防が十分にでき、健康回復も十分に可能なことを強調するために「Frail(フレイル)=虚弱な」を提唱しています(日本老年医学会雑誌2014;51:497―501)。
1 | 6ヵ月間で2~3 ㎏以上の体重減少がありましたか? | はい:1点 |
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2 | 以前に比べて歩く速度が遅くなってきたと思いますか? | はい:1点 |
3 | ウォーキングなどの運動を週に1回以上していますか? | いいえ:1点 |
4 | 5分前のことを思い出せますか? | いいえ:1点 |
5 | (ここ2 週間)わけもなく疲れたような感じがしましたか? | はい:1点 |
3点以上⇒フレイル
1~2点⇒プレフレイル
0点⇒健康
出典:J Am Med Dir Assoc. 2015;16:1002.e7-11
フレイルの中核は、転倒・骨折リスクのロコモティブシンドローム(以下、ロコモ)で、筋肉量が少ないサルコペニアはロコモに含まれ、身体的フレイルといわれます。 また、認知症やうつ病のリスクがある精神的フレイル、独居や社交がなく経済的弱者や老老介護などの劣悪環境で生活する社会的フレイルがあります。メタボリックシンドローム・糖尿病・肥満に関しては、高齢者でもサルコペニア肥満は少ないのです(図1)。
図1:フレイルとは
出典:キャンサーフィットネス・ヘルスケアケアアカデミー(2020年2月18日開催)での田中喜代次先生の講演「がん患者のための体力増進法」の講演資料
身体的フレイル、精神的フレイル、社会的フレイルがお互いに関わりあっていくので、負のスパイラルに陥ることが超高齢社会の課題となっています(図2)。
図2:身体的フレイル・精神的フレイル・社会的フレイル
出典:キャンサーフィットネス・ヘルスケアケアアカデミー(2020年2月18日開催)での田中喜代次先生の講演「がん患者のための体力増進法」の講演資料〔*:フレイルハンドブックポケット版(編集:荒井秀典、ライフ・サイエンス、東京、2016)、フレイル診療ガイド2018年版(編集主幹:荒井秀典、ライフ・サイエンス、東京、2018)〕
田中先生によると、中高年の50歳から70歳くらいまでは糖尿病など生活習慣病予防としてメタボや肥満への対策が重要ですが、高齢になると対策を転換・ギアチェンジして、筋肉量の減少により落ちてきた体力を回復するフレイル対策(食事・栄養+運動)が重要です(図3)。ギアチェンジの年齢には個人差が大きく、50歳から80歳くらいでしょう。
図3:メタボ対策とフレイル対策の転換期(ギアチェンジ)とは?
出典:キャンサーフィットネス・ヘルスケアケアアカデミー(2020年2月18日開催)での田中喜代次先生の講演「がん患者のための体力増進法」の講演資料〔*:2019年度健康づくり指導者研修会第2回保健事業推進研修会「メタボ予防・フレイル予防とその転換期」(2019年7月11日に茨城県立健康プラザで開催)〕
フレイル対策としては、田中先生が掲げる以下の7つの心得があります(表)。また、自分で川柳や俳句をつくって、自分を励ますのも手です。
表:フレイル対策7つの心得(田中、2015)
出典:キャンサーフィットネス・ヘルスケアケアアカデミー(2020年2月18日開催)での田中喜代次先生の講演「がん患者のための体力増進法」の講演資料
重要なのは、栄養改善と運動実践です。運動に関しては、健康づくり教室に参加している健康な高齢者、フレイルの前段階とされるプレフレイル(予備軍)、フレイルと判定された人を対象とした研究があります。
それによると、3年以内の死亡率は健康なグループでは0.7%、それに対しプレフレイルのグループでは2.9%、フレイルのグループでは7.8%と高くなることが指摘されています(J Am Med Dir Assoc. 2015;16:1002.e7-11)。
運動とともに栄養改善が欠かせません。なぜなら、運動をするとエネルギーを使いますが、栄養状態がよくないと自分の筋肉を壊してエネルギーを消費することになります。
全身の筋肉、骨、血管系、脳(心)まで良い状態にするには、栄養バランスを改善したうえで運動することが必要になります。
田中先生は、人生100年時代を満喫して元気長寿、達老人生、健幸華齢(下記の図4)などサクセスフル・エイジングの達成のために、栄養バランスを改善するスマートダイエット、運動を習慣化するスマートエクササイズのどちらも重要だと声を大にしています。同時に、メンタルタフネスを落とさないことも重要と指摘しています。
図4:健幸華齢とは
出典:キャンサーフィットネス・ヘルスケアケアアカデミー(2020年2月18日開催)での田中喜代次先生の講演「がん患者のための体力増進法」の講演資料(*:田中喜代次、大藏倫博、藪下典子(編集):公益財団法人日本体育協会(監修)、Successful aging(健幸華齢)のためのエクササイズ、サンライフ企画、2013)