線維筋痛症などの慢性の痛みを抱えていると、家に閉じこもって体を動かさなくなりがち。ただし、動かさずにしておくと筋肉がこわばってしまい 、痛みが一層ひどくなる危険性があります。そんな悪循環に陥らないためには運動や体操が効果的です。NPO法人線維筋痛症友の会理事長の橋本裕子さんに、家庭で気軽にできるリハビリテーション(以下、リハビリ)を紹介してもらいました(2017年12月24日開催の線維筋痛症友の会リハビリ講習会・交流会より)。
写真:線維筋痛症友の会リハビリ講習会・交流会の様子
長田病院(神奈川県横浜市港南区)リハビリテーション室室長の佐治周平氏(写真)らが講師を務めて、線維筋痛症の患者さんにリハビリを指導。
目次
国際疼痛学会や日本神経治療学会、日本ペインクリニック学会などは、慢性疼痛に対して薬物療法と非薬物療法を組み合わせた集学的治療を推奨しています。非薬物療法は、神経ブロックのほか、リハビリなどの運動療法、温熱療法、心理療法などがあります。
運動療法に関しては家庭で一人でも行えますが、痛みのつらさで体を動かすことをためらいがちになります。ただし、何もしないと筋肉がこわばってしまい、かえって痛みが悪化するケースがよく見られます。
そこで、患者会の線維筋痛症友の会はリハビリの一環として運動療法を推奨しています。実際、患者会はリハビリ体操の講習会を定期的に開催しています。
線維筋痛症友の会が推奨しているリハビリ体操は家庭で座りながら気軽にできるものです。具体的には、リラックスのポーズ、胸と肩甲骨を動かす体操、足の体操などがあります。今回、リハビリ体操を紹介してくれた患者会・理事長の橋本裕子さんは、運動療法をうまくできるコツとして「リラックス」と「できる範囲で体操」を挙げています。
まず、リラックスのポーズは、(1)親指を出す(2)手を表に開いて自然に息を吸う(3)手を閉じて自然に息を吐く―の順で行います(写真1)。
写真1:リラックスのポーズ
痛いときは親指を「グー」のように握って我慢しがちですが、リラックスの際は指を開くことをイメージして、手を外に向けて胸を広げて息を吸い、手を内に向けた際に息を吐くようにします。
線維筋痛症患者さんの多くは、首から背中の肩甲骨にかけて痛みを訴えます。そこで、胸や肩甲骨を動かすリハビリ体操が効果的です。体操は、(1)衣服の袖付けの縫い目をつまんで脇を締める(2)背中の真ん中に肩甲骨を寄せることをイメージして胸を張るようにする―の順を行います(写真2)。
写真2:胸や肩甲骨を動かす体操
手や腕を動かすというよりも、背中の肩甲骨と胸全体を動かします。胸郭を広げるイメージを持つと、呼吸を促してリラックスできることも期待できます。
足の体操に関しては、股関節や膝関節、足首をほぐすように動かす運動や、足のつま先もしくはかかとを上げるだけの簡単な体操があります(写真3)。
写真3:足のつま先やかかとを上げる体操
コツとしては、動かす足と反対側の腿や足の裏を押すイメージです。
難易度が高いのですが、全身を使った複合体操があります。右腕をまっすぐ伸ばすと同時に左足を伸ばして上げる、あるいは左腕と右足で同様に伸ばして上げます(写真4)。
腕と足を伸ばして上げる際にはお腹をぐっと締めるイメージを持ちます。そうすることで、呼吸を促してリラックスできる以外に、腹斜筋や腸腰筋を動かすので体幹も鍛えられるというメリットもあります。ただ、体全体を使う体操なので、腰を痛めている方などは、無理をしないようにしましょう。
写真4:右手と左足を上げて伸ばす複合体操
お腹をぐっと締めて、上げる足の反対側の大腿後ろ側を押すイメージです。全身を使うので、どこか痛いときは無理して体を動かさないようにします。
リハビリ体操の際に呼吸を促すことが推奨されています。橋本さんによると、脱力が意外と難しいようです。そこで、呼吸することでリラックスして、力を入れ過ぎることを防ぐことができます。さらには、痛みを和らげることにもつながるとのことです。
運動療法は個人で行えるものですが、痛みがつらいので運動や体操をためらいがちです。ただし、橋本さんは「痛い部位周辺の筋肉がこわばってしまうと、疼痛の症状が悪化しやすくなります」と強調しています。ただし、痛みを我慢してまで体を動かさないよう気をつけましょう。
自身の症状や体調に応じて、無理をしない範囲でリハビリ体操のメニューを選んで継続していくことが重要です。
答え:体を動かしたほうが良い(急性の痛み*を除く)
提供:線維筋痛症友の会理事長・橋本裕子さん
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