「認知症」と名前がついているものの、発症初期にはもの忘れが目立たない、パーキンソン病と似た症状が現れるなど、さまざまな特徴をもつレビー小体型認知症。今回は、特定の抗てんかん薬に、パーキンソン病の治療効果があることを発見し、新たな抗パーキンソン病薬誕生のきっかけをつくった村田美穂先生(国立精神・神経医療研究センター)に、レビー小体型認知症のパーキンソン症状についてお話を伺いました。
――レビー小体型認知症のパーキンソン症状(パーキンソニズム)とは、どのような症状ですか?
レビー小体型認知症ではすべての患者さんにパーキンソン症状がみられるとは限りませんが、その経過中に多くの患者さんに下表のような症状がみられます。また、歩き方が小股・すり足のようになる(歩行障害)、無表情になる、声が小さくなる、つばが口にたまってよだれが垂れやすくなる、というような症状もみられることもあります。
パーキンソン症状とは別に、立ち上がったときに急激に血圧が下がる起立性低血圧(立ちくらみ)や、便秘や頻尿などの自律神経症状も、レビー小体型認知症でみられる症状です。
――パーキンソン症状は、なぜ現れるのでしょうか?
レビー小体型認知症とは、レビー小体というたんぱく質の塊が脳内に出てくることが特徴です。このレビー小体が大脳皮質にたくさん出ると大脳皮質の細胞が障害され、認知症症状を示します。一方で、黒質というところに出てきて黒質の細胞が障害されると、パーキンソン症状がみられます。ただし、このパーキンソン症状はパーキンソン病やレビー小体型認知症以外の、他の病気でもみられることがあります。たとえば、お薬の影響で似たような症状が出ることがあり、これを「薬剤性パーキンソン症候群」と呼んでいます。
脳梗塞(脳の血管に小さな詰まりができた状態)によって、歩くのが遅くなったり、歩いているときにつまずきやすくなったりします。
脳の中にある脳脊髄液(のうせきずいえき)という水分が増えすぎて、脳が圧迫されることによって、歩行障害や認知機能の低下などがみられます。
脳の一部の異常により、体のバランスを保ちにくくなったり、注意力が低下したりして、転びやすくなります。
…など
――レビー小体型認知症なのかパーキンソン病なのか、あるいは他のパーキンソン症候群なのかということは、ご家族に見分けはつくでしょうか?
医師が診なければ、見分けるのは難しいと思います。そもそも、動きがゆっくりになる、歩き方が変わる、というのは高齢者ではごく自然なことで、必ずしも病気とは限りません。大切なのは、原因が病気であれ年齢によるものであれ、おかしいなと思ったら早めに病院で診てもらうことです。
――レビー小体型認知症のパーキンソン症状に対しては、どのような治療が行われますか?
病状によりますが基本的には、パーキンソン病の治療に用いられるお薬(抗パーキンソン病薬)を服用していただきます。ただ、ここで注意したいのはレビー小体型認知症の患者さんはとてもお薬に過敏で、パーキンソン病のお薬で精神症状が出やすいことです。ですから、抗パーキンソン病薬の中でも特に精神症状が出にくいお薬を選択する必要があります。
一方で、レビー小体型認知症では、うつや幻覚や妄想などの精神症状が合併することも少なくありません。それらに対する治療薬でパーキンソン症状が出ることがあるのですが、これも、レビー小体型認知症の方では特に過敏で、そういう副作用が出やすいことが知られています。したがって、これらの精神症状に対する治療もパーキンソン症状にも注意しながら治療することが大切で、専門家にその方に合う適切なお薬を選んでいただくことがとても大切です。
パーキンソン症状で体が動かしにくいからといって動かずじっとしていると、筋力や関節の柔軟性などが衰え、より一層体が動かせなくなります。日ごろからできる範囲で体を動かすことも、大事な治療の一つです。治療を始めるのが早ければ早いほど、運動能力は維持されやすいので、日常生活を送りやすくなります。
小股やすり足など、明らかに歩き方がおかしければ、ご近所の方やご友人などでも「パーキンソン症状かもしれない」と気づくかもしれません。しかし、「周りの人より動きが遅い」「じっとしているときに手がふるえる」「以前よりも、着替えに時間がかかっている」というようなことは、同居しているご家族でなければ、気づきにくいこともあります。
運動能力が低下すると、患者さん一人では起き上がったり、トイレに行くことも大変になることもあります。ご本人のためにも、またご家族の介護の負担を抑えるためにも、「レビー小体型認知症かもしれない」と思えるような言動があったときは、できるだけ早く専門医に診てもらいましょう。