摂食障害の娘
18歳の娘が神経性やせ症です。
1年前に54キロから36キロまで落ち、病院にかかりました。
病院に去年の8月から3か月入院し39キロで退院、自宅に戻ると食べなくなり、35キロを切って1か月半でまた入院。
3か月近く入院し40キロで退院。1か月半が経過しました。体重は35.8キロでした。
外来で本人が言っていたのは、ある週あまり食べないでいたが体重が減ってなかったので、無理して食べなくても大丈夫だと思って、
食べなくなった、と。増やそうという気がない。将来の夢を語ったりしていたので大丈夫かと思っていたのですが。
ちゃんと増やすから、分かってるから、大丈夫だから、と言うことはしっかりしているんです。
しかし行動はずっと変わらない。食べなくてもいいや、の考えに戻ってしまうのです。
この考えはどうすれば変わっていくのでしょうか?
定期的な受診と焦らないで患者さんと一緒に歩んでいけば必ず良くなっていくと思います
娘さんは神経性食欲不振症(いわゆる拒食症)と思います。
拒食症は時には命にかかわることもありますので、まずその基準を示します。
身長が不明なのですが、BMI(体格指数)を計算します。これは身長m×身長m(身長の二乗)を体重kgで割ると出てくる数字です。
この数字が17以下ですと、内臓や脳にも栄養不良の影響が出ていると思うので、本人の意思を無視しても入院して命をつなぐべき値です。
病院に入院されたのは、もしかしてこのような状況だったのかもしれませんね。
外来の拒食症の患者さんは平均BMI18くらいでしょうか?
以下ポイントを述べます。(順不同)
1.基本的に体重ばかりに目を向けず月経の有無も併せてかんがえること。月経が順調にきていればBMIが17台であってもあまり気にしないこと。
月経が発来している体重が健康のためにはベスト体重であるとお伝えください。患者さんの中には月経がないほうが楽という人もいますが、月経がないことはエストロゲンが欠乏しているので、髪の毛のいたみ、髪が良く抜ける、骨折しやすい、肌のしわが多くなり早く老婆のような外見になってしまうことや、歯が抜けて総入れ歯となる外見上の問題も多く出てきます。患者さんは深層心理では、かわいく美しく見られたいという気持ちが強いので、拒食による不利益を十分伝えてあげることが必要です。
2.私の臨床経験では、摂食障害の患者さんは「ほめられたことがない」とよく言います。これは私が「今日も外来に受診できてすごいわね」といったときに患者さんが良く言う言葉です。
実際には褒められていることも多いけれど、なぜか自己否定的になっていることが多いので、治療者やスタッフ、家族は、小さなことでも「よくできたね」とほめることが重要であると思います。悪いことは目につきやすいけれど、良いことはスルーしてしまうことが多いのです。
私の患者さんのお母さんの一人は、ノートに、今日娘さんが頑張ったことを一日100見つけるという作業をしたことがあります。とてつもない努力ですが、この思いが通じて病状が軽快したこともあります。
3.2と通じることですが、患者さんが治るときには私は大丈夫だという気持ち、つまり自己肯定感ができた時だと言われています。
この自己肯定感を育てるにも、小さなことでもほめてあげる気持ちが役に立ちます。自己肯定感が芽生えると社会参加も容易になることが多くアルバイトができるようになったりしていきます。
4.拒食症は体全体に影響を及ぼす病気なので定期的に検査すること。
(血液検査、心電図、レントゲン検査、骨密度、脳のCT)
5.家族が特に注意すること
①食べるものに関してはノーコメントが原則。「もっとたべなさい」は逆効果。常に何をどれだけ食べたか等は、気にしないこと。
②同級生や兄弟、姉妹が頑張っている話はしないこと。患者さんは自己否定感が強いので抑うつ状態になりやすいです。
③家族も主治医と定期的に面談し今後のことへのアドバイスをいただくことや、患者さんの自宅での情報提供をすること。主治医にとっては治療方針を決める参考になります。
以上ポイントを書きましたが、一番のキーパーソンは主治医です。患者さんに寄り添って二人三脚できる医師がいてこそ、自己肯定感も育つと思います。
摂食障害の患者さんはドクターショッピングが多いですが、自分に合う医師を探していることが多いようですので、悪い傾向とはおもいません。
まずは今の主治医が娘さんとよくコミュニケーションできているのか、考えてみてください。できているようだったら、具体的にこれからどうしたらよいのか?家族が困っていることはなにか?などお話してみるとよいと思います。
私も長い間患者さんを診てきましたが、拒食症が治る平均は10年くらいです。結婚し、妊娠、出産した方もいます。摂食障害は治らないという医師もいますが、それは、医師が途中であきらめてしまったからではないかと思います、医師があきらめてしまわないようにぜひ定期的に受診をしてください。
焦らないで患者さんと一緒に歩んでいけば必ず良くなっていくと思います。体重は急には増えませんが、治る過程で過食期が出ることがあります。
この時は急な体重増加もありますが、患者さんが不安になるので必ず主治医との密な診察が必要です。過食期をきっかけに治ることも実は多いです。
<参考>
摂食障害が緩解したとする基準
1.食事にこだわらずたべられる。友人や家族とも一緒に食べられる。
2.不必要なダイエットはしていない。
3.年代にあった社会参加ができている。
4.月経が順調
5.その他の精神科の病気を(うつ病やパニック障害)併発していない。
momoさんからコメントをお寄せいただきました。
お返事頂いた内容は、知らなかったことばかりで、本当にありがたいと思いました。
とても役に立ちます。勉強になります。
本当にありがとうございました。
牧野真理子 先生
ドクターご活躍の場所 | 牧野クリニック(東京都中野区東中野) 診療部長 東邦大学医学部客員講師 JICA(国際協力機構)顧問医 優秀臨床専門医 アサヒビール産業医 オレンジページ産業医 日本心身医学会代議員 日本女性心身医学会理事 国際摂食障害学会会員 |
---|---|
ご専門 | 心身医学(心療内科) 女性の心身症(摂食障害など) 職場のメンタルヘルス 異文化間メンタルヘルス |
ご経歴 | 国公立大学卒業後、北里大学医学部卒業 メルボルン大学医学部大学院卒業 |
著書 | 『誰も私をわかってくれない:摂食障害・心の迷路』(悠飛社:1999) 『異文化ストレスと心身医療』(新興医学出版社:2002) 『もういいや!!と叫んで心の毒出しができるメンタルデトックス』(祥伝社:2005) 『うつにもいろいろあるんです。』<漫画 細川貂々> (オレンジページ:2011) 【共著】 『医療看護学』(中山書店) 『職場のメンタルヘルス』(南山堂)など多数 【連載】 『からだの本』(オレンジページ)「女性とうつ」連載中 |
所属団体 | 日本心身医学会代議員 日本女性心身医学会理事 国際摂食障害学会会員 |
先生からの一言 | メンタルヘルスの疾患も早期発見が早期回復につながります。 小さなことと思ってももし悩んでいるようでしたらお気軽にご相談ください。 |
-
関連リンク