おしえて先生

こどもがレントゲンの撮りすぎで白血病に?

ぐうママ(#)・30~39歳女性 2007/01/11 投稿

初めまして。4歳の息子の件でご相談です。
うちの息子は誤って頭を打ってしまう事が多く、最近も外科を受診したのですが、そこで外科の先生からとても心配になることを言われてしまいました。
うちの息子は頭部のレントゲンとCTを過去2回、その他にも小児科や耳鼻科で計8回位は撮っています。それが原因で息子が将来、白血病になるかもしれないというのです。
浴びてしまった放射線は一生体内に残ってしまうのでしょうか?
心配でたまりません。どうか、教えて下さい。宜しくお願い致します。

これまで浴びた放射線の量では、白血病の心配はありません。

放射線による被ばくは3つあります。
短時間に1回被ばくを受ける「急性被ばく」、長期間にわたって被ばくする「継続被ばく(慢性被ばく)」、短時間の被ばくを繰り返す「反復被ばく」です。
放射線を浴びることで癌になるかどうかは、原爆の被爆生存者のその後から推定されています。

1945年に広島、長崎に原爆が投下され、住民は大量の放射線を全身に被ばくしました。多くの人が急性放射線症により亡くなりましたが、被ばく後に生存された人では、約2~3年の潜伏期を経て白血病が発生しはじめ、約8年後の発生率は日本人平均の10倍以上と最大となりました(25年後以降は減少しました)。さらに急性被ばくから15年経った頃から甲状腺癌の発生率が増加したことも知られています。

よって急性被ばくにより、最初に白血病、その後に甲状腺癌が発生しますが、その被ばく線量の解析から、発癌に関係する最低の線量は10~100ミリシーベルト(mSV)とされています。
低い線量を長期間にわたって受ける継続被ばく(慢性被ばく)については、医療従事者(放射線科医など)の職業被ばくがあります。職業被ばくと癌発生については、放射線医の癌の発生率が、米国からは増加する、一方英国からは、むしろ低下するとの報告があり、一定した傾向はありません。そして最大の問題点は被ばくした線量、そして期間が明確にわからないことです。

ご質問の放射線診断に使われるのはおもにX線であり、短時間の被ばくを繰り返す「反復被ばく」にあたります。では実際の検査ではどれくらいの被ばく量か調べてみますと、胸部X線写真:0.057 mSV, 頭部X線写真:0.09 mSV, であり、これに対して上部消化管造影は、3.33mSV、下部消化管造影:2.68 mSVと40~60倍多く、最も多いのは 胸部C T検査:9.2mSV、上腹部CT検査:10.5mSVでした。子供さんは、CTを1回で9~10mSV,X線写真を9回で約0.6~0.8mSV,合計して、約10~11mSVの範囲の被ばくをしたと推定されます。反復被ばくによって発癌してしまう最低の線量は、50~100mSVですから、その1/5以下という計算になります。
よって、お子さんが白血病になる心配はないと考えられます。

発癌は、細胞を構成するDNA(遺伝子)に傷がつくことが始まりですが、正常細胞ではDNAは損傷を受けるとただちに修復されることが知られています。1回の低被ばくで損傷を受けても、すぐに修復されると推定されます。しかし長期にわたり多くの、しかも比較的大量の被ばくを受けると、最終的には白血病、甲状腺癌となる可能性は否定できません。よって今後消化管造影、CTなど被ばく量の多い検査はなるべく避けるようにし、どうしても検査をする必要があるのなら、MRIや超音波などの検査で代用されることをおすすめします。

ご回答いただいた

小川一誠 先生

ドクター
ご活躍の場所 愛知県がんセンター名誉総長
ご専門 臨床腫瘍学(癌の化学療法)
ご経歴 名古屋大学医学部卒業
愛知県がんセンター内科医員
メモリアル・スローン・ケッタリング癌センター(米国ニューヨーク市)留学
愛知県がんセンター内科医長
癌研究会癌化学療法センター臨床部部長
癌研究会付属病院化学療法科部長
癌研究会付属病院副院長
愛知県がんセンター病院長
愛知県がんセンター総長
愛知県がんセンター名誉総長
著書 がんの早期発見と治療の手引き(小学館)、抗癌剤の選び方と使い方(南江堂)ほか
所属団体 日本癌学会、日本癌治療学会、日本乳癌学会、日本血液学会、米国癌学会、米国臨床腫瘍学会、欧州臨床腫瘍学会
先生からの一言 癌の一次予防は、禁煙、バランスのとれた食生活、適度の運動などの生活習慣です。二次予防は、定期的に癌の検診を受けることです。癌は予防可能な病気であり、早期診断・早期治療で治癒します。