おしえて先生

がん患者への告知って、絶対必要なのでしょうか?

とめこ(#)・50~59歳女性 2007/01/11 投稿

91歳になる母親のことでご相談です。私の母は近所の病院で定期的に検査を受けているのですが、先日いつものように一人で病院に行き、胃がんを告知されて帰ってきました。

突然本人の口からがんを聞かされた私たち家族はびっくりです。しかも母はその場で手術か抗がん剤治療かの選択まで突きつけられたらしく、もうダメだろうとすっかり落ちこんでいる状態です。

インフォームド・コンセントという言葉は知っていましたが、まさかこんな高齢の母にまで告知するのかと驚きを隠せません。高齢の場合、理解力や判断力にも衰えがあるでしょうし、本人だけではなくその人をよく理解している家族を同席させ、意見を聞くべきだと思います。医者はがんに慣れっこで、告知もマニュアル化しているのかもしれませんが、そんな機械的な告知って本当に患者のためになるのでしょうか。

今後、その医者とどうつきあっていけばよいのか、また母親にどう対応してあげればよいのかわからず困惑しています。

がん専門施設でセカンドオピニオンを聞かれることをおすすめします。

お手紙拝見しました。
まず、癌(がん)の告知とインフォームド・コンセントですが、まだ明確な基準がなく、医師個人の判断で行われているのが現状です。ですから、とめこさんには私の経験や知識にもとづいて回答いたします。

1)癌の告知について
以前、全国の癌専門施設で告知に関する調査が行ったところ、癌と診断された患者さんにドクターが告知をした率は平均75%でした。
とめこさんのお母さんが通われている一般病院の現状はわかりませんが、専門施設の75%よりは低いでしょう。

次に、告知をするとき、医師は患者さんに何を考慮すべきでしょうか。
私は患者さんの年齢、社会的地位、家族構成などを踏まえ、性格も把握した上で、どう告知すればいいかを考えるようにしています。また本人だけに告知をすればいいのか、家族や友人の同席がのぞましいかは判断しかねるので、患者さんに「検査は終わりました。次回に診断結果、治療方法について説明したいので、一緒に聞いて欲しい人を連れてきてください」と話すようにしています。

とめこさんへ
お母さんはお元気でしっかりしておられるようですが、高齢ですし、同居なさっているあなたが一緒に説明を受けられた方が良かったと思います。

2)告知内容とインフォームド・コンセントについて
告知は、患者さんに事実を告げないといけません。ただし私の場合は、たとえ治癒不可能な進行癌であっても、患者さんに希望をもってもらえるよう話します。

病名を告知すると、次は治療方法について説明します。手術が良いと判断されるときは、患者さんの同意を得て同じ病院の外科ドクターに手術を依頼します。抗癌剤による化学療法が良いと判断されるときは、化学療法によるメリット、デメリットをあわせて説明し、最終的な決断をいただいてから治療を開始します。

このインフォームド・コンセントは告知と同じ日ではなく、数日おいてから行う方が良いと思います。患者さんが決断するにはある程度の時間が必要だからです。

3)治療方法について
お母さんの場合、手術と化学療法のどちらも提案されています。お母さんに関する詳細な情報がないためどちらの治療方法が良いか判断できませんので、ここでは双方について説明します。

胃癌の場合の手術とは、根治(治癒)を目的とした治療法です。しかし手術が適しているかどうかは、病気の進行度や全身状態、合併症、年齢などを考慮して決めます。私は内科医ですから外科の技術的なことはわかりませんが、一般的に70歳以上の高齢者の場合、手術や術後の管理がむずかしく、直接手術に関連した死亡率も高い傾向にあります。高齢者の手術は癌専門施設で行うのが良いでしょう。

一方、抗癌剤を用いる化学療法は、胃癌を根治させることはできません。手術ができない場合に延命の手段として用いられますが、この場合も高齢者ならではの問題があります。それは、現在認可されている抗癌剤の至適用量は多くは70歳以下の症例で決定されたもだということです。それ以上の年齢の患者さんには、通常は至適用量の50~75%程度から投与しはじめ、毒性を注意深く観察しながら調節していきます。白血球減少による発熱や感染症など危険な症状が出ることもあり、高齢者への抗がん剤投与は経験豊富な化学療法の専門医が行うべきです。

とめこさんへ
お母さんの場合は、治療目的が全く異なる2つの方法が提案され、しかもいずれも専門性の高い治療技術が要求されます。このため、治療方法について、癌専門施設でセカンドオピニオンを聞かれることを強くおすすめします。

ご回答いただいた

小川一誠 先生

ドクター
ご活躍の場所 愛知県がんセンター名誉総長
ご専門 臨床腫瘍学(癌の化学療法)
ご経歴 名古屋大学医学部卒業
愛知県がんセンター内科医員
メモリアル・スローン・ケッタリング癌センター(米国ニューヨーク市)留学
愛知県がんセンター内科医長
癌研究会癌化学療法センター臨床部部長
癌研究会付属病院化学療法科部長
癌研究会付属病院副院長
愛知県がんセンター病院長
愛知県がんセンター総長
愛知県がんセンター名誉総長
著書 がんの早期発見と治療の手引き(小学館)、抗癌剤の選び方と使い方(南江堂)ほか
所属団体 日本癌学会、日本癌治療学会、日本乳癌学会、日本血液学会、米国癌学会、米国臨床腫瘍学会、欧州臨床腫瘍学会
先生からの一言 癌の一次予防は、禁煙、バランスのとれた食生活、適度の運動などの生活習慣です。二次予防は、定期的に癌の検診を受けることです。癌は予防可能な病気であり、早期診断・早期治療で治癒します。