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006:文学に出てくる「糖質制限ダイエット」(望月吉彦先生) - ドクターズコラム

大人の健康情報

望月吉彦先生

更新日:2014/11/04

クリミア戦争やトルストイから食事を考える

戦争は悲惨です。しかし、戦争によりいろいろな分野での発展や発見もあるのも事実です。ナイチンゲールもクリミア戦争という出来事が無ければあの活躍や名声もなかったでしょう。そうなれば現代の看護師制度も大きく変わっていた可能性もあります。また、クリミア戦争では服装に大きな革命(?)がおきました。それは「カーディガン」の発明です。英国陸軍軽騎兵旅団長であったカーディガン伯爵(7th Earl of Cardigan)は「セーター」を改良して怪我をした兵隊でも簡単に着られる服を考案しました。これが今の「カーディガン」の始まりなのです。ちなみに「トレンチコート」も第一次世界大戦時に塹壕(=トレンチ)で着た防水コートが始まりです。どちらも今では誰もが着る服装として定番ですよね。私は、戦争は大嫌いですが、思わぬ副産物が得られ世の中に役立っていることには恩恵を感じます(複雑な気持ちです)。

カーディガンの発明

以前、クリミア戦争とナイチンゲールの事を書きました。
クリミア戦争にはトルストイ(帝政ロシアの小説家で思想家。『戦争と平和』の著者。)も従軍していました。「セヴァストーポリ」という従軍記(1855年刊 注:日本語訳本は絶版)を書いています。このトルストイも私の興味を引く人物です。トルストイは後に不朽の名作「アンナ・カレーニナ」 を書きます。1870年頃の小説で、貴族社会に生きる人妻アンナの不倫物語です。この小説の中に今、話題の「糖質制限」に関する話が出てきます。
アンナの不倫相手のヴロンスキー伯爵は競馬レース前の減量のために「糖質制限」を行っていることが書かれています。当時、糖質を減らせば体重が落ちるのは常識だったのでしょう。

文学に「糖質制限」が出てくるのは、これだけではありません。
アメリカのノーベル賞作家であるソール・ベローの小説「ハーツォグ:1964年刊」には「炭水化物を摂っていると服が着られなくなる」とあります。
ブリア=サヴァランの「美味礼賛:1848年刊」にも「肥満の原因はデンプンと小麦粉と砂糖であり、脂肪の蓄積は穀物とデンプンのみによって起こる」と書いてあることから、現代で流行する「糖質制限ダイエット」は少なくとも1840年頃から1960年頃までは欧米では広く知られていた事が推測されます。

飽和脂肪酸(=肉)は悪者?

しかし、1961年にアメリカ心臓病協会(AHA)が「飽和脂肪酸(=肉)を悪者」としたガイドラインを発表してから様相が変わります。
「肉を食べると太る」、「肉を食べるとコレステロールが上がる」という常識(?)が広まり、肉の代わりに炭水化物や糖分の摂取量が上がり、結果的にアメリカは肥満大国になってしまいました。
このガイドラインの基はミネソタ大学のキーズ博士が「飽和脂肪酸(肉)はコレステロール値を上げ、その結果、心臓疾患の原因になる」という説を主張したのが始まりです。
この研究には色々な問題があり、 1950年代に行われたこの研究の再検討がなされました(2002年)。キーズ博士はクレタ島での住民665人の食生活から「飽和脂肪酸=悪玉」という結論を得ていますが、実際に詳細な検討がなされたのは数十人しかいなかった事が明らかになり、その研究に大きな疑問が投げかけられるようになりました。こういう研究の見直しをきちんとするのは、アメリカの偉いところだと思います。
食事内容と健康については膨大な研究と検討がなされていますが、2014年3月アメリカ内科学会雑誌に「飽和脂肪酸(=肉)は心臓疾患の原因にはならない」との総説が載り話題となっています。

肉

結局、トルストイの時代に戻った訳です。今までの「肉=悪玉」説はなんだったの?という話になりますね。
何を食べたら一番良いかは、本人の体重、性別、環境、背景疾患、季節、食文化、遺伝関係等々で変わるので難しい話です。
食事は一つの文化ですから、話はさらにややこしいと思います。
薬の研究と違い、栄養の研究は「何をどれくらい食べたか」きちんとした数字が残らないので科学的検討が難しくなります。
くどいと思われる方もいらっしゃるかと思いますが、前に紹介した「高木兼寛先生」が行った研究は、年齢と背景が似た母集団である海軍演習航海乗組員における「食事による脚気の発病率比較」ですから、当時にしても大変質の良い研究を実施され結果を出されたのだと思います。
今、こういう研究をやろうとしたら大変なことになろうと想像します。

望月吉彦先生

望月吉彦先生

所属学会
日本胸部外科学会
日本外科学会
日本循環器学会
日本心臓血管外科学会
出身大学
鳥取大学医学部
経歴
東京慈恵会医科大学・助手(心臓外科学)
獨協医科大学教授(外科学・胸部)
足利赤十字病院 心臓血管外科部長
エミリオ森口クリニック 診療部長
医療法人社団エミリオ森口 理事長
芝浦スリーワンクリニック 院長

医療法人社団エミリオ森口 芝浦スリーワンクリニック
東京都港区芝浦1-3-10 チサンホテル浜松町1階
TEL:03-6779-8181
URL:http://www.emilio-moriguchi.or.jp/

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