ADHDは Attention-deficit/hyperactivity disorderの略号で、日本語の正式病名は注意欠如・多動性障害です。その名の通りで、ADHDの患者さんは不注意で多動で衝動的な行動を採るのが特徴です。以前は子どもに特有の発達障害の一種と考えられてきましたが、今では大人の患者さんも存在することがわかっています。 目次 大人のADHDには不安障害やうつ病などが併存することが多い 個別化された介入を行うことが効果的 板倉先生ワンポイントアドバイス 大人のADHDには不安障害やうつ病などが併存することが多い Googleで「Adult ADHD」を検索すると、1億1,400万のサイトがヒットしました。因みに、COVID-19の57億サイトに比べればぐっと少なくなりますが、糖尿病(diabetes mellitus)が3,850万サイトですので、その3倍ですから大人のADHDに対する関心の高さがうかがわれます。 さて、皆さんはこの病気の正式名称をご存じでしょうか。ADHDは Attention-deficit/hyperactivity disorderの略号で、日本語の正式病名は注意欠如・多動性障害です。その名の通りで、ADHDの患者さんは不注意で多動で衝動的な行動を採るのが特徴です。以前は子どもに特有の発達障害の一種と考えられてきましたが、今では大人の患者さんも存在することがわかっています。 新規にADHDと診断された189人の患者さん(平均年齢35.2歳)を対象にスウェーデンで行われた研究では、約半数に不安障害やうつ病の併存が認められたと報告されています*1。また、健康関連QOLが低下している成人ADHD患者さんは、うつ病の症状が重い、女性である、学歴が低い、収入が少ないことと明らかな関係があることがわかったことから、この研究グループは精神疾患を伴う成人ADHD患者さんには、不安障害やうつ病が併存しないケースとは異なる特別なケアやサポートが必要と結論づけています。 個別化された介入を行うことが効果的 では、特別なケアやサポートとは具体的にはどのようなものでしょう。そのことに示唆を与えてくれる研究が、米国のコロンビア大学で行われました。この研究グループは、ADHDと診断された成人女性を対象に、7週間に亘る個別化されたプログラムでの介入の有効性について検討しています。このプログラムは、 睡眠と起床、食事の準備と食事、学校の仕事の完了、翌日のバックパックの梱包、洗濯などの毎週のタスクの完了のための一貫した時間割を作成する 環境(自宅、職場、学校、車、ハンドバッグなど)を整理するための時間を設定する 日常活動に優先順位を付けし、活動に必要な時間を正確に予測し、電子的なリマインダーを使用して活動のon/offを明確化する 内部および外部からの刺激を調整してストレスを回避する 5〜10分の計画的な休憩、毎日のレクリエーションとリラクゼーションをスケジュールし、呼吸法、歩行、瞑想などを使用して多動や落ち着きのなさを減らす ことで効果的なストレス管理スキルを身につけるというものです。この研究では、個別化介入を始めて1週後にはADHD患者さんのストレスと症状が軽減し、仕事におけるパフォーマンスと満足度が向上したと報告されています*2。 自分のやりたい仕事のパフォーマンスの向上や生活の満足度を高めることは、生きがいを感じる大切なことであり、その障害の一因であるADHDは、気が付かないでそのままにされていることも多いと思われます。周囲の人のサポートも大きな支えになるでしょう。 ■参考文献 *1:Ahnemark E, et al. BMC Psychiatry 2018; 18:223 *2:Gutman SA, et al. Am J Occup Ther 2020; 74(1): 7401205010p1-7401205010p11 公開日:2021/06/02 監修:板倉弘重先生
うつ病は高血圧や糖尿病などと違い、血圧や血糖値といった客観的な診断指標がなく、現在の日本にどのくらいの患者さんがいるのか、正確にはわかりません。これは少し古いデータになりますが、厚生労働省の統計*1によれば2008年時点で推計70万4千人とされています。1999年には24万3千人で、その後、2008年に至るまで増加の一途を辿っていることが報告されていますので、今でもうつ病患者さんは増え続けていると考えられますし、新しい治療法の開発も進められています。ここでは、食事や栄養がうつ病の症状にどのように影響するのかについての比較的新しい研究を紹介したいと思います。 目次 貧しい食事がうつ病に関係しているかも知れない 食生活改善にはうつ病症状の軽減が期待される 板倉先生ワンポイントアドバイス 貧しい食事がうつ病に関係しているかも知れない アメリカ心臓協会は、心血管の健康度を測る尺度として喫煙、身体活動度、BMI、食生活、コレステロール、血圧、血糖の7つの因子を挙げています。一方で、心臓病とうつ病の間に関係があるという報告もあることから、この7つの因子とうつ病の関係も明らかにしようという研究が行われました。 その結果、コレステロールを除き、残りの6つの項目がうつ病と明らかな関連することがわかり、食生活が貧しいとうつ病症状が増えることが明らかにされました*2。 食生活改善にはうつ病症状の軽減が期待される そうなると、「食生活を改善すればうつ病が改善するのでは」という考えが浮かびます。 抗うつ薬による治療や心理療法を受けている平均年齢40歳の成人うつ病患者さんを対象に、食生活を改善するプログラムに参加するグループと通常の社会的サポートだけのグループ(対照グループ)に分けてうつ病症状を比較するという研究が行われました。ここで提供された食生活改善プログラムは、臨床栄養士による動機付けのための面接、目標の設定、個別食事療法アドバイス(12の主要食品の摂取+ワイン2杯/日に相当するアルコール摂取など)および栄養カウンセリングサポートで構成されています。アルコールについては赤ワインがお勧めというなかなか魅力的なプログラムです。この研究では、12週間に亘る介入の結果、食生活改善プログラムに参加したグループのうつ病症状の改善度の方が、対照グループよりも明らかに高かったと報告されています*3。 食生活を改善するといっても簡単じゃないとお考えの向きもあるかも知れません。野菜、果物、全粒穀物、タンパク質、無糖の乳製品をそれぞれ1日3回、魚は1週間に3回、ナッツ類、オリーブオイル(1日2杯)、スパイス(ターメリックとシナモン)を摂取するという食事を3週間続けるだけというプログラムの効果を検討した研究があります。研究に参加したのは17歳から35歳までのうつ病患者さん101人です。食事介入プログラムには51人、参加したなかった50人を対照グループとしました。両方のグループとも3週間の研究を完遂できたのは38人でした。 この研究では、食事介入グループのうつ病症状の改善度が、対照グループよりも明らかに大きかったと報告されています*4。しかも、食事介入グループのうつ病症状の改善は、研究終了から3ヵ月後でも続いていたとのことです。 なお、食事の成分については、長鎖ω-3多価不飽和脂肪酸を適量摂取することがうつ病症状の改善に繋がることを支持する研究が多いようです*5,6。 うつ病はQOLを低下させるだけでなく、自殺の増加など大きな課題となっています。特にコロナ禍はうつ病を増加させる要因となっています。うつ病に関連する因子はいろいろありますが、なかでも食事・栄養が関連することが多くの研究から明らかにされています。オメガ3系脂肪酸やアミノ酸やビタミン、ミネラルなどさまざまな栄養素が脳神経系のはたらきに大切な役割をはたしていることが明らかにされています。楽しい気持ちで色々な食品を摂取していきましょう。 ■参考文献 *1:気分障害患者数の推移 https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/hoken-sidou/dl/h22_shiryou_05_09.pdf *2:Kronish IM, et al. PLoS ONE 2012: 7(12): e52771 *3:Jacka FN, et al. BMC Medicine 2017; 15: 23 *4:Francis HM, et al. PLoS ONE 14(10): e0222768 *5:Sánchez-Villegas A, et al. Nutrients 2018; 10: 2000; doi:10.3390 *6:McNamara RK, et al. Nutr Neurosci 2016; 19(4): 145–155 公開日:2021/05/19 監修:芝浦スリーワンクリニック名誉院長 板倉弘重先生
「規則正しい生活をしましょう」、「早寝早起き」、皆さんにも子供の頃に親から言われたり、教室に標語として貼られていたりという記憶があると思います。今ではそのようなことはないのかもしれませんが、少なくとも私たちが子供の頃はそうでした。その理由について深く考えたことはありませんでしたし、当時はゲーム機もスマホもない時代でしたから、夜遅くまで起きているようなこともありませんでした。生活のリズムが変わったのは、受験勉強をするようになってからでしょうか。夜遅くまで頑張る夜型、朝早起きして頑張る朝型の2つのタイプがありました。授業中に居眠りすることはありましたが、若いこともあって、調子が悪くなるようなことはありませんでした。皆さんも同じような体験をしていると思いますが、実は、生活リズムも乱れというのは人の体や心の健康にとって大問題なのです。ここでは、心や体の健康と生活リズムの関係について、比較的新しい研究を紹介します。 目次 生活リズムの乱れは健康に悪い影響を与える 生活リズムを整える治療はうつ症状の改善を促す 板倉先生ワンポイントアドバイス 生活リズムの乱れは健康に悪い影響を与える 私自身は受験勉強で生活リズムが乱れても大丈夫だったと書きましたが、本当に若ければ影響を受けないのかという点を明らかにした研究があります。 この研究では、夜型の若者を対象に、複数要素で構成されるSleep Health Composite Score(睡眠の健康度を測る複合的な尺度)と、精神面と身体面の健康度との関係性を調べています*1。対象となった若者の平均年齢は14.77歳ですから、中学生です。 Sleep Health Composite Scoreは7日間の睡眠日誌と自己評価点数から計算され、今までの研究と専門家の意見を合わせた境目の点数に照らし合わせて「good」と「poor」の評価が決められました。一方、健康度については自己評価、医師の評価、保護者の評価、身体検査の結果を総合して判定されました。 その結果、Sleep Health Composite Scoreがgoodなグループは感情的、認知的、社会的な健康障害リスクが低く、身体症状、肥満、気分障害、不安障害などが少ないことがわかりました。このような結果に基づいて、睡眠の健康度は若者の心や体にも影響すると結論づけられました。 生活リズムを整える治療はうつ症状の改善を促す 米国では、退役軍人を対象にした研究が行われました。軍人は、訓練の時は規則正しい生活を強いられますが、戦場では生活リズムを守ることは不可能でしょうし、さまざまな理由で退役後も夜型になる人が多いようです。この研究では、行動学的睡眠療法、簡単に言えば夜型を朝型に変えて生活リズムを整える方法の効果が研究されました。 その結果、朝型にシフトできたグループは、うつ病症状や睡眠の質に改善が見られたと報告されています*2。また、この研究を行った医師たちは、朝型、夜型というのは生まれつきではなく、環境の影響も受けるということも言っています。 双極II型うつ病(双極性障害なのですが、うつ病が前面に出ている)患者さんを対象に、対人関係および社会的リズム療法の効果を試した研究があります。患者さんを、この治療法と抗うつ薬を併用するグループ、プラセボを併用するグループに分け、20週後の症状の変化を比べています。 その結果、2つのグループとも治療開始前に比べて20週後に症状が明らかに改善していました。2つのグループの比較では、抗うつ薬併用グループの症状改善はプラセボグループより早かったものの、薬による副作用が出てしまっていました*3。また、自分の受けている治療法が好ましいと考えた患者さんでは、よい結果が得られていました。 このことから、乱れた生活リズムを整えることは、患者さんにその方法が歓迎されれば、うつ病によい影響を及ぼすと言えそうです。 ヒトの体では、睡眠・覚醒のリズムがあり、覚醒時には身体活動と食事などの動作を刻むように作られています。ヒト以外の動物でも同様に生活リズムを持っています。このリズムは脳や体内臓器の機能維持に大切です。従って、生活リズムの乱れが、肥満や精神・神経機能などに影響してきます。健康で幸福感の高い生活をおくるためには生活リズムの調整をはかることが大切です。 ■参考文献 *1:Dong L, et al. Sleep Health 2019; 5(2): 166–174 *2:Hasler BP, et al. Behav Sleep Med 2016; 14(6): 624–635 *3:Swartz HA, et al. J Clin Psychiatry. 2018; 79(2): doi:10.4088 公開日:2021/04/13 監修:芝浦スリーワンクリニック名誉院長 板倉弘重先生
プロバイオティクス(体にとってよいはたらきをする細菌)、乳酸菌サプリメントなどのコマーシャルを目にします。このところ、その機会が増えたように感じるのですが、みなさんはいかがでしょう。規制もあるので、TVなどのコマーシャルでは「腸の調子を整える」とか、「健康にいい」という宣伝しかしませんが、実は、うつ病などの心の病と大腸に棲みついているプロバイオティクスとの間には深い関係があることがわかっています。ここでは、健康な人とうつ病患者さんの腸内に棲みついている細菌の組成の違いに注目して行われた研究と、プロバイオティクスサプリメントを摂取するとどのような変化が起こるのかをみた研究を紹介します。 目次 健康な人とうつ病患者さんでは大腸に棲みついている細菌の組成が違う プロバイオティクスサプリメントを摂り続けると、うつ病の症状が軽くなる? 板倉先生ワンポイントアドバイス 健康な人とうつ病患者さんでは大腸に棲みついている細菌の組成が違う うつ病にかかっている人の全人口に占める割合は、少し前のデータですが4.4%だと言われています*1。世界の人口を80億人として計算すると、うつ病の患者数は1億8千万人という大変な数になります。 うつ病は、慢性的なストレスがきっかけになって起こる病気で、気分が落ち込み、何もする気がなくなって、眠れなくなるなどの症状が出現します。うつ病は心の風邪という言葉が一時よく使われたように、誰もがかかる可能性のある病気なのですが、実は、女性の患者さん方が多くて、その数は男性の2倍だそうです*1。 人の体にはストレスを弱めるための仕組みが備わっていて、その中で腸内細菌も重要な役割を担っています*2。では、慢性的なストレスをきっかけにうつ病になってしまった人の腸内細菌は一体どうなっているのでしょうか。 日本で行われたうつ病患者さんと健康な人の腸内細菌を比べた研究では、うつ病患者さんの腸では、ビフィズス菌と乳酸菌が健康な人よりも明らかに少ないことがわかったと報告されています*3。 プロバイオティクスサプリメントを摂り続けると、うつ病の症状が軽くなる? この日本の研究では、同じうつ病患者さんの中でも、ヨーグルトや乳酸菌飲料をよく飲むグループは飲まないグループよりも腸内のビフィズス菌の数が多いことも報告されていますので*3、プロバイオティクスを多く摂って腸内の細菌を増やせばうつ病の症状を軽くできるかもしれません。 この考えについて、実際に、確かめようとした研究があります。うつ病の患者さん40人を、抗うつ薬とプロバイオティクス(乳酸菌とビフィズス菌含有)サプリメントを飲む20人グループと抗うつ薬とプラセボ(プロバイオティクスサプリメントの偽薬)を飲む20人のグループに分け、研究開始から8週間後までのうつ病症状の変化を比べるという方法が採られました。その結果、抗うつ薬とプロバイオティクスサプリメントを飲んだグループは、抗うつ薬とプラセボを飲んだグループに比べて、うつ病症状の重さを現すスコアの減り方が明らかに大きかったことがわかりました*4。 この研究を行った医師たちは、プロバイオティクスサプリメントにはうつ病の症状を軽くする効果がありそうだけれども、研究に参加した人の数が少ないこともあって、もっと多くのデータを積み重ねる必要があるとしています。 腸内細菌と生活習慣病との間に関連のあることが多くの研究からわかってきました。なかでも、うつ病の人では健康の人と腸内細菌数が違うことから、プロバイオティクスやプレバイオティクスによってうつ病が改善できないか研究がすすめられています。プロバイオティクスやプレバイオティクスは炎症を緩和させるはたらきがあることから、精神・神経系の病気にも良い効果が期待されています。 ■参考文献 *1:Ferrari AJ, et al. Plos One 2013; 8: e69637 *2:Kunugi H, et al. Neuropsychopharmacology 2006; 31: 212-220 *3:Aizawa E, et al. J Affect Disord 2016; 202: 254-257 *4:Akkasheh G, et al. Nutrition 2016; 32: 315-320 公開日:2021/04/06 監修:芝浦スリーワンクリニック名誉院長 板倉弘重先生
新緑の季節などに自然の中で行うランニングは想像しただけでいい気分になりますし、実際に健康増進に役立つとされています。実際、自然の中でのランニングにはどのような効果があるのか、そのような効果は室内では得られないのか、このような疑問に答える研究が行われていますので紹介したいと思います。 目次 ランニングはメンタルヘルスにも効果がある バーチャルリアリティを活用した室内でのランニングの効果とは 板倉先生ワンポイントアドバイス ランニングはメンタルヘルスにも効果がある 5kmの距離を好きなスピードで走る「パークラン」がランナーの主観的な幸福感にどのような影響を与えるか、という研究がオーストラリアで行われました。96の会場で15万人以上のランナーが参加した研究です。その結果、参加者全員がメンタルヘルスに対する効果に満足していました。性別で比較したところ、パークランによる健康満足度は女性よりも男性で高いこと、男性がパークランには社会との繋がりを高めるベネフィットがあると考えるのに対し、女性はそのことよりもメンタルヘルスへの効果の方にベネフィットを感じることがわかりました*1。このように、性差はあるものの、パークランがランナーの主観的な幸福感を高めることは間違いないようです。 また、難治性の気分障害患者さんに、最初は0.5kmから始め12週間かけて5kmまで距離を延ばす週2回のランニングを行ってもらい、その効果を検討した研究では、健康に関係する生活の質が改善しただけでなく、認知機能にも明らかな向上を認めたと報告されています*2。うつ病患者さんを対象に6ヵ月間、週2回のランニングセラピーの効果を検討した研究では、呼吸機能やBMIに加え、ランニングを始めて3ヵ月後にはうつ病の状態も改善したと報告されています*3。 このように、ランニングは体の健康だけでなくメンタルヘルスにとっても有効と言えそうです。 バーチャルリアリティを活用した室内でのランニングの効果とは 今ではさまざまな分野で活躍するバーチャルリアリティですが、この技術を導入したトレッドミルではランナーが目の前に現れる走路の景色を選べるようになっています。この点に着目し、選んだ画像によってランナーへの影響がどのように違うかを検討した研究があるので紹介します。 この研究では自然の景色の静止画、自然の景色の動画、音楽や映画など好きなエンターテインメントの3種類の画像を選び、それを見ながら1回20分のトレッドミルランニングを3回行い、走行距離、心拍数、幸福、不安、落胆、怒り、興奮、5つの感情の状態を評価しています。その結果、好きなエンターテインメントを選んだグループは、他の2つのグループよりも走行距離が長く、心拍数が多いという結果が得られました。感情の状態については3つのグループとも怒り、落胆、不安が低下する一方、興奮が上昇していましたが、幸福については自然の景色を選んだ2グループの方が好きなエンターテインメントを選んだグループよりも上昇していました。このように、同じ時間量のトレッドミルランニングを行っても眼前の景色によって現れる効果に違いがあるようです。 幸福感を求めるなら自然の景色を、体を鍛えるなら好きなエンターテインメントの画像を選んで走るのがよさそうです*4。 運動が健康の維持・増進に大切であることがわかっていますが、走るのは苦手だという人も多く、歩くことがすすめられています。体力があればランニングも良い効果が知られています。パークランの研究で明らかにされてきましたが、多くの人が集まって自分のペースで思い思いに走ったり、歩いたりする行動が、精神的健康に良い効果のあることが確かめられてきました。運動強度と筋力の向上とは関連がみられますが、運動する環境によっても身体に及ぼす効果には違いがみられます。楽しい気持ちで、美しい景色を見ながら、何人かと一緒にできるといいですね。 ■参考文献 *1:Grunseit A, et al. BMC Public Health 2018; 18: 59 *2:Keating LE, et al. BMJ Open Sp Ex Med 2019; 5: e000521 *3:Krusdijk F, et al. BMC Psychiatry 2019; 19: 170 *4:Yeh HP, et al. Int J Environ Public Health 2017; 14: 752 公開日:2021/03/15 監修:芝浦スリーワンクリニック名誉院長 板倉弘重先生
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への不安に外出自粛…こんなときは、疲れやすくなることやストレスに気をつけましょう。健康維持の鍵は「体内時計」です。日本うつ病学会が2020年4月に掲載した、体内時計をスムーズにはたらかせて一定のリズムで規則正しい健康な生活を送るコツを紹介します。 目次 体内時計をはたらかせる11の心得とは 一定リズムで規則正しい生活をするために工夫しよう 体内時計をはたらかせる11の心得とは 日本うつ病学会のサイトには、一定リズムで規則正しい生活をして心穏やかに過ごすために体内時計をスムーズにはたらかせる自己管理術のポイント11項目が掲載されています。 日本うつ病学会提言「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行下における、こころの健康維持のコツ:先の見えない中であっても、日常の生活リズムには気をつけよう」 https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/2020-04-07-covid-19.pdf 体内時計がスムーズにはたらいていると、心地よさを感じられるようになります。つまり、健康を維持していることにつながっていきます。 毎朝一定の時刻に起きるなど、ふだんの生活を安定したスケジュールで過ごすことや、日常生活のリズムを一定に保つことによって体内時計がはたらきます(参考記事:体内時計のネジをまこう!)。 しかし、仕事や子育て、人との関わりなど、これまで一定のリズムで毎日規則正しくしてきた活動(日課)が失われがちになってくると、体内時計が乱れてきます。 一定リズムで規則正しい生活をするために工夫しよう 体内時計が正しくはたらかなくなると、不眠や食欲低下、元気がなくなる、つらい気分、時差ぼけのような不快な気分に陥りやすくなることなど、さまざまな不調が現れてきます。 心身が不調になってくると、肥満やメタボ、うつ病や生活習慣病などの発症や悪化、またストレスによる対人関係の問題が起こることが懸念されています。 新型コロナウイルス感染症対策として外出自粛などが必要ですが、いまの生活をいろいろと工夫して健康を維持することにも努めましょう。 ■関連記事 「朝に弱い」を克服する!眠りのリズムを知って快適に目覚めよう 寝不足・睡眠障害 公開日:2020/04/22
食生活や栄養のバランスが崩れることがうつ病の発症や悪化に関わりやすいとの指摘があります(参考:うつ病に良い栄養は葉酸や鉄分)。最近では、腸内細菌との関わりや、過敏性腸症候群についても研究論文で指摘されています。国立精神・神経医療研究センターの功刀浩先生が第22回病態栄養学会学術集会*1で講演した内容を紹介します。 目次 日本で腸内細菌とうつ病との関係や過敏性腸症候群の合併率を検討 ビフィズス菌や乳酸桿菌が体内で少ないとうつ病のリスクが高い可能性 過敏性腸症候群の合併率は健康な人に比べて高い 乳酸菌飲料やヨーグルト摂取が少ないとうつ病リスク 善玉菌のプロバイオティクスを摂取するとうつ病リスクが低くなるエビデンス 日本で腸内細菌とうつ病との関係や過敏性腸症候群の合併率を検討 過敏性腸症候群は、明確な原因がないのに下痢や便秘などの便通異常を伴う腹痛や腹部不快感が慢性的にくり返され、不安やストレスを感じると症状が強くなるもので、腸内細菌が関わっている可能性が指摘されています。 功刀先生らの研究グループは、43人の大うつ病患者さんのグループ(以下、うつ病グループ)と、57人の健康な人のグループ(以下、健康グループ)で、腸内細菌とうつ病との関わりや、過敏性腸症候群の合併率を検討しています*2。以下、紹介します。 ビフィズス菌や乳酸桿菌が体内で少ないとうつ病のリスクが高い可能性 まず、腸内細菌に関する検討結果です。便を採取して善玉菌のビフィズス菌と乳酸桿菌(ラクトバチルス)の菌数を、うつ病グループ、健康グループで比較しました。 その結果、うつ病グループでは健康グループに比べてビフィズス菌の総菌数が統計学的検討で有意*3に少なく、ラクトバチルスの総菌数も低下傾向にありました。 また、うつ病グループと健康グループとを区別する便1g当たりの菌数(カットオフ値)を算出し、それぞれの菌のカットオフ値以下であった割合を比較しました。 その結果、ビフィズス菌がカットオフ値以下であった人の割合は、うつ病グループでは49%で、健康グループの23%に比べて高いことがわかりました。 統計学的に分析した結果、便1g当たりのビフィズス菌の数がカットオフ値以下だと、うつ病を発症するリスクが約3倍になることが示唆されました(図1)。 ラクトバチルスがカットオフ値以下の割合は、うつ病グループでは65%と健康グループの42%に比べて高く、便1g当たりのラクトバチルスの菌数がカットオフ値以下だと、うつ病を発症するリスクがおよそ2.5倍になることが示唆されました(図2)。 図1:大うつ病患者さんと健康な人のビフィズス菌の比較 図2:大うつ病患者さんと健康な人の乳酸桿菌(ラクトバチルス)の比較 出典:J Affect Disord. 2016;202:254-7、国立精神・神経医療研究センタープレスリリース(2018年6月9日)*2 過敏性腸症候群の合併率は健康な人に比べて高い 過敏性腸症候群を合併している人の割合を検討すると、健康グループでは12%、それに対しうつ病グループでは33%でした。 上記の割合を統計学的に分析した結果、うつ病の人では健康な人に比べて過敏性腸症候群を3倍合併しやすくなることが示唆されました。 さらに、ビフィズス菌やラクトバチルスの数が上記のカットオフ値より低い人は、過敏性腸症候群症状をもつリスクが高くなることがわかりました。 乳酸菌飲料やヨーグルト摂取が少ないとうつ病リスク 体内の腸内細菌の構成には日常の食生活が深く関係しているので、ビフィズス菌や乳酸菌を多く含む飲料やヨーグルトなどの摂取頻度と腸内細菌の関係を調べました。 その結果、うつ病グループでは摂取習慣が週に1回未満の人では、週1回以上の人に比べて腸内のビフィズス菌の菌数が有意に低いことが確認されました(図3)。 図3 うつ病患者さんにおけるヨーグルトや乳酸菌飲料の摂取頻度と腸内のビフィズス菌の比較 出典:J Affect Disord. 2016;202:254-7、国立精神・神経医療研究センタープレスリリース(2018年6月9日)*2 善玉菌のプロバイオティクスを摂取するとうつ病リスクが低くなるエビデンス また、海外では乳酸菌飲料やヨーグルトなどのプロバイオティクス(生きた善玉菌を含む食品などのことです)を8週間摂取したうつ病患者さんのグループと、プロバイオティクスそっくりのプラセボを摂取した患者さんのグループで比較した研究があります*4。 結果を見ると、うつ病の症状や糖尿病に関連する評価指標、症状に関わる指標の体内物質のC反応性タンパクなどからみた病気の改善度は、プロバイオティクスを摂取したグループのほうが高いことが明らかになりました。 以上から、うつ病患者さんは善玉菌が少ない人が多く、乳酸菌飲料やヨーグルトなどのプロバイオティクスを摂取すると、うつ病の予防や治療に有効となる可能性があります。 最後になりますが、功刀先生は日常の食生活がうつ病に深く関係しているので、栄養素(葉酸や鉄分、腸内細菌など)に気をつけることが重要になるとのことです。 *1:第22回日本病態栄養学会年次学術集会(会長=横浜市立大学・寺内康夫先生)は2019年1月に開催されました。学術集会では、医師や管理栄養士、薬剤師など医療従事者が最新の研究成果や臨床上の課題について報告されました。 *2:Journal of Affective Disorder 2016,;15 :254-257 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27288567 国立精神・神経医療研究センタープレスリリース https://www.ncnp.go.jp/press/release.html?no=105 *3:有意とは統計学的検討によりグループ間で大きな差が認められたことをいいます。 *4:Nutrition 2016 Mar;32(3):315-20. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26706022 ■関連記事 子供が「うつ病」になったら…大人はどうする? 増え続ける不登校、うつ病も増加? うつ病と糖尿病は合併しやすい うつ病チェックで糖尿病悪化を防ぐ うつ病、統合失調症など精神疾患も生活習慣病のひとつ? うつ病 公開日:2019/07/22 監修:国立精神・神経医療研究センター神経研究所疾病研究第三部部長 功刀浩先生
うつ病は、肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病、脂質異常などと関わりが深いので、栄養療法や運動療法も効果的とされています。国立精神・神経医療研究センターの功刀浩先生は、うつ病と関わりある食生活・栄養素(ビタミンやミネラルなど)について、国内外の研究論文のエビデンスをふまえ、第22回病態栄養学会学術集会*1の講演で紹介しました。 目次 肥満、脂質異常、糖尿病、朝食とらずに夜食や間食が多い人にうつ病が多い 地中海式料理はうつ病のリスクを下げる可能性あり 健康日本食パターンの人はうつ病患者が少ない EPAやDHAなどのn-3系脂肪酸が有用との報告が多い ビタミンのなかでは葉酸が重要 鉄欠乏性貧血もうつ病リスク 肥満、脂質異常、糖尿病、朝食とらずに夜食や間食が多い人にうつ病が多い うつ病は栄養面で問題があると発症しやすく、悪化や再発のリスクになることを指摘する研究報告が多くあります。 功刀先生らが1万人以上を対象に検討したウェブ調査結果によると、うつ病1000人の特徴として、肥満もしくはやせ、脂質異常症や糖尿病、朝食をとらずに夜食や間食が多いことが挙げられました*2。 以下は、功刀先生らの研究結果や国内外の研究結果のエビデンスから、うつ病との関わりがあると考えられる栄養素と食品です(表1、表2)。 表1:うつ病と関連することが指摘されている栄養・食生活のエビデンス 総カロリーの過剰摂取,糖尿病,メタボリック症候群、運動による予防・治療効果 地中海式食事 vs. 西洋式食事 健康日本食 脂肪酸:n-3系脂肪酸(EPA, DHA)の不足 アミノ酸:トリプトファンなど必須アミノ酸の不足 ビタミン:ビタミンB1,B6、B12、葉酸,ビタミンDの不足 ミネラル:鉄不足,亜鉛不足,マグネシウムの不足 嗜好品:緑茶やコーヒーの予防効果 ヨーグルトなどプロバイオティクス(善玉菌)の有効性 食物アレルギーとストレス症状 表2:うつ病に関わる栄養素とそれを多く含む食品 ビタミンB1 豚肉(赤身)、うなぎ、玄米、ナッツ ビタミンB2 レバー、うなぎ、納豆、卵 ビタミンB6 刺身、レバー、鶏肉、納豆、ニンニク、バナナ ビタミンB12 貝類、レバー 葉酸 葉物野菜、納豆、レバー トリプトファン 牛乳、乳製品、肉、魚、ナッツ、大豆製品、卵、バナナ メチオニン 牛乳、乳製品、肉、魚、ナッツ、大豆製品、卵、野菜、(ホウレンソウ、グリーンピース) チロシン 牛乳、大豆製品、魚(カツオ節、しらす干し)、乳製品、肉、魚、卵、アボガド DHA、EPA 青魚(サバやイワシなど) 鉄 レバー、牛赤身肉、魚貝、海藻、青菜類、納豆、緑黄色野菜 亜鉛 カキ、ウナギ、牛肉、レバー、大豆製品、貝類 提供:表1、表2とも功刀浩先生 地中海式料理はうつ病のリスクを下げる可能性あり 新鮮な野菜や魚介類、オリーブオイルがよく使われる地中海式料理は、うつ病の発症リスクを下げる可能性を指摘した海外の研究論文があります。 それによると、スペインの健康な大学卒業生を対象にうつ病発症を長期にわたって追跡した調査(平均4.4年)の結果、1万94人のうち480人がうつ病を発症していました。 そこで、食習慣の質を評価する地中海式食事スコアから分析したところ、スコアが高い人では最も低い人たちに比べてうつ病の発症率が低いことが明らかになったとのことです*3。 健康日本食パターンの人はうつ病患者が少ない 日本人の勤労者を対象に食事パターンとうつ病との関係を検討した報告があります。 野菜,果物,大豆製品、きのこ、緑茶などの摂取が多いことが特徴的な「健康日本食パターン」の人では抑うつ症状をもつ人が少ないことがわかりました*4。 EPAやDHAなどのn-3系脂肪酸が有用との報告が多い 個々の栄養素別にみてみます。魚の油に含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などのn-3系脂肪酸との関わりが指摘されています。魚の摂取が多いフィンランドの2001年の研究では、魚をよく食べるとうつ病が少ないとの報告があります*5。 治療効果として検証した報告もあります。うつ病患者さんを対象に、抗うつ薬とともにEPA、DHAを摂取したグループと、オリーブオイルを摂取したグループで検討した研究では、EPAやDHAを摂取したグループのほうがうつ病は改善度が高かったとのことでした*6。 さまざまな研究論文をまとめて分析したメタアナリシスという報告がいくつかなされています。ネガティブな指摘も一部ありますが、多くはポジティブな見解が現状です。 なお、功刀先生らが行った、躁とうつの両方を呈する双極性障害の患者さんを対象とした研究では、健常者と比較してEPAやDHAの血中濃度が低いとの研究結果が得られているとの話でした。 ビタミンのなかでは葉酸が重要 ドーパミンやセロトニン、ノルアドレナリンなど、元気や気分に関わる脳内物質(体内で情報を伝達する神経伝達物質を総称してモノアミンといいます)が体内で減るのはビタミンB類(B6、B12、葉酸など)や後述する鉄分などの不足が関わります。 そこで、葉酸に関しては、前述の日本人勤労者を対象に食事パターンとうつ病との関係を検討した報告からは、うつ症状がある人を血液中の葉酸値が低い順に4つのグループに分けてみると、葉酸値が最も低いグループでうつ症状との関連が高いことがわかりました*4。 また、功刀先生らの調査結果では、血液中の葉酸値が基準値の4ng/mL未満である人の割合を健康な人(109人)とうつ病患者さん(99人)で比較したところ、うつ病患者さんは葉酸を不足している人が2~3倍高いことがわかりました*7。 鉄欠乏性貧血もうつ病リスク 前述のモノアミンの合成や代謝などのはたらきに関わる体内物質として鉄分が必要です。 不足すると、疲れやすい、イライラする、興味や関心が低下する、集中力が低下するので、うつ病に関わることが指摘されています。 鉄分が不足しやすいのは若い女性で、特に妊婦さんが最も鉄が不足しやすいと言われています。胎児に鉄分をとられることで出産のときに出血すると鉄が失われ、それにより産後うつ病の発症リスクが高まる可能性が指摘されています。 鉄欠乏の指標の血中フェリチン値が低いと、産後うつ病になりやすい指摘があります*8。 また、前述の功刀先生らが1万人以上を対象としたウェブ調査の結果によると、うつ病患者さんでは、うつ病でない人に比べて鉄欠乏性貧血に罹患したことがある人が多いこと、また鉄欠乏性貧血に罹患したことがある人はストレス症状が多いとの結果が得られています*1。 以上から、うつ病の発症や悪化には食生活や栄養素との関わりが多く、葉酸や鉄分も不足しないように摂取することが必要なことがわかりました。 また最近、腸内細菌や過敏性腸症候群とうつ病との関わりが指摘されています。次回、紹介します。 *1:第22回日本病態栄養学会年次学術集会(会長=横浜市立大学・寺内康夫先生)は2019年1月に開催されました。学術集会では、医師や管理栄養士、薬剤師など医療従事者が最新の研究成果や臨床上の課題について報告されしました。 *2:Psychiatry Clin Neurosci 2018;72(7):513-521 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29603506 *3:Arch Gen Psychiatry. 2009;66(10):1090-8 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=Arch+Gen+Psychiatry+2009++mediterrancan *4:Eur J Clin Nutr 2010;64(8):832-9. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=Nanri+et+al.J.+Clin.+Nutr.%2C+64%2C+832%E2%80%93839%EF%BC%882010%EF%BC%89 *5: Psychiatr Serv 2001;52(4):529-31 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=Tanskanen+et+al.Psychiatr+Serv+2001 *6:Eur Neuropsychopharmacol 2003;13(4):267-71. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12888186 *7:日本生物学的精神医学会誌 2015;26:54─58 *8:J Affect Disord. 2011;131:136-42 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=J+Affect+Disord.+2011%3B+131%3A136 ■関連記事 子供が「うつ病」になったら…大人はどうする? 増え続ける不登校、うつ病も増加? うつ病と糖尿病は合併しやすい うつ病チェックで糖尿病悪化を防ぐ うつ病、統合失調症など精神疾患も生活習慣病のひとつ? うつ病 公開日:2019/07/19 監修:国立精神・神経医療研究センター神経研究所疾病研究第三部部長 功刀浩先生
こころの病気について平成30年間をまとめれば、うつ病が誰でもかかりえる病気として日常的なものになったことが大きなできごとの一つでしょう。うつ病になるのは職場のストレスに悩む大人だけではありません。子供も増加しているという報告があります*1。親や保護者など大人はどうすればよいのでしょうか。原井クリニック院長の原井宏明先生に解説していただきました。 目次 子供のうつ病が増加しています 「自分は生まれてこなければよかった」などの劣等感や無価値感も特徴 「長く布団に横に寝ても眠れない」、「休養しても取れない慢性疲労や腹痛」に注意 落ち込んだ気分を言葉で表現できずに身体症状や行動として現れるケースが多い 再発率は高いのであせらず長期間にわたりじっくり取り組もう 周囲の大人はどうすればよい? 原因はさまざまなので家庭そのものが原因と決め付けてはいけません 家族だけで悩まずに信頼できるところに相談することが重要 子供のうつ病が増加しています 北海道大学の傳田健三先生の研究によると、2007年に北海道千歳市の小中学生738人に対し精神科医が直接面接する調査を行ったところ、小学4年生から中学1年生のうつ病の有病率は1.5%で、中学1年生では4.1%と高いことが明らかになりました*2。 最近は、医療機関を受診する子供が増加しています。特に女児に多く、横浜市立大学附属市民総合医療センターにおける児童精神科の入院患者数では女児が男児の約2倍でした*3。 うつ病が不登校、発達障害、不安症、摂食障害などの陰に隠れていることもあります。今回は、この「子供のうつ病」について考えてみましょう。 「自分は生まれてこなければよかった」などの劣等感や無価値感も特徴 うつ病の症状は大人でも子供でもほぼ共通しています。イライラや抑うつ気分、楽しさと喜びの喪失、不眠や過眠、食欲低下、身体症状などです。 大人と違うのは腹痛の訴えが多く、腰痛はまれなこと、劣等感・無価値観などのマイナス思考が多いことでしょう。「自分は生まれてこなければよかった」と訴える子供がよくいます。この訴えは、大人なら希死念慮(死にたいと考えること)を訴えることにあたります。 うつ病は成長の過程の一過性のものというのもよくあります。どこまでが見守るだけでよいのか、どこから治療が必要になるのかなど、見極めや判断が難しいところがありますので、時間をかけて周辺環境もふまえて観察したうえで専門家に相談することが重要です。 「長く布団に横に寝ても眠れない」、「休養しても取れない慢性疲労や腹痛」に注意 DSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)と呼ばれる世界的に使われている標準的な診断方法によれば、抑うつ気分や楽しさと喜びの喪失などの症状が5つ以上、2週間以上ずっと継続していることがうつ病と診断する条件だとされています。 「どれだけ長く布団に横に寝ても、よく眠れない」という不眠や睡眠過多、「休養しても取れない慢性疲労や腹痛」などの身体の訴えがあることもよくあります。 不安や多動、学習障害などと関連して起こることもあります。また、冬季うつ病の可能性もあり、この場合は別に考える必要があります。 落ち込んだ気分を言葉で表現できずに身体症状や行動として現れるケースが多い 子供のうつ病の特徴として、以下に身体症状と行動の現れ方について示します。 【身体症状】 ●体重減少(または成長に伴い増えるはずの体重が増加しない) ●食欲不振 ●吐き気 ●頭痛 ●腹痛 ●めまい など 【行動の現れかた】 ●イライラ ●注意力低下、集中困難 ●寡黙 ●不登校、引きこもり ●成績が落ちる ●不眠または睡眠過多 イライラしたり、注意力が低下したり、無気力になったり、誰でもそんなときはあります。でも、普段より過度に出ているなら、その背後にうつ病が隠れていることも。基本的には症状が2 週間以上続いているのなら、うつ病の可能性があります。 うつ病治療ガイドライン2016年版によると、大人も子供も症状は基本的には同じですが、心身ともに成長過程にある子供は、落ち込んだ気分を大人のように言葉で表現できないことが多く、身体症状や行動として現れることが多いようです。 ガイドラインでは、大人との違いとして、イライラや怒りっぽいこと、体重の減少や、成長にともなって体重が増加するはずなのに増えていないことが挙げられています。 再発率は高いのであせらず長期間にわたりじっくり取り組もう うつ病と分かった場合は、症状が治まるまで半年~1 年程度かかります。海外の研究では、半年以内に回復するとの指摘もあります*4。 しかし、うつ病の子供がよくなったのに、再び発症するケースがあります。 海外の研究報告では、回復した患者さんのほぼ半数が5年以内に再発していたとの指摘があり、短期間で十分な治療反応がなかった青年や女性、不安症が併存する青年では新たなエピソードが出現する割合が高いとの指摘もあります*5。 成人同様に再発を繰り返すとの指摘もあります。思春期で抑うつ症状がある140人を3~9年(平均6年)にわたり経過を調査した報告では、約半数が抑うつ症状に関わる行動(エピソードといいます)が再び見られたことと、多くの患者さんが不安障害、薬物関連障害、摂食障害などを発症しているとの報告もあります*6。 再発率は高いと考えられるので、長期的にじっくり取り組むつもりで構えましょう。 家族など周りが注意しないといけないのは、すぐに学校に通えるようになる、落ちた成績が上がるといった目に見える成果を焦らないことです。 周囲の大人はどうすればよい? 子供のうつ病の対応に関しては、基本的には、本人を温かく見守り、様子がおかしいと思えば専門家に相談するのがよいでしょう。 身体症状がある場合は、まずは小児科などを受診して身体的には異常が発見されなければ児童精神科へ。その結果、うつ病と診断される場合があります。素人判断は控えましょう。 うつ病の治療は、子供だけではなく、普段の生活や学校の状況を含めて総合的に考えないといけません。 原因はさまざまなので家庭そのものが原因と決め付けてはいけません 注意しなければならないのは、子供の周辺環境によるストレスが引き金になってうつ病になるといっても、家庭以外に学校での就学状況が原因の場合もありますので、家庭そのものが原因かどうかと決め付けてはいけません。 気をつけたいのは、親が「自分の育て方が悪い」と過度に反省したり、周囲が家族を責めることです。子供がうつ病になっている場合、親も同様にうつ病になっていることが3割程度であるとされています*7。うつ病になった子供は何かにつけて自分が悪いと自分を責めがちです。そんな子供の前に暗い顔をした親がいると想像してみてください。「親がツラそうな顔をしているのは自分のせいだ」と子供は思い込みます。 うつ病の親に育てられた子供がうつ病になった時、それを親のせいにしても何も改善しないことは明らかでしょう。 家族だけで悩まずに信頼できるところに相談することが重要 家族が子供の状況を医師に相談することで突破口が開け、環境が改善されて子供の症状がよくなることが多いといわれています。 親がしっかり考えてあげることで、子供にかかっているストレスが軽くなり病気が改善することがありますし、実は親の取り越し苦労だと明らかになる場合もあります。周囲は「がんばれ」など励ますのではなく、焦らずゆっくり治すことを考えましょう。 相談先としては、児童精神科以外にも、保健所での児童発育相談や精神相談の窓口、かかりつけの小児科医などが考えられます。大切なのは家族だけで悩まず、信頼できる誰かに相談することです。 *1:Lancet 2012;379(9820):1056-67. *2:「児童・青年期の気分障害の臨床的特徴と最新の動向」,『児童青年精神医学とその近接領域』.2008;49(2): 89-100. *3:「総合病院における児童精神科診療の課題」.総合病院精神医学2012;24:342-348. *4:Soc Psychiatry Psychiatr Epidemiol 2012;47(1):87–95. *5:Arch Gen Psychiatry 2011;68(3):263-269. *6:J Affect Disord 2013;151(1):298-305. *7:Eur Child Adolesc Psychiatry. 2018;27(12):1575-1584. 監修:原井宏明先生 専門領域 気分障害や不安障害、物質使用性障害の治療、行動療法・認知行動療法、動機づけ面接、EBM、精神症状評価、薬効評価、英文翻訳、通訳(英語) 所属学会 日本精神神経学会,日本認知・行動療法学会,日本行動科学学会,日本アルコール薬物医学会,American Psychological Association, American Psychiatric Association, Association for Behavioral and Cognitive Therapies (Formerly Association for Advancement of Behavior Therapy), Motivational Interviewing Network of Trainers,日本児童青年期精神医学会 略歴 昭和59年:岐阜大学卒業 神戸大学で研修を受け、国立肥前療養所(国立病院機構肥前精神医療センター)で山上敏子先生から行動療法を学んだ後、平平成10~19年:国立菊池病院(国立病院機構菊池病院)でうつ病や不安障害,薬物依存の専門外来などに従事しました。 平成20年:医療法人和楽会なごやメンタルクリニック院長 平成30年:千代田心療クリニック精神科、(株)BTCセンター・カウンセラー、㈱原井コンサルティング&トレーニング設立(代表取締役) 平成31年:東京都中央区京橋で原井クリニックを開業し、強迫症/強迫性障害などへの認知・行動療法をはじめとした精神科・心療内科の診療に従事しているとともに、強迫症/強迫性障害の患者会(OCDの会)などへの支援も積極的に活動しています。 原井クリニック URL:https://www.harai.net/ 原井宏明の情報公開・HARAI Hiroaki Repository(ブログ) URL:http://harai.main.jp/blog1/ (株)BTCセンター URL:https://www.hearts-and-minds.net/access ■関連記事 増え続ける不登校、うつ病も増加? 疲れやストレスを感じたら体内時計をリセット!うつ病学会が自己管理のコツを紹介 うつ病に良い栄養は葉酸や鉄分 うつ病は過敏性腸症候群や善玉菌が関係あり うつ病、統合失調症など精神疾患が生活習慣改善により予防できるケースも 公開日:2019/03/04
小中学生の不登校が増加傾向にあることが、最近の文部科学省の調査から明らかになりました。本人に係る不登校理由の6割が「不安」や「無気力」ということは、うつ病の子供が増えている可能性があります。子供の親や保護者はどのようにすればいいのでしょうか。原井クリニック院長の原井宏明先生は、うつ病のために生きづらく感じている子供を支えるためのポイントについて概説してもらいました。 目次 小学校は学年に1人、中学校はクラスに1人が不登校 不登校の要因はなに? うちの子供は大丈夫?うつ病のサインはどこに? 子供の近くにいる家族などの存在が重要です 学校の環境や生活の変化なども含めて具体的な事例を相談しましょう 小学校は学年に1人、中学校はクラスに1人が不登校 文部科学省の平成29年度の問題行動・不登校調査(2018年10月25日公表*)によると、小中学生で年間の欠席日数が30日以上の不登校は前年度を上回り、小学生は185人に1人、中学生は31人に1人が不登校との見解でした。 小学校では学年に1人、中学校ではクラスに1人が不登校という割合は、決して少ない数とはいえません。 調査は平成3年以降、毎年行われていますが、この24年間で不登校児童生徒数は2倍以上、平成25年度以降は5年連続で上昇しています。 不登校の要因はなに? 本人に係る不登校の理由は、多い順に「不安」「無気力」「学校の人間関係」でした。家庭や学校に係る要因を見ると、「家庭に係る状況」が一番多く、「友人関係」「学業不振」と「学校に係る状況」に続きます。 注):図1のグラフは回答人数 出典:平成29年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果(文部科学省2018年10月25日公表) 「不安」「無気力」が挙げられていることから、最近はうつ病と診断される子供が多いといわれています。これを受けて日本うつ病学会は、2013年発行のうつ病治療ガイドラインを2016年版に改訂した際、子供や思春期のうつ病診療指針を新たに提示しています。 うちの子供は大丈夫?うつ病のサインはどこに? 親や保護者は、自分の子供は大丈夫かどうか心配になります。子供の変化に少しでも早く気付くことが重要です。 そのための参考として、うつ病治療ガイドライン2016年版の子供や思春期のうつ病を診療する指針を紹介します。診断する基準は米国精神医学会による精神障害の診断と統計の手引き第5版(DSM-5)が推奨されています。 ■DSM-5の大うつ病エピソード 1~2の症状のうち少なくとも1項目がほとんど1日中、ほとんど毎日認められる 抑うつ気分 注:子どもや青年では易怒的な気分もありうる。 興味または喜びの著しい減退 上記の項目と下記3~9の症状の合計で5項目以上が認められる 体重減少または体重増加(例:1ヵ月で体重の5%以上の変化)、またはほとんど毎日の食欲の減退または増加 注:子どもの場合、期待される体重増加が見られないことも考慮せよ 不眠または過眠(ほとんど毎日) 精神運動焦燥または制止(ただ単に落ち着きがないとか、のろくなったという主観的感覚ではない)がほとんど毎日認められる 疲労感、または気力の減退(ほとんど毎日) 無価値感、または過剰であるか不適切な罪責感(妄想的もある。単に自分をとがめること、または病気になったことへの罪悪感ではない)がほとんど毎日認められる 思考力や集中力の減退、または決断困難(ほとんど毎日) 死についての反復思考(死の恐怖だけではない)。特別な計画はないが反復的な自殺念慮、または自殺企図、または自殺するためのはっきりした計画 出典:DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院, 2014; 160-161 過去2週間に上記の1「抑うつ気分」(または易怒感)、2の「興味または喜びの著しい減退」のどちらかを含めて5項目以上が当てはまることとされています。 小児や青年においては、抑うつ気分はイライラした気分であってもよく、体重減少は成長期に期待される体重増加がみられないことでもよいとされています。 子供の近くにいる家族などの存在が重要です 子供がうつ病かなと思ったら、かかりつけの小児科、精神科、心療内科などに相談しましょう。最近は、児童精神科という子供に特化した診療科もあります。 治療に関しては、ガイドラインでは子供の周辺環境として学校や家庭における状況の変化や、本人の行動が以前と比べてどのように変わったのかなど、さまざまな情報をもとにして患者さん個人に応じた治療内容や治療を進めるための計画を考えることと、患者さん以外に家族や学校などにも介入することが推奨されています。 子供は表現力の面では成長・発達の途中ですので、ガイドラインでは子供に近い家族や学校関係者などの存在が最も重要だと強調されています。 学校の環境や生活の変化なども含めて具体的な事例を相談しましょう 親や保護者などが医療機関などに相談するときは、どんなことを医師などに伝えたらよいのでしょうか。そこで、前述の文部科学省・問題行動・不登校調査では、不登校の理由と子供を取り巻く状況などとの関係を分析した結果が参考になるかもしれません。 不安により不登校となった子供では「進路の不安」や「入学や転校、進級時の不適応」、無気力は「学業の不振」や「家庭に関わる状況」、学校の人間関係は「いじめ」や「友人関係」などと関わりがありました。 このような調査結果を参考にして、子供がふだんと違う行動をするようになった前後で家庭や学校においてどのような状況の変化があったのかについてメモをとって事例の詳細をまとめたうえで相談してみましょう。 うつ病のために生きづらく感じている子供を支えるためには、子供の変化に気付く、要因を探る、学校に相談する、医師に診察してもらう、子供の治療として学校や家庭の状況の改善に向けて行動していくなどの対応が考えられます。 いずれの対応においても、親や保護者などの存在がキーポイントになります。 *:平成29 年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について(文部科学省) その1 その2 監修:原井宏明先生 専門領域 気分障害や不安障害、物質使用性障害の治療、行動療法・認知行動療法、動機づけ面接、EBM、精神症状評価、薬効評価、英文翻訳、通訳(英語) 所属学会 日本精神神経学会,日本認知・行動療法学会,日本行動科学学会,日本アルコール薬物医学会,American Psychological Association, American Psychiatric Association, Association for Behavioral and Cognitive Therapies (Formerly Association for Advancement of Behavior Therapy), Motivational Interviewing Network of Trainers,日本児童青年期精神医学会 略歴 昭和59年:岐阜大学卒業 神戸大学で研修を受け、国立肥前療養所(国立病院機構肥前精神医療センター)で山上敏子先生から行動療法を学んだ後、平平成10~19年:国立菊池病院(国立病院機構菊池病院)でうつ病や不安障害,薬物依存の専門外来などに従事しました。 平成20年:医療法人和楽会なごやメンタルクリニック院長 平成30年:千代田心療クリニック精神科、(株)BTCセンター・カウンセラー、㈱原井コンサルティング&トレーニング設立(代表取締役) 平成31年:東京都中央区京橋で原井クリニックを開業し、強迫症/強迫性障害などへの認知・行動療法をはじめとした精神科・心療内科の診療に従事しているとともに、強迫症/強迫性障害の患者会(OCDの会)などへの支援も積極的に活動しています。 原井クリニック URL:https://www.harai.net/ 原井宏明の情報公開・HARAI Hiroaki Repository(ブログ) URL:http://harai.main.jp/blog1/ (株)BTCセンター URL:https://www.hearts-and-minds.net/access ■関連記事 子供が「うつ病」になったら…大人はどうする? 疲れやストレスを感じたら体内時計をリセット!うつ病学会が自己管理のコツを紹介 うつ病に良い栄養は葉酸や鉄分 うつ病は過敏性腸症候群や善玉菌が関係あり うつ病、統合失調症など精神疾患が生活習慣改善により予防できるケースも 公開日:2019/02/28
うつ病と認知症、糖尿病はそれぞれ関わりがあるので、どちらの病気も合併しやすく、またお互いに悪化させると言われています。東京女子医科大学東医療センターの大坪天平先生が第39回荒川糖尿病セミナーで、それぞれの病気の関わりについて講演した内容を紹介します。 目次 うつ病と認知症、糖尿病など生活習慣病との関係とは 糖尿病がある人や血糖値の変動が大きい人は認知症になりやすい うつ病を繰り返し発症して双極性障害になると認知症になりやすくなる うつ病と認知症、糖尿病など生活習慣病との関係とは 心の病気と言われる「うつ病」と、高齢者における脳の病気と言われる「認知症」、生活習慣病である「糖尿病」は、それぞれどのような関わりがあるのでしょうか。 東京女子医科大学東医療センター精神科部長・臨床教授の大坪天平先生は、国内外の研究成果などを、2018年6月に開催された第39回荒川糖尿病セミナーの講演で解説しました(同セミナーの講演内容をもとに本記事を作成しました)。 糖尿病がある人や血糖値の変動が大きい人は認知症になりやすい 大坪先生によると、日本ではアルツハイマー病をはじめとした認知症の患者さんは増加の一途をたどっており、福岡県の久山町で長年にわたって住民調査を実施している久山町研究でも同様の結果がみられています。 久山町研究で認知症患者さんの特徴を検討したところ、糖尿病がある人では糖尿病でない人に比べて認知症になりやすいことが明らかになりました*1。特に、糖尿病診断の際に行われる糖負荷試験の2時間後血糖値が200mg/dL以上であると、119㎎/dL以下と比較して、約3.4倍アルツハイマー病になりやすいことがわかりました*2。 また、1日における血糖値の変動幅が大きいほど認知機能が低下しやすいとの報告もあります。 糖尿病と認知症との関連として、体内で起きている異常(または変化)に関しては以下が挙げられます。 高脂血症や微小血管障害、終末糖化産物という物質が体内に蓄積することなどにより、酸化ストレスが増える。酸化ストレスにより、神経細胞の変性や細胞死、認知症に関わるアミロイドβという物質が脳内にたまる。 インスリン抵抗性が起こることで、脳内でブドウ糖(グルコース)の利用率が下がり、脳の神経細胞がエネルギー不足になって、脳の神経自体が疲弊していく。 うつ病を繰り返し発症して双極性障害になると認知症になりやすくなる うつ病と糖尿病は合併しやすく、糖尿病と認知症も合併しやすいことが言われています。さらに、うつ病とも関わりがあるとともに、認知症の発症リスクとも言われる、気分の浮き沈み(躁とうつ)を示す病気である双極性障害についても大坪先生は解説しました。 双極性障害は家族歴との関係が強い(家族に同じ病気の人がいる率が高い)病気ですが、うつ病を何回も再発している患者さんにも多いと言われています。うつ病の患者さんを長期間追跡したところ、10年目において、診断がうつ病から双極性障害に2割の人が変わっていたとの研究報告があります*3。 うつ病も双極性障害も再発する病気ですが、より双極性障害の方が再発しやすい病気です。うつ病も双極性障害も、気分の浮き沈みを繰り返しているうちに、脳の萎縮が見られるようになります。 脳の萎縮は言い換えると、機能できる神経細胞が減少することです。特に、記憶や感情に関わっている海馬が萎縮すると言われています。海馬は、アルツハイマー病で特に萎縮の目立つ場所なので、気分の浮き沈みは認知症を発症しやすくするというわけです。 以上から、うつ病(こころの病気)、認知症や双極性障害(脳の病気)、糖尿病(生活習慣病)で起こる脳や体内で起こっている変化には関連性があることがわかりました(図)。 うつ病を悪化させないことが糖尿病の改善や、双極性障害、高齢になって発症するアルツハイマー病の予防になるかもしれません。 図:糖尿病とうつ病、認知症、双極性障害との関係 図の略語は以下 DM:糖尿病 MI:心筋梗塞 HT:高血圧 提供:東京女子医科大学東医療センター精神科部長・臨床教授・大坪天平先生 *1:Neurology 1995 ;45(6):1161-8. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7783883 *2:Neurology 2011;77:1126-34 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21931106 *3:Am J Psychiatry 2011 ;168(1):40-8. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=Fiedorowicz+JG%E3%80%80Am+J+Psychiatry%2C+2011 公開日:2019/01/07 監修:東京女子医科大学東医療センター精神科部長・臨床教授・大坪天平先生
糖尿病患者さんがうつ病も持っていると、どちらの病気も悪化しやすいと言われています。こころの病気と生活習慣病はどのように関わっているのでしょうか。東京女子医科大学東医療センターの大坪天平先生が第39回荒川糖尿病セミナーで講演した内容を紹介します。 目次 こころの病気と生活習慣病は関わりが深い うつ病で食生活などライフスタイルが変わることで糖尿病になりやすい うつ病患者では血糖コントロールがよくない うつ病の治療により生活習慣の改善や血糖コントロールが改善 こころの病気と生活習慣病は関わりが深い こころの病気と言われるうつ病は、さまざまな体の病気に関わっています。うつ病と体の病気も持っている患者さんは、うつ病が体の病気を悪化させ、体の病気がうつ病を悪化させるという相互作用が問題になっています。 東京女子医科大学東医療センター精神科部長・臨床教授の大坪天平先生は、糖尿病とうつ病との関わり合いを検討した研究成果について、2018年6月に開催された第39回荒川糖尿病セミナーの講演で解説しました(同セミナーの講演内容をもとに本記事を作成しました)。 うつ病で食生活などライフスタイルが変わることで糖尿病になりやすい 大坪先生によると、うつ病によって食行動の変化や身体活動の減少などライフスタイルが変わりやすくなります。一方で、糖尿病を改善するために食生活の習慣を変えざるを得ないことによるストレスや糖尿病の症状によって精神的な負担が大きくなります*1。 海外の研究報告では、うつ病をすでに発症した患者さんでは、うつ病がない患者さんに比べて糖尿病が発症しやすいことや、糖尿病患者さんでは健康な患者さんに比べてうつ病を発症しやすいことがいわれています*2。 うつ病患者では血糖コントロールがよくない 糖尿病になると、体内で血糖コントロールに関わるインスリンがうまくはたらかなくなり、インスリン抵抗性があがります。つまり、インスリンは十分な量が分泌されても、本来の血糖コントロールに関わる作用を発揮できない状態です。 うつ病と健康な人を対象に糖尿病診断の際に行われる糖負荷試験の結果を比較した研究では、うつ病患者さんのインスリンの分泌は十分なのに、血糖値は高いという結果でした*3。 うつ病患者の治療前と治療後の経過を検討した研究では、うつ病の治療に伴い抑うつが改善すると同時に、インスリンに対する感受性が改善することや、血糖値も低下したとの報告*4、またヘモグロビンA1cが低下するなど血糖コントロールが改善した報告もあります*5。 うつ病と糖尿病が関わることにより、体内で起こっている変化として以下が考えられます。 不安やストレスを受けると、体内で視床下部-下垂体-副腎皮質系の機能が活発になって、反応性にコルチゾールというホルモンが多く分泌され、交感神経系の活性化が起こります。 一方、インスリン感受性が弱くなり、インスリン抵抗性が起きます。 また、うつ病や糖尿病のどちらの病気においても、体内で視床下部-下垂体-副腎皮質系、交感神経系の働きが乱れることで炎症免疫反応というものが起こり、フリーラジカルという物質が発生して神経細胞に悪い影響を及ぼす酸化ストレスが起こります。 うつ病の治療により生活習慣の改善や血糖コントロールが改善 うつ病と糖尿病を合併すると、それぞれの病気によって起こる体内の変化がお互いに関わって悪循環が続くことにより、うつ病と糖尿病の悪化につながります(図)。 図:糖尿病とうつ病の悪循環 提供:東京女子医科大学東医療センター精神科部長・臨床教授・大坪天平先生 うつ病が改善することで生活習慣やライフスタイルが良いほうに向かい、食事や運動など生活習慣が改善すると、糖尿病の改善につながることがあります。 大坪先生は、「うつ病が重症になるほど、糖尿病も重症になりやすいとの研究報告や*6、うつ病治療により生活習慣が改善したとの研究報告もあります*7。糖尿病患者を診るうえで、うつ病の有無に注意しましょう。うつ病があった場合、うつ病の治療にも注意することが糖尿病の改善にもつながります」としています。 *1:Diabetes Care 2004;27(9): 2154-60 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15333477 *2:Diabetes Care. 2012;35(5):1171-80 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=Pan+A+et+al%3A+Doabetes+Care+2012 Diabetes Care 2001 ;24(6):1069-78 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=Anderson+RJ+et+al.+Diabetes+Care+2001+%EF%BC%9B24(6)%EF%BC%9A1069-78 Diabetologia. 2010 ;53(12):2480-6 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=Nouwen+A+et+al.+Diabetologia+2010+Dec%3B53(12)%3A2480-6 Diabetes Care 2008 ;31(12):2383-90 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=Mezuk+B%2C+et+al.Diabetes+Care+2008+%EF%BC%9B31(12)%3A2383-90 *3:Am J Psychiatry. 1988;145(3):325-30 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=Andrew+Winokur+et+al.+Am.+J.+Psychiatry+145%2C+No.3%2C+325-330%2C+1988 *4:本郷道夫,内海厚,糖尿病 2000;43 (1): 17-19 Metabolism 2000;49(10):1255-60 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=okamura+F%2C+et+al.Metabolism+2000%EF%BC%9B49%EF%BC%8810%EF%BC%89%EF%BC%9A1255-60 *5:Arch Gen Psychiatry. 2006;63(5):521-9. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=Lustman%2C+P.+J.+et+al.+%EF%BC%9AArch+Gen+Psychiatry+63%EF%BC%885%EF%BC%89%EF%BC%9A521%2C+2006 *6:J Gen Intern Med. 2005;20(5):460-6. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=Gross%2C+R.+et+al.+%3A+J+Gen+Intern+Med+20(5)+%3A+460%2C+2005 *7:Psychopharmacol Bull. 1997;33(2):1261-4 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=Goodnick%2C+P.+J.+et+al.+%3A+Psychopharmacol+Bull+33%EF%BC%882%EF%BC%89+%3A+261%2C+1997 ■関連記事 心と脳の病気、糖尿病は関わりが深く合併しやすい 糖尿病とうつ病はお互いに影響しあう病気です うつ病+糖尿病の人は食生活に注意! 女性は糖尿病とうつ病の合併率が高い? うつ病チェックで糖尿病悪化を防ぐ 公開日:2019/01/04 監修:東京女子医科大学東医療センター精神科部長・臨床教授・大坪天平先生
うつ病が悪化するほど糖尿病にも悪影響をもたらすため、うつ病を予防することが大切です。また、心身の不調があるときに、うつ病かもしれないと考えてチェックすることが早めの対処に繋がります。東京女子医科大学の石澤香野先生に、うつ病チェックについて海外の研究報告を踏まえて解説してもらいました(2018年6月の第39回荒川糖尿病セミナーの講演内容をもとに本記事を作成しました)。 目次 体調の変化がうつ病のサインかもしれない うつ病のリスクをPHQ-9でチェックしよう うつ状態を把握して、うつ病と糖尿病の適切な診断・治療を受けよう PHQ-9が10点以上のときは心身の負担を早めに見直そう 糖尿病のストレスを抱え込まないで:石澤先生から患者さんへのメッセージ 体調の変化がうつ病のサインかもしれない 海外では、一般の診療(プライマリ・ケア)の場において、うつ病を合併する患者さんの半数でうつ病が見逃されていることが報告されています*1。 病院での診察は慌ただしくなりがちですが、医師も患者さんも、うつ病のことを知り、早めにうつ症状に気が付くことが大切です。 うつ病では、抑うつ気分や、興味・喜びの喪失といった精神的な症状のほか、食欲が落ちて体重が減ったり、逆に食べ過ぎたりといった食行動の変化や、不眠や過眠といった生活リズムの乱れが目立つこともあります。 また、「疲れがとれない」「頭痛がひどい」「おなかの調子が悪い」といった身体の症状がなかなか良くならず、身体の症状を調べている過程で、うつ病が発見されることもあります。 うつ病のリスクをPHQ-9でチェックしよう うつ病に気づくためには、まず簡便な方法でうつ病のスクリーニングをすることが勧められます。自分で記入するうつ病の自己記入式質問紙には、さまざまなものがありますが、「うつ病+糖尿病の人は食生活に注意!」「女性は糖尿病とうつ病の合併率が高い?」にもあったPatient Health Questionnaire-9(PHQ-9)*2は、日本語版の妥当性が評価されており、概ね1分以内で回答が可能であることから、一般の診療(プライマリ・ケア)でも使用しやすい質問紙だと思われます。 PHQ-9では、表1にあるように、過去2週間に9つのうつ症状が、どれくらいの頻度で持続したのかが問われます。 回答する人は、「全くない」「数日」「半分以上」「ほとんど毎日」から選んで回答します。「全くない」「数日」「半分以上」「ほとんど毎日」を、それぞれ0から3点にスコア化して、各項目の得点(0~3点)と総合得点(0~27点)を算出します。 総合得点で、0~4点はうつがない状態、5~9点は軽度のうつ状態、10点以上は中等度以上のうつ状態と判定されます。 表1:Patient Health Questionnaire-9 (PHQ-9)スコア この2週間、次のような問題にどのくらい頻繁に悩まされていますか? まったくない 数日 半分以上 ほとんど毎日 1 物事に対してほとんど興味がない、または楽しめない 0 1 2 3 2 気分が落ち込む、憂うつになる、または絶望的な気持ちになる 0 1 2 3 3 寝付きが悪い、途中で目がさめる、または逆に眠りすぎる 0 1 2 3 4 疲れた感じがする、または気力がない 0 1 2 3 5 あまり食欲がない、または食べすぎる 0 1 2 3 6 自分はダメな人間だ、人生の敗北者だと気に病む、自分自身あるいは家族に申し訳がないと感じる 0 1 2 3 7 新聞を読む、またはテレビを見ることなどに集中することが難しい 0 1 2 3 8 他人が気づくぐらいに動きや話し方が遅くなる、あるいはこれと反対に、ぞわぞわしたり、落ち着かず、普段よりも動き回ることがある 0 1 2 3 9 死んだ方がましだ、あるいは自分を何らかの方法で傷つけようと思ったことがある 0 1 2 3 総合得点 0~4点:うつがない状態5~9点:軽度のうつ状態10点以上:中等度以上のうつ状態 *2より引用改変 うつ状態を把握して、うつ病と糖尿病の適切な診断・治療を受けよう うつ病と糖尿病はお互いに関わりやすく、どちらの病気もライフサイクルに影響を与えます。日々の生活やセルフケアにストレスを感じやすくなるため、糖尿病の病態が悪化したり、うつ病が長引いたり、うつ病を繰り返しやすくなったりする危険があります。 PHQ-9などの簡便なスクリーニングによりうつの状態を把握して、うつ病ならびに糖尿病に対する適切な診断・治療を受けることで、こうした悪化を防ぎやすくなります。糖尿病がある患者さんでは、PHQ-9で自己チェックしたうえで医師に相談することも有用といえます。 PHQ-9が10点以上のときは心身の負担を早めに見直そう 海外の研究やDIACET研究など、いくつかの研究の結果は、PHQ-9が10点以上の中等度以上のうつ症状が、糖尿病に影響を与えるカットオフポイントであることを示唆しています。 PHQ-9の総合得点10点以上では大うつ病の可能性もあるので(感度・特異度 各々88%)、主治医や看護師といった身近な医療スタッフが相談にのったり、精神科や心療内科などの専門家の診断を受けたりすることが大切です。 糖尿病の治療法やライフスタイルの見直しをすすめたり、精神科や心療内科などの専門家の診察を受けてメンタルヘルスを整えたりすることで、糖尿病の悪化を防ぐことができる可能性があります。 海外では、うつ病を合併した糖尿病患者さんに対する「協同ケア」と呼ばれる精神科的介入が試みられています。 うつ症状をマネージメントするケアマネージャーと呼ばれる看護師さんが中心となって多種職で協同して、患者さんの心理的、精神科的支援を行うもので、うつ症状のみならず、血糖コントロールが良くなることや、血圧やコレステロール値が改善して心血管疾患のリスクが低減したことが報告されています*3。 石澤先生は「うつ病と糖尿病を同時に取り組み、うつ病と糖尿病の悪化を防ごうとする試みが、始まっています」としています。 糖尿病のストレスを抱え込まないで:石澤先生から患者さんへのメッセージ 糖尿病のみならず、うつ病に対しても食生活をきちんとして、十分な睡眠時間を確保し、日光を浴びながら体を動かすことが、病気の予防に役立つことがわかっています。また最近は、「認知行動療法」という手法も注目されています。ストレスを受けるとつい悲観的に考えがちですが、ストレスの受け取り方や考え方を柔軟にすることで、つらい感覚が和らぎ、上手にストレスに対応できるようになります。 糖尿病に伴うストレスに対して負担を感じているとき、糖尿病に関する心配事や不安があるときには、糖尿病の正しい知識と 対処法を確認するためにも、まずは身近な医療スタッフに自分の気持ちを伝えて相談してください。そこから、支援の糸口が見つかることも少なくありません。そのうえで、つらい気持ちが続くような場合は、心療内科や精神科などの専門外来で相談し、うつ病の有無の診断や薬物治療を検討することも必要です。ストレスやつらい気持ちを抱え込まず、糖尿病やうつ病の治療につなげていただければと思います。 *1:Li C, et al.: Prevalence and correlates of undiagnosed depression among U.S. adults with diabetes: the Behavioral Risk Factor Surveillance System, 2006. Diabetes Res Clin Pract 2009;83(2):268-79. *2:Kroenke K, et al. J Gen Intern Med 2001;16:606-613, *3:Katon WJ, et al. N Engl J Med 2010; 363:2611-2620. 公開日:2018/12/03 監修:東京女子医科大学糖尿病センター 石澤香野先生
日本の糖尿病とうつ病を合併した患者さんの実態はどうなのでしょうか。日本人の糖尿病患者さんとうつ病との合併の実態を探る研究として、DIACET研究があります。東京女子医科大学の石澤香野先生に概説してもらいました。 目次 糖尿病とうつ病との合併の実態を調査 糖尿病患者さんの約3割がうつ病を合併、女性で多い傾向 うつが重症になるほど、糖尿病合併症や入院頻度が多くなる 糖尿病とうつ病との合併の実態を調査 糖尿病とうつ病を合併した患者さんでは、うつ病がセルフケア行動の減少や血糖コントロール悪化といったよくない影響を及ぼし、合併症の発症リスクを高めることなどが海外の研究報告から指摘されています。 そこで、日本ではどうなのでしょうか。糖尿病とうつ病との合併の実態を調査している研究として、DIACET※という現在進行中の前向き研究があります。東京女子医科大学 糖尿病センターの石澤香野先生に概説してもらいました(2018年6月の第39回荒川糖尿病セミナーの講演内容をもとに本記事を作成しました)。 ※DIACET:The Diabetes Study from the Center of Tokyo Women’s Medical University DIACETは、東京女子医科大学糖尿病センターで、2012年10月に8,000人を超える外来または入院患者さんを対象に、糖尿病診療の実態を探るために開始された研究です。 DIACETでは、糖尿病の治療法や治療状況、合併症やそれに伴う自覚症状として1)網膜症、2)神経障害に伴うしびれ・痛み、自律神経障害に伴う起立性低血圧、発汗障害、消化器症状、泌尿器症状、性機能障害、失禁、3)透析療法あるいは腎移植の有無、4)大血管障害(心疾患、脳卒中、足壊疽)による受診頻度、さらに5)過去1年間の入院頻度などを調査しています。 加えて、Patient Health Questionnaire(PHQ-9)という、うつ状態を評価する自己記入式の調査を行っています。 糖尿病患者さんの約3割がうつ病を合併、女性で多い傾向 2012年の初回調査からは、日本人の糖尿病患者さんの約3割がうつ症状を合併しており、欧米と同じくらいの高いうつ合併率であることが分かりました。 特に、若い患者さんや女性患者さんでうつが多く、うつ症状が重いことも明らかになりました(図1)*1、*2。なお1型糖尿病と2型糖尿病の病型間では、年齢や性別で補正すると、うつの状態の多さには差は認められませんでした。 図1:日本人におけるうつ病と糖尿病の合併率(DIACET研究) うつが重症になるほど、糖尿病合併症や入院頻度が多くなる 糖尿病の合併症とうつ症状(うつの重症度)との関連は、これまで国内外で包括的に調べられていませんでした。 そこでDIACETでは、糖尿病合併症やそれに伴うさまざまな自覚症状とうつ状態の重症度を調べて解析を行いました。 具体的には、PHQ-9の回答をスコア化し、総合得点0~4点のうつがない患者さん、5~9点の軽度のうつ状態を認める患者さん、および10点以上の中等度以上のうつ状態を認める患者さんの3段階に分類し、糖尿病性の合併症に関連した症状との関連を検討しました。 その結果、1型糖尿病患者さん、2型糖尿病患者さんともに、うつが重症であるほど、網膜症、神経障害、自律神経障害、透析に至る末期腎不全といった細小血管障害の合併が、統計学的に有意に多くなることがわかりました*2。 さらに、2型糖尿病患者さんでは、うつの重症度と糖尿病腎症病期の進展が関連しており(図2)*3、うつの重症度が増すにつれて、大血管障害による通院頻度、そして過去1年間の入院の頻度も、有意に上昇することが分かりました(図3)*2。 図2:うつの重症度と糖尿病腎症の病期との関連 図3:うつの重症度と大血管障害、細小血管障害、入院頻度との関連 DIACET研究は一施設の研究ですが、日本人糖尿病患者さんのうつ病が欧米と同じくらい多い可能性があること、そして、うつの重症度が上がるにつれて、糖尿病合併症が増えたり、入院したりするリスクが上昇することを示しています。 では、どのように糖尿病とうつ病の合併に早く気付き、健康管理に取り組んでいけばよいのでしょうか。次回に続きます。 *1:Ishizawa K, et al. Journal of Diabetes and Its Complication 2016;30:597-602. *2:石澤香野,他.東京女子医科大学雑誌2017;87: E198-E206. *3:Takasaki K, et al. BMJ open Diebates research and care 2016;4:e000310. ■関連記事 うつ病と糖尿病は合併しやすい 心と脳の病気、糖尿病は関わりが深く合併しやすい 糖尿病とうつ病はお互いに影響しあう病気です うつ病+糖尿病の人は食生活に注意! うつ病チェックで糖尿病悪化を防ぐ 公開日:2018/11/30 監修:東京女子医科大学糖尿病センター 石澤香野先生
うつ病と糖尿病はお互いに関わりやすく、日常生活や病態によくない影響を及ぼすことが明らかになってきています。東京女子医科大学の石澤香野先生に、うつ病が糖尿病治療や合併症に及ぼす影響を検証した海外の研究報告について、解説してもらいました。 目次 糖尿病とうつ病を合併すると、健康障害リスクが上昇しやすい うつ病があると健康的な食事や野菜が少なくなり、体を動かさなくなりがち うつ病と糖尿病を合併すると糖尿病合併症を発症しやすい 糖尿病とうつ病を合併すると、健康障害リスクが上昇しやすい うつ病と糖尿病はお互いに関わりやすく、患者さんの日常生活にも良くない影響を及ぼします。 うつ病を合併した状態では、患者さんの大切な糖尿病治療である、日々のセルフケア(食事療法、運動療法、自己注射や血糖測定)にもストレスを感じやすくなり、結果として糖尿病の病態が悪化したり、うつ病を繰り返しやすくなったりする危険があります。 東京女子医科大学 糖尿病センターの石澤香野先生に、海外の研究報告から糖尿病とうつ病との関わりについて解説してもらいました(2018年6月の第39回荒川糖尿病セミナーの講演内容をもとに作成しました)。 うつ病があると健康的な食事や野菜が少なくなり、体を動かさなくなりがち うつ病がある糖尿病患者さんでは、日常生活のセルフケアが困難になりがちになります。 米国のthe Pathway Epidemiologic cohortという調査結果では、うつ状態を判定するPHQ-9(Patient Health Questionnaire-9)という質問紙でうつ病に該当した糖尿病患者さんは、うつ病がない患者さんに比べて健康的な食事や野菜をとる回数が少なく、脂っこいものや喫煙が多く、体を動かさないことが明らかになりました(図1)*1。 図1:糖尿病患者さんにおけるうつ病の有無による食生活 うつ病と糖尿病を合併すると糖尿病合併症を発症しやすい 同じthe Pathway Epidemiologic cohortの前向き調査では、うつ病と糖尿病を合併した患者さんは、うつ病を持たない糖尿病患者さんに比べて、細小血管障害(末期腎不全や増殖網膜症など)を発症する危険が1.36倍高まっていました。 また、大血管障害である心血管障害、脳卒中(脳梗塞など)、心不全などの発症リスクも1.25倍に上昇することが明らかになりました(図2)*2。 図2:糖尿病患者さんにおけるうつ病の有無による細小血管障害・大血管障害リスク 海外の他の研究では、心血管疾患または心血管リスク因子を有する2型糖尿病患者を対象とした北米のACCORD研究の結果で、臨床背景や治療の強度を調整しても、うつ病がない糖尿病患者さんに対して、PHQ-9という質問紙で総得点10点以上のうつ状態がある糖尿病患者さんでは、総死亡リスクが1.84倍高いことが示されました(図3)*3。 図3:うつ状態がある糖尿病患者さんでは死亡リスクが高い このように、うつ病がある糖尿病患者さんでは、生活習慣の改善やセルフケアに支障が生じたり、糖尿病の健康障害リスクが高まる可能性があります。 うつ病を合併することで、糖尿病の健康障害リスクが高まる背景には、血糖コントロールの悪化だけではなく、うつ病に伴う副腎皮質ホルモンや交感神経系の乱れ、炎症性サイトカインの増加があるのではないかと、推察されています。 これまで紹介した先行研究は欧米からの報告でした。では、日本人の糖尿病患者さんでは、うつ病と糖尿病の関連はあるのでしょうか。石澤先生らは日本人の糖尿病患者さんにおけるうつ病との関係を検討した研究を実施して報告しています。次回に紹介します。 *1:Lin EH, et al. Diabetes Care 2004;27:2154-2160 *2:Lin EH, et al. Diabetes Care 2010;33:264-269 *3:Sulivan MD et al. Diabetes Care 2012;35:1708-1715 公開日:2018/11/27 監修:東京女子医科大学糖尿病センター 石澤香野先生
最近は、うつ病を合併した糖尿病患者さんでは、糖尿病の病態が悪化しやすいことが問題になっています。うつ病と糖尿病との関わりについて、東京女子医科大学の石澤香野先生に解説してもらいました。 目次 うつ病がある糖尿病患者さんでは糖尿病合併症に注意が必要 糖尿病患者のうつ病発症リスク、うつ病患者の糖尿病発症リスクはともに高い 糖尿病患者さんの約3割がうつ状態を合併している うつ病がある糖尿病患者さんでは糖尿病合併症に注意が必要 糖尿病はインスリンの作用不足(インスリン分泌能の低下、インスリン抵抗性)から高血糖が慢性的に続くことにより、全身の細い血管や太い血管に障害が生じて、網膜症や腎症、神経障害、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞、足壊疽など、さまざまな合併症が起こりえる病気です。 さらに、糖尿病はうつ病と関わりが深く、糖尿病患者さんでは、糖尿病ではない人と比べて約2倍、うつ病が多くなることが知られています。そして、うつ病がある糖尿病患者さんでは、合併症を発症したり、合併症が重症化しやすいといわれています。 東京女子医科大学糖尿病センターの石澤香野先生に、2つの病気のかかわりについて解説してもらいました(2018年6月、第39回荒川糖尿病セミナーの講演内容をもとに本記事を作成しました)。 糖尿病患者のうつ病発症リスク、うつ病患者の糖尿病発症リスクはともに高い 糖尿病にかかると、食事療法や運動療法といったセルフケアに取り組む必要があります。さらに、一旦合併症を発症すると、合併症の多彩な症状や機能障害に悩まされることになります。 これらのQOLや日常生活の機能の低下が、うつ病の原因となると考えられます。 しかも、うつ病を合併すると、さらに糖尿病患者さんのQOLが低下し、セルフケアが困難になることが問題視されています。 糖尿病とうつ病は双方向的に影響することが指摘されていて、糖尿病と診断された患者さんがうつ病を発症するリスク、うつ病になった患者さんが糖尿病を発症するリスクはともに高いので*1、注意しなければなりません。 うつ病患者さんでは 食行動の変化や身体活動の減少などが生じて、ライフスタイルが変わりやすくなります。 体内で視床下部・下垂体・副腎皮質系といったホルモンの分泌が高まったり、交感神経系のはたらきが乱れたり、炎症反応が活発になって炎症性サイトカインという物質が体内で増加することが、糖尿病の発症や悪化の要因になります(図1)。 糖尿病患者さんでは 食事や運動といったライフスタイルの変更、インスリン自己注射や自己血糖測定といった治療によるストレス、さらには糖尿病合併症の症状や機能障害が精神的負担となって、うつ病を発症しやすくなることが指摘されています。 また、脳内のインスリンの働きが悪くなることによって、認知症に関わるアミロイドβの蓄積に繋がっているのではないかといわれています。高齢患者さんの場合は、認知機能障害や認知症にも注意が必要です(図1)。 図1:糖尿病とうつ病は双方向に関わる Muzukらの研究報告では、うつ病患者さんでは糖尿病になるのは健康な人に比べて1.6倍(糖尿病発症リスクは60%程度)、糖尿病患者さんがうつ病になるのは1.15倍(うつ病発症リスクは15%程度)と推察されています。 糖尿病患者さんの約3割がうつ状態を合併している ところで、うつ病を合併している糖尿病患者さんは、どれくらいいるのでしょうか。 海外で、患者さんを対象に自己記入式の調査をした報告では、糖尿病患者さんでうつ症状やうつ状態を含む広い意味でのうつ病の定義が当てはまる患者さんが約25~30%前後、狭義の大うつ病性障害の定義にあてはまる患者さんが9~20%前後とされています。 日本では、東京女子医科大学糖尿病センターの糖尿病診療の実態調査(Diabetes Study from the Center of Tokyo Women’s Medical University,DIACET)の初回調査で、約3割の患者さんが何らかのうつ症状を合併しており、若い患者さんや女性患者さんでうつ合併が多く、うつ症状も重いことも確認されました*2。 過去の研究論文を集めて分析した報告によると、糖尿病患者さんのうつ病合併率は、一般人口に比べて2倍前後と高いことが明らかになっており、うつ病と糖尿病の関連の深さを物語っています*3。 それでは、糖尿病とうつ病の2つの病気を合併した患者さんには、日常生活なども含めてどのような影響があるのでしょうか。次回に続きます。 *1:Mezuk B,et al. Diabetes Care 2008;31: 2383-2390 *2:石澤香野,他.東京女子医科大学雑誌 2017;87: E198-E206 *3:Anderson RJ, et al. Diabetes Care 2001;24: 1069-1078 ■関連記事 心と脳の病気、糖尿病は関わりが深く合併しやすい うつ病と糖尿病は合併しやすい うつ病+糖尿病の人は食生活に注意! 女性は糖尿病とうつ病の合併率が高い? うつ病チェックで糖尿病悪化を防ぐ 公開日:2018/11/21 監修:東京女子医科大学糖尿病センター 石澤香野先生
AIが患者さんの病気を診断できるようになる日も近いといわれています。今回、うつ病診断で、その可能性が示された研究論文が報告されました。診断の鍵は、SNSのFacebookに書き込みされる投稿内容です。NPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン(AASJ)で、代表理事の西川伸一先生が「論文ウォッチ~生命科学の今」のコラム欄で解説しています。 Facebookの書き込投稿から7割の確率でうつ病を予測できる可能性あり 研究は、Facebook(以下、FB)にアクセスできるうつ病患者さんで、2008~2015年のFB書き込内容から十分な単語データがそろっていた114人と、うつ病ではない570人のデータを比較して、FBの書き込み内容から診断に有用となるデータを調べたものです。 結果を見ると、FB投稿の文章パターンや長さ、投稿頻度などは予測に有用ではなかったのですが、FB書き込みの単語の種類などから7割の確率でうつ病発症を予測できる可能性があり、この予測確率はうつ病と診断された時点に近いほど高いとのことでした。 また、落ち込んだ時や孤独、敵意などに関わる単語の使用が多いことが診断の鍵になる可能性があるとのことでした。 西川先生は、今回の研究論文の段階では診断価値はまだわかりませんが、将来はうつ病だけでなくほかの病気も含めてパソコンやスマホの文章をモニタリングすることで、病気の危険性を本人に知らせる、あるいは医師に知らせることができる時代が来るであろうとの話です。 詳細はこちら: 10月19日 フェースブックに書かれた文章からうつ病を診断する(米国アカデミー紀要オンライン掲載論文) ■関連記事 疲れやストレスを感じたら体内時計をリセット!うつ病学会が自己管理のコツを紹介 うつ病に良い栄養は葉酸や鉄分 うつ病は過敏性腸症候群や善玉菌が関係あり うつ病、統合失調症など精神疾患が生活習慣改善により予防できるケースも 公開日:2018/11/02
食事や睡眠、運動などの生活習慣は健康に深く関わっています。しかし、生活習慣が一般的に生活習慣病と呼ばれているようなこれらの病気や症状だけでなく、心の病気にも関わっているケースがあるということはあまり知られていません。 目次 心の病気と生活習慣の関係性 睡眠や運動も精神疾患に影響する 日光を浴びてセロトニンを増やす 生活を改めることで精神疾患を予防する 心の病気と生活習慣の関係性 食事や睡眠、運動などの生活習慣は健康に深く関わっています。とりわけ、その乱れが肥満、メタボリックシンドローム、高血圧、高脂血症、糖尿病などを引き起こすことはよく知られています。しかし、生活習慣が、一般的に生活習慣病と呼ばれているようなこれらの病気や症状だけでなく、心の病気にも関わっているケースがあるということはあまり知られていません。 私たちの精神の中枢は脳です。脳は栄養を必要としますが、その唯一の栄養素となるブドウ糖が欠乏すると意識障害を起こす危険性があります。ブドウ糖は炭水化物(糖質)を消化することで得られるため、炭水化物を抜いた食事を続けると、脳に悪影響を与える可能性があります。 そして、継続的な低コレステロールの状態が抑うつ状態を招きやすくなるとしています。このように、食事と精神疾患には因果関係が認められます。 睡眠や運動も精神疾患に影響する 国立精神・神経医療研究センターの三島和夫部長や元村祐貴研究員らの発表(2013年)によれば、睡眠不足が続くと、抑うつ状態になったり、脳に統合失調症に近い変化が見られたりするとのことです。 改善方法としては、運動をすることで生活リズムにメリハリをもたらし、疲労により質の良い睡眠につなげることが有効です。運動では有酸素運動がおすすめです。有酸素運動のなかでも、ウォーキングや軽いランニングのようなある程度の時間を要する運動が効果的で、脳を活性化させるだけでなく、脳内伝達物質のセロトニンのはたらきも改善するでしょう。 実際、運動が抑うつ状態を改善することから、軽度のうつ病においては薬物療法の前に、運動を推奨することもあります。 日光を浴びてセロトニンを増やす 脳のセロトニンのはたらきが悪くなると、自ら何かをしようとする意欲が失われるほか、衝動的な行動が増える可能性があります。 このセロトニンの分泌には日光が欠かせません。運動時など、毎日、日光を浴びる習慣も必要になります。 食事では、特に摂取した方が良いのがバナナや緑黄色野菜、赤身肉、チーズなどに多く含まれているトリプトファンです。トリプトファンはセロトニンの原料となります。 生活を改めることで精神疾患を予防する その他、飲酒や喫煙なども精神状態に影響を与えることが知られています。 飲酒は一時的に緊張を和らげる効果がありますが、中長期的に見ると、過度の飲酒は絶望感や孤独感を強めることに繋がります。そのため、うつ病の人が飲酒を続けると、うつ病が悪化し、自傷行為に走ることもあるそうです。 また、ワシントン大学医学部の研究によると、禁煙をした人は、喫煙を続けた人に比べてうつ病、統合失調症、パニック障害、気分障害などの精神疾患の罹病率が低いことが判明しました。飲酒・喫煙などの生活習慣は、続けていると精神疾患に少なからず影響を与えるようです。 つまり精神疾患の一部のケースにおいては、生活習慣を改めることにより、予防したり、改善したりすることが可能であるということです。例えば、食生活においては無理なダイエットを行わないなど、栄養が偏らない食事、日常的な運動、質の良い睡眠を心がけることが必要になります。 生活習慣を整えることは、生活習慣病の予防になるのはもちろん、一部の精神疾患の発症予防にもなることを認識して、今後の生活に役立ててください。 ■関連記事 うつ病をFacebookから診断できる? 西川伸一先生ブログ・論文ウォッチから 疲れやストレスを感じたら体内時計をリセット!うつ病学会が自己管理のコツを紹介 うつ病に良い栄養は葉酸や鉄分 うつ病は過敏性腸症候群や善玉菌が関係あり 公開日:2019年9月20日
うつ病は性別を問わずかかる病気ですが、世界的に女性のほうが男性より2倍かかりやすく、女性は5人に1人が一生のうちで一度はうつ病になると言われています。女性が男性よりうつ病にかかりやすいのは、なぜでしょうか。 目次 うつ病のかかりやすさの違いを生むのは、女性ホルモンの変動とストレス 働く女性にとって大きなストレスとなる、いまだに男性社会の職場 妊娠・出産とともに、不妊がうつ病発症のきっかけになることも 更年期は女性ホルモンの減少にくわえて、生活スタイルの変化が起きる時期 女性はうつ病にかかりやすいことを意識して、無理せず十分な休養を うつ病のかかりやすさの違いを生むのは、女性ホルモンの変動とストレス うつ病は性別を問わずかかる病気ですが、世界的に女性のほうが男性より2倍かかりやすく、女性は5人に1人が一生のうちで一度はうつ病になると言われています。厚生労働省の患者調査(2014年)によると、うつ病を含む気分障害の国内の患者約110万人のうち、男性が約40万人なのに対して女性は約70万人。女性のほうが医療機関で受診する機会が多く、またうつ病と症状が重なる不定愁訴が多くみられるためうつ病が発見されやすいという一面は、たしかにあります。しかしそれを考慮に入れても、男女で差があるのは明らかです。 女性が男性よりうつ病にかかりやすいのは、エストロゲン(卵胞ホルモン)やプロゲステロン(黄体ホルモン)などの女性ホルモンの影響によるものです。精神の安定に関わる女性ホルモンが月経周期などにより変動すると、気分が不安定になりやすく、うつ病のリスクが高まります。 うつ病の発症には環境や性格、体質などさまざまな要素が関係していますが、最大の原因と考えられるのはストレスです。ストレスを日々感じていることに性別の違いはありませんが、女性には男性が感じることのない女性特有のストレスがあります。さらに、女性ホルモンの変動は、ストレスに対する抵抗力の低下をもたらすことも、うつ病のかかりやすさに性差が生じる原因だと考えられます。 働く女性にとって大きなストレスとなる、いまだに男性社会の職場 誰にとっても、仕事は少なからずストレスを感じるものです。しかし、いまだに男性社会の風潮が色濃く残る多くの職場で、女性が感じるストレスは男性と比べて計り知れないでしょう。女性というだけで不当な評価を受けたり、セクハラやパワハラの被害にあったりしてうつ病を発症して、会社に行けなくなったという報告は後をたちません。 反対に、仕事で高く評価されてうつ病になることもあります。重要な仕事を任されて頑張りすぎる場合や、頼りにされて毎日忙しく、結婚・出産を望んでいても思うようにならない場合などは、精神的に追い込まれてしまうのです。 妊娠・出産とともに、不妊がうつ病発症のきっかけになることも 女性ホルモンが変動しやすく、かつストレスを感じやすい周産期(妊娠中・産後)は、うつ病の危険性が高まる時期です。産後から数日の間に、気が滅入って悲しい気分になる「マタニティー・ブルー」になることはありますが、通常は1週間ほどで元気を取り戻します。しかし、時間が経っても改善しない場合は「産後うつ病」の可能性があります。 晩婚化の傾向にある現代では、妊娠を望んでも子どもを授かれない不安や焦り、自分を責める気持ち、周囲からのプレッシャーなどで、うつ病発症のひきがねとなることがあります。不妊治療を行っている人であれば、生理予定日が近づくにつれて高まった期待感と、うまくいかなかったときの失望感との落差は大きなストレスです。「不妊治療を始めればすぐに妊娠できる」と思っていた人にとっては、理想と現実とのギャップも大きいでしょう。また、不妊治療では通院の手間や身体的な負担、経済的な負担なども、心に重くのしかかります。 更年期は女性ホルモンの減少にくわえて、生活スタイルの変化が起きる時期 女性ホルモンが変動し、うつ病のリスクが高まる時期として、更年期が挙げられます。女性ホルモンの分泌量が減少することで、不安やイライラが生じる更年期障害が起きることはよく知られています。そのため、精神状態の異変に気づいても、よく聞く更年期障害の症状だと思い込んでいたら、実際には「更年期うつ病」が隠れていたということもあるのです。 この時期は、子供の独立や親の介護などで、生活のリズムが大きく変わる時期でもあります。子供が進学や就職、結婚などで親元を離れて巣立っていくと、母親としての役目が終わったように感じられる喪失感に襲われる「空の巣症候群」になることがあります。また、親の介護に心身ともに疲れ切ってしまうことがあります。これらは、うつ病を発症するきっかけとして、十分すぎるほど大きなストレスだと言えるでしょう。 女性はうつ病にかかりやすいことを意識して、無理せず十分な休養を 女性がうつ病になるのを防ぐには、「女性は男性の2倍うつ病にかかりやすい」ということを、普段から意識しておくことが大切です。これを頭に入れておけば、仕事などで無理をしそうになったときにブレーキをかけられるようになり、また心の異変を感じたときにしっかりと休めるようになるでしょう。なかなか改善しないときは、「精神科」「心療内科」「メンタルクリニック」などを掲げている医療機関で相談してみましょう。 ■関連記事 うつ病をFacebookから診断できる? 西川伸一先生ブログ・論文ウォッチから 疲れやストレスを感じたら体内時計をリセット!うつ病学会が自己管理のコツを紹介 うつ病に良い栄養は葉酸や鉄分 うつ病は過敏性腸症候群や善玉菌が関係あり うつ病、統合失調症など精神疾患が生活習慣改善により予防できるケースも 公開日:2016/07/04
2015年12月から実施が義務化される企業におけるストレスチェックについて詳しく解説します。うつ病などの発見ではなくストレスを自覚し職場の改善につなげる、というストレスチェックの目的をしっかり理解しましょう。 目次 2015年12月から、ストレスチェックの実施が企業の義務に 目的はうつ病などの発見ではなく、ストレスを自覚してもらい、職場の改善につなげること 企業側に求められるのは、できるだけ多くの人が受けられるようにする制度づくり 2015年12月から、ストレスチェックの実施が企業の義務に 仕事にストレスはつきものですが、度を越すと心身の健康が損なわれてしまいます。企業に勤める人々が過度のストレスにより、メンタルヘルスの不調を訴えることは、長らく問題視されてきました。厚生労働省はストレスチェックの実施をたびたび奨励しましたが、導入したのはごく一部の企業だけです。対策が講じられないまま、職場のストレスによる精神障害(うつ病の発症など)の労働災害(労災)の請求数のみならず、自殺者数も年々増加の一途をたどりました。この危機的な状況を受けて、ストレスチェックとその結果に応じた面接指導の義務化が、2014年6月に公布された労働安全衛生法の改正に盛り込まれ、2015年12月から実施されることとなりました。 精神障害に係る労災請求・決定件数の推移 ストレスチェックは健康診断と同じように、少なくとも年に1回行われます。ストレスチェックの企画や結果の評価を行う実施者になれるのは、企業内または企業が健康診断と同様に委託した外部機関(健康診断機関、メンタルヘルスサービス機関、健康保険組合、病院・診療所など)の、(1)医師(産業医)、(2)保健師、(3)一定の研修を終えた看護師や精神保健福祉士などです。調査票の回収やデータの入力などの補助作業は、実施者の指示の下で、産業保健スタッフや事務職員などが行います。実施者から面接指導が必要と判断された従業員には、医師による面接指導が行われます。 「ストレスチェックの義務化」とは、ストレスチェックを行う体制を整える、企業側の義務を指します。従業員にとって、ストレスチェックを受けることは義務ではありません。これは、うつ病患者などはストレスチェックを受けること自体が精神的な負担となる恐れがあり、希望しない人が強制的に受けさせられることがないようにするための配慮だと考えられます。ストレスチェックが義務づけられるのは従業員50人以上の企業で、これは産業医の選任が義務づけられているのと同じ規模です。50人未満の企業は、できるだけ実施することが求められる努力義務として定められます。人数の基準は事業所ごとのものなので、企業の全従業員が50人以上であっても、支店や店舗などの人数が50未満であれば、その事業所では義務ではなく努力義務となります。なお、企業が実施するストレスチェックの対象となるのは常勤の社員であり、派遣社員の場合は派遣元で実施されます。 目的はうつ病などの発見ではなく、ストレスを自覚してもらい、職場の改善につなげること うつ病などの精神疾患を発見することは、ストレスチェックと面接指導の主な目的とはされていません。主な目的とされているのは、本人にストレスを自覚してもらうのとともに、従業員のストレスの程度を企業が把握し、職場環境の改善へとつなげ、メンタルヘルスの不調を予防することです。 ストレスチェックの実施に関わった人には守秘義務があり、結果を本人の同意なしに企業に伝えてはならないことになっています。実施を外部機関に委託し、産業医がストレスチェックに関与していないのであれば、本人の同意なく、外部機関から産業医にストレスチェックの結果が伝えられることはありません。ストレスチェックの結果によって、従業員が解雇、減給、降格、不利な配置転換などの不利益をこうむることは避けなければなりません。そのため、人事に関する権限をもつ人(社長、人事部長など)が、ストレスチェックの実施者を補助する作業(調査票の回収、データの入力など)に関わることは禁じられています。 医師による面接指導を行う場合はストレスチェックとは異なり、本人の同意がなくとも、企業は実施した医師から結果を知らされることになっています。これは、企業は必要に応じて、従業員の健康を維持する必要があるためです。 企業側に求められるのは、できるだけ多くの人が受けられるようにする制度づくり ストレスチェックは、質問項目が書かれた用紙やWebシステムなどを用いて回答する、チェックシート形式で行われます。質問項目は、実施する医師や保健師などのアドバイスを受けたそれぞれの企業が決めますが、以下(1)~(3)の内容は必ず含まれていなければなりません。 ストレスチェック質問項目の必須内容 (1)仕事のストレス要因 職場における労働者の心理的な負担の原因に関する項目 ・非常にたくさんの仕事をしなければならないか ・時間内に仕事が処理しきれないか …など (2)心身のストレス反応 心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目 ・イライラしているか ・ひどく疲れているか …など (3)周囲のサポート 職場でともに働く従業員から受ける支援に関する項目 ・上司に気軽に話ができるか ・職場の同僚が頼りになるか …など ※ストレスチェックの結果から面接指導が必要とされるのは、以下の基準を満たす人です。 ●上記(2)に該当する質問項目の合計点数が高い人 ●上記(2)に該当する質問項目の合計点数が一定の点数で、かつ上記(1)(3)に該当する質問項目の合計点数が著しく高い人 具体的な質問項目は、厚生労働省の委託研究によって開発された「職業性ストレス簡易調査票」の使用が推奨されています。「職業性ストレス簡易調査票」は上記の3つの内容を含む、57個の質問項目から構成されるチェックシートです。質問項目数を23個に絞った簡略版もあり、これらの回答結果を点数化して、ストレスの度合いを評価します。厚生労働省の「ストレスチェック制度実施マニュアル」では、「職業性ストレス簡易調査票」を受けた20万人のデータに基づいて作成された、素点換算表が公表されています。 この表とストレスチェックの結果を照らし合わせることで、ストレスの度合いが確認できますが、あくまでも目安の一つであり、基準は企業ごとに定められます。企業内で統一する必要もなく、事業所や職種によって異なる基準が定められる場合もあります。企業によっては、医師や保健師などの面接結果も踏まえて評価が行われる可能性もあります。評価の結果を従業員に伝える際は、点数化された数値だけでなく、レーダーチャートなどで図表化することが望ましいとされています。 従業員がストレスチェック後に面接指導を希望しても、50人未満の企業は産業医の選任が義務づけられていないため、面接指導をスムーズに受けられない可能性があります。そのため、全国の各都道府県に1ヵ所ずつ設置されている産業保健総合支援センターなどと連携して、ストレスチェック後の面接指導が受けられるような制度の整備が予定されています。 従業員にとっては義務ではないため、ストレスチェックを受けなくとも法律違反にはなりませんが、できるだけ受けるのが望ましいことは言うまでもありません。企業側には、できるだけ多くの従業員が受けられるような制度を整えることが求められます。 公開日:2015/05/18
パニック障害の症状として「このまま死んでしまうかもしれない…」などと、原因も分からないまま強い恐怖に襲わます。抗うつ薬などで不安を抑え、行動療法などで完治させることが可能とされています。 目次 ある日、原因不明の激しい発作が どこも悪くないことが、さらなる不安を呼ぶ いまや薬で治療が可能な病気 ある日、原因不明の激しい発作が 「パニック」という言葉自体は、ふだんよく使うものです。仕事でアポイントをとっているのに電車が止まって遅刻しそうになったり、高所恐怖症の人が高いところに上らされたりすると大変なパニック状態に陥ることでしょう。 このような、私たちが日常経験する「パニック状態」と「パニック障害」とはまた異なるものです。「パニック状態」の場合はそうした状況に陥る原因がはっきりとしていますが、パニック障害の場合ではそれがありません。 ある日電車に乗っていて突然気分が悪くなり、「このまま死んでしまうかもしれない…」などと、原因も分からないまま強い恐怖に襲われるのです。 そして「また発作が起きたらどうしよう…」そんな不安から日常生活の行動が制限されてしまい、患者さんは非常にツラい毎日を送らざるを得なくなります。 どこも悪くないことが、さらなる不安を呼ぶ 症状としては下記のようなものが主です。 パニック障害に特徴的な発作の症状 ●胸がドキドキする ●冷や汗をかく ●体や手足の震え ●呼吸が速くなる、息苦しい、息が詰まる ●胸の痛みや不快感 ●吐き気、腹部の嫌な感じ ●めまい、ふらつき ●非現実感、自分が自分でない感じ ●狂ってしまうのではという恐怖、死への恐怖 激しい発作から死への恐怖まで感じ、重大な病気が隠されているのではと医療機関を受診するものの、どこも悪いところは見つかりません。それでもいつ再発するかわからない発作に患者は「つぎは人前で倒れたり、吐いたり、失禁したりするのでは…」とさらなる不安に襲われ、外出もままならなくなってしまいます。 いまや薬で治療が可能な病気 日本では、パニック障害は、かつては「心臓神経症」や「不安神経症」として取り扱われ、適切な治療が行われてきませんでした。しかしアメリカでは100人に3人の割合で発症しており、日本でもほぼ同率の患者がいるのではないかと考えられています。 また、パニック障害の原因としては最近、脳内の神経伝達物質である「セロトニン」「ノルアドレナリン」のバランスが乱れることにより、脳から体への指令や情報伝達がうまくいかず、発作が発症するのではと考えられています。そのため内科で心臓や呼吸器の検査をしても、異常が見つからないというわけです。 現在では、抗うつ薬などで不安を抑え、行動療法(苦手な場所などに慣れさせることで、不安や恐怖を感じなくさせる方法)などで完治させることが可能とされています。パニック障害が疑われたら、本人だけでなく家族など周囲の人も早く察知する必要があるでしょう。 公開日:2008/10/06
子供もうつ病になることがあります。なかには、不登校、AD/HD(注意欠陥/多動性障害)、摂食障害などの陰に隠れていることもあるのです。今回は、子供のうつについて考えてみましょう。 目次 子供のうつ病が増加中!? 子供のうつの症状 うつかどうかをどう見分ける? 周囲の大人はどうすればよい? 子供のうつ病が増加中!? テレビや新聞、雑誌などでここ数年、うつ病がひんぱんに取り上げられるようになりました。 そのおかげで、うつが誰でもかかり得る病気だと知られるようになりました。しかし、子供でもうつ病になる、と知って驚く人は多いのではないでしょうか。北海道大学の傳田健三先生による約2万人の小中学生に対する調査では、2.6%(小学生1.6%、中学生4.6%)がうつ病と推定されています。病院によっては、明らかに児童精神科に通う子供が増加し続けているところもあります。うつが不登校、AD/HD(注意欠陥/多動性障害)、摂食障害などの陰に隠れていることもあります。今回は、この「子供のうつ」について考えてみましょう。 子供のうつの症状 では、どんな症状をうつと判断するのでしょうか。 80年代以降、精神疾患の治療効果や統計的処理のため、アメリカで作られた行動を基準とするDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)という診断の評価方法が用いられるようになりました。DSMによると、抑うつ気分や興味または喜びを感じにくくなったり、イライラ、焦り、集中力の低下、自分を無価値だと思う、自殺を考えるなどの精神的な症状で現れることが多いのですが、不眠や睡眠過多、疲労感などの身体症状が加わることもあります。 子供の場合も基本的には同じです。しかし、心身共に発達過程にある子供は、落ち込んだ気分を大人のように言葉で表現できないことが多く、行動や身体症状として現れることが多いようです。不安や行為障害、多動、学習障害などと関連して起こることもあります。 【身体症状】 ●体重減少 (または成長に伴い増えるはずの体重が増加しない) ●食欲不振 ●吐き気 ●頭痛 ●腹痛 ●めまい など 【行動の現れ方】 ●イライラ ●注意力低下、集中困難 ●寡黙 ●不登校、引きこもり ●成績が落ちる うつかどうかをどう見分ける? イライラしたり、注意力が低下したり、誰でもそんなときはあります。でも、普段より過度に出ているなら、その背後にうつが隠れていることも。基本的には症状が2週間以上続いているなら、うつの可能性があります。身体症状を訴える場合、まずは小児科などを受診し、その結果、身体的には異常が発見されなければ児童精神科へ。その結果、うつと診断される場合があります。素人判断は控えるようにしましょう。 まれに脳腫瘍などの神経疾患が隠れている場合もあるので、知能検査、頭部のCT、MRIなどさまざまな検査が必要になります。うつと分かった場合は、症状が治まるまで少なくとも数ヵ月から1年はかかります。1年以内の再発率も40%とかなり高いので、長期的にじっくり取り組むつもりで構えよう。再び学校に通えるようになる、落ちた成績が上がるといった目に見える成果を焦らないことが大切です。 周囲の大人はどうすればよい? うつの難しいところは、病気の研究自体がまだ発展途上という点です。昔と比べて研究が進んだことにより、理解が進んだともいえるし、周囲が病気というレッテルを貼っている場合もあります。「普通」かどうかを決めるのに絶対的な基準はないからです。基本的には、本人を温かく見守り、様子がおかしいと思えば専門家に相談するのがよいでしょう。 うつの原因はよくわかっていませんが、本人の体質や長期にわたるストレスが引き金になるといわれています。家庭の環境に問題がある場合はうつも長期化する傾向がありますが、家庭そのものが原因かどうかはわかりません。気をつけたいのは、親が「自分の育て方が悪い」と過度に反省をしたり、周囲が家族を責めることです。 うつの治療は、最近では薬物療法が主ですが、子供に関しては議論が分かれています。 子供本人が病院に行けず家族が相談に行くケースも多いが、それも状況を改善する有効な手段のひとつです。家族が医師に相談することで突破口が開け、環境が改善されて子供の症状がよくなる場合も多いからです。親が元気になることで、子供にかかっているストレスが軽くなり病気が改善されたり、実は親の取り越し苦労だと明らかになる場合もあります。 子供のうつも大人と同じく十分な休養が必要です。周囲は「がんばれ」など励ますのではなく、焦らずゆっくり治すことを考えましょう。 相談先としては、児童精神科以外にも、保健所での児童発育相談や精神相談の窓口、かかりつけの小児科医などが考えられます。大切なのは家族だけで悩まず信頼できる誰かに相談することです。 取材協力:九州大学大学院医学研究院 医療ネットワーク学講座 稲津佳世子先生 ■関連記事 増え続ける不登校、うつ病も増加? 子供が「うつ病」になったら…大人はどうする? 疲れやストレスを感じたら体内時計をリセット!うつ病学会が自己管理のコツを紹介 うつ病に良い栄養は葉酸や鉄分 うつ病は過敏性腸症候群や善玉菌が関係あり うつ病、統合失調症など精神疾患が生活習慣改善により予防できるケースも 公開日:2005年9月5日
うつ病の認知度が高まっているなか、それとは異なる「冬季うつ」という病気をご存知ですか。気が滅入る、甘いものが食べたくなる、睡眠時間が長くなるなど、冬眠病とも言われる冬季うつを紹介します。 目次 季節によってうつになる人がいる チェック:冬だけこんな症状が出たら要注意! 「うつ病」と違うところは? 冬季うつを治療するには? 季節によってうつになる人がいる うつ病が、誰でもなりうる病気と認知されるようになっているのと同時に、この病気の特徴も知られるようになってきました。しかし、うつ症状があっても通常の「うつ病」とは少し違う「冬季うつ」である場合もあります。 冬季うつとは、季節性感情障害(SAD)と呼ばれる病気のひとつ。精神科医のノーマン・E・ローゼンタール氏らが、季節によって症状が出る時期と出ない時期があるうつ病患者の研究を行い、1982年に「高照度光療法」という画期的療法で成功を収めました。季節性感情障害という病名がつけられたのは1984年で、冬に症状が出るものが「冬季うつ」と呼ばれます。 とくに日が短くなる冬の間、気が滅入ったり食欲が出てきたり、心身の調子に変化が表れる人が増える傾向がありますが、夏は元気なのに冬だけ症状が現れるとしたら、ひょっとすると「冬季うつ」かもしれません。 チェック:冬だけこんな症状が出たら要注意! 冬だけこんな症状が出たら要注意です!自分でチェックしてみましょう。 ●以前ならやれた仕事をうまく処理できない ●考えたり、集中する力が明らかに落ちる ●しょっちゅう悲しく、泣けてきてしまう ●自己否定的になる ●普段より睡眠時間が数時間長くなったり、朝起きられなくなる ●一日中、横になって過ごしたい ●炭水化物に偏る食事をコントロールできない、体重が増える 「うつ病」と違うところは? うつ病 なりやすいタイプ まじめで頼りがいがある、責任感が強い、完璧主義、周囲の人にどう思われているか気にしやすい 原因(きっかけ) 家族やペットの死、親しい人との別れ、失恋、受験の失敗、昇進、転職、転居、結婚、離婚、妊娠・出産、失業、事件・災害の心理的ショックなど 時期 とくになし 症状 心の症状:憂うつになり人生に希望がなくなる、仕事を含め生活全般に対して無気力になる、些細なことから不安に陥りやすい、自分に自信がなくなる、判断力が低下するなど 体の症状:不眠、動悸、頭痛、肩こり、疲れやすい、食欲不振、性欲低下など 冬季うつ なりやすいタイプ 欧米では女性、日本では男性に多い。近親者にうつ病歴のある人がいるなど 原因(きっかけ) より高緯度の土地への転居、北向きなど光が入りにくい部屋への転居、生活リズムの乱れ、過度のダイエットによる食事の偏りなど 時期 症状が出る時期は個人差があるが、その人の周期はだいたい毎年同じ。夏の終わりから春先までという人もいれば、真冬だけという人もいる。夏は躁状態となり、食欲、睡眠欲が減り、社交的になる人が多い。 症状 炭水化物を多く含んだパンやご飯、甘いものなどを好む。睡眠時間が長くなる、性欲低下、人付き合いがおっくうになる、集中力低下、好奇心全般の低下など 両者の大きな違いは、まずは「冬季うつ」のほうは季節が冬季に限られるということと、不眠というよりも過眠になるという報告が多い点です。また、冬季うつの場合は、炭水化物を多く含んだ食品を食べたくなるという特徴もあります。 夏季のうつ病もある 冬に症状が出るタイプだけではなく、夏などほかの季節に障害が出る人もいます。その季節がくると、うつ症状が現れる点では同じだが、夏型はうつ期に食欲低下、体重減少、不眠などの症状が出る傾向があります。夏と冬両方に症状が出る人もいます。 冬季うつを治療するには? 上記の情報から、自分が冬季うつかもしれないと思った人は、ぜひ精神科医に相談しましょう。しかし、もし冬季うつだったとしても、生活の見直しなど自分なりにできることもあるので、参考までに下記に紹介します。 ●高照度光療法 冬季うつの代表的な治療法。6~7割の人は、専用の高照度光照射装置を用いた治療で改善する。2500~1万ルクスの照度で短時間当たるのが標準的な治療法。 ●日光に当たる生活を心がける 冬季うつの症状は、日光に当たる時間が長くなれば軽快する傾向がある。日光があまり射さない部屋に住んでいるなら、日光を取り入れる工夫が必要。可能なら引越しもひとつの方法だ。 ●早起きする 人間の体内時計は約25時間のため、朝光を浴びることで、24時間リズムにリセットしている。季節と共に変わる日照時間により、人間の体は調子を変える。冬季うつの人はその季節の変化に強く反応していると言える。冬は特に早寝早起きを心がけ、自分が感じる日照時間を延ばすとよい。 ●食事を工夫する 冬季うつに限らず、うつ病の原因と指摘されるのが、神経伝達物質であるセロトニン不足である。セロトニンを増やすには、光に当たる、運動をするなどさまざまな方法があるが、食事で増やす方法もある。 セロトニンは食物の中に含まれる必須アミノ酸の一種、トリプトファンからつくられる。肉、魚、大豆などたんぱく質の摂取を心がけよう。トリプトファン吸収には、ビタミンB6が必要なので、ビタミンB6が多いバナナやさつまいも、レバー、青魚なども食べよう。炭水化物中心の食事もトリプトファン吸収を助けてくれる。冬季うつの人が炭水化物を求めるのは、体が欲求しているからなのである。 冬季うつは、いわば冬眠のようなもの。秋になると、動物が冬ごもりの準備をするように心身の調子が悪くなるが、冬が終われば回復し、元気に動き回ることができる。待っていれば、必ず春はくるのだ。 公開日:2005年2月21日
通常では考えられないようなパワーを発揮する「集中力」とは何で、なぜ発揮されるのでしょうか。「集中力」と「やる気」のメカニズムを紹介します。 目次 集中力とはパワーだ 集中すると普段以上の能力を引き出せるのは、なぜ? マイナス要素としての集中力もある やる気ホルモン「TRH」とは? 集中力とはパワーだ スポーツマンが驚異的な新記録を樹立し、一介のビジネスマンが誰もがサジを投げかけた難問を解決する。受験生がほぼ無理とされた難関校を突破…。普段のその人の能力では信じられないことを成し遂げてしまうパワー、そこに私たちは集中力のすごさを感じるのではないでしょうか。 もっと身近な例でも、普通なら2~3時間はかかる仕事なのに我知らず没頭して1時間ほどでできてしまったとか、普段はお掃除が嫌いなのに始めたら夢中になって家中ピカピカにしてしまったとか、誰もが体験したことがあるはずです。集中力とは、まさにこのこと。一点集中で事にあたることによって、普段の能力以上の結果を引き出すパワーのことなのです。 集中すると普段以上の能力を引き出せるのは、なぜ? 自分でも周囲の人でもかまいません。集中している人を観察してみると、ほかの人に声をかけられたり、呼ばれたりしているにもかかわらず、まったく聞こえていないとしか見えないことがあるでしょう。そう、実際に、ほとんど聞こえていないのです。なぜなら集中しているとき、脳はほかの感覚や機能を必要最低限に抑え込み、集中している対象への能力をフル稼働させているから。空腹すらも感じないこともあります。こうしたほかの機能を抑え込んでまで一点集中することによって、結果として通常以上の能力が発揮されるのです。 マイナス要素としての集中力もある 集中力を発揮すれば、通常ではできないこともできる可能性が高くなります。ですが、だからといって「集中力バンザイ」というわけにはいきません。集中力とは、ひとつのことに没頭することであって、対象となる物事を問いません。つまりマイナス思考へと集中してしまうこともあるのです。例えば悩みや不安、怒りなどに多大なパワーを発揮する集中力を注いでしまえば、心身症にもなりかねません。 集中力も長所・短所を見極めて、スイッチをオン・オフできるようにしたいものです。 やる気ホルモン「TRH」とは? さらに脳の中を見ていくと面白いものが見つかります。甲状腺刺激放出ホルモン=TRHです。これは別名「やる気のホルモン」とも呼ばれるもので、分泌されると集中力を増し、次のやる気へとつなげていくはたらきがあるとされます。集中力とやる気ホルモンがあれば、どんなことも怖くない…と言いたいところだが、難点はTRHがとても感情的なホルモンだということです。 ここでちょっと考えてみてください。今やろうとしていることが好きなこと・興味があることなら、やりはじめる前から「やる気」が満ちてきます。だが、あまり気乗りのしない仕事や勉強の場合は、はじめる前はやる気などまったく感じられないのが普通ではないでしょうか。 そう、TRHが分泌されるのは、好きなこと・興味があることに対してか、実行することによって好ましい報酬(栄誉、お金、快感など)が得られることがわかっているときなのです。あとは、ひとつのことを実行しはじめて集中力が高まっていかない限り、分泌されません。 つまり、TRHのサポートを受けるには、目の前にある実行しなければならないことを好きになってしまうか、それによって報酬を得られるようにするか、はたまた何も考えずにはじめてしまうかの3つにひとつの選択しかないのです。 TRH(甲状腺刺激放出ホルモン)が分泌される仕組み 公開日:2003年6月16日
大学に入りたての学生に5月頃に多く見られ、一般に知られるようになった「五月病」。「適応障害」や「気分障害」という精神疾患である可能性もあるようです。 目次 「五月病」は正式な病名にあらず!適応障害の主な原因 実は気分障害ということも… 「おかしいな」と思ったら、すぐに病院へ! 「五月病」は正式な病名にあらず!適応障害の主な原因 大学に入りたての学生や、新社会人に5月頃に多く見られる「五月病」。新しい生活に夢中でいる間はいいが、それがひと段落する5月頃に、知らずしらずのうちに蓄積されていた心身の疲れや、新しい環境や人間関係などについていけないストレスのせいで、やる気が出ない、ふさぎこんでしまうなどの状態になることをこう呼びます。 新社会人の場合は、新人研修などが終わって実際の仕事をはじめた後の6月頃に見られることが多いため、「六月病」などと呼ばれることもあります。 この五月病と六月病、実はどちらも病院などで使われる正式な病名ではなく、きちんとした定義もありません。医学的に考えると、このように環境の変化についていけないことで起きる精神疾患として「適応障害」があります。適応障害は5月・6月だけでなく、人によっては夏休みを終えた9月頃に発症するなど、その発症は季節を限定しません。 適応障害の主な原因 ●初めての一人暮らしや時間の使い方の変化など、新しい環境についていけない ●新しい人間関係が思うようにいかない ●入試・入社といった大きな目標を達成した解放感がある ●大きな目標を達成したことにより、次の目標を見失ったり、混乱したりする ●想像していた新生活と現実のギャップについていけない 実は気分障害ということも… 5月頃に、やる気が出ない、気分が沈みがちといった状態になったら、「気分障害」という精神疾患の可能性もあります。気分障害には、比較的よく知られる「うつ病」や、暗いうつ状態と明るい躁状態を繰り返す「双極性障害」のほか、うつ病ほど症状は重くありませんが、2年以上の長期にわたって不調が続く「気分変調症」(気分変調障害)などがあります。特に気分変調症は症状がそれほど重くないことが多いため、深刻な状況にはなりにくく、一時的な落ち込みだと誤解される恐れがあります。 気分障害のひとつであるうつ病は、かつて、几帳面、マジメ、完璧主義などの性格の人が発症しやすいといわれていましたが、そうではない人でも発症することがわかってきた。遊んでいるときは明るいのに、仕事中などはうつ状態になる「非定型うつ病」はその一例でしょう。このような人は、まわりの人もうつ病とは気づきにくいので、5月頃に発症すると「どうせ五月病だから、時間がたてば治るだろう」ととらえられてしまうかもしれません。 「おかしいな」と思ったら、すぐに病院へ! 体調や気分の異変が続くようなら、適応障害や気分障害などの可能性を考え、できるだけ早く病院に行くことが望ましいです。もしこれらの精神疾患だとしたら、治療の遅れが症状の悪化につながりかねません。抗不安薬や抗うつ薬の投与などの治療によって、症状の改善が期待できるので、いつもと様子が違うことを自覚したら、自分では判断せず、早めに医師に相談しましょう。まわりの人には、心療内科や精神科の受診を勧めてあげると良いでしょう。 学校や職場など、環境が絶えず変化する現代は、「自分には精神疾患なんて関係ない!」とは今や誰にも言い切れない時代です。自分自身はもちろん、まわりの人がつらそうな様子をしていないか、絶えず注意して見てあげるようにしましょう。 公開日:2003年5月19日
「アニマルセラピー」とは、動物が持つ癒し効果を治療に取り入れようとする考え方のことですが、実は紀元前からの歴史があるようです。今回は、アニマルセラピーの定義や歴史について紹介します。 目次 アニマルセラピーとは アニマルセラピーの歴史 ペットといると「気持ちが和らぐ」 アニマルセラピーとは ペットの犬や猫と一緒にいると、なんとなく穏やかな気持ちになります。イルカと一緒に泳ぐと癒される…。昨今マスコミでも注目されている「アニマルセラピー」。直訳すると「動物介在療法」のことで、広い意味では動物との関わりが人間の健康の質を向上させる場合を指します。日本では「ペットセラピー」と呼ばれることもありますが、厳密に言えばアニマルセラピーにはきちんとした定義があります。 アニマルセラピーの種類 ●動物介在療法 Animal Assisted Therapy=AAT。治療上のある部分で動物が参加することが不可欠です。医療側の専門職(医者や看護婦、ソーシャルワーカー)、作業・心理・言語療法士などがボランティアの協力をもとに治療のどこで動物を参加させるかを決定します。治療のゴールが存在し、活動においては記録が必要であり進歩も測定されなくてはなりません。 ●動物介在活動 Animal Assisted Activity=AAA。 基本的にペットと人間が表面的に触れ合う活動で、病院や施設などでの特別なプログラムの中に存在するものではありません。治療上の特別なゴールが計画されず、活動する人たちも詳細な記録は取らなくてよいとされています。 治療プログラムとしてのアニマルセラピーの対象者は多岐に渡っています。 治療プログラムとしてのアニマルセラピーの対象者 子供 一人っ子、不登校、精神的・身体的・性的虐待児、親がいない子供など 高齢者 独居、老人ホームなど 終末期医療 がん、エイズ患者など 後天的慢性疾患 事故や病気など 先天的慢性疾患 精神遅滞、ダウン症、自閉症、脳性マヒなど 身体機能障害者 視覚・聴覚・言語障害者、手足の不自由な人、てんかん患者など 犯罪傾向にある人 囚人、医療刑務所など 精神障害者 認知症、精神分裂病、躁うつ病など 参考:「アニマルセラピーとは何か」横山章光著 NHKブックス アニマルセラピーの歴史 アニマルセラピーの中で最も長い歴史を持つのが「乗馬療法」です。一説には古代ローマ帝国時代にまで起源をさかのぼり、戦争で傷ついた兵士たちのリハビリに乗馬が用いられていたといいます。19世紀にはパリで乗馬がマヒを伴う神経障害に有効な療法であるという報告がなされ、それ以来治療法のひとつとして意識的に用いられるようになりました。現在では乗馬療法は完成された治療システムとして考えられ、アメリカ、イギリス、ドイツ、オーストリア、日本など世界各国で主に身体的なリハビリを中心に治療に活かされています。 盲導犬の歴史も古く、紀元前100年にさかのぼると言われ、盲目のドイツ王が盲導犬を所有していたことが古文書に記されています。ポンペイの壁画や13世紀の中国の絵巻物にも盲導犬の記述がみられます。1916年、ドイツで第一次世界大戦で失明した軍人のために盲導犬訓練が組織化されるとアメリカやヨーロッパ各国にも広がり、日本でも1957年に国産第一号の盲導犬が誕生しています。 療養施設において治療目的で動物が導入されたのは18世紀末のイギリスのヨーク収容所に始まります。ヨーク収容所は精神障害者の収容施設で、自分をコントロールするために動物の世話が導入されたといいます。その後今日に至るまで人間と動物の健康に関する研究が進められ、現在では世界規模の国際学会も開かれています。 ペットといると「気持ちが和らぐ」 もちろん医療の現場に関わらず、日常生活でも一緒に暮らすペットから癒しやリラックス効果を実感している人は多いのではないでしょうか。 読売新聞が行った「ペットに関する世論調査(2001.4.12)」によると、動物を飼うことが好きと答えた割合は約60%。その理由も「気持ちが和らぐ」が約半数、「子供の成長や情操教育に役立つ」約25%、「寂しさがまぎれる」約13%などの結果が出ました。 やはり動物には人に安らぎを与える何だかの力があるのかもしれません。 動物を飼うことが好きですか? ペットを飼う理由 ■関連記事 疲れやストレスを感じたら体内時計をリセット!うつ病学会が自己管理のコツを紹介 うつ病に良い栄養は葉酸や鉄分 うつ病は過敏性腸症候群や善玉菌が関係あり うつ病、統合失調症など精神疾患が生活習慣改善により予防できるケースも 公開日:2003年3月17日
うつ病は治療計画に基づいて治療が進められる病気です。でも、もし今受診している病院を転院したいと思ったら、どうしたらいいのでしょうか。 目次 うつ病治療は自分で中断してはいけない 専門医への転院は相談の上で 専門医のセカンドオピニオンも参考に うつ病治療は自分で中断してはいけない 薬を使ったうつ病治療では、勝手な服薬中断はとても危険です。薬の種類や量のコントロールは、医師の判断に任せる必要があります。一般的には少ない量から治療を始め、副作用を見極めながら効果の現れる用量まで増やしていき、症状の改善後もしばらくは服薬を継続する必要があると言われています。薬を止める時も少しずつ量を減らしていき、回復宣言は医師の判断に任せた方が良いでしょう。 専門医への転院は相談の上で うつ病は治療計画に基づいて治療が進められる病気です。自己判断による転院は、これまでの治療経過を新しい主治医が知ることができず、完治までの期間が長引くなど、全体の治療計画にも大きな影響を与えてしまいます。もしいま受診している内科などの病院から、うつ病専門医のいるクリニックへ転院したいと思ったら、まずはいまかかっている医師によく相談し、必ず了解を得るようにしたいものです。 専門医のセカンドオピニオンも参考に 転院を考える前に、まずは専門医によるセカンドオピニオンが欲しいと言えば、主治医にも理解してもらえるでしょう。手順としては医師に「専門医によるセカンドオピニオンが欲しい」と伝え、その上で、診断書を作ってもらい専門医を受診することになります。その際にはお薬手帳なども持参しましょう。 セカンドオピニオンを受けたら、その結果を主治医の医療機関に持参して話をすると良いでしょう。うつ病専門医の意見を治療に取り入れることで安心感が生まれ、治療期間の短縮につながることもあります。 ■関連記事 疲れやストレスを感じたら体内時計をリセット!うつ病学会が自己管理のコツを紹介 うつ病に良い栄養は葉酸や鉄分 うつ病は過敏性腸症候群や善玉菌が関係あり うつ病、統合失調症など精神疾患が生活習慣改善により予防できるケースも
うつ病の専門医といっても精神科、神経科、心療内科など受診科はさまざまです。医療機関、受診科について紹介します。 目次 受診科を決めるには? 医療機関はどうやって決める? 受診科を決めるには? 専門医といっても精神科、神経科、心療内科など現在うつ病を取り巻く医療環境にはさまざまな受診科があり、普段なじみもないので迷うこともあります。近くの専門医が見つかったら、受診前に電話でうつ病の治療をやっているか確認して受診すると良いでしょう。 診療科と扱っている病気の目安は、以下の表の通りです。 精神科・精神神経科 「うつ病」「統合失調症」「神経症」などの精神疾患 心療内科 心理的な要因で身体の症状(胃潰瘍、気管支ぜんそくなど)が現れる「心身症」、軽い「うつ病」や「神経症」など一部のこころの病気も含みます 神経内科 パーキンソン病や脳梗塞、手足の麻痺や震えなど、脳や脊髄、神経、筋肉の病気 出典:厚生労働省「知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス」より一部改変 医療機関はどうやって決める? ではどんな病院・医療機関を訪れたら良いのだろうか? 各医療機関の違い、活用方法は以下の通り。 診療所(クリニック) 入院用のベッドを持たない医療機関を言います(19床以下のベッドを備えているところが一部あります)。駅前など、通院する人の利便のよい場所にあることが多いです。 病院 20床以上のベッドを持っており、外来のほか必要な場合には入院できます。病院によっては、救急医療や、子ども・依存症など特に専門的な医療を行っているところなどがあります。 総合的な病院の精神科 内科や外科などの診療科目のほか、精神科の診療も行っています。身体と精神の病気を一緒に診てもらいたい場合などに役立ちます。 保健所(保健センター) こころの問題を含めたさまざまな病気や生活の問題の相談に乗ってくれます。受診が必要かどうかわからない時や、家族や知人が相談したい時などに気軽に相談できます。 精神保健福祉センター こころの問題に関わる専門的な相談を受けつけます。「こころの健康センター」などと呼ばれている場合もあります。各都道府県と政令指定都市に1ヵ所以上設置されています。 出典:厚生労働省「知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス」より一部改変
うつ病は治療期間が長く、医師の問診や面接が治療の大切なヒントを生む病気でもあります。そのため、医師と私たちのあいだの信頼関係が重要になってきます。 目次 医師との信頼関係を作ろう 専門医の診療はどう進められる? 家の近くの専門医をかかりつけ医に 再発のことも考えてかかりつけ医を選ぶ 医師との信頼関係を作ろう うつ病は治療期間が比較的長く、医師の問診や面接が治療の大切なヒントを生む病気でもあります。医師は、患者さんの前回受診時からの休養の様子、治療方針や薬の印象などを聞き、さらに治療戦略をどう進めていくかを短い問診時間に行いたいと考えています。こうした診察を進めるためには、医師と私たちのあいだの信頼関係が重要になってきます。治療に関する疑問点をたずねたり、家での生活の様子を率直に話すことも大切です。受診の際にすぐに思い出せるようにメモを取っておくなどの工夫をしても良いでしょう。 専門医の診療はどう進められる? うつ病の専門医は、患者さんとのラポール(共感)をもつことを得意としています。言葉で表現できないうつ病の苦しさ、もどかしさなどを言葉であらわせるように、さまざまな手法を駆使し、様子を観察して診療を進めることができるのです。親しみやすく話しやすいうつ病専門医に治療を任せることも、寛解(症状が消えること)や完治までの早道かもしれません。 家の近くの専門医をかかりつけ医に 長期の治療になることも考えると、自宅の近くや通院しやすい場所にあるクリニックの専門医を選ぶのもひとつの方法です。休養しているあいだの心の問題、薬を使った治療についての悩み、症状の改善点の確認など何でも話せるかかりつけ医とスクラムを組むことで、うつ病治療はさらに効果を上げることができます。 再発のことも考えてかかりつけ医を選ぶ うつ病は再発率が高いのも特徴です。これまでの治療の状況や治療方法を知っているかかりつけ医がそばにいれば、より適切な再発の予防や対処が可能になります。再発の予兆を見逃さず、それに対する早期治療を施せば、重症化を食い止めることができるでしょう。
うつ病の治療では、一般的には薬を使った治療が進められています。抗うつ薬の種類と特徴や、主なうつ病治療の流れについて紹介します。 目次 うつ病の治療の種類は?抗うつ薬の種類と特徴 薬を使った治療は恐くない? うつ病治療は長期にわたることも。うつ病の治療の流れ うつ病の治療の種類は?抗うつ薬の種類と特徴 うつ病は、過労や過度なストレスが引き金となって起こる場合が多くみられます。そのため治療では、まず原因と考えられる過労や、過度なストレスから患者さんを時間的にも物理的にも遠ざける必要があります。つまり、しばらくの間は何も考えずに、ゆっくりと休息をとることが、治療の大前提となります。 その上で、うつ病の原因が何なのかを医師とともに話し合いながら治療が進められます。医師は患者さんの症状にあわせた治療を行っていくことになります。 うつ病の治療には、薬を使った治療、考え方やものの見方を少し変えてみる認知行動療法や電気痙攣療法などがあり、これらを組み合わせて治療を行うこともありますが、一般的には薬を使った治療が進められています。 薬を使った治療には「抗うつ薬」という種類の薬が使われます。従来は、抗うつ薬の種類も少なく、副作用の頻度も高く、選択の幅が狭かったのですが、現在では三環系・四環系抗うつ薬、SSRI、SNRI、NaSSAなど各種あり、重症度や症状に合せて処方されます。 抗うつ薬の種類と特徴 SSRI(セロトニン再取り込み阻害薬) 不安焦燥、不眠に有効 SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬) 精神運動活動や欲動に有効 NaSSA(ノルアドレナリン・セロトニン作動性抗うつ薬) 一番新しい種類の薬。ノルアドレナリン・セロトニンの神経伝達を増強 三環系・四環系抗うつ薬 三環系は、ほとんどすべての種類の神経伝達物質の再取り込を抑制する。副作用が強い。四環系はセロトニン再取り込阻害作用がない 出典:上島国利著「抗うつ薬の知識と使い方」P30、精神薬理学エッセンシャルズ第3版 P581、大熊照雄著「現代臨床精神医学」P51より改変 薬を使った治療は恐くない? うつ病は、セロトニンやノルアドレナリンなどの脳内の神経伝達物質の量が減少して起きていると考えられています。うつ病の薬は、セロトニン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質に作用し、その量を調整してうつ状態を改善します。なかでもSSRI、SNRIは、軽症や中等症のうつ病の薬物治療を始めるとき、医師が最初に選択するべき薬(第一選択薬)として認められ、世界的にも多くの使用実績をもっています。SSRIはセロトニンにのみ作用します。また、SNRIは、セロトニンとノルアドレナリンにも作用し、比較的ほかの薬剤への影響も少ないと言われている薬です。SSRI、SNRIには副作用の少ない薬もあり、医師とよく相談して決めていけば決して怖がることはありません。 うつ病治療は長期にわたることも。うつ病の治療の流れ うつ病の治療期間も知っておきたいところです。実際、病気になってしまったら、「すぐに治したい」「早く仕事に戻りたい」などの焦りが出るのが当然でしょう。しかし、うつ病の治療では症状が消えるまでに短くて1ヵ月から半年、長ければ1~2年かかることもあります。うつ病はじっくりと治療に取り組む姿勢がとても大切です。特に最新の抗うつ薬は効果があらわれるのに1~2週間程度の時間がかかったり、副作用が治療の初期からでるといった特徴があります。医師によく相談しながら治療を進めるのが良いでしょう。 うつ病の治療の流れ うつ病の治療では、症状が良くなった後も、その状態を維持するために治療が継続されます。 ■関連記事 うつ病をFacebookから診断できる? 西川伸一先生ブログ・論文ウォッチから 疲れやストレスを感じたら体内時計をリセット!うつ病学会が自己管理のコツを紹介 うつ病に良い栄養は葉酸や鉄分 うつ病は過敏性腸症候群や善玉菌が関係あり うつ病、統合失調症など精神疾患が生活習慣改善により予防できるケースも
当サイトでは「うつ病」の方を対象にアンケートを実施し、多くの方から回答を頂きました。今回は結果の一部として、うつ病の情報収集について、家族や友人からのサポートなどについて報告いたします。回答にご協力いただいた皆様、大変ありがとうございました。 目次 うつ病になってつらいのはどんなことですか? うつ病に関する情報をどこから入手しますか? 家族や友人からはどのような対応・サポートが望ましいですか? うつ病治療に関する要望、意見 うつ病になってつらいのはどんなことですか?(複数回答可) 職場を休職、失業するなど、経済的な問題が生じている 172人 治療効果が現れない125人 友人や家族の理解が得られない123人 薬の副作用110人 信頼できる医師が見つからない60人 その他100人 うつ病になってつらいこととしては、「職場を休職、失業するなど、経済的な問題が生じている」(172人)が最も多く、うつ病を周囲に打ち明けられない理由として解雇への不安が多く挙げられた点と一致します。自由回答では「気分の浮き沈みが激しいので、自分自身が疲れる」「健常時の自分が分からないので、回復に向かっているか分からない」「何事にもやる気が出ず、子育てもできない」などの意見が見られました。 うつ病に関する情報をどこから入手しますか?(複数回答可) インターネット 263人 患者・一般向けの書籍160人 主治医156人 医療機関に置いてある冊子80人 製薬企業のHP36人 医師が読むような専門書27人 その他25人 うつ病に関する情報の入手源としては、「インターネット」が263人と圧倒的に多く、「患者・一般向けの書籍」(160人)、「主治医」(156人)「医療機関に置いてある冊子」(80人)と続き、自由回答でも「新聞」「雑誌」「大学の教科書」という回答が挙がるなど、ひとりで情報を収集する患者の姿が浮かび上がります。 家族や友人からはどのような対応・サポートが望ましいですか? 周囲からどのような対応・サポートが望ましいかという問いに対し、1位は「詳しい知識を身につけて欲しい」(36%)、2位「偏見を無くして欲しい」(28%)、3位「なるべく関与しないで欲しい」(18%)。一般的に「うつ病患者に励ましは厳禁」と言われますが、「積極的な励ましが欲しい」(4%)という声も少数ながらあり、うつ病患者の多様性が見てとれます。 そのほかの回答として「ステレオタイプで見ないで、その人を理解することを優先して欲しい」「うつ病のことをあまり意識せず、自然に見守っていて欲しい」「ご飯づくりなど家事のサポートが欲しい」などが挙がりました。 うつ病治療に関する要望、意見 最後に、うつ病治療に関する要望、意見の中で、印象に残ったものを下記にまとめました。 うつ病でおっくうなため、通院すらできない。 初診で予約がないと診てもらえないところが多いのは疑問。切羽詰まっているからこそ医療機関に足を運ぶわけで、初診こそ予約なしで診て欲しい。 うつ病はメジャーな病気になりつつあるにもかかわらず、いまだに周囲に言いにくい雰囲気を感じている。私自身はうつ病であることを言っているし、ほかの人ももっと公言すべきだと思う。 「心の風邪」という言葉があるが、治療に関しては風邪よりはるかに長い期間を必要とし、社会的・経済的にも打撃が大きい病気。「心の風邪」という表現は、適切ではないと思う。 受診ごとに「経過報告書」のようなものを医師が出してくれるシステムがあると良い。うつ病は家族をはじめとする周囲の理解、患者と周囲の適切なコミュニケーションが大きく病状を左右する。しかし患者本人が自分の症状、状態を周囲に理解してもらおうとアプローチすることは難しく、それが負担となってさらにつらい症状におちいることもある。家族など周囲は「根気よく対応を」と求められるのが常だが、うつ病患者が治療中のいま、どのような状況・段階にあるかを医師がそのつど提示してくれることで周囲も患者をより理解でき、コミュニケーションの対策もとれて心強い。 うつ病には根本的な治療がなく、どうしても対症療法しかできていない感が否めない。自分がうつ病と自覚してからはどこか劣等感がつきまとい、「うつ病」という病名に抵抗を感じる。せめて「セロトニン○○症」などであれば、気が楽になるのに。 ■関連記事 うつ病をFacebookから診断できる? 西川伸一先生ブログ・論文ウォッチから 疲れやストレスを感じたら体内時計をリセット!うつ病学会が自己管理のコツを紹介 うつ病に良い栄養は葉酸や鉄分 うつ病は過敏性腸症候群や善玉菌が関係あり うつ病、統合失調症など精神疾患が生活習慣改善により予防できるケースも
当サイトでは「うつ病」の方を対象にアンケートを実施し、多くの方から回答を頂きました。今回は結果の一部として、受診のきっかけや医療機関、薬について報告いたします。回答にご協力いただいた皆様、大変ありがとうございました。 目次 うつ病であることを周囲に打ち明けていますか? 最初に受診したきっかけは? 今かかっている医療機関について教えてください 現在処方されているのはどんな薬ですか? うつ病であることを周囲に打ち明けていますか? うつ病であることを周囲に打ち明けていると答えたのは、回答者のうち約7割。男女別に見ると男性83%、女性65%と、男性の方が高い結果となりました。「いいえ」の理由として「派遣社員という立場上、うつ病と知られるとクビになるかもしれないので打ち明けられない」という回答が女性に多く見受けられ、解雇の不安が病気を周囲に打ち明けることの妨げになっていることがわかります。 ほかにも「弱い人間だと思われるから」「まだまだ偏見があるから」といった回答も多く、周囲との人間関係がうまくいかなくなることを恐れて打ち明けられない人が多いようです。 最初に受診したきっかけは? 最初にうつ病の診断のために受診したきっかけとしては、1位「自分自身で疑いを持って」(53%)という結果となり、うつ病に関する医学的な情報が浸透していることがうかがえます。 2位「友人、家族の助言で」(21%)、3位「違う病気で通院した際に診断された」、4位「その他」(10%)、5位「勤務先の産業医のすすめで」(4%)と続きます。そのほかの内訳としては「上司の紹介で」「職場の先輩にすすめられた」など、勤務先関係が目立ちます。 今かかっている医療機関について教えてください 現在の通院先が1つめと回答したのは、47%。2つめ(27%)、3つめ以上(25%)をあわせると5割を超え、多くの人が治療を続ける途中で通院先を変更していることがわかります。 現在の通院先を選んだ理由としては、1位「通院・通勤に便利だから」(38%)、2位「ネットで情報を検索して」(22%)、3位「クチコミ」(16%)となり、そのほかの理由として「産業医、会社の紹介」「遅くまでやっているから」「最初のクリニックの紹介で」などが挙がりました。 診療科は「心療内科」が最も多く(46%)、2位「精神科」(37%)、3位「その他」(8%)、4位「神経科」(6%)で、そのほかの内訳として耳鼻咽喉科、甲状腺科、内科などが挙がっています。 また治療期間は1位「2年以上」(47%)、2位「1~2年」(17%)と、6割を超える人が1年以上通院を続けていることがわかりました。 現在処方されているのはどんな薬ですか? 現在処方されている薬は1位が「SSRI」(47%)、2位「その他」(16%)、3位「三環系抗うつ薬」「SNRI」(15%)、5位「四環系抗うつ薬」(4%)で、この比率は治療期間や診療科による大きな違いは見られませんでした。また、今回の設問では1つの薬剤しか選べない設定としていましたが、回答者の指摘により、複数の抗うつ剤を併用しているケースも多いことがわかりました。 処方薬への満足度については「医師の判断にまかせる」という回答が最も多く(148人)、「効果を実感できない/違う薬剤に切り替えたい」(80人)、「満足している」(74人)、「新薬が出たら試してみたい」(50人)と続いています(複数回答可)。
うつ病の治療の基本は、休養+薬物治療です。休養し、適切な薬物治療を早期に受けることにより、ほとんどのうつ病は回復するといわれています。心の病にかかった自分を受け入れないで我慢して治療が遅れてしまうと、悪化させてしまったり回復までに時間がかかってしまいます。心の病に気づいたら、早めに医療機関を受診しましょう。 目次 何もしないで「休む」ことも治療のひとつ 抗うつ薬が効くメカニズム 抗うつ薬の種類と特徴 何もしないで「休む」ことも治療のひとつ 私たち日本人は「忙しい」のが良いと考えがちです。特にうつ病はまじめな人が多く、「何もしない」でいることに罪悪感や劣等感をもってしまいます。けれどストレスなどで心の抵抗力が弱まっているときは、心と体の休養が不可欠です。仕事や家事、学校を休んでゆっくりすごすことも回復への重要なステップなのです。 抗うつ薬が効くメカニズム うつ病の治療に使われる薬「抗うつ薬」とは、いったいどんな薬なのでしょうか?「やめられなくなってしまうのでは?」「副作用が恐い」…そんな不安を抱えている人も多いようです。でもご安心を。抗うつ薬に依存性の心配はまずありませんし、最近では副作用の少ないタイプの薬も登場しています。 そもそもうつ病は、脳内の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンの不足により引き起こされると考えられています。抗うつ薬には、脳内のセロトニンやノルアドレナリン不足を解消して正常に近い状態に戻すはたらきがあるのです。 抗うつ薬の種類と特徴 一言で抗うつ薬といっても、大きく分けて4つのグループがあり、それぞれで特徴も異なります。近年うつ病治療の研究開発はめざましく、SSRIやSNRIといった新しいタイプの登場により治療薬の選択肢は大きく広がりました。 ●従来の抗うつ薬 第一世代の薬は効果が高いです。しかしセロトニン、ノルアドレナリン以外の神経伝達物質にも作用するので、口の渇きや便秘、たちくらみなどの副作用があらわれやすくなります。第二世代の薬はこの副作用を軽減する目的で作られましたが、その分、効果もやや弱いとされています。 ●SSRI 比較的最近登場した薬で、セロトニンだけに選択的に作用するので、従来の抗うつ薬で問題となっていた副作用が少ないです。 ●SNRI 新しいタイプの抗うつ薬です。セロトニンとノルアドレナリンの両方に作用し、効果があらわれるのが比較的早いです。強さは第一世代の薬と同じくらいありますが、副作用は少ないといわれ、期待がよせられています。 うつ病の治療とはどんなもの?抗うつ薬の種類と特徴 主な抗うつ薬 分類 一般名 販売名 主な副作用 第一世代 三環系抗うつ薬 イミプラミントフラニールほか 口渇、便秘、排尿障害、起立性低血圧(めまい、たちくらみ)、眠気、倦怠感(だるい)など アミトリプチリントリプタノールほか トリミプラミンスルモンチール ノルトリプチリンノリトレン クロミプラミンアナフラニール 第二世代 アモキサピンアモキサン 第一世代よりも副作用が軽減されている ロフェプラミンアンプリット ドスレピンプロチアデン 四環系抗うつ薬 マプロチリンルジオミールほか ミアンセリンテトラミド セチプチリンテシプールほか その他 トラゾドンレスリン、デシレル 第三世代 SSRI フルボキサミンデプロメール、ルボックス 従来薬の副作用は少ない。吐き気や胸やけ、胃のむかつきが多い パロキセチンパキシル 第四世代 SNRI ミルナシプラントレドミン 副作用は少ない 抗うつ薬の効果はすぐにはあらわれません。ときには効果より先に副作用が出てしまう場合もあります。症状の改善や副作用が見られればすぐにでも薬をやめたくなってしまいますが、自己判断で抗うつ薬の減量や中止をするのは危険です。うつ病は再発しやすい病気なので、再び症状が悪化してしまうことが多いのです。必ず医師に相談し、指示に従って服用を続けるようにしましょう。 ■関連記事 うつ病をFacebookから診断できる? 西川伸一先生ブログ・論文ウォッチから 疲れやストレスを感じたら体内時計をリセット!うつ病学会が自己管理のコツを紹介 うつ病に良い栄養は葉酸や鉄分 うつ病は過敏性腸症候群や善玉菌が関係あり 公開日:2004年4月5日
うつ病は古代ギリシャ時代から知られており、WHOの発表によるといまでは世界で3億人がかかっているといいます。年々その患者数は、増加の一途をたどっており、私たち自身を含め家族や同僚など身近な人が、いつうつ病と診断されてもおかしくない時代と言えるでしょう。もしあなたがうつ病にかかってしまったらどうしたら良いでしょうか。うつ病の症状について、心と体の両面から紹介します。 目次 心と体にあらわれるうつ病の症状 心にあらわれる主な症状(精神症状) 体にあらわれる主な症状(身体症状) うつ病にかかる原因・きっかけは? 心と体にあらわれる症状 ほかの病気と違い、うつ病は検査ではわかりにくい病気です。体調の異変や体にあらわれる何らかの症状から内科や近くのクリニックを受診する人も多いといいます。病名もわからないまま不調が続き、さらに症状が増えたり悪化したりすることもありえます。 特にこれといった原因もなく、次のような症状が2週間以上続いている場合は、うつ病を疑ってみてもいいかもしれません。 心にあらわれる主な症状(精神症状) 体にあらわれる主な症状(身体症状) うつ病にかかる原因・きっかけは? うつ病にかかる原因は人それぞれ うつ病の原因はまさに千差万別で、症状も患者さんによってさまざまです。現在の研究では、ストレスや環境の変化などの要因が、脳内の神経伝達物質に影響して身体症状や精神症状をあらわすと理解されています。病院を受診した際、これらさまざまな症状とうつ病を結びつけて「うつ病」と診断されることは、実はあまり多くはありません。 うつ病にかかりやすい性格がある まじめで几帳面。責任感が強くがんばり屋。性格的にはとてもよいと言われます。ただ、こうした性格の人は、がんばり過ぎて思わず無理をしてしまったり、とことん疲れるまでがんばってしまうことも多いため、うつ病にかかりやすい性格であると言われています。あなたは大丈夫ですか? ストレスは悪いことで起きるとは限らない 実際に、うつ病にかかったきっかけとなった要因を調べてみると、本人にとってショックなことばかりとは限らないようです。引っ越しや新築、結婚など人生における一見幸せそうなイベントでうつ病にかかる人もいることがわかります。将来にわたる責任や、漠然とした不安などもうつ病の要因になるのです。あなたの身の回りで何かこうしたイベントはありませんでしたか? うつ病のきっかけ ●家族やペットの死、親しい人との別れ、失恋、受験の失敗 ●昇進、配置転換、転職、転勤、退職、過労 ●結婚、離婚、妊娠、出産、子供の自立 ●引越しや新築 ●倒産、多額の借金、リストラ、失業など経済的な問題 ●事件・災害などによる心理的なショックなど 幸・不幸に関わらず、大きな環境の変化がストレスとなり、うつ病が発症する要因になっています。 ■関連記事 うつ病をFacebookから診断できる? 西川伸一先生ブログ・論文ウォッチから 疲れやストレスを感じたら体内時計をリセット!うつ病学会が自己管理のコツを紹介 うつ病に良い栄養は葉酸や鉄分 うつ病は過敏性腸症候群や善玉菌が関係あり うつ病、統合失調症など精神疾患が生活習慣改善により予防できるケースも 公開日:2004年4月5日
「眠れない」日々が続くのは、不安なものです。しかし、「眠れない」ことを闇雲に恐れるのではなく、その原因をまず考えてみましょう。 目次 焦らず理由を突き止めよう! 焦らず理由を突き止めよう! 睡眠不足を訴える人が絶えない現代。眠れない日々が続くと「このままどうにかなってしまうのでは?」という恐怖感に陥ります。しかし、何年もほとんど眠らなくても、普通に生きている人も現実にいます。「眠れない」ことそのものに集中し、闇雲に恐れるのではなく、その原因をまず考えてみましょう。そして、もし必要な場合は専門医を訪ねましょう。 アナタは本当にぐっすり眠っていますか?特に急増している「うつ病型」の場合は注意が必要です。 ●神経症型 本当の意味での不眠ではありません。 寝付きが悪いため、お茶を飲んだり、本を読んだり、しばしばトイレに行ったり、昼間には昼寝をしたりしています。しかし、一度眠るとたっぷり眠っていることが多いようです。 就寝と起床の時間をきちんと決めることで改善を望めます。 ●うつ病型 不眠症です。 寝付きは比較的良いのですが、2~3時間すると夜中に目が覚めて苦しい思いをします。憂うつ、イライラ、ぼんやりする、食欲不振、胃腸不良、急にやせる、手足の冷えや熱、自殺願望などのうつ病の症状が見られる場合、早めに専門医へ行くといいでしょう。とにかく原因のうつ病を改善するのが一番です。 ●睡眠・覚醒リズム障害によるもの 何らかの理由によって、1日24時間でカラダを整える体内時計が故障した異常です。 昼間、猛烈に眠くなったりする場合は、この障害である可能性が高いようです。 ●睡眠時無呼吸よるもの 睡眠中に呼吸が抑制され、眠りが浅くなっています。 原因としては、肥満、あごの異常、扁桃腺肥大、睡眠薬・アルコールなどが挙げられます。 ●循環器疾患によるもの 高血圧、アレルギー、心臓疾患、泌尿器疾患、胃腸障害、肝疾患など、内臓に慢性的な生活習慣病を抱えている場合、その異常を伝える信号が絶えず脳に送られ続け、脳は緊張し睡眠は浅くなります。 生活習慣病は、ひどくなるまで本人がなかなか気付かないもの。健康診断などを受けてみましょう。 ●脳の病気によるもの 脳動脈硬化症や脳卒中後遺症、認知症も不眠を併発することが多いようです。問題は意識障害なので、その治療を進めます。 ●睡眠環境によるもの 寝ている間の騒音や光、体に良くない寝具などにより、無意識に熟睡を妨げられていることは多いようです。再点検をしてみましょう。 ■関連記事 良質の深い睡眠「黄金の90分」とは?キャンサーフィットネス・心のリハビリ講座(1)
うつ病など心の病の治療には、周囲の人の理解や対処が何より大切です。まわりの人がしてあげられること、しないほうがいいことなどを具体的に紹介します。 目次 周囲の病気への理解と対応が大切/a> 周囲の人がしてあげられること 周囲の人がしてはいけないこと 病院へは一緒に 周囲の病気への理解と対応が大切 心の病気で一番ツラい、何とかしたいと感じているのは本人です。もともと生真面目で、決して「なまけ」たり精神がたるんでるからではありません。体の病気で立ち上がることもできない人を見て「なまけている」と思う人はいないでしょう。心の病も同様であるはずです。体が弱っている人をこき使えば、ますます弱っていくように、心が弱っている人をまわりが叱咤激励し追い詰めれば、ますますヒドくなっていきます。 その人が再びイキイキと活動できるようになるためには、周囲の病気への理解と対応が何より大切です。 周囲の人がしてあげられること ●できる限り普通の人と同様につきあい、本人がすべきことはなるべく自分で達成させる ●しかし「あなたは心の病気で苦痛が大きいのだ」ということはしっかり伝える ●批判したり非難せず、できるだけ何でも受け入れるようにする ●なるべく好意を示し、孤独感を取り除いていく ●そっと肩をもむなど、親切な言葉・態度を表わす ●何か仕事をお願いし、目標や夢をもつ手助けをする ●何かしてもらったら尊敬と感謝を示す ●マジメな人なら、その努力を賛える 周囲の人がしてはいけないこと ●うつ病の状態を非難したり「サボれていいね」などと言う ●「気の持ちようなんだから頑張れ!」などと無責任に励ます ●相手の考え方・態度・行動などを批評する ●相手をやりこめるようなことを言ったりしたりする ●自信を失わせるようなことを言ったりしたりする ●何か「代わりにやっておいた」などと言う ●相手が死を口にしたとき、イライラして突き放す。あなたが必要という態度で強く叱らないと、本当に死ぬこともある 病院へは一緒に 医師は、まず本人からこれまでの人生や生活、現在の状況や人間関係などを詳しく聞き、調査しその中から要因を探りだし、治療の方法を提示します。そのとき、家族や親しい人からの情報も重要になります。本人が嫌がっていない限り、付き添いすることをおすすめします。 公開日:1999年4月3日
まずは、リラックスする方法を覚えることが大切。とにかく焦りは禁物!ストレスを感じて陥りやすい穴を上手に避けたり、自分を楽にさせるためには、以下のように考えるというテクニックを使ってみてはいかがでしょうか? 目次 こんなに自分は頑張って良くなろうとしているのにダメだ。自分はどうしようもない人間だ 私にはこの仕事を期限内にキチンと片付けることはできない。毎日の仕事に追われてどうしようもない 今の地位・ポジションは自分にふさわしくない 同僚、上司などに仕事を頼まれると、いつも断われない どうしてもリラックスできない。何も楽しいこともない 同僚、上司、友人など他人に気を使い、責任感を強く感じる。そして無理して明るく振る舞い疲れる 悩みを打ち明ける人がいない こんなに自分は頑張って良くなろうとしているのにダメだ。自分はどうしようもない人間だ 自己鍛練によって克服しようとすると、かえって悪くなり、落ち込んで自分を過小評価することになります。まず自分自身のすべてを認めましょう。アナタ自身がアナタを愛せなくては、他人もアナタを愛せません。どんな自分であっても受け入れた上で、「自分はダメ」と思い込むきっかけとなったことをゆっくり思い出してみます。過去にあったミスのせい?でも今のアナタなら、もはや同じ間違いをしない人間にちゃんと成長しているはずです。 私にはこの仕事を期限内にキチンと片付けることはできない。毎日の仕事に追われてどうしようもない 集中して1つずつ片付ければ、ちゃんとやりとげられます。現にこれまでも、そうして仕事を上げてきたはず。毎日予定に追われているのなら、それは自己管理が苦手なためかもしれません。自分の頭の中であれこれ考えると不安になるものです。いっそ1日にどれだけのことをすべきなのかといった記憶は、スケジュール帳などに細かく時間を割り振ってしまい、考えずにその通り行動し、少しでも脳にかかる負担を減らしてみては。目的を立てた分、達成感も得られます。 今の地位・ポジションは自分にふさわしくない 自分の学歴や社会的地位に満足しておらず、将来に絶望して、何とかしようとあがいている。本当の目標や夢を見失っている。努力が報われないと無力感に襲われる…。でも、それはそもそもアナタに満足や幸福を与えてくれるものなのでしょうか?高い地位や富で他人にチヤホヤされたとしても、結局はむなしくなり、挫折しやすいことでしょう。今の自分の地位も肯定して受け入れ、笑いとばせるくらいの方が他人にも愛されやすいかもしれません。また例え少しずつでも、自分自身の成長を人生の目的にすえている人は心の病になりにくいようです。 同僚、上司などに仕事を頼まれると、いつも断われない 人に頼られることの多いアナタ。もちろん仕事ができるからこそ、頼まれるのですが、仮に抱え込みすぎ潰れてしまった場合、今までの苦労が水の泡になってしまいます。仕事は、そうならない程度に受けるようにしませんか?仕事を断われる人が、実は一番他人から信用されるものです。 どうしてもリラックスできない。何も楽しいこともない 肩に力が入ってませんか?体が緊張していては休めません。「休んではいけない」と思い込んでいませんか?休むのも仕事のうちです。うつ病の人はどうしても人目を気にしてしまうので、他人を避け、散歩などでのんびり一人になれる場所を探すのもいいでしょう。「楽しいこともない」のは生まれてこの方ずーっとですか?何か楽しかったことは必ずあったはずです。「勉強しなくちゃ」「仕事しなくちゃ」と思わされ続け、それを抑え込んでしまっているだけかもしれません。ゆっくりと楽しかった経験を思い出してみましょう。 同僚、上司、友人など他人に気を使い、責任感を強く感じる。そして無理して明るく振る舞い疲れる うつになる人の過剰な責任感は「他人に認められたい」ことからくるようです。でも、アナタが四六時中人のことを考えているわけではないのと同様、他人もアナタのことをずっと考えてはいません。また、万人を愛したキリストや釈迦すらも敵がいたように、どんなに素晴しい人でも万人に愛されるということはありません。やはりまずは自分です。人目を気にして偽っているのではない、本当の自分。心底その自分を愛し、いたわってこそ、他人にも優しく親切にできます。 悩みを打ち明ける人がいない 自分だけで悩みを抱え込む人は多いようです。シリアスな話をしたら嫌がられるのでは?と思えてしまいますが、まず打ち明けてみなければ、本当に相手が聞いてくれないかどうかは分かりません。むしろ人間は悩みを打ち明けられると、その人から信用されていると感じられ、人間関係が深く結ばれていきます。打ち明けてみなければ、いつまでも表面的にしか付き合えません。もし打ち明けても聞いてくれないような人であれば、そもそもその人とは親しくならない方がいいということ。事務的に関わっていくべき相手も必ず存在するのです。 ■関連記事 うつ病をFacebookから診断できる? 西川伸一先生ブログ・論文ウォッチから 疲れやストレスを感じたら体内時計をリセット!うつ病学会が自己管理のコツを紹介 うつ病に良い栄養は葉酸や鉄分 うつ病は過敏性腸症候群や善玉菌が関係あり うつ病、統合失調症など精神疾患が生活習慣改善により予防できるケースも 公開日:1999年4月3日
「心の病」になった時、どんな病院の何科を受ければいいのでしょうか?神経科?精神科?精神病院?クリニック?医療機関の違いを紹介します。 目次 どんな病院の何科に行けばいいの? こんな時には、この科へ! ご存じでしたか?保険証について どんな病院の何科に行けばいいの? 心の病もこじらす前に、なるべく早く専門医に診てもらわなければ、病状は重くなってゆき、治すのも大変になります。うつ病などの場合、自殺してしまう危険もあります。 しかし神経科や精神科など、普段あまり馴染みのない人も多いことでしょう。実際に行ってみると、来ているほかの患者さんも普通の内科などと特に変わりはありませんが、なんだかよく分からないままだと不安なものです。いざという時、一体どんな病院の何科に行けばいいのかもピンとこないかもしれません。 そんな不安を解消するために、具体的な治療や医療機関などをご紹介します。 こんな時には、この科へ! 心の病の病状などによって、受診する科は以下のように主に4つに分かれています。患者さんの受診のしやすさなどを考え「内科・心療内科」などと看板を出しているところも多いようです。また、神経科と精神科はほとんど同じ意味に使われているところもありますので、初めて受診する場合は、あらかじめ電話で症状を伝え、実際に何科の専門医がいるのか確認を。 ●精神科:うつ病や統合失調症などの精神病 ●神経科:ノイローゼや自律神経失調症など神経症 ●心療内科:胃潰瘍や気管支ぜんそく、高血圧、心身症など ●神経内科:脳卒中後遺症やパーキンソン病など、純粋な神経の病気 では、どんな病院・医療機関を訪ねたらいいのでしょう?各医療機関の違い、活用方法は以下の通りです。 診療所・クリニック 身近で気楽に入りやすい医療機関。入院施設がほとんどなく、通院で治療します。診療時間も、サラリーマンが通いやすいよう、夜間・休日にも行っているところも多くあります。 病院 20床以上の入院施設を持ち、外来も入院診療も行います。入院してゆっくり休むことができるようです。 保健所 国民のさまざまな健康問題に応じるため、都道府県および政令指定都市が設置している公的機関。心の病であっても同様に応じてくれます。相談は無料なので、まずは気軽に保健所を利用するのもいいでしょう。 精神保健福祉センター 各地区保健所を支援するためのもので、地区により名称は違う場合もあります。保健所と同様の機能とともに、医療費の公費負担制度など、活用できる福祉制度を教えてもらうこともできます。こちらも相談は無料です。 心理相談機関 専門の臨床心理士やソーシャルワーカーなどによるカウンセリングや相談を行っている民間機関。時間をかけた個人面接などを行います。保険が適用されず自費となり、料金もそれぞれ異なりますので、受診前に相談費用の確認を。 ご存じでしたか?保険証について 保険証を使って診療を受けると、会社にも精神科へ行ったことが分かってしまうのでは?と危惧する人もいるかもしれません。ご安心を。診断名は会社に分からないようになっています。町の小さい診療所であっても、秘密はきちんと守られます。また総合病院などで知り合いに出会っても、具体的に何科を受けに来ているのか?などということは、人には分かりません。 公開日:1999年3月27日
生真面目で責任感が強い人が陥りやすいうつ病。最悪の場合、軽い初期や回復期に発作的に自殺してしまうこともあります。どのようなことに注意するとよいのでしょうか。 目次 うつ病は「なまけ病」ではない! こんなタイプが要注意! 注意しなくてはならないこと アルコール依存症の原因はうつ病だった? うつ病は「なまけ病」ではない! うつ病は、誰でもかかる可能性がある病気です。症状としては憂うつ感、無気力・無関心・無感動、強い疲労感、集中力・思考力・判断力の低下、不安、焦り、睡眠障害、食欲・性欲の低下などが挙げられます。 その無気力ぶりを家庭や職場で「アイツはなまけ者になった!」と理解してもらえないこともありますが、決して「なまけ病」ではありません。むしろ、心のなかで「キチンとしなくては!」と本人も思っている場合がほとんどで、周りが叱咤激励すると逆効果となることもあります。 こんなタイプが要注意! 生真面目、徹底主義で凝り性、几帳面、正直、正義感が強い、責任感・義務感が強い、趣味に乏しい、人情深くいつも他人に気を配る、相手の気持ちに敏感、「場」を大事にして人に同調する、「~ねばならない」とよく思う。 こうしたタイプはうつ病になりやすいと言われていますが、職場ではありがたい存在のため、その考え方や行動を上司・同僚などに肯定され続けることが多く、「心の病」の原因にもなるということを見逃しやすいようです。 注意しなくてはならないこと 真面目で几帳面、他人に気も配るので「良い性格なんだから問題ないじゃない?」と思われがちですが、仮にうつ病に陥ってしまうと、最悪の場合、発作的に自殺する可能性があります。しかもこうしたことは、病の重い時期より、むしろ軽い初期や回復期に起こりやすく、自殺者の多くがうつ病であるとも言われています。未遂に終わった人の話を聞くと「自分でも何故そうしたのか分からない」と答えるほど、うつ病という病は、時に人を支配します。 自分や大切な人が「うつ病かな?」と思えたら、まずは専門医に診てもらうよう常日頃から心得ておきましょう。 アルコール依存症の原因はうつ病だった? うつ病の人は、同時にアルコール依存症にも陥ってるケースもあるようです。それは、うつのための不安や焦りを解消しようとして、ついお酒に頼ってしまうから。しかし数々の歌にもある通り、悲しい時に飲む酒は決して人を明るくはしてくれません。より悲しさが増すだけです。 うつの時に飲む酒も、うつを消してはくれません。しかも、うつ病の人はアルコールの効きが悪いことが多く、酒量も増えやすくなります。もしすでに抗不安薬を処方されていて、それが効かないと感じるのであれば、別の薬に変えてもらえないか医師に相談をしましょう。 全面禁酒すべし!というわけではありませんが、お酒は安定剤にはならないことを胆に命じておくとよいでしょう。 ■関連記事 うつ病をFacebookから診断できる? 西川伸一先生ブログ・論文ウォッチから 疲れやストレスを感じたら体内時計をリセット!うつ病学会が自己管理のコツを紹介 うつ病に良い栄養は葉酸や鉄分 うつ病は過敏性腸症候群や善玉菌が関係あり うつ病、統合失調症など精神疾患が生活習慣改善により予防できるケースも
ひとの心や生活、生い立ちがさまざまであるのと同様、「心の病」の在り方も、決して一様ではありません。そのなかでも共通点を見つけ分類すると、「心の病」には、神経症・双極性障害・統合失調症の代表的な3つがあります。 目次 神経症 双極性障害 統合失調症 神経症 頭痛など体の異常、不安・抑うつなど精神の異常を訴えますが、身体医学的な検査では異常が認められず、心が原因で発現すると考えられるものです。 似たものに「心身症」があります。こちらは原因が心にあることは同じですが、実際に体の疾患が現われるところが違います。ノイローゼ、パニック障害、自律神経失調、ヒステリーなども神経症のひとつ。治療法としては薬物療法、精神療法、認知行動療法などが挙げられます。 双極性障害 双極性障害は、気分が高揚し、活動が増える「躁状態」と、落ち込んで、やる気が失せてしまう「うつ状態」という対極にある状態が繰り返し現れる(気分の波)精神疾患です。うつ病が、うつ状態のみがみられる「単極性」であるのに対して、うつ状態と躁状態の両方があることから「双極性」と名付けられました。かつては「躁うつ病」と呼ばれていた病気です。 双極性障害に特徴付けられる躁状態では、普段とは人が変わったように「気分が昂ぶる」「おしゃべり」「やたらと社交的になる」「眠らないでも平気で動き回る」といった気分・行動の変化が認められ、それが昂じると仕事や人間関係に支障をきたしてしまうこともあります。 双極性障害は治療が難しく、長引きやすい病気と言われています。治療は家族の協力の下、正しい治療を継続することが大切です。 双極性障害とはどんな病気?発症するきっかけは? 統合失調症 統合失調症になると、見えないはずのものが見える幻覚、聞こえないはずの音や声が聞こえる幻聴、現実にはありえない妄想にとらわれたり、身なりを気にしなくなるほど意欲が減退するなど、さまざまな症状があらわれます。なぜこの病気を発症するのかについてはまだ解明されていない部分も多いですが、これまでの研究で、脳の中にある神経伝達物質であるドーパミンという物質の異常が関係しているのではないかと考えられています。 以前は「精神分裂病」という病名で呼ばれていたが、その病名がどことなく危険で異質なイメージを持たれがちなため、「統合失調症」という病名にあらためられました。 いない人の声が聞こえる~統合失調症という病気 公開日:1999年3月27日
学生時代とは大きく生活環境が変わった新入社員。この時期は、抑うつ状態に陥りやすいそうです。あなたの周りの新入社員は大丈夫ですか?暖かく厳しく見守っていきましょう。 目次 現実に適応できない 無気力になるかと思いきや、攻撃的な性格に!? 「六月病」と呼ばれる状態にならないためには 現実に適応できない 新入社員研修が終わり、職場の配属となって1ヵ月余りが経った6月頃、朝起きるたびに吐き気や腹痛に襲われ、遅刻や欠勤を繰り返す…。そういった症状が、希望に燃えて新生活を始めたはずの新社会人に現れるのが、五月病ならぬ、いわゆる「六月病」です。六月病も五月病と同様の俗称であり、医学的に認められた病名ではありません。その正体は、生活が急変したことによるストレスが原因の適応障害だと考えられています。 主な症状として次のようなものがあります。 ●ノイローゼ(特にうつ状態)、不眠、不安、パニックなどの神経症 ●胃痛、食欲不振、肩凝り、頭痛、めまい、吐き気などの心身症 無気力になるかと思いきや、攻撃的な性格に!? 六月病と聞くと、うつ状態や無気力、不安感、焦燥感といった、どちらかと言えば、心身ともに弱っている印象を受けるかもしれません。しかし、適応障害であれば、乗り物の無謀な運転やケンカ、物を破壊する行為など、むしろ言動が激しくなるという一面もあります。 症状を抑えるには、ストレスの元となっているものから距離をとることが有効となります。場合によっては、薬物療法や心理療法などが必要となることもあります。 「六月病」と呼ばれる状態にならないためには 俗に「六月病」と呼ばれる状態になるのを防ぐために大切なのは、現実をあるがままに見つめ、明るく素直に順応することです。新しい環境に早く慣れるように努力し、失敗をしながら仕事を覚えるくらいの楽な気持ちで毎日を過ごすようにすれば、ストレスも少なくてすむでしょう。そのためには、経験豊かな上司、同僚の温かくも厳しい目が必要となります。 ■関連記事 うつ病をFacebookから診断できる? 西川伸一先生ブログ・論文ウォッチから 疲れやストレスを感じたら体内時計をリセット!うつ病学会が自己管理のコツを紹介 うつ病に良い栄養は葉酸や鉄分 うつ病は過敏性腸症候群や善玉菌が関係あり うつ病、統合失調症など精神疾患が生活習慣改善により予防できるケースも