iPS細胞から作った細胞シートを、滲出型加齢黄斑変性の患者さんの網膜に移植する手術が、2014年9月に行われました。iPS細胞を応用した再生医療の臨床試験はこれが初めてですが、実用化に向けて、この手術の観察結果や評価に注目が集まりそうです。今回は、今後に期待が集まるiPS細胞についてご紹介します。 目次 iPS細胞から作った細胞シートを加齢黄斑変性の患者に移植 今回の臨床研究の主な目的は、安全性の確認 2020年にはiPS細胞が実用化されている!? iPS細胞から作った細胞シートを加齢黄斑変性の患者に移植 山中伸弥氏が、iPS細胞(人工多能性幹細胞)の作製に成功した功績により、ノーベル生理学・医学賞を受賞したのは2012年のこと。iPS細胞は、皮膚などの細胞に特定の遺伝子を入れ、人工的に増殖させて作られる細胞で、あらゆる組織や臓器を形成する細胞になることができます。同様の働きをもつES細胞とは違い、受精卵を操作する必要がないため、倫理的な問題を避けることができ、患者本人の細胞から作られるため、拒絶反応の心配もありません。 2014年9月に、先端医療振興財団と理化学研究所が実施した臨床研究で、iPS細胞が初めて応用されました。臨床研究とは、治療法の効果や安全性を確かめるために人間を対象に行われる、研究の側面をもった試験です。この臨床研究としての手術の対象となったのは、滲出型(しんしゅつがた)加齢黄斑変性を患う、兵庫県に住む70歳代の女性です。片目の網膜の下に、iPS細胞を網膜色素上皮(RPE)細胞に変えて作った1.3ミリ×3ミリのRPEシートの移植が行われました。無事成功し、女性が退院したのは、手術から約1週間後。合併症などはなく経過は良好で、異常はみられませんでした。 滲出型(しんしゅつがた)加齢黄斑変性とは? 加齢黄斑変性は、眼球の内側を覆う網膜の「黄斑」の機能が、加齢によって低下する病気です。物がゆがんで見える、視野の中心が暗くなる、視力が低下するといった症状が現れます。黄斑の組織が加齢とともに萎縮することで、黄斑がダメージを受ける「萎縮型」と、網膜の下にできた新たな血管(新生血管)から漏れ出た液体により、黄斑がダメージを受ける「滲出型」という2種類に分類されます。滲出型の主な治療法として、新生血管が作られるのを防ぐ薬を硝子体に注射する「抗VEGF療法」や、レーザーで新生血管を破壊する「光線力学的療法」、レーザーで新生血管を焼く「光凝固法」などがあります。 今回の臨床研究の主な目的は、安全性の確認 滲出型加齢黄斑変性の治療では一般的に、新生血管が作られるのを防ぐ薬を用いた「抗VEGF療法」が行われます。この治療法で新生血管の抑制はできますが、黄斑部を構成する網膜色素上皮(RPE)が劣化したのを元に戻すことはできません。これに対して、今回の手術で行ったRPEシートの移植では、RPEの修復が期待できます。 この臨床研究の主な目的は安全性の確認であり、視力の大幅な改善などの治療効果を期待するものではありません。手術を受けた女性も、これに同意したうえで臨床研究に参加しています。当初は6人への手術が計画されていましたが、「再生医療安全性確保法」が2014年11月に施行されるのを受けて、1名へと変更されました。RPEシート移植の安全性や、見え方の影響を評価するには、約1年間の観察が必要となります。 2020年にはiPS細胞が実用化されている!? iPS細胞を応用した再生医療は、臨床研究が始まったばかりです。効果や安全性をより多くの人で確かめる治験や、国からの承認を経る必要があるため、すぐに実用化されるわけではありません。しかし、経済産業省が今回の手術に先立ち2013年2月に発表した『再生医療の実用化・産業に関する報告書 最終取りまとめ』では、加齢黄斑変性や網膜色素変性症、脊髄損傷などの治療に用いられる医療製品が、2020年の時点で実用化されている可能性が示唆されています。 文部科学省が2013年2月に更新した『iPS細胞研究ロードマップ』には、網膜色素上皮(RPE)細胞の人間への臨床研究を、1~2年のうちに実現させる計画が示されていました。これが今回の手術として計画通り進んだわけですが、下表のとおりほかの組織でも同様に、臨床研究を開始する計画が進められています。膵臓や腎臓、肝臓などの臓器移植での実用化は、2030年以降の見込みです。 法律の改正なども含め、実用化に向けて確実に前進しているiPS細胞を応用した再生医療。多くの人々の期待を受けて、今回の手術の観察結果や評価にますます注目が集まりそうです。 iPS細胞を用いた人間への臨床研究開始計画(2013年2月時点) 【網膜色素上皮細胞】1~2年 【視細胞】3~4年 【血小板】3~4年 【心筋】3~5年 【ドーパミン産生神経細胞】3~5年 【角膜】4年以内 【神経幹細胞】5年以内 【赤血球】5年後以降 【膵β細胞】5年後以降 【肝細胞】5年後以降 【骨・軟骨】7年後以降 【骨格筋】7年後以降 【造血幹細胞】7~10年後 【腎臓細胞】10年後以降 出典:文部科学省「iPS細胞研究ロードマップ」 公開日:2014/10/27
2000年に登場した、手術支援ロボット「ダヴィンチ」。前立腺がんの治療法として「ダヴィンチ」を用いたロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術は、2012年には前立腺がんの保険適用となって以降、この手術法を選択する患者さんは増えています。ダヴィンチの機能やダヴィンチ手術の効果などをご紹介します。 目次 保険適用となって以降、ダヴィンチによる前立腺がん手術が増加 出血量が少なく、がん細胞を取りきる効果は開腹手術と同等 ダヴィンチ手術の費用は?手術を受けられる年齢や医療施設は? 保険適用となって以降、ダヴィンチによる前立腺がん手術が増加 前立腺がんは、65歳前後から多く発見されるようになる、男性特有のがんです。発症には、加齢や家族歴(家系)、アンドロゲンという男性ホルモンなどが関係していると考えられています。早期のうちは自覚症状がありませんが、進行すると残尿感や頻尿などが現れるようになり、骨や肺などに転移することもあります。 進行状況や高齢であることなどを考慮し、積極的な治療を行わない場合は、血液検査でPSA値などを確認する経過観察するPSA監視療法(待機療法)が行われます。積極的な治療が必要な場合は、手術による前立腺の摘出や放射線治療、内分泌療法や化学療法などの薬物療法が行われます。 前立腺がんの主な治療法 ●PSA監視療法(待機療法) ●手術(外科治療) ・開腹手術 ・腹腔鏡下手術 ・ダヴィンチ手術 ●放射線治療(陽子線治療、重粒子線治療) ●内分泌療法(ホルモン療法) ●化学療法(抗がん剤治療) 前立腺を摘出する手術の方法はかつて、下腹部を切開する開腹手術のみでした。後に、腹部にあけた小さな穴から内視鏡や電気メス、鉗子(かんし:物をつかんだり圧迫したりするハサミ状の手術器具)などを挿入し、モニターを見ながら切除する腹腔鏡下手術が行われるようになりました。これらに加わる形で2000年に登場したのが、手術支援ロボット「ダヴィンチ」を用いたロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術です。「ダヴィンチ手術」「ロボット手術」などと呼ばれ、2012年には前立腺がんの保険適用となって以降、この手術法を選択する患者さんは増えています。 ダヴィンチ手術の様子 出血量が少なく、がん細胞を取りきる効果は開腹手術と同等 鉗子の操作の様子 ダヴィンチ手術のがん細胞を取りきる効果は開腹手術と同等でありながら、傷口の小ささは腹腔鏡下手術と同等で、出血量はさらに少なく抑えられます。ダヴィンチを使用した手術は通称「ロボット手術」と呼ばれますが、ロボットが自動的に手術を行うわけではありません。ダヴィンチ、すなわちロボットを操作して手術を行うのは医師であり、ロボットは医師をサポートする役割を担っています。 ダヴィンチは、次の3つから成ります。 (1)患者から離れた場所に配置される操作盤「サージョンコンソール」 (2)患者の側に配置されるアーム部「ペイシェントカート」 (3)画像処理装置を格納した「ビジョンカート」 医師は、ペイシェントカートの内視鏡カメラが撮った体内の3D画像を見ながら、サージョンコンソールでアームの操作を行います。ビジョンカートは、最適な画質に処理された3D画像をサージョンコンソールに映し出すだけでなく、モニターにも2D画像として映し出します。これにより、手術を行っていない医師や看護師も、手術の様子を同時に把握できます。モニターに取り付けられたマイクによって、サージョンコンソールで手術を行っている医師と、音声でコミュニケーションをとることも可能です。 サージョンコンソール ペイシェントカート ダヴィンチにはロボットならではの、次のような機能が備わっています。 ダヴィンチの主な機能 ●高解像度の立体画像として体内を見られる3Dカメラ ●拡大して見ることができるズーム機能 ●人間の手より多い3本のアーム(内視鏡を取り付けたカメラアームを含めると計4本) ●2回転以上まわるリスト(人間における手首) ●人間の手指のようにつかむ、はがすといった動作が可能な鉗子 ●繊細な動きをサポートする医師の手ぶれ防止機能 ●手術する医師が、長時間立ったままの無理な姿勢でいる必要がない、座った姿勢での手足による遠隔操作 ダヴィンチ手術の費用は?手術を受けられる年齢や医療施設は? ダヴィンチ手術の選択を検討する患者さんの多くが懸念する点として、次のようなものがあります。疑問に思うことや不安なことがあれば、医療施設に問い合わせて確認し、納得したうえで治療を受けることが大切です。 Q. 手術の費用は? A. ダヴィンチを用いた前立腺の摘出手術は健康保険が適用されます。3割負担の場合、一般的に約40~50万円とされています。高額療養費制度(限度額を超えた分の医療費が払い戻される、公的医療保険における制度)も適用されるので、最終的な負担はさらに軽減されます。手術を受ける医療施設で、事前に確認しましょう。 Q. 手術を受けられる年齢は? A. 高齢者でも、開腹手術や腹腔鏡下手術を受けられる人であれば、受けることが可能です。ダヴィンチ手術は、開腹手術よりも体の負担が少ないと考えられています。ただし、前立腺がん以外の病気にかかっていると受けられないこともあるので、医師と相談して決める必要があります。 Q. 手術を受けられる医療施設は? A. ダヴィンチを導入している国内の医療施設は限られています。そのため、お住まいの地域の医療施設でダヴィンチ手術を受けられるかどうか、事前に問い合わせて確認しておく必要があります。日本では、100を超える施設がダヴィンチを導入しています。世界の医療施設で導入されている約3,100台のダヴィンチのうち、日本の導入数は約180台です。 前立腺がん以外の腎臓がん、子宮頸がん、大腸がんなどのほか、がん以外では心臓外科の領域でも、ダヴィンチ手術は行われています。しかし、これらの手術では健康保険適用は認められていないため、全額が自己負担となります。前立腺がん以外でも保険適用がされることが、患者側の立場からは望まれます。 ダヴィンチ手術の難点として、受けられる医療施設が限られていることがあります。ダヴィンチの登場当初は1台約3億円とされ、多くの医療施設はなかなか導入できませんでした。近年ではダヴィンチ手術の実績が認められてきたのとともに、価格も約2億5千万円に引き下げられたり、アームが1本少ない1億円台のタイプも発売されたりと、依然として高額ではあるものの、導入のハードルはいくらか下がったと言えます。 ダヴィンチは元々、遠隔地の兵士を治療するという軍事的な目的もあり、米国で開発が進められたと言われています。長距離間での遠隔操作など、今後の技術的な開発にも期待が高まります。 画像提供:インテュイティブサージカル合同会社 公開日:2014/10/14
2008年9月、脳内出血を起こした出産間近の妊婦を、都内の7医療機関が受け入れ拒否。その後、妊婦が死亡した事件で、日本の医療危機があらためて浮き彫りにされました。いま、医師不足は重大な問題に発展しています。 目次 医師は本当に不足している? 原因その1・医療制度の問題 原因その2・医師の労働環境 原因その3・患者側の問題 医師は本当に不足している? 2008年9月、脳内出血を起こした出産間近の妊婦を、都内の7医療機関が受け入れ拒否。その後、妊婦が死亡した事件で、日本の医療危機があらためて浮き彫りにされました。患者の命と健康を守る医師が病院にいません…。いま、医師不足は重大な問題に発展しています。 はたして、医師は本当に不足しているのでしょうか。厚生労働省の調査によると、2006年の医師数は27万7927人。人口1000人あたりに換算すると、2.2人です。OECD加盟国平均の2.9人(2003年調査)をかなり下回っており、絶対数は少ないといえます。 じつをいうと、医師数自体は増加傾向にあります。「厚生労働省 第1表医師数の年次推移,業務の種別」によると、2006年の医療施設に従事する医師数は10年前と比べると14.4%増加しています。それにもかかわらず、医師不足は深刻化する一方です。冒頭の事件のように、地方だけでなく都会でも問題になっているのが現実です。いったい、なぜ医師不足が叫ばれるようになったのでしょうか。 原因その1・医療制度の問題 直接の引き金になったのは、2004年にスタートした「新医師臨床研修制度」です。それまでの「卒後臨床研修制度」では、臨床研修は「やるほうが望ましい」という努力規定にすぎなかったのですが、義務規定になったことで、すべての新卒者が2年以上の臨床研修を受けなければならないこととなりました。 制度改訂のひとつの背景に、医師の専門化が進みすぎたことがあります。かつての研修では、出身大学やその関連病院での単一診療科によるストレート方式による研修が多く、地域医療との接点が少なく、幅広い分野での臨床経験を積むことができませんでした。このため、新制度では、内科・外科・救急部門などさまざまな診療科を研修し、幅広い診療能力が身に付けられる総合診療方式(スーパーローテイト)が導入されたのです。 しかし、この新制度には落とし穴がありました。研修医自身が研修先を全国から自由に選べるようになったことです。その結果、研修医は、これまでの研修先であった大学病院やその関連病院に比べ、高給で迎え入れてくれる待遇のいい一般病院に集中し、研修医の大学病院離れが深刻化することになりました。さらに、大学病院での研修医が減ったことで、大学病院はこれまで地域の自治体病院などに派遣していた医師を引き揚げざるを得ない状況に陥っています。 さらに、医療法で定められた医師の配置基準の改定や診療報酬(医療保険から病院に支払われるおカネ)の改定、病院の在院日数の短縮施策などさまざまな制度の改定により、地方の病院や、ハードで医師が集まりにくい小児科、産科、麻酔科、救急外来などが、次々と縮小や閉鎖に追い込まれることとなったのです。 原因その2・医師の労働環境 もうひとつの要因は、医師の労働環境です。 月に何度も当直(仮眠をとり、急患があれば診療すること)をこなさなければならない勤務医の仕事はかなり過酷です。休みの日も呼び出しを受けたらただちに病院に駆けつけなければならないことも多く、診察の合間には事務処理もこなすなど、息つく間もない日々です。そのうえ、医療過誤に対する社会の目が厳しくなり、裁判事件が後を絶ちません。疲労困憊したあげく、病院を辞めて開業するケースが増加しています。 また、女性医師の増加もひとつの原因となっています。医師国家試験合格者に占める女性の割合は今や3割です。しかし、家事や子育てと医師の仕事との両立はあまりにハードで、このため30代を過ぎると、常勤医を辞める人が多いといいます。 原因その3・患者側の問題 患者の変化もまた、医師たちを追い詰めています。働く女性の増加で、夜間や休日に小児救急を訪れる親が急増しました。まるで24時間営業のコンビニエンスストアででもあるかのようです。おかげで、当直医は仮眠をとる暇もなく、文字通り不眠不休の診察に追われています。 また、専門医志向が高まり、大病院に軽症患者が詰めかけるようになりました。しかも、医師に暴言を吐いたり、無理な要求をつきつけたりする「モンスターペイシェント」も増えています。必死で働いても、感謝すらされません…。どんなに志の高い医師でも、これでは逃げ出したくなるのも当然かもしれません。 それでは、患者である私たちはどうすればいいのでしょうか。医師の負担を減らすためには、まず、むやみに大病院を受診しないことでしょう。総合的に診察してくれる地域の「かかりつけ医」を見つけ、日頃のちょっとした不調を診てもらいます。いよいよ専門的な治療が必要になれば、紹介状を書いてもらい、より大きな病院に行けばよいのです。 また、ふだんから健康管理に気を使い、病気を防ぐ努力も必要です。生活習慣や栄養バランスを見直すだけでなく、さまざまな病気の知識も身に付けておきましょう。 いつでも、だれでも、保険で安く診察が受けられる日本の医療。しかし、このまま医師不足が進めば、それも過去のものになってしまうかもしれません。医師不足にストップをかけるために、私たち患者もできることから始めていきましょう。 公開日:2008/12/15
医療費削減策の一環として、厚生労働省は2011年度末(2012年3月)までに長期入院患者の受け入れを行ってきた療養型施設の削減を行うことを決めた。これによって、何がどう変わるのか…。わずか5年後という、すぐ目の前にある医療の現実だ。 2011年。突然、退院させられる日が来た… それまで身の周りのことはすべてこなしていた父親だったが、この骨折を機に体調が次第に悪化。入院が長引いていた。それからしばらくたったある日、休暇を使ってお見舞いに行ったAさんに告げられたのは、ある選択を迫るもの。それは、「この病院は有料老人ホームへと転換しますので、入居するなら手続きを。そうでなければ別の施設を探してください」というものだった――。 施設探しに奔走する日々――。そして出した答えは… マイホームのローンも残り、大学受験を控えた息子を持つAさんには頼れる兄弟もおらず、父親を有料老人ホームに入居させることは経済的に厳しかった。そこで別の病院を探そうと病院内の医療連携室に相談したところ、ほかの病院でも長期入院の患者の受け入れは、医療ニーズの高い人に限られ、Aさんの父親は困難だという回答だった。次に特別養護老人ホームや老人保健施設などの介護施設を探してみたが、施設によっては200人もの空き待ちの人がいるという。住み慣れた土地を離れたくないという父親の強い願いと迫る退院日。やりがいのある仕事、受験を控えた子どものこと…Aさんは悩みに悩んだが、結局会社を退社。家族を残し、1人実家へと戻ることにした。 Aさんは訪問診療をしている診療所や訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所などを回り、父親の在宅での受け入れ体制を整えた。しかし、Aさんは慣れない介護や家事に日々追われるうちに、体調を崩し、精神的にも疲れきってしまい…。 入院ベッドがなくなる日が目の前に… この話は決して他人事ではない。というのも、入院が長期化することの多い高齢者の受け皿になっている療養型施設が、医療費の高騰要因であるとして、現在38万床ある療養型病床のうち、2011年度末までに医療型療養病床23万床を15万床に、介護型療養病床15万床を全廃させることが決まったのだ。削減対象となる23万床は急性期病床や回復期リハビリテーション病床へと転換し、従来の医療施設として残るか、老人保健施設や有料老人ホームなどの介護施設への転換が求められる。 長期療養が必要な高齢者のなかでも医療ニーズの高い患者は医療型療養施設に入院することができるが、多くの患者は介護施設へ移るか、在宅での療養かの選択が迫られることになる。しかし、独居の高齢者の増加など、自宅療養・介護が困難な社会的状況下にある人も少なくないのが現状であり、地域の受け皿も整備されているとは言いがたい。すでに財政面や人手の確保が困難だという声があがっているほどだ。 今回の療養型病床削減による長期入院患者の減少は医療費の削減につながることは間違いないだろう。しかし、すべての人が適切なケアを受けることができる体制は受け皿の確保を持ってはじめて可能となるのであり、この削減案には、今後の課題が山積みなのだ。 公開日:2007年3月26日
「白衣の天使」とも呼ばれ、人命にも関わる重要な仕事「看護師」。もし、あなたが入院したり、診察に訪れた病院の担当看護師さんが外国人だとしたら…?少し想像しにくい話かもしれないが、これが現実となる日が来た。 なぜ、外国人看護師の受け入れが決まったのか 厚生労働省によれば、全国で今年度必要とされる看護職員の数131万4100名に対し、約4万1600名が不足しているといわれている。どの病院も看護師確保には苦慮しているのだ。その一方で外貨獲得を目指すフィリピンでは、アメリカやイギリスなど看護師不足に悩む国に対し、積極的に看護師を派遣しており、2004年からは日本にもその受け入れを求め、交渉が続けられていた。 時を同じくして、日本国内でも構造改革特区内の病院が、規制緩和による外国人看護師の受け入れを申請するなどの動きがあり、看護師不足対策のひとつとして、外国人看護師の受け入れの是非が問われていた。そしてついに2006年9月、対フィリピンとの経済連携協定(EPA)により、フィリピン人の看護師志願者受け入れが承諾された。 外国人看護師の受け入れ条件とは? 看護師志願者の受け入れを認めたといっても、もちろんだれもが可能なわけではない。まずフィリピンの看護師資格を持ち、3年間の実務経験を持つ人であることが条件だ。 来日後は、日本語研修を経て、日本国内の病院で就労、研修を行いながら、日本の看護師資格を取得しなければならない。資格取得までの間は年1回の更新で、3年間の在留期間が認められる。この3年の間に試験に合格し、看護師資格の取得ができれば、日本人看護師と同等以上の報酬が保障され、正式に病院での就業が可能となる。その後の在留期間は上限3年となるが、更新回数に関する制限はない。ただし、その間に看護師資格が取得できなければ、帰国となる。 2007年から実施?外国人看護師、今後はどうなる 看護師志望者の受け入れは、日本、フィリピン両国の手続きが順調に進めば、2007年はじめにも開始される。志願者第一陣の来日開始後、2年間で400名を受け入れる方針だ。しかし、看護研修、日本語の習得をはじめ、多くの技術、知識取得が必要であることに加え、日本人医師や看護師、患者とのコミュニケーションに対する不安の声があるのも事実だ。そのため支援体制整備や、就労・研修先での周囲のスタッフの協力が重要なカギとなる。 アメリカ、イギリスなどの先進国では、すでに約40%が外国人看護師だといわれている。しかし日本では、外国人看護師がどの程度定着するかはまだ未知数であり、今回の決定が看護師不足の切り札になるとは考えにくい。そのためにも国内での潜在看護師の確保や、看護師の就業環境の改善など、看護師不足の根本的な解決方法を同時に進めていく必要があるだろう。 公開日:2006年11月6日
毎年、春は「確定申告」のシーズンです。会社員は関係がないと思われがちですが、実は会社員でも確定申告することによって、支払った医療費の一部が戻ってくるかもしれません。年間の医療費が家族で10万円を超すと利用できる従来の医療費控除のほかに、スイッチOTC医薬品の購入金額が1万2千円を超すと利用できるセルフメディケーション税制もあります。 目次 払いすぎた税金を取り戻せる!確定申告とは? 医薬品の購入費が1万2千円以上なら「セルフメディケーション税制」 医療費控除の対象となる可能性が高いのは、こんな人 実践!控除されるお金を計算してみよう 還付を受けるためのテクニック 払いすぎた税金を取り戻せる!「確定申告」とは? 確定申告とは、前年1年間の所得額を申告して、納税額をあきらかにする手続きのことで、期間は例年2月16日~3月15日です。最寄りの税務署の窓口や郵送で申請書を提出する方法のほかに、インターネット(e-Tax)などで申告することもできます。給与所得を得ている人は一般的に、勤務先で年末調整が行われるため、副業や一定額以上の年収がある場合などを除き、確定申告をする必要はありません。ただし、医療費控除、住宅ローン控除などは年末調整では処理されないので、控除を受けるには自分で確定申告をする必要があります。確定申告をして、個人的な事情による出費金額を所得金額から差し引く「所得控除」が適用されると、払いすぎた税金が戻ってきます。 生計を同じくする家族の医療費が、前年1年間で合計10万円を超えると、従来の医療費控除を受けられます。同居をしていなくとも、仕送りなどをしている場合は、生計を同じくしている家族と見なすことができます。 医薬品の購入費が1万2千円以上なら「セルフメディケーション税制」 医療費が合計10万円に満たない場合も、健康診断を受けているなどの条件を満たし、スイッチOTC医薬品の購入金額が家族で合計1万2千円を超えると、所得控除を受けられる「セルフメディケーション税制」が利用できます。スイッチOTC医薬品とは、以前は処方薬だったものが、現在は市販薬として購入できるようになった医薬品です。パッケージに、セルフメディケーション税制の対象であると示すマークが付いている医薬品もあります。従来の医療費控除とセルフメディケーション税制を同時に利用することはできないので、申請者自身がどちらかを選ぶことになります。 控除される還付金額は、スイッチOTC医薬品の購入金額や所得により異なりますが、上限は8万8千円です。セルフメディケーション税制について、詳しくは厚生労働省のホームページなどで確認しましょう。 厚生労働省ホームページ「セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)について」 医療費控除の対象となる可能性が高いのは、こんな人 合計10万円を超す場合に利用できる従来の医療費控除の場合、医療費には薬局で買った薬代や通院費のほかに、歯科でかかった入れ歯代や、重大な病気が見つかった場合などは人間ドック代なども対象となります。特にまとまった金額となるのは、妊娠・出産に伴う費用でしょう。分娩費はもちろん、検診代、検査代、通院費なども医療費となるので、計算の際には忘れないようにしましょう。 以下のような人が家族にいる場合は、医療費の合計が10万円を超え、従来の医療費控除を受けられる可能性が高いと考えられます。該当するかチェックしてみましょう。 対象となる可能性が高いのはこんな人 ●昨年に出産した人、妊娠中、出産予定のある人 ●歯科矯正などで歯医者に通った人 ●病院に行く回数の多かった人 実践!控除されるお金を計算してみよう STEP1 申告できる医療費を算出してみよう ■病院で… ・入院・通院費用 ・差額ベッド代(治療に必要な場合のみ) ・通院の交通費 ・緊急時のタクシー代※通常は対象外。ただし遠隔地の病院に通った場合は別 ・人間ドック費用※検診で重大疾病が発見され、そのまま治療した場合 ・病院で出た食事代 ・家族以外の付添い人の交通費や付き添い料金 ・保健婦による入院付き添い費 ・医療機関によるデイサービスや在宅介護費用 など ■歯医者で… ・歯科技師による診療費や治療費(金歯、金冠、義歯、インプラントなど) ・歯科ローン ・発育途中の子どもの歯列矯正 など ■薬局・専門店で… ・風邪薬 ・胃腸薬 ・漢方薬・ビタミン剤・補聴器・松葉杖※いずれも医師の指示によるもののみ ・成人用おむつ※ただし、医師の「おむつ使用証明書」が必要 ■産婦人科で… ・分娩費用 ・妊娠中の検診・検査 ・通院・定期健診の交通費 ・入院中の食事代 ・異常分娩・流産の際の手術・治療費 ・中絶費用※母体保護法に基づき、医師がおこなう場合のみ ・不妊症の治療費 など ■その他 ・眼鏡代(医師の処方箋がある場合のみ) ・弱視用眼鏡代 ・海外滞在中の病気治療費 こんな費用は申告できない! ・美容整形費 ・未払いの医療費 ・予防接種代 ・見舞客の接待費 ・うがい薬代 ・血圧計代 ・スポークラブの会員費 ・診断書の作成費用 ・人間ドック(異常なしの場合) ・入院中の身の回り品購入費 ・妊娠判定薬 ・出産のための里帰り交通費 ・本人の都合で使用した差額ベッド代 ・美容のための歯列矯正 ・マイカーによる通院費(ガソリン代など) ・乱視・遠視用コンタクトレンズ代 など ・ビタミン剤・栄養ドリンク剤(自己判断によるもの) STEP2 医療費控除金額を算出しよう ■計算式 控除金額=年間支払い医療費-保険金や分娩手当などで補てんされる金額-10万円(所得金額200万円以下の場合は所得金額の5%) 還付を受けるためのテクニック ●日頃から、病院や薬局の領収書や交通費の明細、タクシーの領収書などを整理しておきましょう。 ●市販薬や物品の購入時は、治療に必要な費用であることを証明するため、できれば医師に一筆書いてもらいましょう。 ●共働き世帯の場合、所得の多い方が医療費控除の確定申告を行ったほうが、税率が高いため還付金額も高くなりやすいです。 ●これまで申告していなかった場合も、過去5年前までさかのぼって控除を受けることが可能なので、昔の領収書などがあればすべて整理して計算しましょう。 医療費の控除を受けられるせっかくの制度を利用できるように、レシートを保管したり、医療に関する記録をとるように心がけたりして、日頃から翌年の申告に備えましょう。 公開日:2017年2月6日
healthクリックでは、現状の医療に関する満足度について意識調査を行い、130名の方から回答を頂きましたので、その結果を報告いたします。 「医療に関する満足度アンケート結果(1)」はこちらからご覧ください。 お薬は院内と院外とどちらで受け取る方が良いですか? 院内薬局と院外薬局のどちらを好むかを聞いたところ、院内薬局が55%と院外を上回る結果となった。 「社会医療診療行為別調査結果の概況」によると、院外処方率は平成12年で38.1%、平成19年で59.8%と年々増加傾向にあるが、その状況に反し、患者の中にはいまだ院内を希望する声が多いということが分かる。 院内薬局を好む理由としては、「会計が1回で済ませられる」「病気のときにわざわざ離れた薬局に行くのは辛い」「院外だと余計に費用がかかる」、また院外薬局を好む理由としては「院内ほど混んでいないから」「薬の説明、副作用、質問等に丁寧に説明してもらえる」「過去に複数の病院で処方してもらった薬の記録があるので安心」といった回答が見られた。 お住まいの地域の医療環境に満足していますか? 医療環境の満足度について聞いたところ、「とても満足している」は6%に過ぎず、「まあまあ満足」(51%)、「あまり満足していない」(35%)、「とても不満」(6%)と、全体的に不満傾向が見られた。 回答において特徴的だったのは、満足、不満足のいずれにおいてもその理由が「医療機関の充実度(アクセス、専門医の存在など)」にあること。 「とても満足している」「まあまあ満足している」と回答した人の理由としては、「医療機関の数が多くて安心」「近くにほぼ全ての科がそろっていて、救急体制も整っている」「通院に便利な場所に医療機関がある」などが多く、「あまり満足していない」「とても不満」と回答した人の理由としては、「医療機関が遠い」「地方のため高度医療の恩恵にあずかれない」「専門医がいない」などの意見が多く見られた。 どこの都道府県の医療が先駆的だと思いますか? 最後に、どこの都道府県が先駆的な医療を行なっていると思うか聞いたところ、東京が2位以下に大差をつけて1位となり、2位・大阪、3位・神奈川、4位・愛知、5位・北海道/福岡と、いずれも政令指定都市を抱える都道府県が挙げられた。 Q6の回答においても、都市部に高度先進医療が偏向し、人口の少ない地域では医療体制が充実していないという意見が多く見受けられたことを反映した結果と考えられる。 1位 東京 91名 2位 大阪 17名 3位 神奈川 16名 4位 愛知 14名 5位 北海道 9名 5位 福岡 9名 ※なお、0名だった地域は下記の通り。 山形、福島、栃木、群馬、山梨、岐阜、石川、福井、滋賀、鳥取、山口、香川、愛媛、高知、熊本
healthクリックでは、現状の医療に関する満足度について意識調査を行い、130名の方から回答を頂きましたので、その結果を報告いたします。 「医療に関する満足度アンケート結果(2)」はこちらからご覧ください。 外来での待ち時間はどれくらいなら平気ですか? 外来での待ち時間の許容範囲について聞いたところ、もっとも多い回答は「30分(46%)」だった。その理由としては「読書をしていれば気にならない程度」「携帯で予約ができ、順番待ちが確認できるため」「ちゃんと患者さんを診ていると納得できる」など、30分という時間を肯定的に捉えている回答が多かった。 30分未満の時間を挙げた人では、「他の人の病気がうつる」「症状が悪化する」「仕事を休まずに受診するので」といった意見が多く、逆に30分以上の人では「退職後なので時間に束縛されていない」「待合室の雰囲気が好きだから」「これくらいは当たり前」といった意見が見られた。 診察にはどれくらいの時間をかけて欲しいですか? 診察にかけて欲しい時間を聞いたところ、もっとも多い回答は「10分(50%)」と、待ち時間に比べ短い結果となった。その理由としては「納得がいく診療には最低でも10分はかかる」「重い病気にしろ、10分あれば十分な説明が受けられる」「あまり長くなると、他の患者の迷惑になる」など、10分という時間をじゅうぶんであり、適切と捉えている回答が多かった。 20分以上の診察を望む人の回答では「検査データの話ばかりでなく、メンタル面のサポートも欲しい」「納得できるまで説明して欲しい」といった意見が見られた。 プライバシーの保護は気になりますか? プライバシーの保護については「とても気になる」が55%と、半数を超えた。その理由としては「病気について他人に知られたくない」という回答が圧倒的に多く、一方「あまり気にならない」理由としては、「プライバシー保護に重点を置きすぎると、本来の業務に支障が出る」「むしろ患者の取り違えなど医療ミスの方が怖い」「病院の環境はそういうものだと思っているから」などの回答が見られた。 また、年代別では「とても気になる」が全体で55%なのに対し、50代で29%、60代で23%、70代、80代で0%と高齢になるにつれ減る傾向が見られた。 医療従事者等にクレームを言ったことはありますか? 医療従事者等にクレームを言ったことがあるか聞いたところ、実際に言った経験のある人は18%という結果となった。 ただし、「言いたかったが言えなかった(29%)」「直接言わなかったが、投書箱などを利用した(4%)」をあわせると51%となり、過半数の人が医療従事者に対し不満を抱いた経験のあることが分かる。
お話し手 大阪大学医学部附属病院長 同大学院医学研究科消化器内科学教授 林紀夫 先生 1972年大阪大学医学部卒。 米国テキサス大学研究員、大阪大学大学院医学研究科分子制御治療学教授等を経て、2005年から現職。 2007年から附属病院長。 日本肝臓学会理事長ほか医学会役職多数。 自己負担の上限は月額1~5万円 安心して治療を受ける環境が整った Q. C型肝炎の医療費助成制度がスタートしました。その概要を教えてください。 林先生: C型肝炎の根治を目的にしたインターフェロン治療に、2008年4月から医療費の公的助成が始まりました。薬剤費、診療費、入院費などの自己負担の上限額が月額1~5万円(世帯の収入によって3段階。下表参照)に定められたのです。これまで7~8万円が必要でしたから、患者さんには朗報といえるでしょう。この医療費助成は、感染経路にかかわらず受けることができます。 また、以前にインターフェロン治療の経験があって、再治療する場合も助成を受けることができます。助成期間は1年間です。助成を受けるためにはいくつかの書類をそろえて申請する必要があるので、保健所や医療機関の窓口で問い合わせてみてください。 階層区分 世帯あたり市町村民税(所得割)課税年額 自己負担額の上限(月額) A階層 65,000円未満 10,000円 B階層 65,000円以上235,000円未満 30,000円 C階層 235,000円以上 50,000円 感染者は全国で200万人 肝がんにつながる恐い病気 Q. 助成制度が始まった背景を教えてください。 林先生: C型肝炎の患者さんは大変多く、いまや国民病ともいわれる状況になっています。C型肝炎の原因であるC型肝炎ウイルスに感染している人は、推定ですが全国で約200万人です。 C型肝炎は放置すると、肝硬変、肝がんと悪化していく病気で、肝がんの約8割はC型肝炎が関係しています。つまり、名前こそ違っていても、C型肝炎、肝硬変、肝がんは同じ一連の病気ととらえなければなりません。肝がんは命にかかわる恐い病気。肝がんの発症を防ぐには、C型肝炎の治療が不可欠なのです。 大阪府では肝がんの患者さんを登録する仕組みになっていますが、年間の肝がん(転移を除く)発症数は、男性が約2,400人、女性が約1,100人です(2002年)。このところ、従来少ないとされてきた女性の患者さんが増えています。高齢になると女性も肝がんにかかりやすいことがわかってきました。 輸血や血液製剤を介して感染 感染に気づいていない人も多い Q. どのような人がC型肝炎になっている可能性があるのでしょうか。 林先生: C型肝炎ウイルスは血液を介して感染します。大きな手術などで輸血を受けたり、血液製剤やフィブリノゲン製剤を使ったりした人は、感染している可能性があります。 1992年以前に輸血を受けた人 1988年以前に血液凝固製剤を使った人 1994年以前にフィブリノゲン製剤を使った人 上記に該当する人は、とくに注意が必要です。 このほか、予防接種での注射針の使い回しなども原因と考えられていますが、じつは患者さんの約半数は、感染経路がはっきりしません。 また、自覚症状がほとんどないため、感染していることに気づいていない人がたくさんいます。感染の有無は、血液検査でわかるので、ぜひ一度検査を受けていただきたいと思います。 ちなみに、いまは感染の対策がきちんととられているため、上記にあげた医療行為での感染の心配はありません。また、食器の共用や入浴など日常生活で感染することもありません。夫婦間の感染もほとんどないと考えられています。カミソリやヒゲソリなど、血液の付く可能性のあるものだけは共用しないように注意しましょう。
あなたは医療保険やがん保険に加入していますか?それは必要なものですか?医療保険やがん保険の必要性と、どんな保険にどのくらい入るのがいいか…。あなたと、あなたのライフスタイルに合わせた保険の選び方、家計バランスから見た見直しのポイントなどをご紹介します。 目次 STEP1/ほんとうに保険が必要なの? STEP2/医療保険はどう選ぶ? STEP3/がん保険はどう選ぶ? 特定の病気に備える保険は、がん保険以外にも! 保険を見直すコツとポイント STEP1/ほんとうに保険が必要なの? はたして、今のあなたにとって、医療保険やがん保険は本当に必要なのだろうか? 院した場合に必要と思われる資金の月額 出典:平成12年度「生命保険に関する全国実態調査」生命保険文化センター これについては、個人の懐事情と考え方で決まるというほかはない。十分な貯蓄があり、たとえ世帯主が長期入院したとしても家計的にやっていけると考えるのであれば、医療保険などは不要だ。 だが、病気によってさまざまとはいえ、入院日数の平均は約40日。世帯主が入院した場合に必要と思われる健康保険診療の範囲外の資金は、ひと月に平均31.7万円。なかなか貯蓄などではまかないきれない家庭のほうが多いのではないだろうか。 ただ、医療保険やがん保険に入ったからといって、貯蓄をおろそかにしていいわけではもちろんない。医療に対しては、保険と貯蓄の両輪で備えることが重要である。 平均在院日数 平成11年9月1日~30日(単位:日) 傷病分類 15~34歳 35~64歳 65歳以上 胃がん 37.638.743.5 大腸がん 24.431.243.8 肝臓がん 42.134.232.7 気管・気管支・肺がん 30.340.646.7 糖尿病 20.932.462.2 高血圧性疾患 20.023.977.8 心疾患(高血圧性のものを除く) 15.915.140.0 脳血管疾患 43.468.5124.7 注:退院患者平均在院日数は、主傷病についてみた場合 出典:平成11年「患者調査の概況」厚生労働省 STEP2/医療保険はどう選ぶ? さて、医療保険は必要なものと考えた場合、どのくらいの医療費を用意すればいいのか。その目安となるものをご紹介しよう。 「必要な医療保障の目安」は、家族の状況や構成を考慮したもの。医療保険は、入院したら1日いくら出るかが保障の目安となるため、日額で計算されている。このうち、自営業者やひとり親家庭が高めなのは、減収分をカバーすることや子供にかかる経費が増えることを想定しているためだ。 また、保険といえば、種類が多くて「面倒」「難しい」「複雑怪奇」の代名詞のように言われるもの。一体、自分に必要な保険が選べるのか不安でもあるだろう。簡単なチェック項目を用意したので、見てほしい。 必要な医療保障の目安 職業 性別 医療保障(日額) シングル男・女5,000円程度 DINKS 男5,000円程度 女5,000円程度 子有り家庭 会社員・公務員 男5,000~1万円 女5,000~1万円 自由・自営業 男1万円程度 女5,000~1万円 専業主婦女5,000~1万円 ひとり親男・女1万円程度 出典:「家庭の財政学」NTTイフライフプラン研究会 ファイナンシャルプランナー 豊田眞弓 自分に必要な保険をチェック! Check● 必要な入院日額をいくらにするか 「必要な医療保障の目安」の表を参考に、自分に必要な日額を決めよう。貯蓄が少ないと感じているなら、やや高めに設定すると安心だ。 Check● 入院保障は何日目から何日後までつけるか 現在の医療保険の主流は、1泊2日の入院から保障される2日型と、5日型。2日型のほうがトクなようだが、1日分の給付金では、病院に支払う診断書代などで消えることもままある。十分に検討しよう。また、給付日数も要チェックポイント。最長1,000日、無制限などがある。もちろん長いほど支払う保険料が高くなるので、自分なりのコストと保障のバランスを考えよう。 Check● 定期型か終身型か いつ病気になるかわからないため、医療保険は終身型が基本となり、生涯コストも定期型より安くなる。だが、現在のコストを抑えたい、または将来的には医療費は貯蓄でまかなうといった考え方なら定期型がベターだろう。 Check● 特約はつけるか 医療保険には、シンプルに入院や手術の費用をカバーするものもあるが、多くは特約としてがん保障や介護保障が用意されている。これは医療費でどこまでカバーするか、が検討のカギになる。つければコストがアップするため、これもコストと保障のバランスを考える必要がある。 Check● どの保険会社にするか 解約返戻金をなくして支払い保険料を低く抑えているところ、一定期間に病気をしなかった場合には保険料が下がるところ…。保険会社によって、さまざまな特徴がある。それぞれの特徴も検討しよう。 STEP3/がん保険はどう選ぶ? がん保険とは、文字通り、「がん」という特定の病気について手厚く、さまざまな角度から保障が考えられているもの。これに加入するかどうかは、がんに対するリスクを自分がどの程度感じているかで決まるだろう。家系的にがんの心配があるのなら、入っておいたほうが安心ではある。 主ながん保険の特徴 Check● 最初にまとまった一時金が出る がんと診断されたとき、入院したときと保険会社によって多少の違いはあるが、がんとわかった早い段階で一時金が出るため、希望によって健康保険の対象外となる先進医療や民間医療などの自由診療を受ける余裕を持つことができる。 Check● 入退院を繰り返しても給付金が支払われる 支払い限度日数が設けられていない(つまり無制限の)ため、がんで入院した場合は常に入院日数分の給付金が受け取れる。長期入院や、入退院を繰り返すときにも安心だ。 Check● 実損てん補タイプが登場 がん保険も、他の保険と同様に、がんと診断されたときにいくら、入院給付金はいくら、と契約時に決まっている定額払いがこれまでの主流。だが、2001年に実損てん補タイプが登場。これは自由診療を前提としたもので、医療費のほぼ全額をまかなうことができる。 Check● 保険会社によって種類はさまざま がん保険は、保険会社によって一時金の額はもちろん、通院給付金があるものないもの、がんが再発したときは何度でも診断給付金が受け取れるものと1回だけのものなど、実に種類が多い。それぞれの特徴をよく見極めて選ぼう。 Check● 注意!加入時の条件と待ち期間 がん保険の対象は、初めてがんにかかった人。つまり、がんと診断されたことがある人は入れないのだ。もちろん本人が告知されておらず、知らずに加入した場合でも対象外となるので要注意だ。また、がん保険には、3ヵ月の待機期間が設けられているのが一般的。この期間にがんが発見されると保険は無効となる。 特定の病気に備える保険は、がん保険以外にも! 特定疾病保障保険というのをご存知だろうか。これは、がんや急性心筋梗塞、脳卒中によって、所定の状態になったときに受け取れる保険。主に、医療保険の特約として「三大疾病特約」などとしてオプション的に付加するものと考えられているが、主契約にすることもできる。もちろんほかの保険と同様、定期保険にすることも終身型にすることもできる。特定の病気へのリスクが高いと考える場合は、こうした保険でカバーする方法もあるのだ。 保険を見直すコツとポイント 将来の病気やケガの心配をはじめるとキリがなく、保障はいくらでも厚くしたくなるのが人情というものだろう。だが、必要性の少ない保険に入って「保険ビンボー」になってしまっては本末転倒というもの。 必要な保障は、家計のバランスからも見直してみよう。例えば独身で一人暮らしなら、月収に占める保険料の割合は5%、親と同居しているなら3%が目安といった具合だ。また、子供のいる家庭では、子供の成長に合わせても見直しの必要が出てくる。小さいうちは保障も厚めにしたいが、大学生ともなれば8%程度に抑えてもいい。 大切なのは、自分のライフスタイルに合っているかどうか。また、定期的に見直しをしていくこともお忘れなく。 保険料の適正割合 子供のいないサラリーマン家庭(妻は専業主婦かパート)月収の5% 子供のいない共働きサラリーマン家庭月収の8% 小学生以下の子供がいるサラリーマン家庭/住居費がかからないサラリーマン家庭月収の10% 自営業の家庭月収の12% ※保険料とは、家族全員の生命保険料と損害保険料の合計額。こども保険や養老保険などの貯蓄目的の保険料は含めない。 出典:「ライフスタイル別 家計の方程式」畠中雅子著 生活人新書 公開日:2002年12月16日
日本においては誰もが加入している医療保険のおかげで、国民は医療費の一部のみを負担するだけでよく、残りは国から支払われています。負担する上限額は、年齢や収入ごとに定められてますので、ここで確認してみましょう。 目次 自分が支払う医療費は、かかった金額のほんの一部!? 医療費が高額になったときのための「高額療養費制度」 なぜ必要?民間の医療保険&がん保険 自分が支払う医療費は、かかった金額のほんの一部!? ケガや病気の治療のために病院を受診すると、多くの場合、会計窓口で保険証を提示してから支払いをする。このときに支払っているのは、実はかかった金額の一部に過ぎない。日本では、誰もが公的な医療保険に加入することになっている。そのおかげで、国民は医療費の一部のみを負担するだけでよく、残りは国から支払われている。負担する割合は、年齢によって定められている。 一部負担金の割合 年齢 負担割合 小学校入学前2割 小学校入学以後~70歳未満3割 70歳以上75歳未満1割(※)(現役並み所得者は3割) ※現役並み所得者を除く70歳以上75歳未満の負担は、制度上は2割だが、軽減特例措置により1割に据え置かれている。 医療費が高額になったときのための「高額療養費制度」 公的医療保険のおかげで一部負担ですむとはいえ、大きな病気をしたときは、支払う金額も当然大きくなってしまう。そのような場合の救済策として、「高額療養費制度」が設けられている。これは、ひとつの病院ごとに1ヵ月の医療費の自己負担の限度額を設けたもの。この限度額を超えた分については、加入している公的医療保険から払い戻しを受けることができる。ただし、入院時の差額ベッド代や食費などは対象外となる。負担する上限額は、年齢や収入ごとに定められている。 高額療養費制度 69歳以下の場合 所得区分 1ヵ月の負担の上限額 通常の場合 多数回※該当の場合 上位所得者(月収53万円以上の方など)150,000円+(医療費-500,000円)×1%83,400円 一般80,100円+(医療費-267,000円)×1%44,400円 低所得者(住民税非課税の方)35,400円24,600円 ※直近12ヵ月の間に3回以上高額療養費の支給を受けている場合、自己負担限度額がさらに下がる。 70歳以上の場合 所得区分 1ヵ月の負担の上限額 通常の場合 多数回※該当の場合 外来(個人ごと) 外来+入院または入院のみ 現役並み所得者(月収28万円以上などの窓口負担3割の方) 44,400円80,100円+(医療費-267,000円)×1%44,400円 一般 12,000円44,400円- 低所得者(住民税非課税の方) II(I以外の方) 8,000円24,600円- I(年金収入のみの方の場合、年金受給額80万円以下など、総所得金額がゼロの方) 15,000円- ※直近12ヵ月の間に3回以上高額療養費の支給を受けている場合、自己負担限度額がさらに下がる。 なぜ必要?民間の医療保険&がん保険 公的な医療保険に加入していても、民間の医療保険やがん保険が必要となることも、ときにはあるだろう。民間の医療保険やがん保険によってカバーされる範囲を、簡単に整理してみよう。 ●自己負担分をカバーする 民間の医療保険が必要な、基本にして最大の理由が、これだと言える。いくら一部とはいえ、自己負担分は存在する。また、治療のための費用でも、食事療養費や差額ベッド代などは、公的な医療保険ではカバーできない。 ●医療費以外の出費をカバーする 病気になって入院となれば、病院などに支払う医療費のほかにもさまざまな出費が必要となる。例えば入院のため に買いそろえたタオルや洗面道具、家族が見舞いに行くための交通費…。また、子供のいる家庭の主婦が入院した場合などは、ベビーシッター代、家族の食費、クリーニング代などの経費がかさむこともある。 ●減収分をカバーする サラリーマンが加入する公的医療保険の健康保険には「傷病手当金」があり、最長1年6ヵ月は給与の約3分の2が支給される制度がある。このため世帯主が病気になったとしても「明日から困る」ということはないが、それでも3分の1の収入減は家計に大きく響く。自営業者の場合はこうした補償制度がないので、より深刻だと言わざるを得ない。しかも、相手は病気。1ヵ月で治る見通しだったとしても、長引くことがあり得る。体調によっては 退院後すぐに仕事へ復帰できるとも限らない。 ●高度先進医療をカバーする-がん保険 がんは治せる確率が高くなっているとはいえ、いまだ日本人の死因のトップにある。先進の高度な治療が行われることもあるが、その場合は公的な医療保険の適用外となり、いわゆる「自由診療」として全額自己負担となる。がん保険は、がんと診断されたり、入院したりした時点でまとまった一時金が出るため、こうした高額の先進医療を受けやすくなる。とはいえ、これはあくまでも予備の保険。がんも含め、すべての病気やケガを保障する医療保険に入った上で、さらにがんに対しての不安が大きい場合や、家族ががんで亡くなっているなど、がんのリスクが高いと感じている人が入るケースが多い。 民間の医療保険やがん保険は、貯蓄などで医療費をカバーできるのであれば必要ない。しかし、そうではない多くの人にとって、病気の本人も家族も安心して療養に努めるための、大きな助けとなるだろう(2014年2月現在)。 公開日:2014年2月
保険診療分の患者負担額が一定額を超えた時 健康保険で診療を受けた時の保険診療分の患者負担が、一定の額を超えた時に「高額療養費」が支給されます。 これは、同一医療機関で1ヵ月(1日~月末)に健康保険本人および家族が支払った一部負担金が3万円(非課税世帯は2万1000円)以上のものだけを合算して合計が6万3000円(非課税世帯は3万5400円)を超えた時に、それを超えた分が還付される制度です。2ヵ月にまたがる場合には各月ごとに計算します。 また、この制度を過去12ヵ月間に3回以上受けている場合は、4回目から3万7200円(非課税世帯は2万4600円)を超えた分が戻ってきます。 差額ベッド代や食事代は対象外 高額療養費は、病院、診療所、老人保健施設、訪問看護ステーションの窓口で支払った保険の一部負担金が対象になります。従って、室料差額代や食事代は対象になりません。 さらに同じ病院であっても歯科と医科、医科でも診療科が違う場合は合算できませんし、外来と入院も合算できません。 この制度を受けたい場合には、支給申請書を社会保険事務所、健康保険組合または国民健康保険課に提出します。 なお、高額療養費が戻ってくるまでの間、医療費相当分を借りることができる「高額療養費貸付制度」(無利息)があります。社会保険事務所などに備えてある「高額療養費貸付金貸付申込書」を提出して手続きを行います。
費用を償還してもらえる制度 医師による適当な治療方法がないものや保険医療機関では行えない療養や、海外旅行中に病気になった場合に、療養にかかった費用を償還してもらう「療養費の支給」制度があります。 支給対象には、以下のものなどがあります。 保険診療を受けられなかったことについて保険者がやむを得ない理由があると認めた時 あんま・はり・きゅう、柔道整復術の治療を受けた時 コルセット・腰痛バンドなどを作製した時 在宅療養のため看護婦による付添い看護を受けた時 保険の届け出が遅れて保険証が間に合わなかった時 保険医療機関でない医療機関で診療を受けたことについて、保険者にやむを得ない理由があると認めた時 海外で医療を受けた時 手元に戻る金額は支払額の一部 療養費の対象となるものは基本的に自由診療ですが、療養費として支給される額は厚生労働省が定めている公定料金により換算されますので、両者の差額は患者負担になります。また、保険の一部負担に相当する額は給付されないので、手元に戻ってくる金額は実際に支払った額の一部だけです。 療養費の申請は「療養費の支給申請書」に領収書、請求明細書、医師の証明書を添えて、健康保険の場合は社会保険事務所または健保組合、国民健康保険の場合は市町村の国民健康保険課、老人医療の場合は市町村の老人医療担当課に提出します。
国や地方自治体が患者に代わって医療費を負担 公費医療負担制度は国や地方自治体が患者に代わってその医療費を負担する制度です。 全額公費によって負担するもの、医療保険で給付されない部分を負担するもの、一部負担を対象者の負担能力に応じて費用の一部または全額を負担するもの、負担能力にかかわらず一定割合を負担するものがあります。 ここでは代表的な制度について紹介します。 生活保護法による医療扶助 医療費の支払いなどのために生活が困窮し、健康で文化的な最低限度の生活ができなくなった場合に生活保護法による医療扶助を申請することができます。 身体障害者の医療費助成 国の制度と各都道府県の単独事業としての助成制度があります。国の制度は、児童のための育成医療(18歳未満まで)と成人のための更生医療があり、両者共通のものとして進行性筋委縮症の療養給付、補装具の交付と修理が行われています。 都道府県の医療費助成制度は、それぞれの県によって対象や助成の方法、所得制限の有無などさまざまです。 乳幼児医療費助成制度 都道府県が実施している制度で、その対象年齢や助成の方法はそれぞれの県によって異なってきます。 公害健康被害保障制度 大気汚染や水質汚濁などの公害による健康被害として認定された患者の、指定疾病の医療費が公費負担になります。 指定疾患としては、気管支ぜん息、慢性気管支炎、ぜん息性気管支炎、肺気しゅおよび、これらの続発症とされています。 難病(特定疾患)の医療費補助 原因不明の難病で治療法が確立していない病気が対象になっており、対象疾患は毎年追加されています。 患者の受療、原因究明、治療方法の開発、研究促進の観点から「特定疾患治療研究事業」として医療費の補助が行われ、自己負担はありません。 エイズの健康診断 エイズのまん延を防ぐために「後天性免疫不全症候群の予防に関する法律」があり、都道府県知事の命令により受診した場合の健康診断の費用が公費負担になります。
控除の最高額は200万円 税金の医療費控除は本人または本人と一緒に生活している配偶者や親族のための医療費を支払った時に控除されます。また、財産を相続した人が、亡くなった人の医療費を負担する場合も控除されます。 控除できる額は、医療費から10万円(総所得額が200万円未満の場合は、その5%相当額)を差し引いた額となっています。ただし、控除の最高額は200万円です。 申告の仕方は、税務署に「医療費控除の申告書」と電話で申し出れば、すぐに送ってくれます。これに記入して控除を受ける医療費の明細書と領収証を添えて郵送すれば、還付金が自分の郵便局や銀行口座に振り込まれてきます。 領収書は添付・提示することが要件になっていますが、ない場合は医療を受けた人の氏名、支払い年月日、支払い先、支払い金額が分かる書類があれば認められます。 なお、申告の年に実際に支払った金額であることが必要で、未払いのものや年が明けてから支払った医療費は控除対象にはなりません。 医療費控除の対象となる主な項目 診療費または治療費 医療施設、老人保健施設の入院・入所費 あんま・マッサージなどの施術費 付添い看護料、訪問看護料、訪問リハビリ料 分べん介助料 通院費、医師等の送迎費 入院の部屋代、食事代 義手、義足、入れ歯などの購入費 おむつの費用 温泉利用型健康増進施設の利用料金(医師の指示によるもの)等
利用者本位の仕組みづくり 寝たきりや痴ほうの高齢者が急速に増え、介護の長期化や介護者の高齢化が進む一方、高齢世帯の増加や女性の社会進出により、家庭の介護機能は低下しつつあります。 また、老人介護に関する現行の制度では、老人福祉と老人医療が分立しており、 総合的なサービスが受けられない 利用者が自由にサービスの選択を行えない 医療サービスが非効率に利用されている といった現状にあります。 そのため国では「介護保険制度」を創設しました。この制度のもと現在の老人福祉と老人医療の制度を再編成し「利用者本位の仕組み」が作られようとしています。 環境の整備の遅れの外、制度の矛盾点も多い 「介護保険制度」は、2000年から在宅に関する給付と施設に関する給付が同時に実施されており、被保険者は40歳以上とされています。 要介護状態もしくは要介護状態になる恐れがある被保険者に対して保険給付が行われる場合は、まず、その人がどの程度の要介護状態にあるのか、どれくらいの介護が必要なのかを確認するための要介護認定(心身の状況調査やかかりつけ医の意見をもとに市町村の介護認定審査会が判断)が行われます。 そして、保険給付の内容に基づいてケアマネジャーと呼ばれる専門家が介護サービス計画を策定して、利用者のサービス選択と利用を支援する仕組みになっています。 2000年に向かって関係者の間では急ピッチで準備が進められていますが、その一方で施設および在宅サービスの未整備やマンパワーの不足、制度自体の矛盾点などが指摘されており、介護保険の施行について危ぶむ声も多く上がっています。
定年退職者を救済 健康保険の被保険者が定年退職した場合、多くは国民健康保険の被保険者になります。しかし今まで所属していた被用者保険に比べて給付率が低いため、自己負担が増えることになります。そのうえ、老齢により医療の必要性は増してしまいます。これらの矛盾を解決するために1984年(昭和59年)に創設された制度です。 退職者のうち厚生年金、農林漁業団体職員共済など年金制度の老齢(退職)年金受給者または通算老齢(退職)受給者のうち加入期間が20年以上ある人または40歳以降10年以上の被保険者期間がある人、およびその家族は、国民保険制度の退職者保険制度の適用を受けることができます。 退職被保険者に該当したときは、年金証書が到着した日の翌日から14日以内に年金証書を添付して市町村に届け出ます。届け出の際には、家族についても健康保険に準じて届け出ます。 国民健康保険より高い給付率 この制度の適用を受けると、保険の給付率が本人ならば入院・通院ともに8割、家族は入院8割、通院7割と、一般の国民健康保険の入院・通院の給付率より高くなります。ただし、年金受給の開始年齢に達していない人、老人保健の対象者は、退職者医療制度の適用は受けられません。
老人医療は無料から一部負担へ 老人保健法でいう老人医療の対象者は、医療保険加入者で70歳以上の人もしくは65歳以上で障害を持っている人と定められています。 老人医療費が無料化されたのは1973年(昭和48年)のことですが、これが老人医療費を押し上げて医療保険の保険者の間で負担格差を広げ、特に老人の加入率の多い国民健康保険の財政を圧迫しました。 そこで、財政調整と保健事業の連携を目指して「老人保健法」が83年から施行され、老人医療費についても一部負担が行われるようになりました。 98年3月現在では、外来が通院1回につき500 円(月4回まで)、入院が1日につき1100円の自己負担となっています。差額ベッド代やおむつ代などには保険は適用されません。 介護を重視した医療へ 一方、老人医療に携わる施設の多くには定額制が導入されており、看護・介護を重視した医療を行うようになってきています。さらに、在宅医療の支援機関として老人保健施設や訪問看護ステーションの整備も急ピッチで進められています。 老人保健施設とは、病院と自宅(特別養護老人ホーム)の中間施設で、看護・介護・機能訓練を中心とした医療ケアと日常サービスを提供し、老人の自立と家庭への復帰を支援することが目的とされています。
新しいシステム、定額制 わが国の医療費支払いシステムは、保険料を払いさえすればだれでも等しく医療が受けられる国民皆保険体制のもと、出来高払い制(投薬、注射、検査など診療行為ごとに定められた点数を積み上げて医療費を算定する方法)をベースに成り立っています。 ところが、毎年1兆円ずつ増え続ける医療費に対応するために出来高払い制は、その姿を大きく変えつつあります。 出来高払い制に変わって定額制(個々の診療行為ごとに医療費を定めないで、この病気はまとめていくらという定額払いの方法)が老人医療や小児医療で積極的に取り入れられています。定額制には、過剰な投薬や検査などの医療行為が抑制されるメリットがある半面、病医院側が多くの収益を得るために手抜きをすることもできますから、患者サービスの質が低下していく傾向も指摘されています。 患者の負担も増加傾向 一方、患者の一部負担金額も増えています。1997年(平成9年)9月には健康保険の自己負担率が1割から2割にアップしました。入院費用に関しても、すでに差額ベッド代や食事代が実費になっています。このような傾向は、今後ますます強まっていくといわれています。
量的拡大から質的向上への転換 わが国の医療制度は戦後、量的な拡大を目指して整備されてきましたが、その目的が達成されたことから、1980年代後半より「質的な向上」を目指した施策に転換してきています。 特に高齢社会の到来とともに、戦後の医療制度の枠組みを大きく変える必要に迫られており、医療供給体制の変革が進められています。 総合病院から地域医療支援病院へ 92年(平成4年)の医療法改正で創設された特定機能病院(※1)と療養型病床群(※2)を皮切りに「医療施設の機能別合類」が行われ、98年4月からは事実上総合病院が廃止され、新たに「地域医療支援病院」が登場しました。 地域医療支援病院は、地域の診療所や中小病院を支援する大病院と位置付けられており、医師からの紹介状がなければ受診することはできません。 医療制度の「医療の質の向上」「サービスの多様化」を掲げる一方で、国では老人保健法や国民健康保険法などの制度に対しても、大幅な改革を急いでおり、21世紀のわが国の医療制度はめまぐるしい変化を迎えています。 ※1 高度の医療を提供するとともに、高度の医療に関する開発と評価および研修を行う医療機関で、大学病院、国立がんセンター、国立循環器センターが対象 ※2 長期療養にふさわしい療養環境を備えている病床群
特定機能病院は紹介制が基本 全国に約9800の病院があり、長い間、一般病院、精神病院、伝染病院、結核療養所、らい療養所と区分けされていました。 このうち約9割を占める一般病院を、患者の病状に応じて選択しやすいよう、機能に基づいて区分けし、機能に応じた診療報酬体系を適用する再整理が、平成4年の医療法改正で実施されました。 機能別分類では、一般病院を次の3種類に区分しています。 特定機能病院…高度の専門的医療を提供 一般病院…一般的治療が可能な患者を対象とする病院 療養型病床群…老人や長期入院のための専用病棟 特定機能病院は厚生大臣の承認が必要で、現在56の大学病院と国立がんセンター中央病院、国立循環器病センターが承認されています。高度医療を必要としない患者が殺到しないよう、ほかの医療機関からの紹介状を持たない外来患者は、割増の初診料 (実費自己負担) を支払う仕組みが取られています。 慢性老人病患者の施設は4本立て 療養型病床群は都道府県知事に認可により開設でき、一般病院の中の一部の病棟だけを切り離して適用を受けることができます。介護機能を高めた職員の配置基準と診療報酬体系が適用されます。 これにより、現在、長期入院が必要な老人の慢性疾患患者の受け入れ医療施設としては老人病院、療養型病床群、老人保健施設、これに福祉施設の特別養護老人ホームを加えると4本立てとなっています。
保険適用めざし経過措置 技術革新から生まれた新しい医療技術で、まだ保険の適用を受けていない治療の場合に、新技術の部分だけ、費用を患者の自己負担とし、初診料や入院費などの基本的費用は保険で負担する仕組みが、1984年に制度化されました。 保険診療では、一部に保険適用外の医療を併用した場合には、全医療費が保険の適用外とされるのが大原則で、その場合には全てが患者の自己負担となります。 しかし、大学病院などのように、厚生大臣から特定承認保険医療機関の承認を受けた病院が、高度先進医療技術の承認を受けた技術を使って診断や治療を行う場合は、特定療養費制度の一環として、新技術以外の部分に保険適用が認められます。 新しい医療技術で、疾病の解明、予防、治療に果たす役割が大きく、国民の保健衛生の向上に多大な貢献をすると考えられるものについては、実地の医療への適用が急がれる半面、安全性や有効性のデータが不十分であり、また普及以前のものであるため、利用できる範囲が地域的に限定されるなどの理由から、保険適用に慎重にならざるを得ない面があります。 高度先進医療は、保険適用への経過措置の意味合いがあり、通常は、ここで安全性・有効性を確認し、さらに精度を高めた後に、保険が適用されています。 技術と病院をセットで承認 高度先進医療が承認された技術には、保険適用の場合と同様に、技術料金 (目安) が決められます。例えば、手術後の難聴などの治療に使う人工中耳は 124万円、心筋梗塞の際などに使われる血管内視鏡検査は28万9920円です。 医療内容とそれを行う病院がセットになって承認されるので、どこでどんな医療が行われるかを確認する必要があります。 ※2006年10月1日より、特定療養費制度は保険外併用療養費制度と名称が変更になりました。
よき医者とは 「よき医者とは、特効のある薬と治療法を有している者をいう。それがない場合には、持っている医者に自分の患者を依頼する者をいう」。これは、17世紀フランスの代表的モラリスト、ラ・ブリュイエールの言葉です。 現代のかかりつけ医療が担っているプライマリ・ケアでも、重要な機能の一つは、二次医療が必要なときに、時期を逃さずに、適切な専門医へとバトンタッチすることだ、とされています。医学技術がどんなに進歩しても、医療の基本は不変なのです。 基本は予後の予測能力に 病気に対し「特効のある薬と治療法」が登場したのは19世紀以後ですから、17世紀の医者ができたことは、現在でいう民間療法のような治療と、「医師が侍り、神が治したまう」という言葉の通り、病人に付き添って慰め、元気づけることぐらいだったでしょう。 そんな医師が敬われたカギは、予後を見通す能力にありました。 患者の将来の状態を予測し、どんな状態が起きたらどのように対処するかをあらかじめ伝えておくことが、治療による直接的な効果と同様、ないしはそれ以上に患者に安心を与えてくれます。それは現在でも全く同じです。 持病に精通、相性も大事 わが国の診療所の開業医は、病院に勤務していた時期に循環器病とか糖尿病とかの専門領域を持っていた方が少なくありません。これはわが国の特徴であり、また、保険証があれば、どの診療所にもいつでも自由にかかれるという点も、わが国の保険医療制度の大きなメリットですから、メリットは十分に生かしたいものです。 友だちづくりと同様に時間をかけて、自分の持病に精通した相性のいいかかりつけ医を選ぶことが、丈夫で長生きの秘訣です。