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178:無名クリニックとハーバード大学医学大学院との共同研究(望月吉彦先生) - ドクターズコラム

大人の健康情報

望月吉彦先生

更新日:2023/12/25

日本不整脈心電学会が発行する医学誌「心電図」に論文が掲載
心電計の発明者アイントホーフェン医師の共同研究者だった同医師の子息が太平洋戦争下の東京で亡くなっていたことに関する考察
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jse/41/1/41_30/_article/-char/ja/

上記論文が掲載された経緯をシリーズで掲載しています。
まだ数回このシリーズを続けますが、年も変わるので、今年、私にとって大きな出来事だったことを紹介します。

2023年1月20日、科学雑誌PLOSONEに
Bacille Calmette Guerin (BCG) and prevention of types 1 and 2 diabetes: Results of two observational studies
という論文が載りました。

著者は
Hans F. Dias, Yoshihiko Mochizuki, Denise L. Faustman etc
第2著者は私です。

研究施設名
1 . Immunobiology Department, Massachusetts General Hospital and Harvard Medical School, Boston, MA,United States of America
2. Shibaura Three One Clinic, Tokyo, Japan
3. Statistics Department,Massachusetts General Hospital, Boston, Massachusetts, United States of America

1. ハーバード大学医学大学院免疫生物研究室
2. 私どものクリニックである芝浦スリーワンクリニック
3. MGH(ハーバード大学の医学部付属病院の1つです)の統計部門です。

この論文の要旨は一つ、
「結核ワクチンであるBCGで1型糖尿病の発病を予防できる(かもしれない)」
です。
世界で初めてこの事を示した論文です。感染症の専門家でも無く、結核の専門家でもなく、糖尿病の専門家でもない私がBCGと糖尿病に関する研究をハーバード大学の先生方と行う事になった経緯をお示ししようと思います。

元はと言えば心臓血管外科学会系雑誌の査読から

私はBCGに興味があったわけではありません。10数年前、たまたま「膀胱癌治療で用いたBCGが原因の感染性動脈瘤の外科治療」という内容の論文について外科系の学会雑誌から査読の依頼がありました。それまで膀胱癌の治療にBCGが投与されることも知らなかったので、かなり調べました。BCGに関する基礎、臨床、癌治療のことなどです。BCGを勉強するのはとても面白かったので、論文査読後も引き続きBCGに関する論文や記事を収集していました。つまり査読がきっかけで「BCGオタク」となっていたのです。

BCGはさまざまな効果を持ったワクチンです。
文献になっている効能、効果だけ列挙します。

  • 結核予防
  • ハンセン病予防
  • 肺癌予防
  • 1型糖尿病予防(今回の論文ですね!)
  • 1型糖尿病治療薬(米国で治験中)
  • 多発性硬化症 予防・治療
  • 膀胱癌治療(世界標準治療)
  • COVID-19予防
  • 高齢者の肺炎予防
  • 悪性黒色腫治療に使われる
  • さまざまな自己免疫疾患に対する効果
  • 乳幼児の感染症(結核以外)による死亡率を1/3に減少させる
  • アルツハイマー予防
  • パーキンソン病予防
  • 川崎病の診断に使われる(川崎病に罹るとBCG痕が赤く腫れる)

など、さまざまです。
(注:これらすべてが認められているわけではありません。)

ハーバード大学で1型糖尿病治療にBCGを用いているという論文を読んだ

2012年のことです。ハーバード大では1型糖尿病治療にBCGを用いているという論文を読みました。タイトルは
Proof-of-concept, randomized, controlled clinical trial of Bacillus-Calmette-Guerin for treatment of long-term type 1 diabetes
BCGを2回接種するとHbA1cが改善するという論文です。なんだかおもしろい研究だなと思っていました。

1型糖尿病について勉強した

1型糖尿病についても少し勉強しました。その際「1型糖尿病は国によって発病率がまったく違う」と昔から話題になっていることに気づきました。10万人当たりの1型糖尿病発病率を比較すると、中国0.6人、日本2.4人、ロシア12.1人、アメリカ23.7人、フィンランド57人(2011年)と各国でかなりちがうのです。ロシアとフィンランドは国境を接していますが、5倍も発病率が違います。この差が生じる原因を追及したロシアとフィンランドとの大規模共同研究があります。
A six-fold gradient in the incidence of type 1 diabetes at the eastern border of Finland

しかし、この研究でも、この差を合理的に説明できる因子は発見できませんでした。国境線を境に1型糖尿病発病率が大きく変化するのは、大げさに言えば「医学の謎」の1つでした。

BCGで1型糖尿病を治療した長期成績がハーバード大より発表される

2018年、前述のハーバード大で行っていた「BCGを用いた1型糖尿病治療」の長期成績が論文になりました。タイトルは
Long-term reduction in hyperglycemia in advanced type 1 diabetes: the value of induced aerobic glycolysis with BCG vaccinations
この論文を読むと、どうやらBCGを接種した1型糖尿病患者さんは長期にわたり、血糖値が下がりHbA1cも安定化していることがわかります。なぜBCG接種が1型糖尿病に効果があるか、ハーバード大のグループはさまざまな実験を行って「仮説」を立てています。動物実験を繰り返し、動物でBCGが1型糖尿病の治療に有用であることを証明してから、患者さんへのBCG投与を行っています。

「国境線の謎」は「小児期のBCG接種の有無」で説明できるのでは?

BCGに関するさまざまな論文を読んでいる時、上述の「国境線を境に1型糖尿病発病率が変わるという謎」は「小児期のBCG接種の有無で説明できるのでは?」と思いつきました。2019年11月のことです。BCGの各国別接種歴はカナダのマギル大学が運営する BCG World Atlas(http://www.bcgatlas.org/index.php)というサイトに詳しいデータがあることを発見、1型糖尿病についてはInternational Diabetes Federationが運営するサイトに各国の1型糖尿病発病率が掲載されていることを発見しました。Excelに、

  • 小児期のBCG接種を長年続けている国を「BCG+」国とし、
  • 小児期のBCG接種を行っていないか、途中で止めた国を「BCG―」国と規定し、

その横に各国の1型糖尿病発病率を入力しました。毎晩少しずつ入力、約1ヵ月で一覧表ができあがり、グラフ化してみました(図1)。棒グラフの横は発病率です。統計学的に有意差が出るなら例の「謎」は解けそうです。グラフにしてみたら一目瞭然です。「BCG+」国では、1型糖尿病発病率が圧倒的に低いのです。

図1:グラフ横の+- はBCG接種歴の有無
図1:グラフ横の+- はBCG接種歴の有無を示します。
横は発病率、年号が書いてあるのはBCG接種を中止した年です。
棒グラフ横の数字は各国の結核罹病率です。

イタリア、サルディニア島の謎も解明?

図1にイタリアのサルディニア島(四国よりも大きく、人口は165万)の1型糖尿病発病率を記しました。同島の発病率はイタリア本土の3倍も高いのです。人種や食べ物がイタリア本土と変わっているわけではありません。これも1型糖尿病の「謎」の一つでした。イタリアは2011年までBCGを接種しています。サルディニア島のBCG接種状況もイタリア本土と同様なのでしょうか? 思い立って、サルディニア島の保健所とおぼしき役所のメールアドレスを探し当て、「サルディニア島のBCG接種状況を教えてほしい」というメールを送りました。
後日「サルディニア島は、元々結核罹病率が低いため、義務を伴うBCG接種は行ったことは無い。ただし、医療従事者(医師、看護師など)と結核罹患者周囲の人間は除く」との返事が、メールで、サルディニア島保険行担当官から送られてきました。やはりBCG非接種地域では1型糖尿病の発病率が高いと確信しました。

日本BCG研究所に連絡して相談

BCG接種と1型糖尿病発病率との関係についての論文を探しました。私が気づくくらいですから、他にも気づいて研究した論文があるかもしれないと思い、かなり探しましたがありません。日本BCG研究所の研究者の方に相談してみようと思い、研究所に電話をかけたらなんと研究所長の山本三郎先生自らが対応してくださいました。都心に出るついでに私のクリニックにお越し頂けることになりました(注:同研究所は東京都の郊外、清瀬市にあります)。 ありがたいことです。お越しいただいた時、作成した図などをお目にかけて、BCGと1型糖尿病の分析などをお話ししました。山本先生曰く「小児期のBCG接種と1型糖尿病の関係を検討した研究論文は無い。是非研究を続けるように」との心強い励ましの言葉をいただきました。なお、この時、ハーバード大で1型糖尿病の治療に使用しているBCGは日本製のBCG Tokyo 172株であることを教えて頂きました。この「発見」を論文にするには統計学的検定が必要だと言われました。さて、問題は統計学的検定をどうやって行うかです。

写真:その名も「BCG」という本

注1:その名も「BCG」という本があります。著者の1人が山本三郎先生です。

注2:東京都清瀬市にあるBCG研究所では日本製のBCGを作っています。日本で使われるBCGはもちろんの事、WHOの委託を受けて、ユニセフを通じて毎年BCGを世界中に輸出しています。約100カ国、5000万人分です。なお、BCGを他国に輸出している(できる)のは同研究所のみです。こういうことは、もっと、知られて良いですね。

大学2年生の時、統計学者の宮本良雄先生に習ったノンパラメトリック統計という手法を思い出す

BCG接種と1型糖尿病発病率とは一見すると関係ないパラメーターです。こういう事象の検定をしたことはありません。いろいろと考えていたら、学生時代、宮本良雄先生に習ったノンパラメトリック統計という手法を思い出しました。懐かしい話です。ネットで検索したら、どうやら、こういう場合、ノンパラメトリック統計の内「マン・ホイットニーのU検定」を用いれば良さそうだとわかりました。Excelデータを用いて「マン・ホイットニーのU検定」を行うソフトがあり、検定してみました。BCG接種の有無で有意差がありそうです。この検定が正しいかどうかわかりません。そこで、私どものクリニック近隣の大病院で1型糖尿病を研究している先生方にこの結果を送り、意見を求め、検定方法についても教えを乞うべく、お手紙を出しました。しかし、残念なことに返事はいただけませんでした。窮しました。折角集めたデータです。いろいろと考えた末、駄目元で「BCGで1型糖尿病を治療しているハーバード大のDenise先生」に相談しようと思い至りました。Denise先生はBCGと糖尿病に関する緻密な動物実験を長年繰り返しています。1型糖尿病患者さんをBCGで治療しています。そういうDenise先生なら、私が解析したデータに興味を持ってくれるかもしれないと思ったからです。

ハーバード大学Denise Faustman先生にメールを送る

入力したデータ、作ったグラフ、などを添付したメールをハーバード大のDenise先生に送りました。メールアドレスはDenise先生の論文に記されているハーバード大のアドレスです。怪しい人間と思われては困るので心臓外科医時代に書いた英文論文(アメリカの雑誌に掲載された)を添付しました。2021年1月のことです。
メール送付後、2日で返事が返ってきました。返事の一部を供覧します。
「Yoshi! Thanks for reaching out. The data is very interesting.」とあり、その後、

  • 共同研究しましょう
  • もっと詳しいデータを送るように
  • 統計学的検討はMGHの統計部門にやってもらうけど、それで良いか?
  • 今、ハーバードの自分の研究室では、BCGを用いて膀胱癌治療を行った患者さんの中で1型糖尿病を合併している症例を追っている。その解析とDr. Mochizuki の研究と結果を合わせた共同研究論文を書こうと思うが、それでも良いか?

という返事が来ました。え??まさか、一緒に検討してくれて、統計学的検定までやってくれるという夢のような話です。
後日、その共同研究論文はハーバード大学の研究室員をファーストオーサーとし、Dr.Mochizukiをセカンドオーサーとするが良いか?とのメールがきました。「夢か」と思いました。

早速データをまとめる

丁度、その頃、COVID-19が世界中で大流行していました。そんな中「COVID-19が少ない地域はBCGを接種している地域である」という仮説が広まりました。そのお蔭でBCG研究に追い風が吹きました。前述の 「BCG World Atlas」ですが、私が調べ始めた2019年頃にはきちんとした記載がない国も多かったのです。
「何時から何時までBCGを接種していたか?」とか「BCG株はどの株を使っていたのか?」などをきちんと報告していない国が半数以上あったのです。しかし、「COVID-19―BCG仮説」の検証のために、多くの研究者が使ったからでしょうか? ある時期を境に一気に内容が充実しました。そのデータを使って作ったのが図2です。「COVID-19―BCG仮説」が広まらなければ、BCGのデータ収集は進まなかったと思います。運も良かったのです。データはかなり集まったのですが、それでも中にはきちんとしたデータを載せていない国も数ヵ国ありました。そういう国には、ハーバード大学医学大学院免疫生物研究室の名前で「BCGのデータ」を開示するように請求してくれました。私どものクリニック名では、絶対に、返事などくれなかったでしょう。

図2:充実したBCGデータで作ったグラフ
図2:充実したBCGデータで作ったグラフです。
横の棒グラフは、1型糖尿病の発病率を示します。左には国名とBCG接種状況を記しました。

  • 青色は現在全ての小児にBCG接種を義務づけている国
  • ピンク色は小児期のBCG接種を以前、義務づけていた国(現在は義務づけていない)
  • 緑色は現在も特別な群(結核罹病率が高い地域の小児)だけにBCG接種を義務づけている国
  • 橙色は現在も特別な群(結核罹病率が高い地域の小児)だけにBCG接種を義務づけているが、以前は全ての小児にBCG接種が義務づけられていた国

BCGを長年接種している国(青色)では明らかに1型糖尿病の発病率が低いのです。そういうわけで、増えたデータを図2の如く、整理してDenise先生に送りました。

ハーバード大学では、膀胱癌をBCGで治療した症例の中で1型糖尿病が元々ある患者さんを追跡、分析していた

ハーバード大のグループは、元々、膀胱癌をBCGで治療した症例を米国保健データベースから収集分析していました。彼らが行っていたのは

  • 膀胱癌をBCGで治療した症例の内、元々1型糖尿病を発病していた例を検索
  • BCGで膀胱癌治療後に元々あった1型糖尿病がどうなったか検討

していました。彼らの仮説は
「1型糖尿病があり、膀胱癌を発病しBCGで治療すれば、もともとあった1型糖尿病が改善する」でした。しかし、残念なことに、劇的改善は見られませんでした。なぜかというと、米国では糖尿病治療にメトホルミンを基本的に使います。そのメトホルミンが、なんと、BCGの治療効果を減弱するのだそうです。
Immunometabolic Pathways in BCG-Induced Trained Immunity

こういう解析をハーバードで行っている時に私が「BCGは1型糖尿病発病を予防する」というデータを送ったので、「一緒に研究しましょう」ということになったと思います。週に 1回くらい、Denise先生とメールのやりとりをしていましたが、論文をまとめる際に「Dr.Mochizukiが論文で伝えたいこと」を送るように言われ、メールで送りました。

そしてついに、

2021年8月12日 論文をPLOSONEに投稿

したと連絡がありました。私がハーバード大のDenise先生にメールを送ってから、7ヵ月です。彼らの仕事の速さにびっくりしました。なお、検定方法は「マン・ホイットニーのU検定」で行いました。プロ中のプロである「Statistics Department, Massachusetts General Hospital(MGHの統計部門)」の統計学者が解析を行ってくれました。ありがたい話です。
論文に記載しましたが、
BCG接種政策をとっている国では、1型糖尿病の発症率が平均65%減少しています(p<0.0001)。
私の予想通り BCGを長年接種している国と接種していない国では、1型糖尿病発病率に統計学的に有意差があったのです。
しかし……

査読者の1人が、査読を途中で辞退!

査読結果が来たら、私にも知らせてくれることになっていました、かなり待ってようやく、結果が返ってきました。かなり厳しいコメントが書かれていましたが掲載不可ではありませんでした。Denise先生から査読に対する意見を求められ、私なりに思っていることを書いて送りました。しかし、査読に対する返事をPLOSONE編集部に送ってから半年経っても返事が来ません。

Denise先生は何度もPLOSONEの編集部にメールを送り、査読への回答を催促していました。そうしたら査読者3名の1名が査読を降りてしまい別な査読者を探しているとの連絡が来たそうです。Denise先生、激怒していました。時間が随分とかかりましたが、新たな査読者が選定され、その方の査読が済み、論文の修正が終わりました。そんな中、大騒動?が起きました。

共同研究責任者のハーバード大学のDenise先生が「BCGを接種していればCOVID-19に罹患することは極めて少ないという論文を発表

2022年8月15日、
Multiple BCG vaccinations for the prevention of COVID-19 and other infectious diseases in type 1 diabetes」と題した論文が、Cell Reports Medicineのオンライン版に載りました。1型糖尿病患者さんにBCGを3回(28日間隔で2回接種を行い、さらに1年後に追加で1回の接種で計3回)接種したところ、COVID-19発病を92%も予防できたとする論文です。筆頭著者は「Denise L Faustman」。前述の如く、Denise先生はBCGを用いて1型糖尿病を治療していました。元々、BCGを接種すると様々な感染症を予防することが知られています。幼児でも老人でもBCGを接種すると様々な感染症に罹る率が劇的に減るのです。
アメリカでは、BCGは一般には接種されていません。Denise先生のグループだけが、BCG接種症例を「持っていた」のです。千載一遇!です。この好機をDenise先生が逃すわけが無かったのです。症例を見つけるのは簡単です。元々、Denise先生が1型糖尿病をBCGで治療している患者を調べたら、1%しかCOVID-19に罹患しませんでしたが、対照群は12.5%も罹患しています。圧倒的な差でした。この論文は世界中で広く読まれ、元々有名な研究者だったDenise先生の名前は、さらに広く知られるようになりました。そんな騒動?があったのですが、論文査読への最終回答は、なかなか来ませんでした。

2022年10月6日、正式にアクセプトとなり、2023年1月20日、出版となる

投稿して1年2ヵ月も経ってから、ようやく正式にアクセプトされ、出版されました

論文の最後に、論文著者の役割分担が記載されています。

「Author Contributions」
Conceptualization: Denise L. Faustman.
Data curation: Yoshihiko Mochizuki.
Formal analysis: Hans F. Dias, Yoshihiko Mochizuki
, Willem M. Kuhtreiber, Hui Zheng,
Denise L. Faustman.
Funding acquisition: Denise L. Faustman.
Investigation: Willem M. Kuhtreiber, Hiroyuki Takahashi, Denise L. Faustman.
Methodology: Hans F. Dias, Willem M. Kuhtreiber, Hiroyuki Takahashi.
Project administration: Denise L. Faustman.
Supervision: Denise L. Faustman.
Validation: Hans F. Dias.
Writing - original draft: Hans F. Dias.
Writing - review & editing: Willem M. Kuhtreiber, Denise L. Faustman.

ありがたいことに、Data curationはYoshihiko Mochizukiがやったと書いてくれています。本当に嬉しいです。見も知らぬ日本の無名クリニックの医師の言に真摯に耳を傾けてくれたDenise先生には、いくら感謝してもしきれないです。

繰り返しますが、この論文の1番の要旨は
「小児期のBCG接種は1型糖尿病の発病を予防する効果がある(であろう)」です。

注:効果があると断言するには、 BCGを新生児期に打っていない地域での治験が必要です。
1. 新生児期にBCGを打った群(数千人?)と
2. 新生児期にBCGを打たない対照群(数千人)を作り、
10数年後に各群のⅠ型糖尿病発病率を比較すれば「断言」できると思います。どこか、そういう治験を行う地域や国が無いでしょうか?費用も時間もかかりますが、やる価値はあると思います。

閑話休題:この研究はちょっとした思いつきから始まりました。研究機関に属していない無名クリニックでも「種」を見つければ、こういう研究ができるのだと思いました。

この論文を読んだある医科大学の元学長からメールを頂きました。
「望月先生、論文を読みました。この論文自体にも価値があります。しかし、この論文の価値は日本だけでなく世界中の小さなクリニックの医師に勇気を与えたことです。小さなクリニックでもこういう研究ができることを示した。そこに価値があると思います」
と言われ、ひとりで舞い上がっていました。開業医にとって日々の臨床が一番大切ですが、なにか研究の「種」を見つけようとするのも悪い話ではないと思っています。

色々と、あきらめないで、良かったと思っています。

この研究はインターネット上のデータしか用いていません。ハーバード大学の先生とはメールでしか、やりとりをしていません。つくづく、時代は変わったと思います。

追記:論文が掲載された記念に、古くからの友人で益子在住の陶芸家の外松信彦氏に「BCGマグカップ」を作っていただきました。

写真:益子在住の陶芸家の外松信彦氏「BCGマグカップ」
素晴らしいマグです。
把手に穴が9個開いています。日本人にはおなじみのBCGハンコ注射を模しています。
(これは外松氏のアイデアです。マグを見るまで知りませんでした。)

ハーバード大学医学大学院免疫生物研究室のDenise L. Faustman先生と第一著者のHans F. Diasさんに、このマグカップを送りました。把手の9つは日本独自の「ハンコ型BCG接種」を模していることを説明する文章を添付しました。とても、喜んでくれました。

Denise先生に送った「9つの穴」の英文説明文です。なお、米国でのBCG接種は注射針を用いた普通の皮内接種です。

BCG inoculation in Japan is known as a 'hanko injection'. It uses a tool called a 'tube needle' as shown in the picture. It has nine needles on the end.

The vaccination site is fixed as the 'outer left upper arm'. Place a few drops of BCG vaccine solution in the centre of the left upper arm at the vaccination site. Press the tube needle, vertically.

Changes at the BCG vaccination site Normally, the needle mark at the vaccination site is white and the surrounding area red from 4 to 6 weeks after vaccination, as shown in the picture below.
The nine holes in the handle of the BCG mug represent the nine holes at this vaccination site.

2回打つので皆さんの手には18個の穴の跡があるはずです。

望月吉彦先生

望月吉彦先生

所属学会
日本胸部外科学会
日本外科学会
日本循環器学会
日本心臓血管外科学会
出身大学
鳥取大学医学部
経歴
東京慈恵会医科大学・助手(心臓外科学)
獨協医科大学教授(外科学・胸部)
足利赤十字病院 心臓血管外科部長
エミリオ森口クリニック 診療部長
医療法人社団エミリオ森口 理事長
芝浦スリーワンクリニック 院長

医療法人社団エミリオ森口 芝浦スリーワンクリニック
東京都港区芝浦1-3-10 チサンホテル浜松町1階
TEL:03-6779-8181
URL:http://www.emilio-moriguchi.or.jp/

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