望月吉彦先生
更新日:2020/05/25
この原稿は、2020年5月10日に書いています。ゴールデンウィーク中の「自粛」が終わり、少しずつ人出が戻っています。日本では段々とCOVID-19の発症数、死亡数が減少しています。早く収束に向かって欲しいですね。
「コレラからコロナを考えよう」という主旨で前回よりお伝えしています。そうしたら、なんと、本稿を書いていた2020年5月4日に、兵庫県丹波市の歴史を調査する「氷上郷土史研究会」の方が、同市内円通寺のふすまや屏風の下張り文書を調べていたら、その中に1877年(明治10)に流行していたコレラに関する県や内務省の通達文書を見つけた」という新聞記事を見つけました(140年前「コレラ」との闘い 通達文書発見、新型コロナと共通点多く 恐怖に震えた日本人 2020/05/04 丹波新聞)。
その「明治10年のコレラに関する通達文書」に
“国境に入る他国人を、各一、検査し、コレラ病あるものは、これを適宜に所置すべきである。”
“表見、健康の人たりとも、この毒を輸致することあるがゆえに、これを以て、十全の予防法とすること能はず。”
と書かれているのだそうです。これはまさに今の
「ロックダウン」「患者隔離」
「無症候SARS-CoV-2ウイルスキャリアが存在することに対する注意」
と一緒です。
本稿を書き始めたとき、まさかこのような資料が出てくるとは思っていませんでした。絶対的予防法、治療法が無い「伝染病」に対する対処法は100年前も今も変わらないことがわかります。
COVID-19の原因ウイルスは「SARS-CoV-2」だとわかっていますが、原因ウイルスがわかっていても根本的な対処法はまだ見つかっていません。
現時点で医学の面から試みられている治療法、予防法は以下のごとくです。
順不同です。さまざまな試みがなされています。
これらの単独、併用、さまざまです。一番良いのは「ワクチン」ができることですが、ワクチンの有効性、安全性を確認するには数年かかると思います。ワクチンができても、ワクチンを否定する人々も結構多いので、いずれそれが問題になると予想します。
例えば、世界的テニスプレーヤーのジョコビッチはワクチン否定論者で、COVID-19に対するワクチンができても「受けない」と言っていますね。
他人事ではありません。日本でも子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)の接種率が0.6%と先進国の中では最低です。先進国では60-70%の接種率です。日本は先進国なのでしょうか?ほかの「先進国では子宮頸がんが劇的に減っています」が、日本は減っていません。ワクチンについては色々と考えることがあります。
さて、治療法も予防法も確立されていない「COVID-19」の治療、予防はどうしたらよいでしょうか?特に予防はCOVID-19のワクチンができるまでは、どうやら医学の出番はなく、「化学(ばけがく)」と「物理学」を駆使しての予防が有効です。
化学とは大げさですが、石けんやエタノールなどの消毒薬で手や触れた(る)箇所を清潔に保つことを指します。石けんやエタノールはSARS-CoV-2ウイルスの皮膜(エンベロープ)を破壊するのでウイルスとして作用ができなくなります。エンベロープは脂質(油)でできているので界面活性剤である石けん、エタノールで破壊されるのです。
物理学も大げさですが、他人との距離をとる。ソーシャルディスタンス、3密(密接、密封、密集)を避けること、およびマスクで唾液が飛散することを防ぐこと、などすべて物理学の応用です。
きちんとした予防法が確立されるまでは化学、物理の力を頼りましょう。
4月上旬のこと、TVでニューヨークの病院風景を放映していました。次から次にCOVID-19に罹患した患者さんが担ぎ込まれ、人工呼吸器がつけられ、しかしそれでもどんどんお亡くなりになって遺体安置所が一杯になり、冷凍トラックが病院に横付けされ、そのトラックの冷凍庫に御遺体が運ばれています。病院内に安置する場所さえなくなっているのだと思います。
その先はどうするのでしょう。細菌は宿主がお亡くなりになると細菌も死滅します。ウイルスは違います。宿主がお亡くなりなってもウイルスは存します。それ故に遺族の方も最後のお別れができません。志村けんさんがお亡くなりなった時、このことが広く知れ渡りました。
ブラジル、ニューヨークでは重機で掘った穴に御遺体の多くを埋葬しています。
火葬にできないほど多くの方がお亡くなりになっているか、宗教上の理由で火葬を選択しない方も多いのでしょう。
日本の火葬率は99.9%ですが、2018年イギリス火葬協会発行の資料によればアメリカ52%、英国イギリス77%、独62%、仏40%、伊24%、露10%、台湾97%、韓国84%、タイ80% です。なんとなく火葬率が低い国にCOVID-19による死者が多いような気がします。疫学すればなにか解るかもしれません。
いずれにしてもニューヨークやブラジルの土葬風景は現代の風景とは思えないです。以前勤めていた病院で同僚だったK先生が、今、ニューヨークの病院(BI病院)でCOVID-19患者さんの治療に当たっています。「凄惨」としか表現できないそうです。日本は一時的には収束にむかうかもしれませんが、今冬にどうなるか楽観できないです。
さてコレラの話に戻ります。「罹ったら数日で死んでしまう原因不明の病、死病」が流行ったら、戸惑い、逃げ惑うでしょう。逃げても逃げた先で同じ病気が流行るかもしれません。結局どうしたらよいか解らずに右往左往するしかありません。1854年ロンドンがまさにこの状態でした。当時のロンドンもコレラによる死亡者が相次ぎ、屍体運搬馬車に屍体が乗り切らず、馬車の屋根の上に重ねていたのです。現代のニューヨークの風景と一緒です。
次回はこのコレラから感染症について考えていきます。
望月吉彦先生
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