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001:「動物咬傷」について(望月吉彦先生) - ドクターズコラム

メディカルコラム

望月吉彦先生

更新日:2014/08/25

毎日暑い日が続いています。しかも日本の夏はジメジメと暑い!この高温多湿の時期にこそ、この話をしたいと思います。

「動物咬傷」は高温多湿の時期に多い?

「動物咬傷」は高温多湿の時期に多い?

なぜ、「動物咬傷」について話題にするかと申しますと、「動物咬傷」がこの高温多湿の時期に多いからです。ご存知でしたか?
「多い」と書きましたが、日本には正確な統計は存在しません。インターネットで厚生労働省のホームページ(HP)や保健所等のHPで統計を調べてみましたが、月別動物咬傷発症数のデータはありませんでした。しかし、米国にはそういうデータがありまして、確実に夏に動物咬傷が多いとされています。日本では統計こそありませんが、私の経験上、これは間違えないと思っています。私は若い頃、救急診療も行う外科の病院で勤務した時に「高温多湿、特に梅雨時には異様に動物咬傷が多い」事に気づきました。
犬や猫にかまれるのは年間を通して平均的では無く、ほぼ梅雨時とその後に集中していたのです。よく人間界での例えとして「飼い犬に手を噛まれた」という成句が使われますよね。本当の飼い犬が飼い主の手を噛むのは年中起こりうる人間とは違って6-7月に多いのです。きっと、犬も猫もその他の動物もこの時期には人間と一緒で「イライラ」するのではないでしょうか。
この推論には根拠があります。梅雨時には多く見られる病気には他に、急激な血圧上昇で発症する「大動脈解離(だいどうみゃくかいり)」が知られています。梅雨という時期は「身体に堪える」のですね。老若男女、体調管理が重要です。
ここからは夢想ですが、例えば初診での病院受診理由を「クラウドを利用したビッグデータで収集分析」すれば、天候と病気の関係を解明する事が出来るのではないかと思っています。例えば、『7月2日 本日の気温は27度、湿度は65%、関東甲信越地方の方は「動物咬傷」に注意しましょう』とか、『大動脈解離』に注意しましょう』とか、「健康」と「天候」の緻密な関係を予報する『健候予報』なんて出来るようになるかもしれません。今は残念な事にそういうデータ収集システムがありませんが、これからの時代に整えて欲しいものです。

閑話休題、私がすすめる創傷治療の「湿潤治療」では、「外傷」処置に消毒は不要であると考えております(湿潤治療についてはコチラ ※外部サイト)。
「動物咬傷」も基本的に消毒は不要ですが、多少、創傷処置方法が違います。何が違うかというと、「動物咬傷」には「感染」が必発です。要するに動物の牙には沢山の細菌がついており、噛まれると牙先端が真皮下や筋肉内まで達するため、そこで細菌が繁殖します。それを防ぐため、あるいは感染してからでも構いませんが、細菌が体外に出やすいような処置をします。一工夫こらしたナイロン糸を創部に挿入するだけです。数日、糸を留置すれば糸に沿って膿が体外に流失します。これを「ドレーナージ」と言います。ほとんど2-3日で膿の流失は止まり感染も治ります。抗生剤も数日投与します。場合によっては破傷風ワクチンも投与します。この辺りが「普通の傷」と「動物咬傷」の違いです。

と、ここまで書いていた時、今夏盛り上がりをみせたワールドカップでウルグアイの選手がイタリアの選手の肩を噛んで問題になっていることに話題提供者として運命を感じます。人間の唾液には唾液1ml中の細菌数は、一億から十億個あります。“Kiss”をするのは、他人同士の細菌が絡み合う事になります。そして、細菌同士もO.K.なら「恋人になっても良いよ」と脳に指示しているという仮説もあります。例えば、血液を介して感染する病気に罹患されていた場合でも“Kiss”でその病気がうつる確率は極めて低いとされています。ただし、噛み傷は違います。感染者が噛まれて出血すれば、噛んだ人の方が感染する可能性はゼロではありません。噛んで感染を生じれば傷害罪になります。かの「噛みつき選手」は、9試合もの出場停止処分になりました。人が人を噛んで良いことはありませんよね。

外国旅行する方に「狂犬病」の注意を

感染症の話になりましたので、最後にこんな話題も。
高温多湿時期とは関係が無いのですが、外国旅行する方に「狂犬病」の注意をお伝えしておきましょう。日本では昭和31年から「狂犬病」を発症した人はいません。動物の「狂犬病」も昭和32年を最後に発症がありません。ところが、外国では違います。北欧とイギリス、オーストラリア、ニュージーランド以外の国では今でも「狂犬病」が発症しています。そして、年間5万人もの人が死亡しています。「狂犬病」といっても、「犬」だけではなく「コウモリ」などの動物からも感染ります。死亡率99.9%の病気です。可愛いからといって外国で犬をなでたりして噛まれると感染する可能性もありますので注意が必要です。日本国内での狂犬病発症はありませんが、渡航先から帰国後に発症して死亡した例があります。

高温多湿の夏、特に来年からは梅雨時には「動物咬傷」に注意してください。

望月吉彦先生

望月吉彦先生

所属学会
日本胸部外科学会
日本外科学会
日本循環器学会
日本心臓血管外科学会
出身大学
鳥取大学医学部
経歴
東京慈恵会医科大学・助手(心臓外科学)
獨協医科大学教授(外科学・胸部)
足利赤十字病院 心臓血管外科部長
エミリオ森口クリニック 診療部長
医療法人社団エミリオ森口 理事長
芝浦スリーワンクリニック 院長

医療法人社団エミリオ森口 芝浦スリーワンクリニック
東京都港区芝浦1-3-10 チサンホテル浜松町1階
TEL:03-6779-8181
URL:http://www.emilio-moriguchi.or.jp/

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