和智明彦先生
認知症や特発性正常圧水頭症についての素朴な疑問を、多摩南部地域病院・副院長・和智明彦先生にうかがってきた。和智先生は実際に現場で治療にあたっているお医者さん。認知症の患者を抱えたとき、きっと役立つアドバイスをしてくれた。
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A. 難しい質問です。ただ、認知症という病気の根本に「気力がなくなってくること」があるのだとしたら、新しいものにいつも挑戦してみたいという旺盛な好奇心や、これだけは続けるぞ!といったある種の頑固さみたいなものが必要なのかもしれませんね。また、脳血管性認知症は生活習慣病を回避することでリスクを軽減することができます。
A. 認知症は日常生活を普通に送っていく能力が全体的に低下してしまう病気です。この能力は人間関係をきちんと築くことや、社会環境に適応できるかといったことも含まれますが、日常生活を普通に送ることができる範囲は時代や環境と共に微妙に変化していくものです。例えば現在、コンピュータがどんどん日常生活にもなだれこんできていて、うまく操れない高齢者は次第に取り残されていってしまう…。現在の日本は昔に比べて社会環境の変化がとても急激な時代。変化に対応しきれない高齢者にとっては厳しい環境です。こうしたことも認知症が増える原因のひとつと考えられます。
A. 多くの場合はまず内科を訪れるようです。CTスキャン検査は最初の段階ですませておきましょう。脳梗塞などの診断に必須です。ほとんどのケースはこの段階で止まってしまうのですが、さらに神経外科も一度は受診されてみてはどうでしょうか?例えば、初診でCTを見ながら「加齢による脳萎縮です」「脳萎縮や脳梗塞があります」などと診断されても、患者さんの状態がぼーっとした気力のない感じで話し方もゆっくりだったり、最初の一歩を踏み出しにくいといった歩行障害が見られるようでしたら外科の対象となる場合も考えられます。実際、外科に移して改善される患者さんも多いのです。
A. 特発性正常圧水頭症に現れる歩行障害、認知症、尿失禁といった症状は、脳梗塞やパーキンソン病でも見られます。CTの画像診断で脳室が拡大しているかどうか、髄液循環の障害があるかどうか、腰椎から髄液を30ml採取し、翌日に歩くのがラクになるかどうかなどが特発性正常圧水頭症診断の決め手と考えられます。
A. 脳が浸されている脳脊髄液は、もともとは血液の一部からできたもので体の中で一番きれいな液体(99%は水:無菌)です。髄液は脳表や脊髄周囲を通って最終的には静脈から心臓に戻っていきます。従って、シャント術で腹腔に流してもそこから髄液は間接的に血管内に吸収されますし、もちろん直接心房に流しても問題ないわけです。
A.
バイパスに使う管は直径2-3mmの細いものなので、まれに髄液の浮遊物によって詰まることもありますが、特発性正常圧水頭症の場合であればほとんど1回で大丈夫でしょう。また、バルブの性能やチューブの耐久性も向上していますので、それらの劣化についてはそれほど心配はないと考えられます。
シャント術の難しいところは、どれだけの髄液を流出させるかが個人によって微妙に違う点です。最近では一人一人に適した流量に微調整できる圧可変式シャントシステムが主流で、これにより合併症が減少し治療成績が良くなりました。近い将来、こうした問題もマイクロチップセンサーなどの開発でさらに簡単に調節できるようになるかもしれません。
A. 患者さんのご家族の方は、やはり細々とした日常生活の変化について訴えられる場合が多いのですが、診察では以下のことを整理してお医者さんに伝えることがスムーズな診療の第一歩となると思います。
認知症もいろいろな原因が重なって起こる病気で、治療方法も少しずつ悪い原因を外していくというほかの病気の治療と同じです。シャント術はいくつかある認知症の原因のひとつの解決策。認知症の様々な症状のすべてが一気に治ると考えるより、例えば歩行障害が改善されれば患者さんの生活の質(QOL)が向上するかもしれない。介護が楽になるかもしれない。そんなふうに捉えてみてはどうでしょうか。
「認知症と外科という結びつきはなかなか出てこないものですが、例えばセカンドオピニオンとして外科を選ぶという考え方もありますよ」と和智先生。認知症とひとくちに言ってもその原因・症状はさまざま。治療できる認知症として特発性正常圧水頭症の可能性もあることを、是非心に留めておきたい。