疾患・特集

「カムフラージュメイク」を知っていますか?

日本国内には、病気やケガがもとで顔にあざ・キズをもっている人が約80万人いるといわれている。そのあざやキズをかくす(カムフラージュ)のがカムフラージュメイクである。アザ、赤ら顔、火傷事故の傷、口腔がんの後遺症、リンパ管腫などの外観で悩む人は多い。国内外でのカムフラージュメイクにまつわる活動、課せられた役割を紹介しよう。

カムフラージュメイクのなりたちとは?

顔にあざ・キズ

カムフラージュメイクの原点は、第二次世界大戦時にあるといわれる。戦いで外傷を負った兵士に対し、医師とアメリカの国家資格をもった美容関係者(コスメトロジスト)が協力して治療を行ったのがはじまりだ。のち欧米では、さまざまな団体・個人を中心に、積極的な研究と活動が進められてきた。

例えばイギリスでは、30年ほど前から、英国赤十字社が国民に対し事業の一環としてカムフラージュメイクを実施。施術や指導が無料で受けられるほか、クリームなどの化粧品も保険の対象となっている。医療者も、社会復帰のワンステップとして認知するようになってきているという。

また、初期のカムフラージュメイク用化粧品が開発されたアメリカでは、付属施設として「外見センター」を設置する大学病院もあり、傷病が完治した後も、精神的な負担を軽減するのに一役買っているという。

生活・人生の質の向上にも影響

交通事故

長い間医療は、キズや病気を治し、命を救うことを使命とみなしてきた。例えば交通事故にみまわれたとしよう。外見が変わるほどの傷跡や色素沈着が残ったとしても、キズが治癒し、機能面が回復した後は、治療終了とされるのが一般的ではないだろうか。退院後に社会復帰するにあたり精神的な苦痛がともなったとしても、それを解決するすべはなかったし、問題ととらえる医療関係者もいなかった。

カムフラージュメイクは、そのような場面における外見的治療(見た目のリハビリ)ととらえることができる。この「メイク」は、決して外見を飾るものではなく、キズやあざをカバー、あるいはカムフラージュすることによって心の苦痛を取りのぞくのが目的だ。

そこには、キズやあざをもった自らの外見を受け入れやすくするという効果も見いだされる。例えば、新しい人や環境との出会いの場面。そのような時にも、自信をもち、いきいきと、積極的に自己を表現することを手助けする。このことは、患者のクオリティ・オブ・ライフ(生活、人生の質)の向上にも大きく影響すると言えるのではないだろうか。

カムフラージュメイクと一般的なメイクの違い

その目的が一般的なメイクとは異なるのにくわえ、カムフラージュメイクならではの特徴はほかにもある。
カムフラージュメイクは、キズやあざをもつすべての人のためのメイクである。男性、また、小学生が日常習慣として使用する場合もある。
またメイクの程度も、個人の好みで決められるわけではない。カムフラージュメイクで使われる化粧品は非常にカバー力があり、汗・水にも強いものが多い。一見してキズやあざがわからない程度までのメイクを日常習慣にしてしまうと、逆に団体旅行など、素顔になる機会が生じやすい場所に出られず、困ることもあるという。
近年は日本人の肌色にフィットする国産商品がインターネットなどでも購入できるようになってきたため、自分の肌の色に近い化粧品を選びやすくなっている。それでも、飲酒や気温の影響でうまくカムフラージュしきれなくなる場合もある。また商品の選択肢も、一般のメイク商品とはまったく比べものにならないほど少ないのが現状である。

日本での活動、そして課題

カムフラージュメイク

近年ではわが国でも、いくつかの団体・個人がカムフラージュメイクに取り組み始めている。
「外見上の違いにかかわらず、誰もが楽しく生きることのできる社会環境」を目指している特定非営利活動法人(NPO法人)「ユニークフェイス」では、セミナー形式での勉強会を開催するなど、専門家を育てる事業に乗り出している。

また、北海道を拠点に活動を展開している「SCS(スキンカモフラージュサービス)ネットワーク」では、英国赤十字社からノウハウを学んだ指導者が全国で普及活動を行っている。このほかにも、NPO法人やメイクアップアーティスト、医療団体など、さまざまな形でカムフラージュメイクが研究・普及されている。

テクニック面の課題としては、ただ厚く塗り隠すのではなく、ナチュラルな感覚でカバーし、表情を生かすことができるテクニックと商品を開発すること。子どもや男性でもなじみやすい、短時間で簡便にできるノウハウを探求することなどが挙げられる。

また、臨床的な研究が重要であるだけに、形成外科・皮膚科・内科・歯科そして精神科などの医師、看護師、心理・福祉・教育のプロフェッショナルが一体となってのチームワークも、今後は強く求められるようになるだろう。

一方社会には依然、「不理解」という課題が残されているという。悪気のない人々の驚きや好奇の視線も、キズやあざをもつ人の心を深く傷つける。カムフラージュメイクは、真に個性が受け入れられる社会への橋渡し役とも言えそうだ。

公開日:2006年1月23日