レビー小体型認知症に関する記事をご紹介します。レビー小体型認知症の正しい知識を身につけることで、予防や改善にお役立てください。
「認知症」と名前がついているものの、発症初期にはもの忘れが目立たない、パーキンソン病と似た症状が現れるなど、さまざまな特徴をもつレビー小体型認知症。今回は、特定の抗てんかん薬に、パーキンソン病の治療効果があることを発見し、新たな抗パーキンソン病薬誕生のきっかけをつくった村田美穂先生(国立精神・神経医療研究センター)に、レビー小体型認知症のパーキンソン症状についてお話を伺いました。 「動作が遅い」「筋肉がこわばる」「小股で歩く」「無表情」などの症状が出現 ――レビー小体型認知症のパーキンソン症状(パーキンソニズム)とは、どのような症状ですか? レビー小体型認知症ではすべての患者さんにパーキンソン症状がみられるとは限りませんが、その経過中に多くの患者さんに下表のような症状がみられます。また、歩き方が小股・すり足のようになる(歩行障害)、無表情になる、声が小さくなる、つばが口にたまってよだれが垂れやすくなる、というような症状もみられることもあります。 主なパーキンソン症状(パーキンソニズム) (1)手足がふるえる(安静時振戦:あんせいじしんせん) 話をしている時、テレビを見ている時など、じっとしているとき(安静時)に手足がふるえます。 多くの場合、何かしようとしたり、物をもったりすると、ふるえは止まります。 (2)動作が遅くなる、少なくなる(無動:むどう) 動きがゆっくりになるとともに、自発的な動きが少なくなります。 日常生活では、着替えるのが遅くなるなどの影響がみられます。 (3)筋肉がこわばる(筋強剛・筋固縮:きんきょうごう・きんこしゅく) 筋肉の緊張が高くなり、医師が診察の際に腕や足をもって関節を曲げようとすると抵抗感があり、曲がりにくい状態です。「体が固い/柔らかい」という柔軟性とは異なります。 (4)体のバランスをうまく保てない(姿勢反射障害:しせいはんしゃしょうがい) 健康であれば、前または後ろから上半身を軽く押されてもバランスをとって元の姿勢を保てますが、それができず、転びやすくなります。 パーキンソン症状とは別に、立ち上がったときに急激に血圧が下がる起立性低血圧(立ちくらみ)や、便秘や頻尿などの自律神経症状も、レビー小体型認知症でみられる症状です。 原因は受診するまで分からないので、おかしなところがあれば早めに病院へ ――パーキンソン症状は、なぜ現れるのでしょうか? レビー小体型認知症とは、レビー小体というたんぱく質の塊が脳内に出てくることが特徴です。このレビー小体が大脳皮質にたくさん出ると大脳皮質の細胞が障害され、認知症症状を示します。一方で、黒質というところに出てきて黒質の細胞が障害されると、パーキンソン症状がみられます。ただし、このパーキンソン症状はパーキンソン病やレビー小体型認知症以外の、他の病気でもみられることがあります。たとえば、お薬の影響で似たような症状が出ることがあり、これを「薬剤性パーキンソン症候群」と呼んでいます。 「薬剤性パーキンソン症候群」以外のパーキンソン症候群の例 脳血管性パーキンソン症候群 脳梗塞(脳の血管に小さな詰まりができた状態)によって、歩くのが遅くなったり、歩いているときにつまずきやすくなったりします。 正常圧水頭症(せいじょうあつすいとうしょう) 脳の中にある脳脊髄液(のうせきずいえき)という水分が増えすぎて、脳が圧迫されることによって、歩行障害や認知機能の低下などがみられます。 進行性核上性麻痺(しんこうせいかくじょうせいまひ) 脳の一部の異常により、体のバランスを保ちにくくなったり、注意力が低下したりして、転びやすくなります。 …など ――レビー小体型認知症なのかパーキンソン病なのか、あるいは他のパーキンソン症候群なのかということは、ご家族に見分けはつくでしょうか? 医師が診なければ、見分けるのは難しいと思います。そもそも、動きがゆっくりになる、歩き方が変わる、というのは高齢者ではごく自然なことで、必ずしも病気とは限りません。大切なのは、原因が病気であれ年齢によるものであれ、おかしいなと思ったら早めに病院で診てもらうことです。 適切なお薬の選択が重要 ――レビー小体型認知症のパーキンソン症状に対しては、どのような治療が行われますか? 病状によりますが基本的には、パーキンソン病の治療に用いられるお薬(抗パーキンソン病薬)を服用していただきます。ただ、ここで注意したいのはレビー小体型認知症の患者さんはとてもお薬に過敏で、パーキンソン病のお薬で精神症状が出やすいことです。ですから、抗パーキンソン病薬の中でも特に精神症状が出にくいお薬を選択する必要があります。 一方で、レビー小体型認知症では、うつや幻覚や妄想などの精神症状が合併することも少なくありません。それらに対する治療薬でパーキンソン症状が出ることがあるのですが、これも、レビー小体型認知症の方では特に過敏で、そういう副作用が出やすいことが知られています。したがって、これらの精神症状に対する治療もパーキンソン症状にも注意しながら治療することが大切で、専門家にその方に合う適切なお薬を選んでいただくことがとても大切です。 パーキンソン症状で体が動かしにくいからといって動かずじっとしていると、筋力や関節の柔軟性などが衰え、より一層体が動かせなくなります。日ごろからできる範囲で体を動かすことも、大事な治療の一つです。治療を始めるのが早ければ早いほど、運動能力は維持されやすいので、日常生活を送りやすくなります。 ご家族へのメッセージ 小股やすり足など、明らかに歩き方がおかしければ、ご近所の方やご友人などでも「パーキンソン症状かもしれない」と気づくかもしれません。しかし、「周りの人より動きが遅い」「じっとしているときに手がふるえる」「以前よりも、着替えに時間がかかっている」というようなことは、同居しているご家族でなければ、気づきにくいこともあります。 運動能力が低下すると、患者さん一人では起き上がったり、トイレに行くことも大変になることもあります。ご本人のためにも、またご家族の介護の負担を抑えるためにも、「レビー小体型認知症かもしれない」と思えるような言動があったときは、できるだけ早く専門医に診てもらいましょう。 公開日:2016年8月8日
認知症の中で2番目に多いのに、認知症と診断されていないことも… 認知症と聞いてほとんどの人が思い描くのは、「もの忘れの病気」というイメージではないでしょうか。これは、記憶障害が主な症状である、アルツハイマー型認知症の印象が強いためだと考えられます。 実際には、アルツハイマー型以外の種類の認知症もあります。原因などをもとにして分類されたその数は、実に70種類ほど。アルコール中毒やエイズなどが原因のものなどさまざまですが、患者数が特に多いのは、「三大認知症」と総称される次の3つです。 (1)アルツハイマー型認知症 (2)レビー小体型認知症 (3)脳血管性認知症 アルツハイマー型が認知症全体の50%を占めますが、それに次いで多いのが、20%を占めるレビー小体型です(文献1)。アルツハイマー型では、記憶障害や、判断力・理解力の低下といった症状が、分かりやすい形で現れます。それに対してレビー小体型では、初期から中期にかけて、記憶障害はあまり目立ちません。そのためレビー小体型認知症は、発見が遅れやすいだけでなく、「認知症はもの忘れの病気」という印象が強いせいで、認知症という診断すらされていない場合もあります。 認知症とは 脳の神経細胞が壊れることによって生じる病気です。だんだんと進行し、記憶障害、判断力や理解力の低下などが起こります。やがて、時間や場所が分からなくなり、会話や計算ができなくなるなどして、日常生活に支障をきたすようになります。 認知症における記憶障害とは 物事の記憶が、まるごと消えてしまうような障害です。例えば、朝ごはんのメニューが思い出せないのは単なるもの忘れで、朝ごはんを食べたこと自体を忘れるのが、認知症における記憶障害です。 パーキンソン病と同様、脳に現れるレビー小体が原因 脳の容量が小さくなる「萎縮」によって、症状が現れる認知症がアルツハイマー型認知症です。それに対して、レビー小体という物質が脳全体に広がって起きるのが、レビー小体型認知症です。このレビー小体が、主に脳幹という場所に現れると、パーキンソン病という病気になります(文献1)。したがって、レビー小体型認知症とパーキンソン病は、本質的には同じ病気だと考えられています。 レビー小体型認知症は、初期から中期にかけて記憶障害があまり目立たないため、医師も認知症と診断することをためらう傾向があります。その結果、実際にはレビー小体型認知症でありながら、パーキンソン病と診断され、認知症の治療が遅れてしまうケースは少なくありません。 パーキンソン病とは 神経難病の一つです。神経難病とは、神経の病気の中で、はっきりとした原因や治療が分かっていないものです。「手足のふるえ」「筋肉のこわばり」「ゆっくりとした動作」「前かがみの姿勢」「小刻みな歩行」「転びやすい」といった症状(パーキンソン症状)が現れます。 アルツハイマー型認知症の病変があるかどうかで、2種類に分類 レビー小体型認知症は、発症する年齢や初めに確認された症状、脳の中にアルツハイマー型認知症の病変があるかどうかによって、以下の2種類に分けられます(文献1)。 発症年齢 初発症状 脳の中のアルツハイマー型病変 通常型 70歳ぐらい 記憶障害 あり 純粋型 40歳ぐらい パーキンソン症状 なし 通常型は高齢者に多く、約30%の人は最後までパーキンソン症状がみられないという統計もあります。そのため、実際にはレビー小体型認知症でありながら、アルツハイマー型認知症やうつ病、老人性精神病と診断されていることが少なくありません。純粋型は、約80%の人に初めにパーキンソン症状がみられます。そのため、パーキンソン病と診断されることが多くあります(文献1)。 レビー小体型認知症は、正しい診断を行うのが難しい病気です。この病気に関する知見・技術をもった専門の医師を、早く見つけることが何よりも大切です。 (参考資料) 文献1:『レビー小体型認知症の介護がわかるガイドブック』(メディカ出版) 文献2:『知っていますか?レビー小体型認知症』(メディカ出版) 公開日:2016年8月8日
レビー小体型認知症が見逃されていないかをチェック 認知症の症状としては、一般的によく知られているのは、記憶障害です。レビー小体型認知症の場合はそれに加えて、実際にはないものが見える幻視や、「手足のふるえ」「筋肉のこわばり」などのパーキンソン症状もみられます。下記のチェックリストで5つ以上該当するものがあれば、レビー小体型認知症の可能性が疑われると言えます。 「レビー小体型認知症」チェックリスト もの忘れがある 頭がはっきりしているときとそうでないときの差が激しい 実際にはないものが見える 妄想がみられる うつ的である 動作が緩慢(ゆっくり)になった 筋肉がこわばる 小股で(小刻みに)歩く 睡眠時に異常な言動をとる 転倒や失神を繰り返す 出典:『レビー小体型認知症の介護がわかるガイドブック』(メディカ出版) レビー小体型認知症の診断で行われる検査 脳の断面図の画像を撮影する、CTやMRIといった検査では、脳の萎縮などを確認します。また、核医学検査といって、脳の血流や代謝を調べる検査が行われることもあります。レビー小体型認知症は、脳だけでなく心臓にも変化がみられるため、ときには心臓を調べる検査なども行われます。 さまざまな症状が現れるレビー小体型認知症は、診断が難しい病気とされています。レビー小体型認知症の可能性が疑われても、最終的な診断には、専門の医師による問診や各種検査が必要です。 幻視は、レビー小体型認知症に特徴的な症状 レビー小体型認知症の症状で特徴的なのが、幻視です。実際にはないものが見える症状で、見えるものとしては主に虫、小動物、人などがあります。 幻視の例 動物に関するもの 「ネズミが壁を這いまわっている」「ヘビが天井に張りついている」「ご飯の上に虫がのっている」など 人に関するもの 「知らない人が座敷に座っている」「おばあさんがこちらを見て立っている」「子供たちがベッドの上で遊んでいる」「兵隊がゾロゾロやって来る」「〇〇さん(知人、家族、他界した人など)が遊びに来ている」「誰かがベッドで寝ている」「窓から男の人が入ってくる」「女の幽霊が現れる」など 環境に関するもの 「大きな川が流れている」「床が濡れている、水たまりができている」「光線が飛んでくる」「きれいな花が咲いている」「物が吸い込まれていく」など 出典:『レビー小体型認知症の介護がわかるガイドブック』(メディカ出版) アルツハイマー型認知症の場合、幻視が現れるのはまれです。幻視は「無数のハエが飛んでいるので、殺虫剤をまかなければ」「子供が来ているから、私が世話をしなければ」といった妄想に発展する場合もあります。 パーキンソン症状をはじめとする、さまざまな症状 「手足のふるえ」や「筋肉のこわばり」といった、パーキンソン病と共通するパーキンソン症状も、レビー小体型認知症の特徴的な症状です。そのほか、次の症状がみられることもあります。 認知の変動(頭がはっきりしているときと、そうでないときの差が激しい) 抑うつ症状 レム睡眠行動障害(睡眠中に「うなされる」「大きな声で寝言を言う」「奇声をあげる」「怒る」「怖がる」「暴れる」といった異常な言動をとる) 自律神経症状(「起き上がったり立ち上がったりしたときに、急激な血圧低下で転倒や失神を起こす」など) レビー小体型認知症が疑われる場合は、これらの特徴的な症状をあることを、医師に伝えるとよいでしょう。 (参考資料) 文献1:『レビー小体型認知症の介護がわかるガイドブック』(メディカ出版) 文献2:『知っていますか?レビー小体型認知症』(メディカ出版) 公開日:2016年8月8日
認知障害には、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤を使用 レビー小体型認知症には、記憶障害などの認知障害のほか、幻視やパーキンソン症状などの特徴的な症状があります。治療は主に、それぞれの症状に応じた薬を用いて行われます。 認知障害には、アルツハイマー型認知症の治療にも使われる、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤が用いられます。レビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症よりも、この薬の効果が確認されやすいと言われています。 アセチルコリンエステラーゼ阻害剤とは アセチルコリンという、減少すると認知障害が起きる恐れのある脳内の神経伝達物質が、分解されるのを防ぐ薬です。その働きによって、脳内のアセチルコリンの濃度が保たれ、認知障害が改善されます。 薬を服用していて、万が一不調や症状の悪化がみられたら、すぐに医師や薬剤師に相談しましょう。 薬以外では 認知機能を少しでも維持するためには、折り紙をする、洗濯物をたたむなど、物事を手順どおりに段取りよく行う作業を続けるとよいとされます。 幻視や妄想に対して抗精神病薬を用いると、症状が悪化することも 幻視や妄想、認知の変動などに対しても、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は効果が期待できます。 抑肝散(よくかんさん)という漢方薬が、効果的であることも知られています。抑肝散は、抑うつ症状、認知の変動、せん妄、レム睡眠行動障害などに対しても、効果が得られることがあります。 場合によっては、抗精神病薬も用いられます。高齢者だからと少なめに処方しても、気力がなくなる、眠くなるといった過鎮静や、パーキンソン症状などの副作用のほか、症状の悪化がみられることもあります。やむを得ず、家族の同意の下に使用されることがありますが、同意を得ずに用いられていることもあるため、注意が必要です。 薬以外では 幻視や妄想は、コミュニケーションを工夫したり、環境を変えたりすることで改善する場合も少なくありません。詳しくは「レビー小体型認知症への対応―ご家族の方へ」をご覧ください。 パーキンソン症状には抗パーキンソン病薬を使用 パーキンソン症状は、脳内のドパミンという神経伝達物質の不足によって生じます。ドパミンを補充するために用いられるのが、レボドパをはじめとする抗パーキンソン病薬です。レボドパは脳内でドパミンに変わるため、不足しているドパミンが補充されます。 パーキンソン症状が進行すると、一般的に薬が増量されますが、効果と同時に幻視や妄想などが悪化する恐れがあります。 現在はレボドパのほかに、パーキンソン症状に対する新たな薬物の治験が進められています。 レビー小体型認知症に対する処方は専門家でも非常に難しいため、薬の追加や変更、中止、増量などがあった場合は、特に注意が必要です。不調や症状の悪化があれば、必ず医師に相談しましょう。 レビー小体型認知症は、薬への過敏性に注意を 薬に対する過敏性が高いことは、レビー小体型認知症の大きな特徴です。一般的な量でも、副作用や症状の悪化、薬の効きすぎなどのリスクが高く、市販薬で具合が悪くなるケースもあります。高齢者は、たくさんの種類の薬を同時に飲んでいることが多いため、新しい薬を試す際は、いま服用している薬の使用を最小限に絞ります。 薬は徐々に減らす、あるいは増やすことが基本です。急な中断や変更の際は特に、ご家族は患者さんの様子に変わったところがないか、注意を払う必要があります。 (参考資料) 文献1:『レビー小体型認知症の介護がわかるガイドブック』(メディカ出版) 文献2:『知っていますか?レビー小体型認知症』(メディカ出版) 公開日:2016年8月8日
注意して観察し、診断に疑問を感じたら医師に相談を レビー小体型認知症の患者さん本人は多くの場合、実際にはないものが見える幻視などの症状を、自覚することができません。また、高齢者に多い病気であるため、ときには介護も必要となり、生活をともにするご家族のサポートは重要です。 レビー小体型認知症には、薬に対する過敏性が高いという特徴があります。そのため、ご家族が患者さんを観察する際に注意するポイントとして、薬の追加・変更・中止などの際には「副作用が出ていないか」「効きすぎている様子がないか」ということが挙げられます。 実際はレビー小体型認知症でありながら、アルツハイマー型認知症と診断されているケースも多くあります。症状チェックの結果から「レビー小体型認知症なのでは?」と思った場合は、幻視やパーキンソン症状など、レビー小体型認知症の特徴的な症状を中心に医師に伝えると、理解してもらいやすくなります。治療の効果が感じられない場合は、担当医師に薬の変更を相談したり、医療施設の変更を検討してもよいでしょう。 症状改善のために、ご家族の方にできること 薬による治療だけではなく、環境やコミュニケーションの仕方を変えることで、レビー小体型認知症の症状を改善できる場合があります。ここでは代表的な症状への、ご家族ができる対処法をご紹介します。 (1)幻視がある場合 幻視は、室内の明かりを変えることで、症状が改善する場合があります。蛍光灯は影を作りやすく、高速で瞬いているため、幻視の原因になりやすいとされています。そのため、白熱灯に交換することが勧められます。部屋によって明るさが異なるのも幻視の要因となるため、明るさを統一することも大切です。 患者さん本人は、幻視を現実のことと思っているので、頭ごなしに否定したり、感情的に対応したりすることは、混乱を引き起こす原因になります。十分に患者さんの訴えに耳を傾け、患者さん自身が納得できるまで繰り返し説明をするといった対応が、効果を現す場合があります。 (2)妄想がある場合 幻視が妄想に発展したケースで、幻視のほうが改善したのに妄想がなくならない場合があります。妄想がさらにエスカレートする、抑うつ症状が進行する、興奮や暴力につながるといった場合もあります。妄想は、本人がそのことを確信している状態であるため、否定しても正常な思考へと戻すことは困難です。優しく手を握ったり、心拍数と同じテンポ(60回/1分)で背中を軽く叩いてあげたりすると、効果を現すことがあります(文献1)。 (3)パーキンソン症状がある場合 レビー小体型認知症では、しばしば歩行障害が起こります。介助する際は、正面から手を引かず、横に立つようにします。また、「1、2、1、2」と掛け声をかけたり、テンポのよい音楽をかけたりすることも効果的です。 転倒にも十分な注意が必要です。レビー小体型認知症の転倒率はアルツハイマー型認知症の10倍という報告もあります(文献1)。反射機能が低下しているため、転んでも手をつくことができず、骨折して寝たきりになるケースもあります。 転倒が起きやすい夕方や夜間の時間帯は、特に気をつけるようにします。また、「つまずく原因となるものを床に置かない」「濡れた床はすぐ拭く」「介護保険サービスを用いて手すりの設置などを行う」といった対策をとります。 患者さんの状態を把握するために欠かせない、ご家族の協力 さまざまな症状があり、患者さん本人が自力で日常生活をうまく送れないこともあるレビー小体型認知症の介護は、ご家族にとって簡単なことではありません。しかし、いつも患者さんのそばにいて、その状態を正確に把握することは、ご家族にしかできません。病気や治療法について正確な情報を身につけて、患者さんの状態や変化で気になることがあれば、医師に伝えるようにしましょう。 (参考資料) 文献1:『レビー小体型認知症の介護がわかるガイドブック』(メディカ出版) 文献2:『知っていますか?レビー小体型認知症』(メディカ出版) 公開日:2016年8月8日
「不安だから健診に付いてきてほしい」とお願いして ご家族が「もしかして、レビー小体型認知症かもしれない」と思い、いくら受診を勧めても、ご本人がなかなか病院に行こうとしないというケースは少なくありません。これは、自分がレビー小体型認知症であるという自覚が、ご本人にはないためだと考えられます。 「ご家族の健康診断の付き添いという体裁をとる」という方法は、レビー小体型認知症の自覚のない方に、自然に受診してもらいやすい方法の一つです。まずはご家族が、「健康診断を受けに行きたいけれど、不安だから付いてきてほしい」とお願いをして、レビー小体型認知症を診てもらえる医療機関にご本人を連れ出します。医療機関では、「せっかく来たのだから、ついでに先生に診てもらおう」と伝えて、受診するよう促しましょう。可能であれば、事前に医師に話をしておくと、診察室にご家族と一緒にご本人を呼び入れてもらえるなどして、スムーズに進められるでしょう。 ほかの症状を診てもらうついでに、認知症の検査を 「レビー小体型認知症とは別の症状が出たときに、レビー小体型認知症の検査を受けてもらう」という方法もあります。頭痛や腹痛、体のだるさなどの身体症状があるときは、受診することをご本人が納得しやすいタイミングです。たとえ、ただの風邪だと思われるような場合でも、ご家族も一緒に医療機関へ行きましょう。レビー小体型認知症を診てもらえる医療機関であれば、「ついでに脳の検査も受けてみては?」とレビー小体型認知症の検査を勧め、かかりつけの病院であれば、専門医を紹介してもらうとよいでしょう。この方法でも、スムーズに進めるためにはやはり、可能であれば事前に医師に話をしておきましょう。 同居していない人の勧めには応じることも 同居している家族からの受診の勧めはご本人に拒否されても、一緒に住んでいない人からの勧めであれば、受け入れられる場合があります。ケアマネージャーや、同居していないご家族、親戚、友人などに協力を求めて、受診を勧めてもらってもよいでしょう。 レビー小体型認知症は、できるだけ早く発見し、正しく診断されることで、治療や介護の方針を立てやすくなります。ご家族は、不可解に思われたご本人の言葉や行動に納得ができ、医師やケアマネージャーなどとの関わりによって、気持ちに余裕が生まれるというメリットが得られます。早期発見・早期治療の重要性を認識して、ご家庭の状況に合う方法で、ご本人に受診してもらいましょう。 (参考資料) 文献1:『親の認知症に気づいたら読む本』(主婦の友社) 公開日:2016年8月8日
レビー小体型認知症は「認知症」と名前がついていますが、アルツハイマー型認知症とは異なる特徴をもった病気です。早期発見につなげるため、具体的な症状や誤診されやすい病気について、レビー小体型認知症の発見者である小阪憲司先生(クリニック医庵センター南・横浜市立大学名誉教授)にお話を伺いました。 「認知症は、もの忘れの病気」という誤解 ――レビー小体型認知症の主な症状はやはり「もの忘れ」ですか? アルツハイマー型認知症の印象から、認知症というと「もの忘れの病気(記憶障害)」と誤解されがちです。しかし、レビー小体型認知症ではもの忘れ以外の症状のほうが先に現れ、目立つことがよくあります。 ――具体的には、どのような症状がありますか? まずは、幻視(げんし:誰もいないのに子供が見える、天井が落ちてくるなど実際にはないもの、起こっていないことが見える)や錯視(さくし:ハンガーにかかった服が人に見えるなど、見間違いをする)、変形視(天井が波打って見えるなど、物が変形して見える)などの、視覚認知障害です。 眠りながら、恐い夢を見て大きな声で寝言を言う、足をバタバタと動かす、壁をたたく、などの異常な言動が現れる、レム睡眠行動障害が起こることもあります。 また、うつ病のような気分の落ち込みやゆううつ感(うつ症状)などもみられ、集中力や自発性の低下も伴います。 自律神経症状(下表)や、臭いがわからなくなる嗅覚障害も代表的な症状です。 レビー小体型認知症で現れる主な自律神経症状 ●便秘 ●起立性低血圧(立ちくらみ) ●発汗障害(多汗/無汗) ●頻尿 ●手足の冷え ●めまい …など さらに、パーキンソン病のような筋肉のこわばりや手のふるえ、小またで歩く、転びやすいといったパーキンソン症状も特徴的な症状です。レビー小体という物質によって引き起こされるレビー小体型認知症は、同じ原因で起きるパーキンソン病や認知症を伴うパーキンソン病とともに、「レビー小体病」と総称されています。 うつ病や統合失調症などに誤診されることも… ――病気が進行すると、症状に変化はみられますか? 病気が進行すると、症状に変化はみられますか? 最初はもの忘れがみられなかった人も、病気が進行してくると、やがてもの忘れが目立つようになります。歯みがきやテレビのリモコンの扱いなど、いままでできていたことが、できなくなることもあります。 レビー小体型認知症は、医師の間でもまだ十分に知られていない病気のため、実際はレビー小体型認知症でありながら、誤診されてしまうことがよくあります。 ――どのような病気と誤診されるのですか? うつ症状がある人はうつ病、幻視や幻聴、妄想がある人は統合失調症など、それぞれの特徴的な症状に関係した病気(下表)と誤診されることがよくあります。自律神経症状に代表されるように、全身に症状が現れる病気でありながら、「認知症」という名前がついているのも、誤診されやすい理由の一つでしょう。正しく診断されていない人や、まだ受診をしていない人をあわせると、レビー小体型認知症は、認知症患者さん全体の約2割を占めるといわれています。 これらの病気と 誤診されているかも…? ●アルツハイマー型認知症 ●うつ病 ●統合失調症 ●老年期精神病 ●パーキンソン病 …など ――誤診された病気の治療を受けていても、レビー小体型認知症は改善しますか? 誤診されたままでは、レビー小体型認知症の正しい治療を受けられていないので、改善は期待できません。むしろ、用いる薬の影響で症状が悪化してしまう恐れもあります。正しい治療を早く始めるために、もの忘れが現れていない早期のうちに発見することは、とても大切です。発見するのが早ければ早いほど、病気の進行を抑え、症状が悪化するのを防ぎやすくなります。 進行を遅らせるには、できるだけ早く専門医に診てもらうことが大切 ――早期発見のためには、どうすればよいですか? レビー小体型認知症の症状に気づきやすいのは、患者さんと接する機会が多いご家族の方です。ご家庭に高齢の方がいる場合は、日頃から様子を注意して観察し、レビー小体型認知症が疑われる症状があれば、早めに医療機関で診てもらいましょう。 ――受診すると、どのような検査を受けることになりますか? もっとも大切なのは、症状などを把握するための問診です。また、必要に応じて脳の画像検査(CT、MRI、SPECT、ダットスキャン®)や、心臓の画像検査(MIBG心筋シンチグラフィ)、認知機能の検査などを行います。しかし、これらの検査はあくまで診断のための補助として行うものであり、検査だけでレビー小体型認知症と診断することはできません。重要なのは、やはり問診です。 ――どの診療科で診てもらえばよいですか? 一般的に、認知症を診てもらえるのは、精神科や神経内科、脳外科、老年科などです。しかし、それらの診療科の医師全員が、必ずしもレビー小体型認知症を詳しく知っているとは限りません。インターネットや書籍で、レビー小体型認知症の専門医を調べて診てもらうのが、早期発見のための近道だと言えます。 ご家族へのメッセージ レビー小体型認知症では多くの場合、もの忘れの症状が現れるのは、病気がある程度進行した後です。そのため、もの忘れが現れる前の早期の段階で発見できれば、病気の進行を遅らせることができ、介護するご家族の負担も軽減されます。 ご家族に日ごろとは違うおかしな言動がある場合や、気になる症状がある場合、誤診が疑われる場合は、できるだけ早く、迷わずにレビー小体型認知症の専門医に診てもらいましょう。 公開日:2016年8月8日
監修:メディカルケアコート・クリニック院長 小阪憲司 先生 (横浜市立大学名誉教授) 患者数が2番目に多い認知症 認知症といえば、真っ先にアルツハイマー型認知症を思い浮かべる人は多いだろう。70ほどの種類があると言われる認知症の中で、この認知症はもっとも患者さんの数が多く、全体の半分を占めている。それに次いで多いのがレビー小体型認知症で、名前はアルツハイマー型認知症ほど知られていないものの、患者さんの数は少なくとも50万人はいると考えられていて、認知症全体の20%を占めている(2011年2月現在)。 レビー小体は脳の神経細胞の中にある異常な物質のひとつで、これが大脳皮質と呼ばれる脳の表面の広い範囲に現れると、レビー小体型認知症が発症する。このようなことがなぜ起きるのかは、現在はまだよくわかっていない。 「認知症はもの忘れの病気」という誤解 レビー小体型認知症には、アルツハイマー型認知症とは異なる特徴がある。 認知症というと「もの忘れ」の病気だと思われがちだが、レビー小体型認知症では、初期にはもの忘れがあまり目立たないことが少なくない。実際にはその場にいない人や子供や虫や猫などが見える「幻視」が、初期の症状として現れることが多い。 また、気分がふさぎがちになる、意欲がわかないなどの「うつ症状」も見られ、手足や筋肉のこわばり、動きの鈍さ、歩幅が小さくなるなどの「パーキンソン症状」が現れることもある。そのため、家族は認知症だとは気づかず、病気の発見が遅れてしまうことが多い。 このほかにも、眠りが浅いレム睡眠という時間帯に大声で寝言を言ったり、寝床で手足をばたばたさせたりする行動が見られること(レム睡眠行動障害)もある。立ちくらみや失神、尿失禁や頑固な便秘などの自律神経症状が見られたりすることもある。 65歳以上で発症する場合には、もの忘れや幻視やうつ症状などの精神症状で始まることが多い。しかし、より若い年で発病する場合には、パーキンソン症状で始まることが多い。 これらの特徴から、レビー小体型認知症の診断は医師であっても難しい。そのため病院に連れて行っても、うつ病や、高齢者の精神病と間違って診断されたり、単にパーキンソン病と診断されたりすることが少なくない。正しい診断を受けるには、できるだけ早く専門医に診てもらうことが何よりも重要だといえる。 レビー小体型認知症とアルツハイマー型認知症の初期症状 レビー小体型認知症 アルツハイマー型認知症 初期症状 幻視や妄想、うつ症状、レム睡眠行動障害などが見られ、日や時間帯によって頭がかなりハッキリしているときとボーっとしているときの差が激しい。 初期にはもの忘れが目立たないことがある。パーキンソン症状で発症することもある。 物忘れが目立ち、物盗られ妄想が加わったりする。知っているはずの場所で、道を間違えることもある。 それぞれの症状にあった薬による治療 レビー小体型認知症を治療する専用の薬はまだ存在していないため、それぞれの症状にあわせた薬で治療が行われる。 レビー小体型認知症の治療法 ●認知能力の低下 言葉のやりとりや計算、時間や場所の把握が正常にできないなどの症状やもの忘れには、アルツハイマー型認知症同様にアセチルコリンエステラーゼ阻害剤が使用されることがある。 ●幻視、妄想 アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、幻視や妄想を抑える効果もある。このほかに、漢方薬や少量の非定型抗精神病薬が使われることもある。このほかに患者さんの主張を強く否定せずにしっかりと話を聞いてあげる、幻視がよく起きる部屋の室内環境を変えるなど、薬の投与だけではなく、家族の工夫によって改善されることもある。 ●パーキンソン症状 パーキンソン病の治療に用いられるレボドパなどの抗パーキンソン病薬を投与して症状を抑える。この症状が起きている患者さんは転びやすいため、歩くときには家族が横について介助することが望ましい。
監修:メディカルケアコート・クリニック院長 小阪憲司 先生 (横浜市立大学名誉教授) 年齢のせい?もしかしたら… 認知症の症状というと、「もの忘れ」などの記憶障害を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、レビー小体型認知症では、初期にはもの忘れそのものは目立たないことや、もの忘れよりも前に別の症状が現れることが多くあります。 レビー小体型認知症の症状には、次のような特徴があります。次の症状のうち2つ以上に当てはまる人は、レビー小体型認知症の可能性が非常に高いです。 幻視(実際にはないものが見える) 現実感のある幻が現れます。以下のようにとても具体的であることが特徴です。 ◆実際の症状 子どもが家の中で遊んでいる 家の中に黒い服を着た人がいて、こちらを眺めている 床に小さな虫がたくさん這っている 認知の変動 日によって、または一日の中でも時間帯によって、記憶力や注意力、集中力の状態が変動します。 ◆実際の症状 頭がかなりはっきりしているときとボーっとしているときがある 昨日は会話が通じなかったのに、今日は調子がいい 先ほどまでできたことが、今はできない パーキンソン症状 手先の作業が不器用になる、動きが鈍くなる、歩きにくくなるなどの症状が見られます。 ◆実際の症状 姿勢を保つのが難しくなり、転びやすい 動作が極端に遅くなる 小刻み歩行や前傾姿勢となる そのほかに、以下の症状がある方もレビー小体型認知症の可能性があります。以下の症状がある場合は、注意深く患者さんの状況を確認して見てください。 その他の症状 夜寝ているときに大声で怒鳴る・暴れだす 転びやすくなり、急に立ち上がったときなどに、一時的に気を失うようになった 幻視に基づいた妄想がある(普通でないことを信じ込んでいる) 起立性低血圧(立ち上がったときに血圧が下がり、ふらつきを感じる) 尿失禁、頑固な便秘などがある ふさぎこんでいることが多い
レビー小体型認知症の患者さんと一緒に暮らす家族は、毎日のように繰り返される症状にどう対処していいのか悩むもの。まずは、よくある症状の中でも、特に代表的なものへの対処方法を知っておこう。 監修:メディカルケアコート・クリニック院長 小阪憲司 先生 (横浜市立大学名誉教授) CASE 1:幻視 症状: レビー小体型認知症の代表的な症状で、そこにいないはずの子どもや虫、黒い服を着た人などが見える。実際にはいないことを言い聞かせても、本人にはたしかに見えているので、まわりの人が何を言っても耳を貸そうとしないことが多い。むやみに強く否定すると、不信感をきたしたり、症状の悪化や妄想への移行を招きかねない。 対処方法: 幻視への適切な対処方法は、患者さんの状態によって異なる。見知らぬ人や虫などが見えることで、怖がっている、あるいは興奮している場合には、否定はせずに十分に話を聞いてあげるようにしよう。ときには、見えているという場所に行って触ったり、追い払ったり、やっつけたりする演技をすることで安心させられることもある。電気をつけて明るくするのも良い。また、人形や掛物、壁の汚れなどを見間違えることもあるので、それらを取り除くことも有効だといえる。 特に怖がる様子がない場合は、否定をして、実際にはいないことを正直に話してあげても良い。繰り返し話せば、自分にしか見えない幻視であることを、患者さんが認められるようになることがある。ただし、この場合も一方的に否定するのではなく、十分に話を聞くようにしたい。なお、薬物療法が必要なことも少なくない。 CASE 2:妄想 症状: レビー小体型認知症による妄想は、幻視に伴って起きることが多い。実際にはいない子どもが見え、その子供に自分の大切な物を持っていかれるという被害妄想がこれにあたる。また、「夫が浮気している」など、嫉妬妄想が現れることもよくある。妄想によって抑うつ症状が進行したり、興奮して家族に暴力的な言動をとったりすることもある。 対処方法: 幻視に伴って起こっている妄想は、まず幻視をなくすことが大切であり、妄想の原因を取り除いてあげることで対処できることもある。 患者さんは妄想を信じこんでいるので、強い否定や説得はうまくいかない。有効なのは、妄想に登場する夫または妻などが、患者さんを世話したいという気持ちを抑えて、できるだけ近づきすぎないようにすること。ケアマネージャーなどの第三者が関わるようになってから、妄想が軽減されたという例があるので、ある程度の距離を保つことは有効だといえるだろう。妄想には薬物療法が必要なことも多い。 CASE 3:レム睡眠行動障害 症状: 浅い眠りについているレム睡眠の状態で、怒鳴り声のような大きな寝言を言うことや、奇声を発することがある。また、布団の上で手足をばたばたさせていることも少なくない。悪夢を見ていることがほとんどで、夢遊病のように眠りながら歩き回ることは少ない。また、せん妄と異なり、この症状が現れているときに起こすと、通常は本人が悪夢の内容を覚えている。 対処方法: 夜間は10分以内に治まることがほとんどなので、ベッドから落ちる、一緒に寝ている人をたたくなどの危険なことがなければ、そっとしておいても良いだろう。 問題は、レム睡眠が長くなる朝方。10分では治まらないような場合は、起こしても良い。ただし、起こし方には気をつける必要がある。むやみに体をゆすって起こすと、見ていた悪夢と現実を混同して、混乱や興奮を引き起こすことになりかねない。そこで、部屋の電気をつける、懐中電灯で顔を照らすなど、自然に目が覚めるようにすることが望ましい。目覚まし時計などで音を鳴らして目覚めさせるのも、良い手段のひとつだといえる。
監修:メディカルケアコート・クリニック院長 小阪憲司 先生 (横浜市立大学名誉教授) CASE 4:認知の変動 症状: 日によって、また時間帯によって頭の状態の差が激しく、かなりはっきりしている状態とボーっとしている状態が入れ替わる。その変わりように家族はとまどい、理解に苦しむことがある。 対処方法: 大事なことを患者さんに伝えたい場合は、現在がどちらの状態なのかを確認して、頭がはっきりしているときに伝えるなど、タイミングを工夫すると良い。 変化の差をできるだけ小さくするためには、日頃から規則正しい生活を心がけるようにする。「疲れてくる夕方に変動が起きやすくなる」など、どのような状況で起きやすいか把握することも重要となる。薬により軽減することも可能。 CASE 5:起立性低血圧 症状: 自律神経症状は、血圧や脈拍などを調節する神経の異常による症状の総称で、レビー小体型認知症の患者さんに多くみられる。立ち上がったときに急激に血圧が低下する起立性低血圧はそのひとつで、一般的には「立ちくらみ」として知られる。 ふらつくだけではなく、転倒や失神することもある。高齢者は反射神経が低下しているため、とっさに身を守ることができず、ケガにつながりかねない。 対処方法: 立ちくらみやふらつきを防ぐためには、ゆっくりと時間をかけて立ち上がる必要がある。立ち上がった後で、足の上げ下げや足踏みなどの運動をするのも効果がある。 起立性低血圧を完全に治すのは難しいが、生活習慣を見直すことで、改善はできる。水分をこまめにとる、栄養バランスのとれた食事をする、十分な睡眠をとることなどができているか、家族が配慮するようにしたい。 CASE 6:抑うつ症状 症状: 気分がすっきりせずふさぎこむ、意欲がわかない、集中力が続かないなどの状態で、これが一定期間続く病気がうつ病と呼ばれる。 抑うつ症状はアルツハイマー型認知症の患者さんでもみられるが、レビー小体型認知症では、より頻度の高い割合でみられると考えられている。 対処方法: 通常は抗うつ剤による治療が行われる。また、励まさないようにする、孤独だと感じさせないために積極的に話しかけてあげるなど、家族の協力も重要となる。患者さんに自信を失わせないために、簡単な台所仕事や植木の水やりなど、家庭内での仕事を担当してもらうことも有効。抑うつ症状の発生と関連しているといわれる、セロトニンやノルアドレナリンなどの脳内物質の不足を防ぐために、大豆や牛乳、バナナなどを積極的に摂ることも望ましい。 CASE 7:転倒 症状: レビー小体型認知症の患者さんは歩く際に、動作が遅くなる、歩幅が小さくなる、筋肉がこわばるなどの症状が現れることがある。パーキンソン病と同様のこれらの症状はパーキンソン症状と呼ばれ、つまずきやすくなって、転倒事故につながりやすい。 対処方法: 完全に治すのは難しいが、抗パーキンソン病薬の投与やリハビリで症状の改善を目指す。転倒を防ぐためには、家の中の環境に配慮するようにしたい。家族ができる工夫としては、玄関マットはつまずく恐れがあるので敷かないようにする、家電製品などのコード類はひっかからないように壁に沿わせる、洗面所の床が濡れていると滑りやすいので、こまめに雑巾がけをすることなどがある。可能であれば、廊下や階段に手すりをつけるなど、家の改修を行えれば理想的だといえるだろう。
レビー小体型認知症の患者さんは、どのようなきっかけで受診をして、どのような検査をするのか。診断までの実際の流れや家族の心得について、この病気の発見者であり専門医である小阪憲司先生にお話を伺った。 お話を伺った先生:メディカルケアコート・クリニック院長 小阪憲司先生(横浜市立大学名誉教授) うつ病やパーキンソン病と誤診されて… ――どういう経緯で来院される患者さんが多いですか? パーキンソン病やうつ病と診断されたけれど、診断されてから1~2年経って「どうも違うようだ」と感じたご家族が連れてくるパターンが多いですね。奥さんや旦那さん、あるいはお子さんがインターネットなどでレビー小体型認知症を知り、私のところで受診されます。おかしいと思っていても、どこに連れていけば良いか、どの先生に診てもらえばいいかわからないという方は、病院で受診するのが遅れてしまいます。 ―― どういった病気と間違われていた患者さんが多いですか? 一番多いのはうつ病ですね。レビー小体型認知症の高齢者は、最初に抑うつ症状が出ることが少なくないからです。うつ病の治療をしても良くならず、そのうち歩き方がおかしくなるなどのパーキンソン症状、あるいは幻視などが出てくる。そうなると「もしかしたら違う病気かもしれない」とご家族は思うようです。 幻視について詳しくはこちら ―― パーキンソン病と診断された場合はどうでしょう? やはり幻視の症状が出て、おかしいと感じることが多いようです。パーキンソン病の場合、レボドパという治療薬の副作用として幻視が現れることがあるので、レビー小体型認知症だと気づかずに診断した先生は、単に薬の副作用だと考えてしまいます。副作用を抑えようとして薬を減らすと、パーキンソン症状はますます悪くなっていきます。パーキンソン病の経過中に幻視が出てきたら、レビー小体型認知症と考えて対処したほうが良いのです。一般的に、レボドパの副作用と考えられることが多いのですが、実際はそうではないことがあるので、専門医に診てもらうことが大切です。 転倒などが起きるパーキンソン症状について詳しくはこちら 診断するうえで、もっとも大切なのは問診 ――実際の診察の様子を教えてください。 何よりも大事なのは問診です。症状をきちんと聞いて、レビー小体型認知症を疑ってみる。それでだいたい診断はつきます。ご家族の方も一緒にいらっしゃいますが、私はまず患者さんとよく話をします。ご家族の方とは、患者さんが同席しないほうが症状を聞きやすい場合は、患者さんが画像検査などをしている間にお話しします。 ―― 問診のほかにはどんな検査を行いますか? 認知症に限ったことではありませんが、診断の補助として、やはり一度は画像検査を行います。レビー小体型認知症を診断するための画像検査には、脳の画像を撮るCTやSPECT、心臓の画像を撮るMIBG心筋シンチグラフィーなどの種類があります。どれを行うかは、病気の状態や、施設に応じて異なります。ただし、画像検査はあくまでも補助。一番大事なのは問診であり、その結果をもとに診断します。たとえ画像検査で異常が見つからなくても、問診の結果からレビー小体型認知症だと思った場合は、レビー小体型認知症を疑って治療するほうが、間違いがないです。画像に異常がなかったからといって見逃すと、治療が遅れ、大変な間違いを招く可能性があります。 「おかしいな」と思ったら、早めに専門医に相談を ―― レビー小体型認知症が疑われる方のご家族にメッセージをお願いします。 様子がどこかおかしいと感じたら、早めに、できれば専門医に一回診てもらってください。別の病気と診断されたまま間違った治療を続けると、幻視や妄想などの症状が悪化したり、パーキンソン症状が進行したりして、介護するご家族の負担もますます大きくなってしまいます。レビー小体型認知症の可能性が少しでもあるようなら、まずは一度相談をしてみることが大切です。 注:近年、パーキンソン病もレビー小体型認知症もともに、同じ「レビー小体病」に属すると考えられるようになってきている。
監修:メディカルケアコート・クリニック 院長 小阪憲司先生 (横浜市立大学名誉教授) もしも介護に悩んだら… 「健康な頃には思いもよらなかった言動が毎日続くと、仕方がないとわかっていても、やはり疲れてしまう…」 レビー小体型認知症と診断された人、あるいは疑いのある人と暮らす家族の中には、このように感じている人は決して少なくない。特に、まわりに同じような立場の人がいない環境であれば、相談したくても、誰にアドバイスを求めれば良いのかわからないのではないだろうか。 そのような場合には、以下のような相談先がある。身内のことだからといって一人で悩みを抱え込まずに、近くの相談先を探して、まずは一度相談してみよう。 認知症疾患医療センター レビー小体型認知症に限らず、あらゆる認知症の早期診断や家族の支援などを目的として、厚生労働省によって設置された施設。全国の都道府県に112ヶ所設置されている(平成23年5月現在)。認知症の疑いがある人、あるいはすでに認知症だと診断された人が、専門医に診てもらうことができる。また、その家族が精神保健福祉士などの資格をもつ職員に相談することも可能。直接対面する相談だけではなく、電話による相談ができる場合もある。医師の診察や検査には医療費がかかるが、職員への相談は無料。 患者さんとその家族だけではなく、地域包括支援センターやかかりつけ医、福祉関係者に対しても情報を提供するなど、認知症に関する地域の医療や介護全般をまとめ上げる役割を担っている。 病院・クリニック 認知症疾患医療センターが近くにない場合や、まずはかかりつけ医に相談したいという場合、右のような看板を掲げている医療施設で、認知症に対する診察をしてもらえる可能性がある。電話で問い合わせてみると良いだろう。なかには、レビー小体型認知症の専門医がいるところもある。 認知症の相談ができる病院・クリニック ●精神科 ●神経内科 ●老年科 ●心療内科 ●内科 ●認知症外来 ●もの忘れ外来 ●メンタルクリニック …など 地域包括支援センター 介護をする家族を支援するために、地域内で医療施設や介護サービス事業者などと連携して、情報を提供している施設。ケアマネージャーや社会福祉士、看護師、保健師らが職員として常駐していて、介護全般についての相談が可能。相談者は、それぞれの状況に合う介護サービスや介護保険の説明を受けられ、申請の手続きもしてもらうことができる。区市町村あるいはその委託によって運営されているので、相談は無料。そのほかに、介護用品の貸し出しや、介護のための住宅改修の相談、専門医の紹介なども行っている。 窓口がわからない場合、区市町村の福祉課などに尋ねると教えてもらえる。 家族会 認知症の患者さんと、その家族どうしの交流を目的として設立された団体。介護に関する情報を交換できるほか、介護の大変さを共有して、ストレスをためこまないようにするのにも役立つ。各地域の家族会の支部が中心となって、家族会主催の講演会の実施や、会報誌の発行などの活動もしている。ボランティアの医師や看護師などが参加している場合は、アドバイスを受けることも可能。 レビー小体型認知症に特化した全国的な家族会として「レビー小体型認知症家族を支える会」などがある。
healthクリックは、レビー小体型認知症に関するアンケートを実施致しました。 レビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症に比べて、一般的には、まだあまり知られていない病気です。名前や具体的な症状を知らなかったという方々からは、「怖くなった」「不安になった」等のコメントを多数いただきました。一方で、ご家族がレビー小体型認知症だという方々から届いたのは、切実ともいえる介護の現実です。 みなさまから寄せられたこれらの声を、集計結果とあわせてご紹介します。 実施期間 2011年4月25日(月)~10月17日(月) 回答者数 106名 性別 女性66名、男性40名 年代 10代…2名、20代…6名、30代…11名、40代…25名、50代…28名、60代…25名、70代以上…9名 レビー小体型認知症を少なからず知っていたと回答していたのは約50% Q1.「レビー小体型認知症」をご存じでしたか? アルツハイマー型認知症に比べ、認知度が低いと思われたレビー小体型認知症だったが、「知らなかった」と回答したのは50%。一方で「名前だけ知っていた」「症状まで知っていた」「症状から治療法まで知っていた」をあわせて、レビー小体型認知症について何かしら知っていると答えた割合は50%にのぼった。 「もの忘れ」以外の症状が認知症にあることを知ることが早期治療の近道 Q2.認知症に「もの忘れ」以外の症状があることをご存じでしたか? レビー小体型認知症はアルツハイマー型認知症と異なり、実際にはその場にいない人、子供、虫や猫などが見える「幻視」が、初期の症状として現れることが多いのが特徴。もの忘れ以外にも症状はあるとは知りつつも、具体的な症状まではまだ知られてはいないようだ。 具体的な症状が知られていないために、なかなか専門医の診察を受けない患者も多いのではないかと推測され、症状を知ることが早期治療の近道になると考えられる。 認知症になるのではないかと不安を持っている方は60%も! Q3.ご自分が認知症になるのではないという不安はありますか? 不安があると答えた方は60%となり、回答の大半を占めた。 「具体的にどのようなことが不安か?(複数回答可)」という問いに対してもっとも多かったのは、「治療費が家族にとって大きな負担とならないか(35票)」ついで「医師やヘルパーなど、どんな人のお世話になるのか(29票)」という結果だった。 長期にわたって治療が必要な認知症において、「治療」や「介護」については大きな不安となっている事を示す結果となった。 独り身なので、自身が認知症になったことに気づけないのではないか、と言う事や、世話をしてくれる人がいないことが不安です。(40代 女性) 自分のせいで、家族に迷惑や嫌な思い等かけたくない。(50代 女性) 暴言を吐いたり人を傷つけるような言動や行動で迷惑をかけてしまうんじゃないか、子供がいないので、将来そうなった時に施設などハード面で施設が足りているのか?高額でお金が無いと施設入所できないのでは?と不安です。(40代 女性) 認知症になってしまった時の準備は「何をしていいか分からない」 Q4.身近な人やご自分が認知症になったときの準備はしていますか? 認知症になったら…という不安は抱えつつも、認知症になったときの準備となると何をしていいかわからない、という現状がうかがわれる。 一方、TVや新聞、インターネットから積極的に情報を集めているという回答も多い。 ネットが普及した今、上手に使って情報をつかんでいくことは、疾患に早く気づく近道だといえる。 ご家族などに認知症の症状がある方々の声 最後に、レビー小体型認知症特集を読まれたみなさまからのご意見・ご感想の中で、印象に残ったものを下記にまとめた。 義母が13年程前に、アルツハイマー型認知症と診断されました。その後、テレビ番組で、レビー小体型認知症のことを知り、義母は当時の症状からレビー小体型認知症ではなかったかと思っています。(40代 女性) レビー小体型認知症はとても恐ろしい病気です。身体の介護が大変なのは重々承知していましたが、家族を言葉で傷つけ、今までの人生を自分で踏みつけ壊してしまう被害妄想という症状もあります。レビー小体型認知症の母を見ていると、「長生きはしたくない」と思うのが本心です。(40代 女性) 3ヵ月前までは本当に普通に生活していたのに、今ではかなりの被害妄想で家族を攻撃し、心身ともに疲れています。こんなに急激に悪化するものなのでしょうか。最初の病院で「アルツハイマー型認知症まではいたっていませんが前段階なので、早期発見で良かったですね」といわれましたが、パニック症のような症状がなかなか治まらないので向精神剤を服用していたら、あっという間に症状が悪化しました。これからますます悪化していくのか、今の状態が初期症状なのかだいぶ進行しているのか、わからないことだらけです。(40代 女性) 最近幻覚が見えると言われ、気になっていたところたまたま記事を見かけたので読んでみたが、読めば読むほど当てはまり不安になった。もっと細かく詳しい対処法などを知りたい。(30代 女性) 父がパーキンソン病からレビー小体型認知症となり、9ヵ月病院にいます。尻もちをつき、腰を骨折して入院し、それから急激に認知症の症状が悪化していきました。急な入院だったので1度でも家に帰してあげたいのですが、母1人での介護は無理です。せめて幻視や大声などがなければ、家での介護ができたと思うのですが…。もう寝たきりで、誤飲の恐れから今では食事もできません。今後は良い薬が開発されていくといいですね。私はまだ47歳ですが、「自分もレビー小体型認知症になり、家族に迷惑をかけることになるかもしれない」と恐れています。(40代 男性) 元気なときからとても気難しい人だったので、この病気のせいなのか、元々の性格なのか、迷うことが多い。いらいらしたり、腹が立ったりすることもある。穏やかな気持ちですべてを受け止めてあげるのがしんどいと感じる。(50代 女性) 認知症で介護している家族がいますので自分自身はだいたいは理解しているつもりです。徘徊などもあるので、理解してもらおうと思いご近所さんにもわけを話しますが、「そんなことを他人に話して…」と眉をひそめる人がまだいることも事実です。いろいろな情報を出してもらい、認知症についてもっと理解が深まることで介護者も被介護者も楽に介護に向き合えると思いますので、どんどん色々な情報を出して一般により深く認知して欲しいと思います。(40代 女性) 訪問介護の仕事をしています。レビー小体型認知症の患者様がいらっしゃるのですが、その方の介護などに携わっていく中で、認知症への理解や勉強が今後は必要であると痛感しております。(30代 女性)