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188:紅麹には罪が無い(望月吉彦先生) - ドクターズコラム

大人の健康情報

望月吉彦先生

更新日:2024/11/11

患者さんが件の紅麹サプリメントを持ってきた

いささか旧聞に属しますが、紅麹サプリメントによる健康被害(腎機能障害)が話題になりました。私もなぜか取材を受けました。

2分頃からです。
取材経緯をお伝えします。当院で高血圧を加療中の患者さんが件の紅麹サプリメントを持ってきました。
「コレを飲んでいた。コレを飲んでいると腎臓が悪くなると報道されている。腎機能を調べて欲しい」とのことでした。採血など検査しましたが、特に問題はなく、腎機能は正常でした。「件の紅麹サプリメント」を見て、少し驚きました。理由は2つ。

  • 話題のサプリメントそのものだったこと
  • いつも通院している方が紅麹サプリメントを飲んでいたこと

の2点です。
元々コレステロール値は高くない患者さんです。太ったからコレステロールを下げるサプリメントを飲んだと仰っていました。 少し相談してくれれば良かったのにと思いました。

それはともかく通院している方でこの紅麹サプリメントを服用している方が他にもいらっしゃるかもしれないと思い、「X(旧:Twitter)」に紅麹サプリメントの画像を投稿し、注意を呼びかけました。紅麹サプリメントの名前や製薬会社の名前は書いていません。以下がその投稿画面です。

投稿してから2時間後にテレビ朝日から「取材させて欲しい、それも今日お願いします」との電話が入りました。それで取材を受けて、報道されたのです。「X」には「サプリメントの名前」も「製薬会社の名前」も載せていません。それなのに、どうやって「X」に載せた投稿を探せたのか不思議です。テレビ朝日のインタビュアーや記者の方にそのことを質問したのですが、「ウチには調査部門があり、そこからの情報です」「どうやって調べたかはわからない」とのことでした。画像を用いた検索方法があるらしいです。ある意味、とても怖いですね。

テレビ報道を見た別の患者さんからも連絡がありました。その方も紅麹サプリメントを飲んでいるとのことでした。腎機能を調べましたが、幸に、問題ありませんでした。

小林製薬の紅麹サプリメントによる腎機能障害の原因は、紅麹サプリメント製造工程で青カビが侵入、青カビ由来の「プベルル酸」が腎機能障害を引き起こしたと厚労省が発表しました(2024年9月18日)。「プベルル酸」が交じってしまった紅麹サプリメントに問題があったのであり、紅麹自体に問題があったわけではなかったのです。

「麹」とは

さて、「麹」とはそもそも何でしょう。「麹」と「糀」、どちらも読み方は「こうじ」です。味噌、焼酎、日本酒、酢などを作るのに使われていますね。麹は米、大豆、麦、などに穀物麹菌を繁殖させたモノです。麹菌は糸状菌です。カビの一種です。食物に生えて腐らせるカビとは違います。糸状菌といえば、人間の白癬(水虫)やアスペルギルス症を起こすのも糸状菌です。

麹菌は日本国の「国菌」(注:この項についての付記を文末に記載しました)

麹菌は、湿度の高い東アジアや東南アジアにしか生息していません。なかでも日本の麹菌は「コウジキン」と呼称され、国菌となっています。「国旗」は日の丸、「国技」は相撲、「国蝶」はオオムラサキ、「国鳥」はキジ、「国菌」は麹菌です。知りませんでした。「国菌」があるのは、もしかしたら日本だけかもしれないです。それだけ、麹菌は身近で重要と言っても過言ではないかもしれないですね。

注:2006年10月12日に開催された日本醸造学会大会で麹菌(Aspergillus oryzae=アスペルギルス・オリーゼ)が国菌に認定されたそうです。今、日本醸造学会のHPを確認したら、2015年に国菌の定義が一部改訂されていました。国菌に該当する麹菌の定義が書かれていました。

**** 引用開始 ****

国菌に該当する麹菌とは、わが国で醸造及び食品等に汎用されている次の菌をいう。
(1)和名を黄麹菌と称するAspergillus oryzae。
(2)黄麹菌(オリゼー群)に分類されるAspergillus sojae と黄麹菌の白色変異株。
(3)黒麹菌に分類されるAspergillus luchuensis(Aspergillus luchuensis var.awamori)及び黒麹菌の白色変異株である白麹菌Aspergillus luchuensis mut.kawachii(Aspergillus kawachii)。
注 )Aspergillus niger(クロカビ)は、黒麹菌とは異なる菌種であり、麹菌には含めない。

**** 引用終了 ****

あれ?紅麹菌は含まれていません。なぜでしょう。
麹菌には様々な種類があります。

  • 黄麹菌:日本古来の麹菌、日本酒、味噌、醤油製造に使われています。
  • 黒麹菌:泡盛製造に使われています。
  • 白麹菌:焼酎造りに使われています。
  • カツオブシ菌:鰹節造りに使われています。
  • 紅麹菌:中国、台湾原産。豆腐よう作りや、赤色色素として用いられています。

「紅麹」は日本の麹菌ではないのですね。それで日本の国菌から外れているのだと思います。

日本には実に様々な麹菌があり、それを販売する種麹屋さんがあります。なぜか種麹屋のことを「もやし」と呼称します。
http://www2.plala.or.jp/oryzae/oryzae/tanekouji.html

それはともかく、「こうじ」には「麹」と「糀」があります。元は「麹」ですが、日本では米を使うので「糀」という漢字も使われるようになったそうですが、この辺り、よくわからないです。

紅麹に関する医学論文

さて、紅麹に関する医学論文を調べてみました。
「麹=red yeast rice」 ×「Cholesterol」
で検索すると、1999年から291編の論文が出版されています。そのほとんどが紅麹サプリメントによりコレステロールが下がるという論文です。副作用も少ないとの論文が多いです。

その中で、腎機能障害に関する論文をさらに調べてみました。
「麹=red yeast rice」 ×「Cholesterol」×「renal failure」で検索しました。
2つしかありません。ドイツ語論文が1つ、デンマーク語論文が1つです。

ドイツ語論文は
Rotschimmelreis: Ein bedenkliches Nahrungsergänzungsmittel?
「Red yeast rice: An unsafe food supplement?」
Leitthema Published: 04 January 2017 Volume 60, pages 292–296, (2017)

デンマーク語論文は
「Røde gærris som formodet årsag til akut nyreog leversvigt」
[Red yeast rice as the presumed cause of acute kidney and liver failure].
Ugeskr Laeger. 2019 Sep 30;181(40):V02190107.

ドイツ語論文は「紅麹が産するモナコリンk(=ロスバスタチン=クレストールR)、つまり、紅麹サプリメントを摂取するのはスタチンを服用するのと同じ、それゆえに横紋筋障害などの重篤な副作用などに注意が必要」という論旨です。デンマーク語論文は実際に「紅麹サプリメント摂取により横紋筋障害、腎不全が生じた一例」の症例報告論文です。

なお、紅麹が産するモナコリンkにコレステロール低下作用があるのを発見したのは故遠藤章先生です。遠藤章先生御自身が書いた紅麹に関する大変興味深い論文が見つかりました。
論文のタイトルは、
「紅麹と紅麹菌をめぐる歴史と最近の動向」(文献1)
国会図書館に所蔵されている同文献を取り寄せました(注:国立国会図書館の利用者カードを持っていると、所蔵している文献をコピーして郵送してくれます。便利で安価な方法です)。
この文献より引用します。

  • Monascus属(モナスカス)のカビを利用した麹は中国大陸と台湾で古くから生産されている
  • この属のカビが紅色系の色素を生産するため麹は深紅色を呈する
  • Monascus属を一般に紅麹菌と呼ぶのはこのためである
  • 筆者(遠藤章)は微生物の生産する生理活性物質を探索中たまたまMonascus属の一株が強力なコレステロール合成阻害剤(モナコリンと命名)をつくることを発見した
  • それが縁でMonascus属のカビと紅麹に興味をいだくようになった
  • 紅麹は元々中国、香港、台湾で使われていた
    下に紅麹がどうやって使われていたかを示す図をこの文献から引用します。

    図:紅麹がどうやって使われていたか

  • 日本で作られている紅麹を用いた醸造食品も紹介されています。
    ①紅酒 ②豆腐乳 ③沖縄の豆腐よう など。。

つまりこの遠藤先生の文献にもあるように、紅麹は中国でも日本でも古くから使われていて、なんの問題もなかったのです。小林製薬の紅麹サプリメントが問題になりましたが、サプリメント製造過程で青カビが混入し、この青カビが産生した「プベルル酸」が腎機能障害をおこしたのであり、紅麹自体に罪は無かったことを強調したいです。

 終

【参考文献】

  • 遠藤 章:「紅麹と紅麹菌をめぐる歴史と最近の動向」(1985年「発酵と工業」vol43、No.6(頁:545-552))
  • 遠藤 章:スタチンの誕生(日農医誌 64巻6号 958~965頁 2016.3)
  • 遠藤 章:コレステロール低下薬"スタチン"の発見--誰が,いつ,どこで?( 化学と生物 : 日本農芸化学会会誌 : 生命・食・環境:48(1)-48(6)=554-559:2010.1-2010.6)

追記:「国」+「ナントカ」は誰が決めているか

「国」+「ナントカ」は誰が決めているか、調べてみました。
国旗と国歌は法律で定められています。しかし古い法律ではありません。1999年に定められた「国旗及び国歌に関する法律」に
第1条 国旗は、日章旗とする。第2条 国歌は、君が代とする。
とあります。それまでは「慣習法」で、なんとなく、国旗は「日の丸」国歌は「君が代」でした。

  • 国花:「桜」と「菊」ですが、法律はありません。誰が決めたのかも良くわかりません。
  • 国鳥:「雉(キジ)」ですが、法律はありません。1947年に日本鳥学会が定めています。
  • 国蝶:「オオムラサキ」ですが、法律はありません。1957年に日本昆虫学会が定めています。
  • 国魚:「錦鯉」?「鮎」? 法律はありません。どこかの学会が決めたわけでもありません。
  • 国石:「翡翠(ひすい)」ですが、法律はありません。2016年、日本鉱物科学会が定めています。
  • 国技:「相撲」とされていますが、法律はありません。柔道、弓道、剣道こそ国技だという方もいます。
  • 国酒:「日本酒」と「焼酎」です。2012年に古川元久国家戦略担当大臣(当時)が、日本を代表する酒として日本酒・焼酎を「國酒」としたそうです。
    「ENJOY JAPANESE KOKUSHU(國酒を楽しもう)」プロジェクト(国家戦略室)
  • 国色:「白と赤」のセットが国色とされていますが、法律はありません。ちなみに、他国はどうでしょう? ブラジルはカナリアイエロー、オランダはオレンジ、イタリアはブルー、アイルランドは緑、アルゼンチンはスカイブルー、などオリンピックやW杯で見慣れているので、それらの色がそれぞれの国色なのでしょう。日本は競技別で、適当に、色を使っています。「白と赤」を上手にデザインして統一すれば良いのにと思います。

それはともかく、国+「ナントカ」は、なんだか、随分と適当ですね。そのうち国薬とか、誰かが提案しそうです。

望月吉彦先生

望月吉彦先生

所属学会
日本胸部外科学会
日本外科学会
日本循環器学会
日本心臓血管外科学会
出身大学
鳥取大学医学部
経歴
東京慈恵会医科大学・助手(心臓外科学)
獨協医科大学教授(外科学・胸部)
足利赤十字病院 心臓血管外科部長
エミリオ森口クリニック 診療部長
医療法人社団エミリオ森口 理事長
芝浦スリーワンクリニック 院長

医療法人社団エミリオ森口 芝浦スリーワンクリニック
東京都港区芝浦1-3-10 チサンホテル浜松町1階
TEL:03-6779-8181
URL:http://www.emilio-moriguchi.or.jp/

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