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160:あっと驚く縄文時代の指紋 指紋の研究は100年以上前に日本で始まり世界に広まった(2)(望月吉彦先生) - ドクターズコラム

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望月吉彦先生

更新日:2022/05/30

偉い人の指紋?
あっと驚く、縄文人の指紋! が今回の主題です。
今回も写真があります。苦労して入手した写真もあります。かなり珍しい指紋の写真もあります。写真だけでも眺めて楽しんでください。

最初に色々な方の指紋を示します。
当たり前ですが、皆、形が違います。

今回は格調高く世界初の指紋研究を紹介するつもりでしたが、その前に「偉い人」の指紋に関する余話を紹介します。それから本論の「あっと驚く、縄文人の指紋」をお目にかけます。

偉い人の指紋?

最初に「ある偉い人」の指紋にまつわる逸話を紹介します。何十年も前に「偉い方」が要職にあった時のことです。「偉い方」は、「終戦直後、大学時代にあまり褒められたことでは無いことで警察に捕まったことがある」と、ある雑誌で報道されました。こういう時、身に覚えがあれば「放置」して「記憶にありません」で対処するのが1番良いと思います。
誰だって間違いを起こすことがあります。何十年も年、若い時の「微罪」を問われてもどうしようも無いです。こういう時、身に覚えがあるなら放置すべきだと思います。

「記憶にありません」を繰り返していれば大方の人は、事情を察して、それ以上追求しないでしょう。しかし「偉い方」は別な方法をとりました。雑誌の記事は「ねつ造記事だ」と反論、報道した雑誌を訴え裁判になりました。最悪の一手です。一審では、雑誌側の負けとなりました。報道した雑誌には状況証拠、伝聞証拠しか無かったからです。

当たり前ですが、一審で負けた雑誌側は必死になりました。「偉い方」が逃れられないような証拠を探しました。なかなか証拠は見つかりませんでしたが、遂に「偉い方」が学生時代に捕まった際に警察で記録された「指紋番号」を入手したのです。

指紋番号は右手:「12345」、左手:「56789」のように記載されています。指紋の特徴を記載するのに使う番号です。偉い方が逮捕された時の指紋番号と現在の「偉い方」の指紋から得られる指紋番号が一致すれば、逮捕された事実は指紋番号で裏付けられ、訴えられた雑誌が勝ちます。その雑誌は必死になって「あの方」の現在の指紋を探しました。普通は個人の指紋など、公開されていません。
しかし、ついに「偉い方」の指紋を見つけてしまったのです。「偉い方」は手相を見て貰う際に手形を色紙につけて残していたのです。その手形を所持していた方が見つかったのです。その手形に指紋が「ばっちり」写っていて、そこから得られた「偉い方」の指紋番号は「あの方」が大学生時代に捕まった時に記録された指紋番号と同一でした。

ここで少し解説が必要ですね。指紋が一致する他人は今まで見つかっていませんでは同一のDNAを持っている一卵性双生児では、どうなのでしょうか? 変わると思いますか? 答えは次回に。

それはともかく、指紋そのものと指紋番号は別です。指紋番号は指紋の記録方法の1つです。この番号が一致する他人はゼロではないのです。とはいえ一致する確率は、現在の指紋番号記録法なら1兆分の1、昔の記録方法でも500-1000万人に一人です。
指紋番号は犯罪捜査などに使われます。終戦直後、写真で指紋写真を撮ることなど簡単にできない時代に「指紋番号」を使って「あの方」の記録を残していた当時の警察に敬意を払います。

さて「あの方」は指紋と指紋番号を突きつけられ逃れようが無く結局、示談になって賠償金無しで裁判は終わりました。
別にそれが直接の原因では無いのですが「偉い方」は要職から去りました。
文献6はこのことを取材した記者の本です。「あの方」の記事の他にもたくさん、興味深いことが書かれています。

指紋を「犯罪捜査」に用いる手法は世界中で使われていますが、それは日本で始まっています。明治時代に東京築地で指紋を研究したフォールズ医師(前回で紹介、明治時代)が書いた論文に指紋で見つけた「お酒泥棒」のことが載っています。
フォールズ医師が所持していたお酒はフォールズ医師の知らぬ間に、時々減っていたのです。フォールズはガラス製のお酒容器に残っていた指紋を用いて犯人を見つけたのです。ガラス容器に残っていたフォールズ医師以外の指紋と彼の教え子の1人の指紋が一致したのです。アルコールを盗んでいたのは彼の教え子だったと「判明」します。これが、多分、世界最初の指紋による犯罪捜査記録だと思います。

なお、指紋を削ってしまえばどうでしょうか? 指紋を消すために指紋を焼いたり、指紋のある皮膚を削ったりしたら大丈夫と考えた犯罪集団がいました。
この件も次回までお考えください。フォールズは、これにも答えを出しています。

図1:ある人の手形
図1:ある人の手形です。

図2:同一人物の50数年後の右1指外側の指紋を拡
図2:同一人物の50数年後の右1指外側の指紋を拡大してみました。
似ているでしょうか?一致するはずです。
なお、この方は犯罪者ではありません。念のため。

図3:公開されているニクソン元米大統領の指紋
図3:公開されているニクソン元米大統領の指紋です。
写真が簡単に撮れるようになると指紋番号による指紋記録法は廃れ
このように実写されます。

あっと驚く、縄文人の指紋!

さて、ここで凄い指紋をお目にかけようと思います。前回、指紋に関する論文を書いたフォールズ医師は、縄文土器にはあまり鮮明な指紋は残っていないと記していることを紹介しました。私もそう思っていました。しかし、2018年、東京国立博物館で行われた縄文展で指紋が残っている土器が展示されていました。

結構、はっきりとわかる指紋でした。しかし、それは撮影禁止でした。その時そこにいた学芸員の方に縄文時代の指紋が他にもあるかどうか伺ったところ青森県八戸市の是川遺跡に縄文時代の指紋が一番はっきりとわかるモノが展示されていると教えて頂きました。是川遺跡といえば、この縄文展でも展示されていた国宝「合掌土偶」が有名です。ラグビーの五郎丸選手がキックをするときのポーズに似ています。

合掌土偶

この合掌土偶が発掘された是川遺跡に縄文時代の指紋が残されているとのことでした。土器に記された指紋ではありません。是川遺跡の遺物は是川縄文館に所蔵されています。指紋の残っている縄文遺物があるかどうか、問い合わせてみました。是川遺跡には完全な形で縄文人の指紋が残されていることが解りました。それをお示しします。

縄文人の指紋

↓指紋部分を拡大しました

指紋部分を拡大

青森県八戸市是川縄文館の所蔵物の写真です。同館の正式な許可を得て掲載しています。
出土場所から、3000年前の遺物だと推定されるそうです。これはケヤキの樹皮に赤と黒の漆(うるし)を塗って補強して使っていた容器の一部です。黒の漆をぬりそれが乾く前に赤い漆を塗っていた時にうっかり指で触ってしまったのでしょう。それゆえに指紋がはっきりと残っています。「しまったあ」と思ったでしょうか。そしてまさか3000年後にそれが人目に晒されるとは思わなかったでしょう。

  • 注1:漆を赤や黒に着色する技術は簡単ではありません。数千年も前の縄文人が漆に着色する技術を持っていた事に驚きます。
  • 注2:東京都東村山市の下宅部遺跡から漆で着色された大量の土器や木製品が出土しています(参考:2.縄文時代の漆:東村山市

「赤と黒」です。スタンダールに先駆けています。縄文人は土器の造形だけで無く色彩にも「凝っていた」のでしょうか。なお、この指紋に関しては、是川縄文館の学芸員である市川健夫さんの詳しい説明を視聴することができます。
興味がある方は是非、聞いてみてください。

次回に続く。

【参考文献】

  • コリン ビーヴァン著、茂木 健訳「指紋を発見した男―ヘンリー・フォールズと犯罪科学捜査の夜明け」主婦の友社:2005刊
  • HENRY FAULDS著「Dactylography; Or, the Study of Finger-Prints」1912年刊
  • HENRY FAULDS著「Guide to finger-print identification」1905年刊
  • HENRY FAULDS著「How the English fingerprint method arose」1915年
  • HENRY FAULDS著「Nine Years in Nipon. Sketches of Japanese Life and Manners」1888年
  • 西岡研介著:「噂の眞相」トップ屋稼業 (河出文庫):上述の指紋の話の他にも、あれれ?という話が沢山紹介されています。

2-5は全て、電子化されています。 「Historic Works on Fingerprints」というサイトで読むことができます。

The Project Gutenberg EBook
グーテンベルグプロジェクトでも上記文献2.は紹介されています。
https://www.gutenberg.org/files/47911/47911-h/47911-h.htm

望月吉彦先生

望月吉彦先生

所属学会
日本胸部外科学会
日本外科学会
日本循環器学会
日本心臓血管外科学会
出身大学
鳥取大学医学部
経歴
東京慈恵会医科大学・助手(心臓外科学)
獨協医科大学教授(外科学・胸部)
足利赤十字病院 心臓血管外科部長
エミリオ森口クリニック 診療部長
医療法人社団エミリオ森口 理事長
芝浦スリーワンクリニック 院長

医療法人社団エミリオ森口 芝浦スリーワンクリニック
東京都港区芝浦1-3-10 チサンホテル浜松町1階
TEL:03-6779-8181
URL:http://www.emilio-moriguchi.or.jp/

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