望月吉彦先生
更新日:2021/11/22
前回の続きです。「かふふ驛」問題に戻ります。
「かふふ」は歴史的仮名遣いです。
昭和21年、今普通に使われている「現代仮名遣い」を文部省(今の文科省)が使うように発令して以来、使われなくなりました。当たり前ですが、教科書、公的文書は基本的に「現代仮名遣い」が使われるようになっています。歴史的仮名遣いは「歴史」という言葉が示すように平安時代から使われている仮名遣いです。例えば、
ちょうちょう=てふてふ
あじさい=あぢさゐ
いど(井戸)=ゐど
おさない(幼い)=をさない
かつお(鰹)=かつを
駅名では、
しながわ(品川)=しながは
ゆうらくちょう(有楽町)=いうらくちやう
しんばし(新橋)=志んばし(鉄道博物館写真で確認)
とうきょう(東京)=とうきやう
おちゃのみず(お茶の水)=おちやのみづ(鉄道博物館写真で確認)
など多数あります。
甲府駅の掲示によると歴史的仮名遣いでは「かふふ」と表記されていたのですね。
それでは「かふふ驛」は間違いではないと思うかもしれません。しかし、文献1の92頁に「昭和2年、駅名はカナで左横書き」に統一することになったが国粋主義者の大臣によってすぐに元の「右ひらがな書き」に戻ったとあります(92頁)。国粋主義者は文章、文字はすべて本来の日本語の読み方である、右から読む事を横書きでも強硬に主張していたのですね。
つまり「かふふ驛」だったことは無いはずです。左書きなら昭和2年に「カフフ驛」が一瞬あったかもしれないですが、
なら「驛ふふか」(注:右から読みます)だったはずです。
戦前の駅名標の写真を集めてみました。皆、平仮名で右横書きですね。
皆、右横書きです。
甲府駅はどうだったのでしょう。山梨県立図書館、甲府市役所に問い合わせてみました。こういうことを調べてくれる部署があります。インターネットで申し込むことができます。
以下、山梨県立図書館からの返答です。素晴らしいです。
――引用終了―――――
山梨県立図書館をご利用いただきありがとうございます。
お問い合わせいただいた件につきまして、回答いたします。
1946(昭和21)年11月7日の読売新聞に下記のような記事がありましたので記載いたします。
「驛名も左書き 新かなづかい」
近く実施される現代かなづかいに即して国鉄の全国4126駅の駅名標示が書き換えられる。主な例は ▽とうきやう(東京)とうきょう▽おほさか(大阪)おうさか▽きやうと(京都)きようと▽てうし(銚子)ちようし▽かふふ(甲府)こうふ▽じふでふ(十條)じゆうじよう 等で、なほ昨年十月から実施中の驛名左書き(約八割完成)も新かなづかいのため再度書替へられる。
――引用終了―――――
とありますので、1946-47年には今の「甲府駅」(左横書き、現代仮名遣い)の看板に変わったのでしょう。事情がよくわかります。 なお、以下の写真が添付されていました。画像は正直です。右後方に駅名標が見えます。
駅名を拡大してみました。
私の予想通り、「ふふか」と書かれています。と言うわけで、現在甲府駅に掲示されている「甲府駅は「かふふ驛」として親しまれた」とあるのは「間違いでは無い」ですが、本来ならば
《「かふふ驛として親しまれた(注:元は「驛ふふか」と表示されていた)》
とでも表示すべきです。
何か不明な事を調べる時、
冒頭に記した「幸福、かふふく」の事を書き忘れそうになりました。「幸福」の歴史的仮名遣いは「かうふく」です。「かふふく」ではないと思います。「かふふく」と記されている文献があるのでしょうか? 色々と調べましたが、ありませんでした。こちらも間違っているのではないでしょうか?
言葉は変遷します。70年前と現在でこんなに違います。言葉を大切にしなければいけません。
文献2-4は山梨県立図書館 調査サービス担当者よりご教示頂きました。
望月吉彦先生
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