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145:俳句のことなど(望月吉彦先生) - ドクターズコラム

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望月吉彦先生

更新日:2021/03/08

葉書が余ったので投句してみたら

新型コロナウイルス感染症に対するワクチン接種が始まりました(2021-02-01~)。世界中でさまざまなタイプのワクチン接種が行われ、感染が少しずつ収まっているように感じます。しかし、感染力の強い変異株が出現しています。まだまだ、警戒が必要です。

余談です。いささか旧聞に属する話です。私の作った俳句が2020年8月2日、朝日新聞の「朝日俳壇」に載りました。良い経験をしました。元々、私は俳句を趣味にしている訳ではありません。それがなぜか載ってしまったのです。

経緯を紹介します。父(94歳)は俳句を時々作っています。「朝日俳壇」に載せたいと常々言っていました。それで、父が最近作った俳句を朝日新聞の「俳壇」に投稿してみました。
投句は1枚の葉書に一個の俳句を書きます。父の俳句を3つ書いたところで葉書が余ったので、記念に自分も投句してみました。私は初めてです。

投句したことなどすっかり忘れていたのですが、ある朝通勤途中、携帯電話に朝日新聞社から電話がありました。私の作った俳句が来週の朝日俳壇に載ることが決まったとの連絡でした。投句した俳句に「匂い立つ」という表現があるがそれを旧仮名遣いに改め「匂ひ立つ」として良いかという電話でした。勿論「応」です。残念なことに父の俳句は載りませんでした。載った句を紹介します。うれしいことに選評もありました。

朝日俳壇に掲載された句

「匂ひ立つ 若さの印 濡れ浴衣」です。選評には「濡れて体が透けんばかり」とあります。
作った場所は足利市です。作った日も解っています。足利花火(かなり有名です、市の中心を流れる渡良瀬川の河川敷で打ち上げるので人気があります)を見に行った時に作った俳句です。この時、花火開始とほぼ同時に猛烈な勢いで雷雨が降り始めました。花火は中止だと思いました。しかし、花火は中止になりませんでした。2時間かけて打ち上げる予定の花火を、雷雨のために、1時間で全ての花火を打ち上げることになったのです。

猛雨でも花火を打ち上げることができると、その時初めて知りました。雷に加えて花火の音も光も凄かったのです。普通の人は雷雨に逃げ惑っていました。私も右往左往していました。しかし、周りにいた浴衣姿の若者はずぶ濡れになりながらも「キャーキャー」騒ぎながら花火を楽しんでいました。ああ,こういうのが「若さの印」なんだなあと思って作った俳句です。

ありがたいことに、色々な感想をいただきました。

  • 私と同じような情景を思った方
  • 夏祭りで御神輿を担いだりして汗をかいている情景を思い描いた方
  • 取り組み後の相撲取りの浴衣を思い起こした方(この句が載った時、相撲が開催されていたからでしょう)
  • 小さな子供達の水あそびの情景を思い起こした方
  • 選者の如く、艶っぽい情景を思い起こした方

色々でした。
天地わたるブログ」という俳句を選評するブログでも取り上げていただきました。このブログは、朝日俳壇に載った俳句の選評をしています。お二人で選評をなさっているようです。

***********引用開始***********

  • ○祭に参加している若い人でしょう。汗か水をかけられて浴衣が濡れて肌が透けて見える。若さいっぱいでいいです。
  • ●男でも女でもいいですがぼくは「印」を言わないでほしいんです。こういうだめ押しは俳句を薄くしてしまいます。
  • ○抑制したほうが奥行が出るのですね。

***********引用終了***********

俳句、なかなか、むずかしいですね。
俳句は5-7-5 合わせて17文字しかありません。それゆえに表現が限られ、読者によって色々な想像をかき立てるところに「妙味」があるのでしょう。大学時代、同じ下宿だった農学部出身の同級生M君が大阪の朝日新聞で記者をしているので、久しぶりに電話をかけて朝日俳壇について詳しく聞いてみました。彼曰く、

  • 毎日1000通の投句がある
  • 週に一度選句をする
  • 7000通近い葉書を選者4名で読んで、40個の俳句を選ぶ
  • 選者が同じ句を選ぶこともあるので40句未満しか、作品が載らないこともある
  • いずれにせよ、150倍以上の競争率だ
  • 最近は俳句を添削する人気番組がある(「プレバト!!@TBS」?)。今はちょっとした俳句ブームになっている。
  • 手前味噌だが、我が社の「朝日俳壇」は人気が高い。何より歴史がある。
  • 初投稿で載ったのは奇跡に近い。今後も頑張って投句してください。

ということでした。
こういう事情を少しでも知っていれば多分、投句しなかったと思います。要するに私の俳句が朝日俳壇に載ったのは典型的な「ビギナーズラック」だったのです。

投句方法を紹介しましょう。簡単です。葉書1枚に一句を書いて投稿するのです。葉書代1枚63円の楽しみです。色々な人にもっと句作をしてみたらどうかと言われています。いつか詩心が湧くような情景に出会ったら、俳句を作り投句してみます。ちなみに俳句が掲載された後、朝日俳壇から10枚の葉書が送られてきました。これを使って投句しようと思います。

朝日俳壇から送られてきた葉書

「拙句載る 新聞来たり 目が覚める 朝顔もまた 目が覚める朝」
という短歌を作りました。冴えないですね。
俳句と言えば、松尾芭蕉です。奥の細道を読み返してみました。

「草の戸も 住み替わる代ぞ ひなの家」
「行春や 鳥なき魚の 目はなみだ」千住
「あらたふと 青葉若葉の 日の光」日光
「暫時(しばらく)は 滝に籠るや 夏(げ)の初(はじめ)」日光の裏見の滝
「夏山に 足駄を拝む 首途(かどで)哉」黒羽
「木啄も 庵(いほ)をやぶらず 夏木立」黒羽
「野を横に 馬牽(ひき)むけよ ほととぎす」殺生石
「田一枚 植えて立去る 柳かな」黒羽
「風流の 初やおくの 田植うた」須賀川
「世の人の見付ぬ花や軒の栗」須賀川
「早苗とる 手もとや昔 しのぶ摺(ずり)」しのぶの里
「笈(おひ)も太刀も 五月にかざれ 紙上り」
「笠島は いづこ五月の ぬかり道」笠島
「桜より 松は二木(ふたき)を 三月越シ(みつきごし)」武隈
「あやめ草(ぐさ) 足にむすばん わらじの緒」宮城野
「夏草や 兵どもが 夢の跡」平泉
「五月雨を 降りのこしてや 光堂」中尊寺
「蚤しらみ 馬の尿する 枕もと」尿前(しとまえ)の関
「涼しさを 我が宿にして ねまるなり」尾花沢
「這ひ出でよ かひがや下の ひきの声」尾花沢
「熱き日を 海にいれたり 最上川」酒田
「まゆはきを俤にして紅粉の花」尾花沢
「閑さや岩にしみ入る蝉の声」山寺 山形県

みな良いですね。情景が浮かんできます。芭蕉の時代、日光も中尊寺も、尾花沢も、「圧倒されるような風景」があったと思います。今は、テレビ、書物、etc.で行く前に想像が付いてしまいます。それでも、行ってみないとわからないことはたくさんあり、行けば詩情がわくのかもしれないです。

なにより、芭蕉の時代はどこに行っても静寂だったと思います。特に山形県にある山寺は静かだったのでしょう。今は違います。多くの観光客で賑わい、場所によっては場違いな音楽を流したりして風情がありません。
酔狂なことですが、私は雪の降る最中に山寺を登ったことがあります。数人しか登っていませんでした。極めて静かでした。芭蕉の時代もかくやと思えるほど静かでした。なお、登るのには特別な長靴が必要です。登り口で貸してくれました。途中、かなり雪が降り始めたので、山寺から見えたであろう冬景色は見えませんでした。残念でした。

閑話休題
俳句とか短歌は、日本の定型詩です。定型詩ですが、中国には五言絶句、五言律詩、七言絶句、七言律詩などの定型詩があります。
「夏草や 兵どもが 夢の跡」の元歌は杜甫(712-770) 『春望』です。五言律詩です。見事な作品です。

国破山河在
城春草木深
感時花濺涙
恨別鳥驚心
烽火連三月
家書抵万金
白頭掻短
渾欲不勝簪

日本も中国も 「五」「七」という素数を使っています。中国は「字数」、日本は「音数」で、違いがあります。しかし、どちらも素数であることに違いはありません。そこに何か意味があるのかもしれないと考えていますが、上手く説明する方法がありません。
俳句は、5-7-5=17
和歌は、5-7-5-7-7=31
5、7、17、31、すべて素数です。偶然でしょうか? 俳句、和歌、短歌は素数の文学と言えるかもしれないですね。

それはともかく、俳句に多少興味を持つようになり、句作の本などを買い求めましたが、なかなか思うように俳句を作ることはできません。俳句には「5-7-5」のほかにも幾つかの約束事があるからです。

「季語が必要」で私の思考は止まってしまいます。日本は南北に長く、北海道と沖縄では気候がだいぶ違います。それを一括りにして「季語」と言われても、なんとなく腑に落ちません。というようなことを考えていると、先に進めません。

俳句でも、季語や文字数にとらわれない「自由律俳句」もあります。これが俳句?と言われても、というような「俳句」もあります。

「どうしようもない私が歩いてゐる」
「まっすぐな道でさみしい」
「分け入っても 分け入っても 青い山」
以上、 種田山頭火

「渚白い足出し」
「貧乏して植木鉢並べて居る」
「咳をしても一人」
以上、尾崎放哉

などが有名です。結核で死にそうになっても「一人」だった放哉の死ぬ間際の情景が浮かびます。昨年の朝日俳壇に

「咳をしたら人目」

という句が載っていました。勿論、放哉の歌を真似たのでしょう。
今は

「咳をしたら一人」

になります。

早く、COVID-19が収まって欲しいです。収まれば、あちこちに出かけて句作ができるかもしれないです。

望月吉彦先生

望月吉彦先生

所属学会
日本胸部外科学会
日本外科学会
日本循環器学会
日本心臓血管外科学会
出身大学
鳥取大学医学部
経歴
東京慈恵会医科大学・助手(心臓外科学)
獨協医科大学教授(外科学・胸部)
足利赤十字病院 心臓血管外科部長
エミリオ森口クリニック 診療部長
医療法人社団エミリオ森口 理事長
芝浦スリーワンクリニック 院長

医療法人社団エミリオ森口 芝浦スリーワンクリニック
東京都港区芝浦1-3-10 チサンホテル浜松町1階
TEL:03-6779-8181
URL:http://www.emilio-moriguchi.or.jp/

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