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132:伝染病を正しく怖がるにはどうしたらよいか?コレラからコロナを考える(2)人間到る処バイキンあり(16)(望月吉彦先生) - ドクターズコラム

メディカルコラム

望月吉彦先生

更新日:2020/05/25

物理と化学で伝染病に立ち向かおう

この原稿は、2020年5月10日に書いています。ゴールデンウィーク中の「自粛」が終わり、少しずつ人出が戻っています。日本では段々とCOVID-19の発症数、死亡数が減少しています。早く収束に向かって欲しいですね。

「コレラからコロナを考えよう」という主旨で前回よりお伝えしています。そうしたら、なんと、本稿を書いていた2020年5月4日に、兵庫県丹波市の歴史を調査する「氷上郷土史研究会」の方が、同市内円通寺のふすまや屏風の下張り文書を調べていたら、その中に1877年(明治10)に流行していたコレラに関する県や内務省の通達文書を見つけた」という新聞記事を見つけました(140年前「コレラ」との闘い 通達文書発見、新型コロナと共通点多く 恐怖に震えた日本人 2020/05/04 丹波新聞)。
その「明治10年のコレラに関する通達文書」に

“国境に入る他国人を、各一、検査し、コレラ病あるものは、これを適宜に所置すべきである。”
“表見、健康の人たりとも、この毒を輸致することあるがゆえに、これを以て、十全の予防法とすること能はず。”

と書かれているのだそうです。これはまさに今の
「ロックダウン」「患者隔離」
「無症候SARS-CoV-2ウイルスキャリアが存在することに対する注意」

と一緒です。
本稿を書き始めたとき、まさかこのような資料が出てくるとは思っていませんでした。絶対的予防法、治療法が無い「伝染病」に対する対処法は100年前も今も変わらないことがわかります。

COVID-19の原因ウイルスは「SARS-CoV-2」だとわかっていますが、原因ウイルスがわかっていても根本的な対処法はまだ見つかっていません。
現時点で医学の面から試みられている治療法、予防法は以下のごとくです。
順不同です。さまざまな試みがなされています。

  • 1. ステロイド吸入:オルベスコ® ARDS治療?
  • 2. 抗マラリア薬:ヒドロキシクロロキン:プラケニル®
  • 3. 抗ウイルス薬:
    (1)ファビピラビル:アビガン®
    (2)レムデシビル:ベクルリー®
    (3)オセルタミビル:タミフル®
    (4)ザナミビル:リレンザ®
    (5)ロピナビル/リトナビル配合剤(カレトラ®
    (6)リバビリン:レベトール®、コペガス®
  • 4. 抗生物質:マクロライド系抗生物質:アジスロマイシン®など
  • 5. 抗寄生虫薬:イベルメクチン:ストロメクトール®
  • 6. 向精神薬:クロルプロマジン:コントミン® など
  • 7. ニコチン:? 機序不明?
  • 8. 膵炎治療薬:ナファモスタット:フサン®
  • 9. 抗IL-6受容体抗体:トシリズマブ(アクテムラ®)、サリルマブ(ケブザラ®
    サイトカインストーム治療
  • 10. ビタミンC
  • 11. ビタミンD
  • 12. 漢方:
    補中益気湯、十全大補湯
    清肺排毒湯=麻杏甘石湯+小柴胡湯加桔梗石膏+胃苓湯
    など…
  • 13. ヘパリン:COVID-19の凝固異常に対して投与
  • 14. ステロイド投与:サイトカインストーム ARDS対策
  • 15. シルディナフィル:バイアグラ® NO産生 でARDS予防?
  • 16. BCG接種:COVID-19を予防?
  • 17. ワクチン:各種ワクチンは開発途上
  • 18. γグロブリン製剤投与
  • 19. 回復後患者さんの血清投与:効果あり、ただし、入手困難
  • 20. インターフェロン投与
  • 21. 女性ホルモン投与:エストロゲン、プロゲステロンなど、治験中
  • 22. 人工呼吸器:呼吸不全治療
  • 23. ECMO:呼吸不全治療

これらの単独、併用、さまざまです。一番良いのは「ワクチン」ができることですが、ワクチンの有効性、安全性を確認するには数年かかると思います。ワクチンができても、ワクチンを否定する人々も結構多いので、いずれそれが問題になると予想します。
例えば、世界的テニスプレーヤーのジョコビッチはワクチン否定論者で、COVID-19に対するワクチンができても「受けない」と言っていますね。

他人事ではありません。日本でも子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)の接種率が0.6%と先進国の中では最低です。先進国では60-70%の接種率です。日本は先進国なのでしょうか?ほかの「先進国では子宮頸がんが劇的に減っています」が、日本は減っていません。ワクチンについては色々と考えることがあります。

さて、治療法も予防法も確立されていない「COVID-19」の治療、予防はどうしたらよいでしょうか?特に予防はCOVID-19のワクチンができるまでは、どうやら医学の出番はなく、「化学(ばけがく)」と「物理学」を駆使しての予防が有効です。

化学とは大げさですが、石けんやエタノールなどの消毒薬で手や触れた(る)箇所を清潔に保つことを指します。石けんやエタノールはSARS-CoV-2ウイルスの皮膜(エンベロープ)を破壊するのでウイルスとして作用ができなくなります。エンベロープは脂質(油)でできているので界面活性剤である石けん、エタノールで破壊されるのです。

物理学も大げさですが、他人との距離をとる。ソーシャルディスタンス、3密(密接、密封、密集)を避けること、およびマスクで唾液が飛散することを防ぐこと、などすべて物理学の応用です。
きちんとした予防法が確立されるまでは化学、物理の力を頼りましょう。

4月上旬のこと、TVでニューヨークの病院風景を放映していました。次から次にCOVID-19に罹患した患者さんが担ぎ込まれ、人工呼吸器がつけられ、しかしそれでもどんどんお亡くなりになって遺体安置所が一杯になり、冷凍トラックが病院に横付けされ、そのトラックの冷凍庫に御遺体が運ばれています。病院内に安置する場所さえなくなっているのだと思います。
その先はどうするのでしょう。細菌は宿主がお亡くなりになると細菌も死滅します。ウイルスは違います。宿主がお亡くなりなってもウイルスは存します。それ故に遺族の方も最後のお別れができません。志村けんさんがお亡くなりなった時、このことが広く知れ渡りました。
ブラジル、ニューヨークでは重機で掘った穴に御遺体の多くを埋葬しています。
火葬にできないほど多くの方がお亡くなりになっているか、宗教上の理由で火葬を選択しない方も多いのでしょう。
日本の火葬率は99.9%ですが、2018年イギリス火葬協会発行の資料によればアメリカ52%、英国イギリス77%、独62%、仏40%、伊24%、露10%、台湾97%、韓国84%、タイ80% です。なんとなく火葬率が低い国にCOVID-19による死者が多いような気がします。疫学すればなにか解るかもしれません。

いずれにしてもニューヨークやブラジルの土葬風景は現代の風景とは思えないです。以前勤めていた病院で同僚だったK先生が、今、ニューヨークの病院(BI病院)でCOVID-19患者さんの治療に当たっています。「凄惨」としか表現できないそうです。日本は一時的には収束にむかうかもしれませんが、今冬にどうなるか楽観できないです。

さてコレラの話に戻ります。「罹ったら数日で死んでしまう原因不明の病、死病」が流行ったら、戸惑い、逃げ惑うでしょう。逃げても逃げた先で同じ病気が流行るかもしれません。結局どうしたらよいか解らずに右往左往するしかありません。1854年ロンドンがまさにこの状態でした。当時のロンドンもコレラによる死亡者が相次ぎ、屍体運搬馬車に屍体が乗り切らず、馬車の屋根の上に重ねていたのです。現代のニューヨークの風景と一緒です。

次回はこのコレラから感染症について考えていきます。

【参考文献】

  • 文献1:野村裕江著 「江戸時代後期における京・江戸間のコレラ病の伝播」
    地理学報告 79巻 p1~20
  • 文献2:スティーヴン・ジョンソン(著)「感染地図」河出書房新社
  • 文献3:Isabel Rosanoff Plesset著Noguchi and His Patrons
    Fairleigh Dickinson Univ Pr (1980/10/1) 邦訳もあります。
  • 文献4:ウェンディ・ムーア(著),「解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯」河出文庫、2013年 矢野 真千子(翻訳)
  • 文献5:Frerichs RR et al. Nepalese origin of cholera epidemic in Haiti. Clin Microbiol Infect. 2012 Jun;18(6):E158-63.
  • 文献6:石 弘之 「感染症の世界史」洋泉社 2014年
    今(2020年4月)、アマゾンで見たら凄い値段になっていました。どうしたのでしょう。と思ったら、この本を歴史家の磯田道史氏が2020年4月の月刊文藝春秋で紹介したからだと思い至りました。歴史の専門家である磯田氏が感染症を考えるにはこの本が良いと紹介しています。このために古本市場で値段が急騰したのでしょう。幸い、この本は文庫にもなっています(角川ソフィア文庫)。磯田氏が言うように「病原体vs人間」の戦いの歴史の基本を知ることができます。

望月吉彦先生

望月吉彦先生

所属学会
日本胸部外科学会
日本外科学会
日本循環器学会
日本心臓血管外科学会
出身大学
鳥取大学医学部
経歴
東京慈恵会医科大学・助手(心臓外科学)
獨協医科大学教授(外科学・胸部)
足利赤十字病院 心臓血管外科部長
エミリオ森口クリニック 診療部長
医療法人社団エミリオ森口 理事長
芝浦スリーワンクリニック 院長

医療法人社団エミリオ森口 芝浦スリーワンクリニック
東京都港区芝浦1-1-1 浜松町ビルディング1階 プラザ 111 内
TEL:03-6779-8181
URL:http://www.emilio-moriguchi.or.jp/

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