疾患・特集

130:交通事故に思うこと(3)(望月吉彦先生) - ドクターズコラム

大人の健康情報

望月吉彦先生

更新日:2020/04/13

前回、前々回に続き、今まで車を運転してきて学んだ色んなことをお話しします。今回は認知症の方に車をぶつけられたこと、救急治療で経験した交通事故のことです。

13:認知症と交通事故

認知症の方に車をぶつけられたことがあります。
細い道での出来事です。細い道なので、ゆっくりと車を走らせていたら、横の道から出てきた車に追突されました。車の後部です。問題はその後でした。
運転していたのは、かなり高齢な方でした。車を降りて、事故について話をしようと思ったのですがまったく普通の会話が成り立ちませんでした。しかもすぐに逃げてしまったのです。
とっさに車のナンバーを記録して、警察に通報しました。警察が調べてくれ運転していた方がわかりました。しかし「事故なんか起こしていない」と言い張っているとのことでした。認知症が進行していて、警官や家族とも会話が成り立たず、困ったそうです。その後、どうなったか知りません。車の損傷は軽微で外傷も負いませんでしたが認知症の方の運転は怖いですね。

日本は高齢化社会が一気に進んでいます。認知症ドライバー対策が必要です。
「認知症の方に免許証を取らせない」ようにすれば良いのではないかと誰しもが考えますが、それは無理です。免許を更新する際に「認知症の診断」はできないのです。当たり前ですが、免許センターには認知症専門医がいるわけではありません。対策は後述します。
なお、話は違いますが運転を止めると認知症が発症することもあります。あるいは認知症が一気に進むという報告もあります。認知症予防のために100歳まで運転できるようにしようと考えている会社、研究者もいます。こういう取り組みは良いですね。

14:心臓病で事故を起こすことも

心臓病で事故を起こした方を2例、診療したことがあります。
Aさん(50代男性)は、階段から転落して私が勤めていた病院に搬送されてきました。
外傷性急性硬膜下血腫で手術を受けました。入院中、心電図モニターで「脈がおかしい」とのことで脳神経外科の先生から相談されました。心電図記録をみると典型的な「2度の房室ブロック」それもモビッツ(Mobitz)型という怖いカタチの房室ブロックです(ちなみに房室ブロックは1度から3度まであります)。

2型房室ブロックの心電図をお目にかけましょう。いきなり心臓が止まるのがわかりますでしょうか?
この方は7秒位心臓が止まっています。3秒以上心臓が止まると「意識消失」が生じます。不整脈が原因で意識消失を生じることを「Adams‐Stokes発作」と言います。

この方はトラックの運転手さんでした。よく聞いたら(これが大切)、これまでに何回も交通事故を起こしているとのことでした。幸い人身事故は起きていませんでした。運転中に「Adams‐Stokes発作」が生じていたのです。
こういう方の治療は「ペースメーカー植え込み」です。この方にもペースメーカーを植え込み以降、Adams‐Stokes発作は生じませんでした。ペースメーカーを移植すればこういう病気の方も普通に運転ができます。

Bさん(60代女性)は、あり得ないような交通事故を起こして搬送されてきました。自分が運転する車を自宅駐車場のブロック塀にぶつけ、ブロック塀は倒れてしまいました。それくらいの勢いでぶつけたのです。
救急当番だったので、診察したら脈が変でした。心電図モニターで確認したら「2度の房室ブロック」それもモビッツ(Mobitz)型です。Aさんと一緒です。何度も心臓が止まっていました。
Aさんと違ったのは「永久的ペースメーカー植え込みを拒否したこと」です。頑として、首を振りません。勝手に退院してしまいました。20年くらい前の話です。結局、また事故を起こして搬送されてきました。しかし、また勝手に退院してしまいました。その後は知りません。
今なら「一定の病気に係る免許の可否等の運用基準」(PDF)が定まっているので、警察に通報します。ペースメーカーを入れることを承諾しないなら、免許が失効させられるでしょう。それなら多分、ペースメーカー植え込みを承諾するでしょうね。
なお、さまざまな病気(心臓病、てんかん、大動脈疾患、脳血管疾患)による悲惨な交通事故が報道されます。病気の適切な治療により、このような悲惨な交通事故は、全てでは無いですが、予防が可能です。

15:これまで経験した交通事故の方の診療で一番可哀想だった患者さんのこと

自動車会社の従業員の方の事故です。この方が事故を起こしたわけではありません。お客さんが同社の車に試乗運転をしていた時にブレーキとアクセルを踏み間違え立木に激突、この社員は多発外傷を負い救急搬送されてきました。
運転をしていた女性(60代後半)は軽症でしたが、同乗していた車会社の若い社員の方はほぼ即死状態でした。立木にぶつかったのは助手席側だったのです。奥さん、小さなお子さんと会社の方が駆けつけて来ましたが言葉の掛けようがありませんでした。家族の方の慟哭を今でも思い出します。
「試乗する時は、よく運転操作を習った方が良い」
と思いました。

16:海外での交通事故

ニューヨークで学会があった時に乗ったタクシーが事故を起こしたことがあります。
空港からホテルまでイエローキャブに乗ったのですが、随分と荒い運転をしていました。「怖いなあ」と思ったら、案の定、衝突事故を起こしてしまいました。
ドライバー同士で喧嘩が始まりました。その間、2時間くらいタクシー内で待っていました。とても怖かったです。
こんな「事故」も自分では避けようが無いですね。
「どうしようも無い、避けられないことが交通事故でもある」
そういうことを実感しました。

このようにあれこれと交通事故から考えることがあります。
車は便利です。しかし、さまざまな事故が生じ得ます。自分でできるリスク管理はした方が良いですね。
自分でできるリスク回避をあげてみましょう。

  • 飲酒運転は絶対にしない
  • スピードを出しすぎない
  • 雨の日には慎重に運転を
  • 運転中はスマホの操作をしない
  • 運転中にTVは見ない

etc. できることはたくさんあります。皆さんもお考えください。

社会的にできるのでは無いかと思っていることが2つあります。

  • すべての車に衝突被害軽減ブレーキを義務づける
    (実際、2021年1月から新車に対してそういう装置の装着が義務づけられます)
  • あえて衝突被害軽減ブレーキの無い車を運転するなら高額の保険金が被害者に降りるような自動車保険の加入を義務づける

の2点です。最近のボルボの新車には、全ての車に、衝突被害軽減ブレーキがついています。スウェーデンは交通事故死ゼロを目指しています。「Vision Zero」と言う政策です。ボルボもそれに応じているのですね。
すべての車にそういう装置が付くに数十年かかると思います。技術が進歩すれば、古い車にも簡単にそういう装置を後付けで装着させることもできるようになると思います。そういう社会になることを促進させるために上記2.のような施策をとるべきだと思っています。

政策を変えるのは大変です。夢物語だと思うかも知れませんが身近にそういうことをなさった方がいます。
私の手術した患者さんは家族が悲惨な交通事故(泥酔運転)に巻き込まれたのを機に国の法律を変える運動を全国的に起こして実際に法律が変わりました。
その患者さんはそれまで特別な社会運動をしたことが無い方でした。しかし交通事故を機に「社会を変える必要がある」「このままではまた犠牲者がでる」という強い思いを持ち、全国を行脚して回り、同志を募り、国会議員を動かし法律を変えたのです。
強い思いがあり、行動力があり、説得力があると、社会が変わるかも知れないという良い例です。いつか、ご紹介したいと思います。

2つ医学的な話を追加します。

1:13日の金曜日には交通事故が増えるという医学論文があります。
1)Is Friday the 13th bad for your health? イギリス
BMJ. 1993 Dec 18-25;307(6919):1584-6.
13日の金曜日には普通の日に比して52%も事故が増すのだそうです。
2)Traffic deaths and superstition on Friday the 13th. フィンランド
Am J Psychiatry. 2002 Dec;159(12):2110-1.
13日の金曜日には男性1.28倍、女性2.25も交通事故が増えるのだそうです。
キリスト教徒は、13日の金曜日に車を運転する時、過度に緊張するのだろうと推論されています。そういうわけで、13日の金曜日にキリスト教徒が多い国に滞在するときは少し注意が必要です。

2:高齢化社会と運転にまつわる大切な話
高齢者の運転操作ミスによる事故が時々報道されます。逆走、アクセルとブレーキの踏み間違え、などです。上述の如く、衝突被害軽減ブレーキ装着者や自動運転が普及すればかなりそういう事故は減ると思います。
しかしMAZDAはマニュアル車が認知症予防になるという仮定?の元にあえてマニュアル車を作り続けています。面白い試みです。マニュアル車だと手と足をずっと動かす必要があります。確かに認知症予防になるのかもしれません。都会では車の運転をする機会が多くありませんが地方では車の運転が死活問題になります。車の運転を止めた途端に認知症が進行することは多くの医師が経験することです。日本認知症予防学会理事長の浦上克哉先生も「運転時認知障害の早期発見による認知症予防と安全運転」と題し日本自動車工業会の雑誌(平成28年10月15日特集 高齢化社会と交通安全:JAMAGAZINE(PDF))でも同様なことを記しています。
認知症と運転関係はこれから吃緊の問題だと思います。

さらに大切?な話:
地域により「Y県ルール」「M市ルール」「NA走り」「Iダッシュ」という独特なルールがありこれらの地域で運転するには特別な注意が必要です。もちろん間違いです。Y県や某M市だけ、道路交通法が違う訳ではありません。しかし、これらの地域で車の運転をする時には注意が必要です。あまり良いことでは無いです。

ブランド総合研究所が2019年に初めて行った住民視点で地域の課題を明らかにする「地域版SDGs調査」によると、

交通マナーが悪いと自分達が思う県は
1位 徳島県 13.5%
2位 香川県 9.6%
2位 福岡県 9.6%

交通マナーが悪いと思うのが少ない県は
1位 鹿児島県 2.3%
2位 青森県 3.0%
3位 長崎県 3.8%

です。県で随分と違うのですね。

望月吉彦先生

望月吉彦先生

所属学会
日本胸部外科学会
日本外科学会
日本循環器学会
日本心臓血管外科学会
出身大学
鳥取大学医学部
経歴
東京慈恵会医科大学・助手(心臓外科学)
獨協医科大学教授(外科学・胸部)
足利赤十字病院 心臓血管外科部長
エミリオ森口クリニック 診療部長
医療法人社団エミリオ森口 理事長
芝浦スリーワンクリニック 院長

医療法人社団エミリオ森口 芝浦スリーワンクリニック
東京都港区芝浦1-1-1 浜松町ビルディング1階 プラザ 111 内
TEL:03-6779-8181
URL:http://www.emilio-moriguchi.or.jp/

※記事内の画像を使用する際は上記までご連絡ください。