疾患・特集

「論文を書く」ということ(3) (望月吉彦先生) - ドクターズコラム

大人の健康情報

望月吉彦先生

更新日:2019/08/19

お笑い英文論文投稿

前回より続きます。
色々とありましたが、心臓腫瘍(粘液腫)のインターロイキン-6染色に成功しました。これを日本語で書いて日本語の雑誌に投稿すれば比較的簡単に載りそうです。しかし、折角だから、なんとか英語の論文にしたいと思いました。

世界中には、数多くの英文雑誌があります。NATURE、SCIENCE、CELL、PNASの世界は夢のまた夢の世界です。私の患者さんは珍しい病気ですが、1例の経験しか無いので、そういう有名な雑誌に載ることはあり得ません。色々と考えたあげく、胸部心臓血管外科医にとって「夢」である“Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery”とか“The Annals of Thoracic Surgery”に載せたいと思い至りました。どちらもアメリカの雑誌です。今は変わりましたが、“Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery”には症例報告のような論文は掲載されていませんでした。そう言うわけで、症例報告も掲載される可能性がある“The Annals of Thoracic Surgery”に投稿することにしました。「しました」と言っても、勝手に!自分でそう思っただけで、実際に論文を投稿するためにどうしたらよいか、方法論が全くわかりませんでした。そこで私が最初にやったのが、「医学英語論文の書き方」が書いてある本を読むことでした。いわゆるハウツー本ですね。どのようにしたら英語論文が書けるのか?というような内容の本です。数冊読みました。どの本にも

  • 「書こうとしている論文に価値があるかどうかを検討することが一番大切」
  • 「世界で初めての発見なら、インパクトファクターの高い雑誌に載る可能性がある」

1.も2.も言っていることは、同様です。同じような論文がすでにあるなら、論文が掲載される可能性は低くなります。苦労して、英文論文を書いても同内容の論文があれば、その論文は掲載されません。そういうわけで論文を書く前に図書館で徹底的に論文を探しました。書こうとしている論文と似たような論文があるかどうかを調べたのです。これは1993年頃のことです。「Medline」という医学生物学の論文のデータベースをインターネット上で無料検索出来る様になったのは1997年のことです。それが、皆さま良くご存じの「PubMed(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/)」です。
それまでは「Index Medicus」という書誌雑誌を用いて論文を検索していました。私もこの「Index Medicus」を用いて探しました。これが「言うは易く行うは難し」です。「Index Medicus」はとても厚く重いのです。今、思い出しても、忌々しいというか、途方に暮れたというか…とにかく論文を探すのが大変でした。図書館は夜8時までしか開いていません。病院で手術をして、患者さんの診療を終えて、やっと夜7時頃になって図書館に駆け込んで、とにかく論文を探しました。

  • 「Carney complex(カーニー複合)="complex" cardiac myxoma.」に関する論文
  • 心臓粘液腫とインターロイキン-6に関する論文

を徹底的に収集して、読みました。それらは英文論文がほとんどです。これはかなり厄介でした。でも、読んでいると、使用されている英語はテクニカルタームが似通っているので(内容が同じようなモノですから)、段々と読む速度が速くなりました。約50編ほど、論文を読みました。今は、普通にパソコン、スマホからPubMedが使えるので、論文を調べる時間は飛躍的に短縮されました。良いことですね。当時から考えると夢のような話です。

さて、どうやらこの症例は英文論文にする価値がありそうだと確信しました。それから、悪戦苦闘が始まりました。
まず、英文論文としてどのようなことを書いたら良いか、どのようにして書き始めたら良いか、皆目見当がつきません。幸い、前述のように50編程度の英文論文を読んだので、これらを参考にして論文に書いてあった英語から使えそうな医学表現方法、表記方法を書き出してみました。そして、自分なりに筋立てを考えてみました。主題は「心臓粘液腫がインターロイキン-6を分泌していることを免疫染色法によって証明した」ことです。論文の導入部分にその旨を書き、次に症例の詳細を書き、結果を書き、検討を書き、最後に結論を書くのが論文の流れです。
さて、色々と書いてみました。しかし、当時、とても忙しかったので(年に150-180件の心臓手術をしていた時代です)、なかなか進みませんでした。仕事が終わってから、あるいは手術の待ち時間などのいわゆるすきま時間を使って書いていましたが、それでもなかなか進みません。日本語ではこう思うのですが、英語ではそれが上手に表現できません。ですから、止まってしまうのですね。特に困ったのが「Title」と「Running Head」です。The Annals of Thoracic Surgeryでは「Title」は80 characters、「Running Head」は40 charactersと指定されていました。私は、この“Characters”の意味も最初は解りませんでした。キャラクターって何? これではお話にならないですね。キャラクターは文字数のことです。どうしてもTitleは長くなってしまいます。私は、Titleを先に20個ほど案出しました。散々、悩みましたが「Interleukin-6 and "complex" cardiac myxoma.」としました。そして、Running Headは「IL-6 AND COMPLEX MYXOMA」としました。
この経験を基に思いついたのが、今でも私が実践している「付箋(ポストイット)を用いる方法」です。とにかく思いついたらポストイットに書き留めてノートに貼りつけ、後でそのノートに貼ったポストイットを整理する、そういう方法です(次回の余話2に紹介します、実際の写真付きです)。

そしてなんとか、書き上げて、投稿?したのです(笑)。
(笑) の意味は、この後の波乱万丈をお読みいただければ、すぐに判ります…

「医学英語論文の書き方」という本には書いていないことがありました。それは、各雑誌には「Instructions for Authors(投稿者への案内):投稿規定」があり、それに沿わない原稿は受け付けないということです。あまりにも当然のことですから本には書いていなかったのですね。最近のThe Annals of Thoracic Surgeryの「Instructions for Authors(https://www.annalsthoracicsurgery.org/content/authorinfo)」には、下記のような項目が並んでいます。今は電子投稿ですので以前とは多少、趣が違いますが、書いてある内容は昔も今もほとんど変わっていません。そこには論文に使って良い「字数、フォント、文字のサイズ」など細かいことが決まっています。電子投稿になって変わったのは「紙」の指定が無いことです。後述する如く「紙」には悩まされました。

  • General Description of Content
  • Manuscript Submission
  • General Information for Formatting Manuscripts
  • Categories of Manuscripts and Word Limits
  • Order of Content With in Manuscripts
    Title Page
    Abstract, Graphical/Visual Abstract
    Text
    Acknowledgments and Disclosures
    References
    Tables
    Figure Legends
    Illustrations
    Supplemental Material
  • Protection of Human and Animal Subjects
  • Conditions for Publication Form
  • Miscellaneous

論文投稿に際してはこれらの項目に細かい規定があり、これに沿わない原稿は「受け取ってもらえません」。

写真1:当時の投稿規定

当時の投稿規定です。電子投稿以前の投稿規定です。紙媒体での郵便による投稿です。
とにかくこれをよく読んでこの「Instructions for Authors:投稿規定」に沿って書かれた論文でなければ、そもそも投稿を受け付けてくれないのです。そういう事が当時の私には良く解っていませんでした。
書き上げた英文論文を、意気揚々と投稿したのですが、

「この論文は投稿規定に沿っていない」
「指定している紙を使え」
「英文をnative speakerに見てもらえ」

というような内容の手紙が、私の下に届きました。査読してもらう以前の話でした。今思うと冷や汗が出てきます。論文の受け取りを拒否されても仕方が無かったのですが、投稿先のThe Annals of Thoracic Surgeryの事務担当者が哀れに思ってくれたのか、
「あなたの論文は投稿規定に沿っていないよ、投稿規定通りに書けよ、きちんとした英語で書けよ、それも指定した紙を使って書くようにね」
と幸運にも助言してくれたのだと都合良く解釈しました。投稿した論文はそのままゴミ箱に捨てられても仕方なかったのですが、助言をしてくれたのです。親切な話です。このThe Annals of Thoracic Surgeryの事務担当者にはとても感謝しています。

私が最初に投稿?した英文論文は、有り体に言えば「論文」の体をなしていなかったのです。そもそも「指定している紙」っていったい何のこと何だろうと思って、「Instructions for Authors」を読み直すと確かに論文は「全てletter sizeのwhite opaque bond Paper」に印刷して提出せよと書いてあります。何のことだかよくわからないので、A4の普通紙にプリントして提出していたのです。近所の文房具屋さんに聞いても判りませんでした。銀座の文房具専門の伊東屋さんに聞いて見れば良いと思いつき伊東屋さんの紙売り場に電話してみました。答えは簡単でした。伊東屋の担当者は“white opaque bond Paper”というのは英米で公用文書を書くのに使われる紙であることや、その紙は“白く、不透明で少し厚いボンド紙という紙”であることを、丁寧に教えて下さいました。「伊東屋さんでは購入出来るのでしょうか」と伺ったら、「ええ、勿論です。沢山売っています(笑)」とのことでした。私は直ちにその「white opaque bond Paper」を注文しました。

次に私は書いた英文を「医学英語論文を添削してくれる米国の専門家」を探して読んで頂きました。最初から笑われてしまいました。「モチヅキ先生、この論文はダブルスペースでは無いですね。これでは、そもそもダメです」。そういえば、「Instructions for Authors」に論文は“Manuscripts should be typed double-spaced throughout”と書いてあったのを思い出しました。“double-spaced”の意味がわからないので、ここでも私は普通に印刷してしまっていたのです。double-spacedを調べたら、「1行の文章に2行分の場所(スペース)を確保すること」つまり、行間を1行空けることだと判りました。当時、Wordというソフトで書いていましたが、そういう設定もあったのですね。私はその時、初めて気づいたのでした。

私が英文論文を最初に投稿した時は「Instructions for Authors」をまともに読んでいなかったのです。門前払いされるのも当然ですね。これはいかんと思い「Instructions for Authors」を全て訳出しました。論文本文、図や表の全て、図や表の説明の全て、タイトル、小見出し全てに細かい規定がありました。
必死になって、これらの規定に完璧に沿うように論文の体裁を整えました。この作業に半年くらいを費やしました。英文も全て書き直し、前述の英文専門家に再度読んで頂きました。ここでも一苦労はありました。「a」と「the」の選択、受動態で書くか、能動態で書くか? 実は、この辺りは今でもよく理解できていませんが、何回か書き直しました。自分で言うのも変ですが、修正した論文は最初に自分で書いた英文とは似て非なるものになりました。言っていることは同じですが日本製英語では無くて、英文らしい英語になっていました。そして再度The Annals of Thoracic Surgeryに投稿したのです。先方からは「査読に回します」という素っ気ない返事が返ってきました。
次回、続く。

望月吉彦先生

望月吉彦先生

所属学会
日本胸部外科学会
日本外科学会
日本循環器学会
日本心臓血管外科学会
出身大学
鳥取大学医学部
経歴
東京慈恵会医科大学・助手(心臓外科学)
獨協医科大学教授(外科学・胸部)
足利赤十字病院 心臓血管外科部長
エミリオ森口クリニック 診療部長
医療法人社団エミリオ森口 理事長
芝浦スリーワンクリニック 院長

医療法人社団エミリオ森口 芝浦スリーワンクリニック
東京都港区芝浦1-1-1 浜松町ビルディング1階 プラザ 111 内
TEL:03-6779-8181
URL:http://www.emilio-moriguchi.or.jp/

※記事内の画像を使用する際は上記までご連絡ください。