望月吉彦先生
更新日:2018/04/16
--「米国で最も憎まれる男」に禁錮7年の判決 証券詐欺で --
という報道が2018年3月10日にありました。「米国で最も憎まれる男」とは厳しい表現ですね。今回から2回連続で「米国で最も憎まれる男(達)」の紹介をします
全ての「モノ」には値段があり 「モノ」の値段は需要と供給で決まります。資本主義の根幹です。江戸時代の近江商人はそれを「売り手良し、買い手良し」と言っていました。今でも通用します。この「枠」に入らないのが、「薬」と「医療機器」です。あまり知られてはいないかもしれませんが、日本では厚生労働省が、
を決めています(注:薬局で購入出来る一般用医薬品は別です)。お薬の値段は勝手に企業が決めることはできません。利潤のみを追求してお薬の値段を決められては困るからです。
ここ数年、新しい作用を持つ抗がん剤「オプジーボ」(一般名:ニボルマブ)が各種のがんに対しても使われるようになりました。今までの抗がん剤とは、全く違う作用を持ち「免疫チェックポイント阻害薬」と称されています。このお薬は「効く人にはとても効く(奏効率は、20-30%と言われています)」夢のような抗がん剤です。しかし、オプジーボは値段がとても高いことも話題になりました。
オプジーボに関しては「医学の勝利が国家を滅ぼす:新潮新書:里見 清一著」という本も出版されました(注:里見清一はペンネームです。山崎豊子『白い巨塔』の登場人物から借りています。本職は腫瘍内科の先生です)。この本で里見清一氏は「オプジーボ」を無計画に投与すると、国家財政が破綻しかねないという懸念を表明しています。
オプジーボは確かに高価です。オプジーボの投与を受ける患者さんの体重を仮に60Kgだとすると1回の投与に130万円、2週おきに投与するので、年間約3,600万円です。患者さんがこの金額を全額、支払うわけではありません。日本には「高額療養費制度」があり、患者さんの年収、加入している健康保険により差はありますが、月に20-30万の負担でオプジーボの投与を受けることができます。実際にかかる費用との差額は加入する健康保険や公的資金(基は税金)から支払われます。オプジーボの値段は妥当でしょうか?それは誰にもわかりません。その薬の開発にかかった費用、製造にかかる費用、一定の割合で肺がんが治ってしまう患者さんがいることなどを考えれば、「安い」のかもしれません。
それはともかく、オプジーボの薬価が公的医療保険財政を圧迫するのではという声が相次ぎ、国会でも取り上げられ、ついに中央社会保健医療協議会(中医協)がオプジーボの薬価の引き下げを勧告しました。それを受けてオプジーボの薬価は半額になりました。2017年2月1日のことです。
薬価の改定は2年に1回が原則です。2016年にオプジーボの薬価は決まっています。本来なら、2018年がオプジーボの薬価の改定時期でした。その原則を曲げてまで半額にしたのは、それだけ保険財政への影響を懸念する声が強かったのでしょう。
今、お示ししたように、医療用医薬品の値段は「お国」が決めるのが日本の原則です。日本と同様、EU加盟国やカナダではお薬の値段に政府の規制があります。
今、アメリカでとんでもなく高価なお薬が「出現」し社会問題となっています。
オプジーボは1mgが7,200円ですが、そのお薬はなんと1mgで80万円!もするのです。お薬の種類が違うので単純にmgだけで比較するのは間違っているのですが、それでもびっくりするような値段です。日本と違い、アメリカでは各企業がお薬の値段を勝手に決めることができます。とは言え、普通はライバル企業があり競争原理が働くので、いくら良い薬でも非常識な値段を付けることはできません。
そのアメリカで2015年にいきなり多くの高価薬が出現しました。特に問題となっているのが、前述の1mg80万円、24時間点滴で投与すると約2,000万円もかかるお薬です。そのお薬のことが今回の主題です。これだけの価格が付くなら「夢の新薬」だと思われるでしょう。違います、なんと70年前に合成された古いお薬です。
どういうことなのでしょうか?次回、詳しくご説明します。
望月吉彦先生
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