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078:入学試験を5月末か6月初旬に移そう(望月吉彦先生) - ドクターズコラム

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望月吉彦先生

更新日:2018/01/22

必死に走ったあの時

受験

今回は「雪と受験」について持論をお伝えしようと思います。2018年1月12日のニュースです。「明日、1月13日、日本海側には積雪増加の恐れ センター試験の移動に影響がでるかもしれない」というニュースが繰り返し流れています。このニュースを聞いて、本原稿を思いつきました。
昨冬(2016-2017年の冬)鳥取や北海道に大雪が降りました。

2016年12月には北海道で大雪が降り、交通網が寸断されました。
2016年12月23日の毎日新聞などの報道です。
「札幌で積雪96センチ、12月は50年ぶり」
この雪で千歳空港は12月22日、23日と閉鎖され、JR北海道の路線も多くが運休となっていました。
2017年2月13-14日の報道です。
「鳥取、34年ぶり記録的大雪 除雪作業進まず」
「鳥取市で記録的大雪影響続く、路線バス運休・臨時休校も」
「今季最強の寒波が居座り、鳥取で34年ぶりに積雪が90センチを超えるなど西日本を中心に記録的な大雪となった」

閑話休題
鳥取には大学時代に住んでいたので大雪の状況がよくわかります。鳥取は普段あまり雪が降ることは無く道路に根雪があることはまれです。しかし、年に数回大雪が降ります。難儀します(しました)。交通が麻痺するからです。
さて私が最初にこの鳥取の「年に数回しか降らない」大雪に苦しめられたのは、なんと受験日のことでした。以下の話は、今から40年前の話です。

当時、国立大学の入試は、一期校、二期校に分けられ二回受験機会がありました。鳥取大学は一期校でした。一期校、二期校とも二日間にわたって入学試験がありました。受験のため、東京駅から寝台列車に乗って鳥取まで行きました。鳥取市には宿が少なく見知らぬ受験生と相部屋で鳥取駅前の旅館に泊まることになりました。同宿の彼は工学部受験生でした。
1日目の受験日、彼と一緒に宿からバスで受験会場だった鳥取大学まで行きました。バスで30分程度の道のりでした。1日目は晴天で何事も無く終わったのです。夜、宿で食事をしていたら、同宿の彼が「今日は1時間近く早く着いたので寒かった(確かに受験会場が開くまで寒かったのです)ので、明日は一本バスを遅らせよう」と提案しました。それに乗った私も悪いのですが、彼の提案にのり、次の日は前日より15分遅いバスに乗ったのです。それでも時間通りに着けば、受験開始45分前には着く予定でした。
その日は雪が降っていました。最初は大したことが無かったのです。しかし、バスに乗ってしばらく経ったら、見たことも無い様な凄い量の雪が降ってきました。前が見えないくらいの雪です。ほどなくバスがノロノロ運転になりました。何回も止まってしまいます。突然の大雪のため、交通が麻痺しだしたのです。どんどん時間が経っていきます。雪が凄い勢いで降っています。
「雪が降る。あなたは来ない♪♪」ではなく、
「雪がふる♪♪♪バスは動かない♪♪♪」状態です。
今でも良く覚えているのですが鳥取市を流れる千代川(せんだいがわ)に架かっている“八千代橋(やちよばし)”という橋の上で受験開始時刻の9時になってしまいました。しかし、バスの中は、なんとなくのんびりしていました。誰かが「この雪なら試験開始が遅れるよ」と言ったからです。私もそう思っていました。しかしそれは「甘かった」のです。
八千代橋から大学まで3kmくらいです。普通なら10分もかからない距離です。大学前のバス停に近づいたら、先に着いたバスから降りた受験生が一気にダッシュしているのが見えました。バスが大学前に着いたら、大学職員が「9時30分に試験会場を閉鎖します。それまでに試験会場に入らないと受験できません!あと5分です!5分です!」と大声で叫んでいました。瞬間、皆、一斉に駆け出しました。
大学の正門から受験会場だった教室まで400mくらいありました。雪で転ばないように注意しつつ、一生懸命走って何とか9時30分前に滑り込みました。数学の試験でした。すでに始まっていました。2時間の試験時間のうちすでに30分経過していました。全速力で走ったので、動悸が止まりません。寒いバスの中に長時間!いたのでトイレに行きたくなりました。これ以上時間を取られるのは問題を解くには困るのですが生理的欲求です。しかたなく手を挙げて小用に行きました。試験官がトイレまでついてきました。試験官に「雪でバスが遅れたのか?」と聞かれました。「そうです。いきなり雪が降ってきてバスが動かなくなりました」と話したら、「鳥取ではそれは普通のこと、用心しないといけないね」と言われました。
トイレに行って、多少、ゆっくりしたためか、動悸も収まりました。試験場に戻り、問題を見たら、私の日頃の行いが良かったせいか、比較的得意な問題ばかりでした。90分で充分解けたのです。
幸い合格して入学したら受験場で私のすぐ後ろだったというN君が声をかけてきて「前の奴(私のことです)が遅刻したので、しめた!」と思っていたと話してくれました。トイレについてきていただいた試験官は歴史学の「河手龍海」教授でした。歴史学の講義が終わったあと「受験の時はトイレまでついてきていただき、ありがとうございました」と挨拶に行ったら、河手先生も覚えていて「良く受かったね」と言われました。というわけで、私の受験は「滑り込みセーフ」だったのです。アブナイ話です。受かったから笑い話で済みますが落ちていたらあるいは試験会場到着が数分遅れ、試験会場に入れなかったらと思うとぞっとします。
雪国の大学を受ける受験生には、

  • 雪が降るとアブナイから、寒くても良いから、少しでも早めに会場に着くこと
  • 天候がおかしいと思ったらバスでは無くてタクシーを利用すること

を勧めています。
後年、サッカーのオシム監督が「ライオンに追われているウサギは脚をつったりはしない」と言っていました。まさにあの時、大学正門から受験会場の教室まで走った私がそうでした。

私の大雪と受験の話は、これだけでは終わりません。それから、1年が経ち、今度は弟の受験に付き添って、札幌に行くことになりました。甲府から札幌までの道中です。私は、高校の同級生が北大にいたので、弟が受験している間、彼と「札幌で遊ぼう」と約していたのです。札幌に行くのは初めてでした。弟も初めての札幌で初めての大学受験です。しかし、今度も大雪に苦しめられました。
余裕を持って、受験の2日前に札幌に着く予定にしていました。羽田空港に着いたら「雪のため、札幌行きは本日全便欠航です」と言われました。目の前が真っ暗になりました。今なら、スマホで情報も早く手に入れることができるのでしょうが、当時は、そんなことは不可能でした。この時点でとるべき方法は2つです。

  • 東京で宿泊して次の日の便を待つ
  • 列車で行く

の2つでした。飛行機の便は、当たり前ですが、すでに次の日は全便満席でした。飛行機で行くなら、空席待ちをしないといけません。しかも、翌日も天候状況からして、飛ばない可能性が高いと言われました。すぐに国鉄(当時:「JR」は1987年~)の駅に行って、上野から青森行きの切符を購入しました。この時点で上野から青森までは列車が運行されていること、青函連絡船が運航されていること、函館から札幌の列車が通っていることは確認したのです。
寝台列車の切符がとれず、夜行の普通車に乗って一晩かけて青森駅に着き、青函連絡船に乗り、函館までようやく着いたと思ったら、今度は大雪のために函館―札幌間の列車が運休となっていました。万事休すでした。弟が可哀相でした。明日は試験です。繰り返しますが、スマホやインターネットなど無い時代です。情報が入りません。
私は自分のこと(雪が降り、そのために、多くの人間が遅刻しても非情にも入試が行われた)があったので、明日、入試が行われるだろうと思いました。函館から札幌行きのバスも運休です。ふと見たら、タクシーが停まっていました。そうです、タクシーなら行ってくれるかもしれません。
停まっているタクシーに、片端から声をかけましたが、札幌まで行ってくれるタクシーはいませんでした。懇願したら、1台だけ行っても良いと行ってくれたタクシーの運転手さんがいました。料金の交渉をしました。事情を話したら、それは可哀想だからと、大幅に負けてくれたのです。今でもその運転手さんにはとても感謝しています。こうして、弟と二人、函館から札幌まで雪道をタクシーで行ったのです。雪国の運転手さんですから、雪上の運転がとても上手く、凄いスピードで札幌まで連れて行ってくれました。6-7時間かかったと思います。試験前日の夕方に無事、札幌に着いたのです。
ホテルに着いたら「大雪のため、試験は1日延期となった」との連絡が入っていました。ほっとしました。私はもちろん、弟も疲れ果てていたのです。次の日は丸1日ゆっくりと休み、十分な休養を取り、無事受験することができました。弟が受験している間に、高校時代の友達と、小樽、余市、札幌で観光を楽しみました。良い思い出です。弟も合格を果たしましたのでこのドタバタ道中も今では兄弟間での笑い話となりました。

私も弟も、受験時に雪で苦しめられました。しかし、このようなことは本来あってはいけないのです。冬に受験を行うのは不利なことが多すぎます。
何年にもわたって頑張って勉強しても、受験シーズンが真冬では、

  • 受験会場への道のりが雪に左右される可能性がある
  • 雪で転倒する可能性がある(特に雪になれていない受験生)
  • 風邪やインフルエンザにかかる可能性がある

というリスクが誰にも付きまとうのです。風邪やインフルエンザに罹患するかどうかと「受験勉強の努力」とは無関係です。インフルエンザにかかり、本来なら、外出してはいけない時期でも受験日が重なるなら無理してでも受験するでしょう。そしてウイルスを試験会場で周囲にばらまきます。今年も、そういうことが多々起きていると考えます。少し考えても不確定要素が極めて多い「真冬」に受験日を設定するのは、どう考えても変です。
そこで「受験は5月下旬~6月上旬に行うようにして、9月入学とすれば良いだろう」というのが私の持論になりました。5月下旬~6月上旬に行えば、

  • 上記1-3の可能性が低くなること
  • 欧米アジアの大学の入学時期は9月が多く、足並みをそろえることが出来るので他国からの留学生を受け入れやすくなること(4月入学は調べた限り日本だけです)
  • 3月一杯は普通に授業が出来るので、今の制度では中途半端に終わる「3年生3学期」がきちんと行われること
  • 卒業式がきちんとしたカタチで行われること
  • 花粉症のピークは過ぎていること

など、良いことだらけだと思いませんか?

諸外国の大学の入学の時期を調べてみました。
南半球の国の1-3月は、日本では6-9月に相当します。北半球にある欧米のほとんどの国が9月に新学期が始まります。それから類推すると入学試験時期は6-7月でしょう。日本もそれを見ならった方が良いと思います。
受験改革の提案が、度々、なされますが、受験時期をずらすのが一番重要な受験改革だと思っています。
現在のように、1月-3月という感染症に罹る確率が高く、天候も不安定な時期に人生を決めてしまうかもしれない大切な試験を行う合理的理由があれば、誰か私にご教示下さい(「4月は桜が咲く」からとか、「昔から決まっている」からというのは、非合理的理由です)。

今日(2018年1月12日)日本海側~北海道の大雪報道を聞き、その意を強くしました。それはともかく、受験生の皆さん、体調や天候に気を付けて頑張ってください。

大雪、寒波の報道を聞きながら記しました(2018-01-12)。

2021-01-14の追記:
2020年からCOVID-19が流行っています。「冬」の状況ははかなり悲惨です。私の持論が取り上げられることを希望します。

望月吉彦先生

望月吉彦先生

所属学会
日本胸部外科学会
日本外科学会
日本循環器学会
日本心臓血管外科学会
出身大学
鳥取大学医学部
経歴
東京慈恵会医科大学・助手(心臓外科学)
獨協医科大学教授(外科学・胸部)
足利赤十字病院 心臓血管外科部長
エミリオ森口クリニック 診療部長
医療法人社団エミリオ森口 理事長
芝浦スリーワンクリニック 院長

医療法人社団エミリオ森口 芝浦スリーワンクリニック
東京都港区芝浦1-3-10 チサンホテル浜松町1階
TEL:03-6779-8181
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