望月吉彦先生
更新日:2017/10/2
※文章中に心臓手術中の写真があります。苦手な方はお気をつけください。
これまで、冠動脈疾患の治療について色々とお伝えしてきました。なぜ冠動脈疾患の治療が必要か、よくわからない方もいらっしゃるかもしれません。今回、次回は、心筋梗塞に伴う合併症を紹介しようと思います。
冠動脈疾患治療用のお薬、冠動脈バイパス術、PCI(PTCA)が発達したこと、ICU(集中治療室)、CCU(冠動脈疾患集中治療室)が整備されて標準的治療が受けられる機会が増えたことなどにより、心筋梗塞による死亡率は劇的に減りました。しかし、今でも、治療が間に合わず、心筋梗塞でお亡くなりになることがあります。
心臓に栄養を送っている冠動脈が完全に閉塞すると心筋梗塞を生じます。厳密な話をすると、完全に詰まっても心筋梗塞を生じない場合があります。緩徐に冠動脈が閉塞してきた場合です。ある種の条件が整っていると、冠動脈の閉塞と並行して、閉塞した部分のまわりから側副血行路ができます。自然のバイパスです。こうなると冠動脈が閉塞しても、心筋梗塞にはなりません。そういう「運の良い状態」になっているのを見ると、人体の不思議を感じざるを得ません。
それはともかく、普通は冠動脈が完全に閉塞すると心臓に血液が行かない状態、つまり心筋梗塞になります。心筋梗塞は血流の途絶、つまり心臓の筋肉の「壊死:えし」を意味します。壊死した心筋が原因で不整脈が生じやすくなります。不整脈の中で一番怖いのが心室細動(しんしつさいどう)です。心停止と同義です。心筋梗塞による死亡原因で一番高いのは、この心室細動です。病院に来るまでにお亡くなりになる方も多いのです。
図1:心室細動の心電図
図1が心室細動を生じている時の心電図です。ギザギザに揺れている心電図は心室細動を示します。これは心臓が規則正しく動いていないこと=心臓が止まっているのと同様の状態であることを示しています。このような心電図を示している時、心臓からは血液が送られない状態となります。全身に血液が流れなくなります。意識が消失します。直ちに、心臓マッサージを開始し、電気的除細動を行わないと、そのまま、お亡くなりになってしまいます。以前は、電気的除細動は病院でしか行えませんでした。今はAEDがありますので、一般の方でも電気的除細動を行なうことができます。職場等でAEDの講習会があれば、是非、AEDの講習を受けて下さい。
図2:図1となる直前の心電図
図2は、図1の心室細動が生じる直前の心電図です。不整脈が多発しています。この後に図1の心室細動になりました。不整脈が数多く、出現している時は、精密検査が必要です。
この図1、図2の心電図は私が勤めていた病院に救急搬送されてきた方の心電図です。トラックを運転中、病院の真裏の電柱に衝突して、搬送されてきました。搬送直後の心電図が図2です。意識はもうろうとしていました。
心電図から「心筋梗塞」の診断が下され、心カテーテル検査を行う準備をしていたら、図1のような心電図になり、意識が無くなりました。直ちに心臓マッサージを行い、電気的除細動(AEDと同じです)を行った後、カテーテル検査を行いました。冠動脈に多くの狭窄、閉塞を認めたため、カテーテル室から手術室に搬送し、そのまま緊急で冠動脈バイパス術を行い無事退院することができました。
患者さんは、元気になってから、意識がなくなる直前のことを話してくれました。
彼曰く、「トラックを運転していたら、急に目の前が暗くなった。気づいたら、病院だった」「数ヵ月前から、タバコを吸っている時や、歩いている時などに、胸が痛くなっていた」とのことでした。胸が痛くなっていたのが、心筋梗塞の予兆で、狭心症を生じていたのです。意識が無くなったのは、心室細動を生じたからです。衝突した場所が、病院の真裏で、衝突して、すぐに搬送されたから助かったのです。「運が良かった」のです。そういうことは滅多にありません。衝突したのが、電柱で良かったです。小学生の登校列に突っ込んだり、他の車と衝突していたら、悲劇になっていたでしょう。
とにかく、心筋梗塞を発症すると、心室細動がいきなり生じることがありますので、予兆(胸痛など)がありましたら、注意が必要です。
次は、心筋梗塞による心臓破裂です。
図3:心臓破裂のCT写真
心臓の周りに血液が貯まっています。黄色矢印で示したのが、心臓の周りに貯まっている血液です。
図3は、心臓破裂でもまだ良い方です。心筋梗塞により、心臓に大きな孔(あな)が開くこともあり、その場合は、即死します。
※以下、心臓手術中の写真があります。苦手な方はお気をつけください。
図4:心臓に孔が開いている例(矢印部)
図3の方の心臓手術写真です。黒く変色しているところが、心筋梗塞を生じた箇所です。心筋梗塞のために、心臓全体は、むくんで脆く(もろく)なっています。心筋梗塞により心臓に孔が開いた箇所は「豆腐のおからの様に」脆くなっています。ここを修復する手術は難易度が高いです。
図5:図4の修復後の写真
特殊な手術を行い、孔をふさぎました。手術は大変です。この方は、手術後10年以上経ちましたが、お元気です。
今回は、心筋梗塞による心室細動、心破裂の話でした。寒い季節や季節の変わり目は、心臓に負担がかかり、心筋梗塞発症率が上がります。お気を付け下さい。
次回はあまり知られていない急性期の「心筋梗塞合併症」について解説したいと思います。
望月吉彦先生
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