望月吉彦先生
更新日:2016/08/29
バイキンの存在がわかったのはいつ頃かご存じでしょうか?
オランダの織物業者!レーウェンフックが顕微鏡で「細菌」を見つけたのが最初だと言われています。1680年頃の話です。レーウェンフック自身の歯垢からです(図1)。
図1:レーウェンフックが観察した「細菌」
当時としては驚異的倍率の顕微鏡(250-500倍)を自作し!、趣味!として色々なモノを見ています。細菌は元より、精子、赤血球、原生動物、植物細胞などを自作顕微鏡で観察し、それを書き残しています。この顕微鏡は単式顕微鏡と言います。小さな球形の透明レンズがあれば、今なら、簡単に誰でも作れますし(参考文献4を参照ください)、レーウェンフック式顕微鏡作成キットもインターネット販売されています。それくらいシンプルな顕微鏡です。完全球形レンズを作るのが難しかったので、レーウェンフック以外にはこのような高倍率の顕微鏡は作れなかったのだと思います。
「細胞」がさまざまなことで話題となっていますが、細胞を世界で初めて観察し記述したのがこのレーウェンフックです。だから彼は「細胞生物学の父」とか「微生物学の父」とも呼ばれています。しかし、彼は生物学の教育を受けた科学者ではありません。織物業者です。細胞や細菌の観察は彼の「趣味」です。当時「細胞」や「細菌」という概念はありません、自分でレンズを磨き、顕微鏡を作り、色々なモノを見ては観察し、記録するのが趣味だったのです。素晴らしい趣味です。彼の趣味がなければ、細胞や細菌の発見はかなり遅れていたと思います。
ちなみに彼は絵が下手で画家に図を依頼しています。その画家がフェルメール!だったという説もあります。フェルメールの遺産管理人に指定されたのがレーウェンフックだったので、そのように推測されているのです。
レーウェンフックはその生涯で200とも300とも言われる顕微鏡を作りました。ヨーロッパ各国に現存しますが9個しか残っていません。それらはすべて「国宝のような扱い」をされています。その顕微鏡のレプリカが私どものクリニックの待合室に飾ってあります。一度ご覧ください。レプリカですが、きちんと操作すると顕微鏡として機能します。
レーウェンフックの顕微鏡やレーウェンフックの残した原図はオランダのライデンにあるブールハーフェ博物館:Museum Boerhaaveで見ることができます(http://www.museumboerhaave.nl/english/:写真1)。
写真1:ブールハーフェ博物館
普通のガイドブックには載っていませんが、オランダではとても有名な博物館ですので、オランダの観光案内所に行けば、場所などを教えてくれます。ちなみに日本人には馴染み深いシーボルトを記念した「シーボルトハウス」はこの博物館のすぐ近くです。
ブールハーフェ(Boerhaave)は医師で植物学者です(1668-1738年)。
特発性食道破裂という病気の発見者で、この病気にはブールハーフェ症候群という名前が付いています。ブールハーフェは科学者と言うよりは教育者として有名で、たくさんのお弟子さんを教育したので、彼の名を冠して博物館が作られたのです。
同館には、一日中見ていて飽きないような「ブツ」がそろっています。レーウェンフックの作った顕微鏡の本物(写真2:迫力があります)、レーウェンフックが観察して描いた絵、さまざまな人体や動物の解剖図、アイントホーフェンが世界で初めて記録に成功した心電図(写真3)、それを記録した心電計などなど、極めて興味深いモノが多数展示されています。
写真2-a:ブールハーフェ博物館に展示されているレーウェンフックが自作した顕微鏡
写真2-b:レーウェンフックの顕微鏡拡大像
板にレンズがはめ込んであります。針先に観察物をおいて、反対側からのぞき込むようになっています。
写真3:ブールハーフェ博物館に展示されている世界ではじめて記録された心電図
同館では、オランダが誇る科学的業績を見ることができます。アイントホーフェンも含まれますが、オランダの自然科学系統ノーベル賞受賞者は14名で、その業績を見ることができるようになっています。 ノーベル賞メダルの本物もさりげなく展示されています。日本にもそういう博物館があれば良いですね。湯川秀樹とか朝永振一郎と言っても通じない若い方も多いので、余計にそう思います。ちなみに日本人の自然科学系ノーベル賞受賞者は21名です(米国籍の南部陽一郎氏と中村修二氏を含む)。
図1:レーウェンフックが観察した「細菌」
閑話休題、図1は冒頭でも紹介したレーウェンフックが観察した歯垢内細菌です。
レーウェンフックの発見に続いて、パスツールの発見があり、コッホの発見があり、北里柴三郎、志賀潔、秦佐八郎など日本人研究者の多大な貢献もあり、「細菌学」は発展しました。その延長線上に2015年の大村智先生のノーベル賞があるのだと思います。
感染症との戦いは、今後も永遠に続くと思います。感染症対策が難しいのは、今も昔も簡単に「バイキン」を見ることができないからです。
その「バイキン」を初めてみたレーウェンフックはびっくりしたと思います。至る処に、歯垢から見つかったのと同じような構造を持つ物質(それが細菌です)が見つかったからです。
レーウェンフックの素晴らしい趣味のお蔭で色々なことが解り、科学が進歩しました。こういう「良い趣味」を持ちたいですね。
望月吉彦先生
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