望月吉彦先生
更新日:2016/07/04
腸内細菌叢の系統的研究により「腸内細菌学」という新しい学問を世界に先駆けて樹立したのは、日本人です。光岡知足先生という東京大学農学部の出身で、理研や東京大学等で研究をなさった先生です。参考文献の「腸内細菌の話:岩波新書」は1978年の刊行で、当時から腸内細菌がいかに大切かを説いています。
光岡先生は、世界的にも腸内細菌学を世界に先駆けて拓いたとして有名な先生です。なぜ腸内細菌に目を付けたのか、非常に面白いです。
光岡先生は学会でイタリアに行った時、日本とは異なる風景や風土、建物を見て「こんなに違う文化が日本と同時代にあったのだから腸内にも別な文化(細菌叢)があるのではないか?」と考え、次から次に新しい手法でそれまで知られていなかった腸内細菌を発見します。凡人には理解し難い発想ですね。
私が小学校高学年の頃のお話です。当時、カッパブックスで「うんこによる健康診断」という本がベストセラーになりました。内容はよく理解はできなかったのですが、とても面白がって読んだのを覚えています。子供は「うんち」(という響き)が好きなのです。また、絵が大変面白かったです。久しぶりに再読しようと思いましたが、カッパブックスはもうありません。残念です。(2005年をもって新刊の発刊はなくなりました。)
話はちょっと変わります。便移植とは違う話ですが、ヨーグルトを食べると長生きする?という話を聞いたことがあると思います。
1908年、白血球の貪食作用の発見により、ノーベル賞を受賞したメチニコフが唱えたのが最初です。彼は「老衰の原因は動脈硬化であり、動脈硬化の原因は大腸にいる細菌が毒!を作るからだ」という仮説を唱えます。
そしてブルガリアには長寿の方が多いこと、長寿の方はブルガリア菌で作ったヨーグルトを食べていることを聞き及び、このヨーグルトを食べれば腸内にブルガリア菌が住み着き、動脈硬化を遅らせ長生きできると唱えたのです。そして自らヨーグルト製造会社を作ってヨーグルトの普及に努めます。それが今に続いているのです。
しかし、当時の製法で作ったヨーグルトに入っているブルガリア菌は胃酸で死滅することが解っています。「うーん?」というような話です。メチニコフが現代に生きていれば、長寿の人の便を移植しようと言い出すことでしょうね。ちなみに彼は71歳で天寿を全うしています。当時としてはとても長生きです(参考文献6を参照ください)。
話は戻ります。前回お話ししたCDIですが、結局は抗生物質の使いすぎが原因です。「You use it, you lose it」というのが抗生物質治療を開始するときに頭に入れて置かなければならないことだと習いました。”Use it or lose it(頭や体を使わないとダメになるという慣用句)”からの転用でしょう。要するに、抗生剤を使うなら「適切に」使わないと負けるよということです。
ところで、皆さんは「三大感染症」は何かご存じでしょうか?よくある三大何とか(「三大祭り」とか「三大夜景」とか)ではありません。死亡者数の上位3つです。
です。
世界エイズ・結核・マラリア対策基金という組織があり、お金、人材を投下して何とかこれらの感染症を減らす様な努力が続けられていますが、難渋しています。これも耐性を獲得したエイズウイルス、多剤耐性結核菌、アルテミシニン耐性マラリアの発生があるからです。感染制御は本当に難しいです。
1980年、WHOの事業により、天然痘が地球上から無くなりました。天然痘ウイルスは比較的素直なウイルスで、ワクチンがよく効いたのです。それでもWHOの天然痘撲滅プロジェクトリーダーとしてその撲滅作戦の中心にいた蟻田功先生によると「天然痘は最後には『弱い天然痘』しかいなくなり、ワクチン接種をする地域を特定するのが難しくなっていた」と言っています。
要するに、強い天然痘だとすぐにどこに天然痘患者がいるかわかってしまうので弱くなっていたとのことです。一種の進化です。
ちなみに日本最後の天然痘患者は、中島知子さんというタレントさんだそうです。(正確に言うと、幼少期にワクチン接種をした家族から感染したので「仮性天然痘」に感染。)
エボラウイルスも初期のエボラウイルスに罹るとその死亡率はと70-90%と大変高かったですが、今では50%に下がっています。それでも高い死亡率です。当たり前ですが、人間が死に絶えるとエボラも死に絶えるから、エボラも弱くなっているのだと推測されます。これも一種の進化だと思います。
「バイキン」にも実は人間が定義できない「知性」が隠れているのかもしれません。
望月吉彦先生
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