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032:冠動脈が痙攣(けいれん)することで生じる狭心症 冠動脈疾患(4)(望月吉彦先生) - ドクターズコラム

メディカルコラム

望月吉彦先生

更新日:2016/03/14

前々回(冠動脈疾患その2)は動脈硬化が主原因の狭心症を例示しました。
冠動脈疾患の危険因子もお伝えしました。
自分には関係無いと思われる方もいらっしゃるかと思います。
今回はごく軽度の動脈硬化でも狭心症や心筋梗塞が生じることをお示ししたいと思います。

それは冠動脈が痙攣(けいれん)することで生じる狭心症です。医学的には『冠攣縮(かんれんしゅく)』と言います。
「攣縮(れんしゅく)」って難しい言葉ですね。要するに血管が痙攣して細くなることです。
この痙攣は一見すると正常に見える動脈にも生じますが、攣縮を生じる血管には程度の差はあれ、動脈硬化の所見が認められます(図1)。

アメリカの心臓病学者プリンツメタル先生が1959年に発見したので『プリンツメタルの狭心症』とも言います(文献1)。
あるいは『異型狭心症』とも言われます(注:普通の狭心症は労作時に生じるのでそれに比して型が違う=「異型」という意味です)。
これは、全狭心症の40%程度に認められると言われています(循環器学会編:「冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン」による)。

全狭心症の40%程度に認められる狭心症

実際に症例をお目にかけましょう。
56歳男性です。喫煙が危険因子です。仕事が忙しくなると胸痛が生じ、ホルター心電図で「冠攣縮による狭心症」が疑われカテーテル検査を行いました。
図1は左冠動脈の造影所見です。狭いところは一部です。しかし、冠動脈の攣縮を誘発するような薬(アセチルコリン)を投与すると図2のように血管が強烈に細くなります。
誰でもこの薬を投与すると血管が細くなるわけではありません。攣縮を生じる様な病態を持っている方に特異的にこういう現象が生じます。この攣縮は図3でお示ししますようにニトログリセリン投与で解消します。

図1 左冠動脈造影像
図1 左冠動脈造影像

図2 アセチルコリン負荷後
図2 アセチルコリン負荷後

図3 ニトロ投与
図3 ニトロ投与

ストレスが多い喫煙者で早朝に胸痛を生じたら…

この患者さんは攣縮が生じている時、胸痛を感じていました。「冠攣縮による狭心症」は、

  1. 朝方に生じることが多い(一般的に動脈緊張は朝方に多い。早朝高血圧が生じるのも同じ理由)
  2. 労作に関係なく生じる
  3. 喫煙者の場合、喫煙により誘発される
  4. 常習飲酒者に多い(飲酒によりマグネシウムが排出されそのために血管痙攣が生ずると言われています)
  5. ストレスで誘発される

などの特徴があります。

典型的な症例はストレスが多い喫煙者で早朝に胸痛を生じます。そういう場合は注意が必要です。
診断はホルター心電図(24時間心電図)や胸痛時のニトログリセリン舌下投与による症状の軽減を認めることなどから行います。
特にホルター心電図は有用です。なぜなら症状が出ていない発作(無症候性発作)が冠攣縮による狭心症ではよく見られるからです。
これはホルター心電図を装着していないと診断がつきません。
なお、普通の狭心症は心電図でSTと呼ばれる部分が低下するのですが、冠攣縮による狭心症はST部分が上昇します(図4)。
治療はニトログリセリン、カルシウム拮抗剤の投与です(お薬については後述します)。

図4 異型狭心症の心電図
図4 異型狭心症の心電図

「冠戀縮による狭心症」を“なめている”と大変なことになります。それは冠動脈の痙攣がとれなくなってしまうことがあるからです。
そうなると心筋梗塞に移行します。冠攣縮による心筋梗塞は実は厄介です。どういうわけか普通は“効く”ニトロもカルシウム拮抗剤も効かなくなることがあるからです。そういう患者さんが心臓カテーテル室でショック状態になったのを何度も見ました。

冠攣縮による狭心症から心筋梗塞を生じた方の3%は死亡します。軽く考えてはいけません。以前はあまり動脈硬化が関係無いと言われていましたが、冠攣縮による心筋梗塞でお亡くなりになった方の冠動脈を解剖して検査すると結構強い動脈硬化性変化が生じていることがわかりました。
血管が強く狭窄する前に血管の内皮障害が生じて本来なら血管内皮から分泌されるNOの分泌不全が生じていることが冠攣縮の原因であろうと推測されています。

ストレスがあり、常習喫煙者で、ほぼ毎日の飲酒機会がある。そういう方はどうかお気を付けください。

冠動脈疾患の治療には

  1. 薬物治療
  2. カテーテル治療
  3. 冠動脈バイパス術

の3つが挙げられます。

これらについては順次、解説したいと思います。

雑談)

心臓病とは何の関係ありませんが、プリンツメタル先生はシェイクスピアの初版本の収集家として有名でした。
今なら一冊6~10億円もする全てのシェイクスピア作品について初版本を所蔵していることでも世界的に知られていました。

【文献】

  • Prinzmetal M, et al. Am J Med. 1959;27:375-88.

望月吉彦先生

望月吉彦先生

所属学会
日本胸部外科学会
日本外科学会
日本循環器学会
日本心臓血管外科学会
出身大学
鳥取大学医学部
経歴
東京慈恵会医科大学・助手(心臓外科学)
獨協医科大学教授(外科学・胸部)
足利赤十字病院 心臓血管外科部長
エミリオ森口クリニック 診療部長
医療法人社団エミリオ森口 理事長
芝浦スリーワンクリニック 院長

医療法人社団エミリオ森口 芝浦スリーワンクリニック
東京都港区芝浦1-3-10 チサンホテル浜松町1階
TEL:03-6779-8181
URL:http://www.emilio-moriguchi.or.jp/

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