望月吉彦先生
更新日:2014/12/15
最初に、覚せい剤を擁護するわけではない事を予め申し述べておきます。しかし、こんな人もいるという事で紹介させていただきます。キャリー・マリスという生化学者です。
from Nancy Mullis
この方は実に多面的な仕事をしています。マリス博士は真面目な仕事はもちろんですが実に色々な事をしでかしたりもしています。
彼は、
という人です。結構、とんでもないこともしていますね。しかし、彼は1993年にDNAを増幅させるPCR法で「ノーベル化学賞」を受賞しました。サーフィンをやっている時に連絡があったのですが、新聞記者にはたくさんのサーファーの中で誰がキャリー・マリスかわからず困ったと言う逸話を残してもいます。
さらに、実にとんでもない写真を自伝に載せています(参考文献:「マリス博士の奇想天外な人生(ハヤカワ文庫 NF)」をぜひお読みください)。めちゃくちゃ変です!山中伸弥先生なら絶対にこんな写真を撮らせないでしょうというような写真です。
20世紀の偉大な科学者の名前は多数挙がりますが、誰か一人を挙げろと言われたら、私は迷わずこの「キャリー・マリス」を推します。ホントに凄い人なのです。
彼の発見したPCR法はそれまで誰も考えつかなかった方法です。この発想は突如として出てきました。
この方法を思いついた日時、場所、経緯も知られています。(日本のHonda社製)シビックを運転しての夜のデート中に思いつき、彼女を放ったらかしにしてノートに書き留めたのです(彼女とは、それが遠因で別れています)。
こんな夜に思いついたアイデアですが、彼はあまりにも簡単すぎると考えて、時間をかけて同様の論文や発表がないかどうか確かめつつ、実験や実用化を測ります。彼は併行して論文も書いていますが、前述の如く、あまりに発想が飛躍しており、恐らく査読者に忌避されたのだと思います。それは、「NATURE」にも「SCIENCE」からも掲載を断られていることから推察できます。結局、「Methods in Enzymology」というマイナーな雑誌にしか掲載されませんでした(文献1)。ところが、生物学研究者の間で最初は密かにですがこの論文が広がると、それから一気に世界中に広がっていきました。
マリスと彼が勤めていた会社はPCR法を用いたDNA増幅器を作り、世界中に売り出します。そしてマリスはノーベル賞を受賞してしまうのです。
彼は自身を「自分は非常に身持ちが悪いのでノーベル賞は貰えないかもしれない」と評していました。
前述の 4. は、彼がノーベル賞受賞のためにストックホルムに滞在した時の出来事です。
7. はノーベル賞を貰う前に日本国際賞を受賞した際、皇后陛下にかけた言葉です。彼の自伝には皇后陛下と喋った内容が書かれていますが、「皇后陛下ってこんなに普通に喋るのかな?」とちょっと疑わしいような事も書かれています。ただ、彼の信条は「honest」ですから、嘘は無いとも思っています。
彼はまた、多少の覚せい剤や大麻の使用くらい良いではないかと考えていたそうです。
「アンフェタミン」は、現在は覚せい剤として指定され米国でも日本でも使えませんが、マリスが小さい頃は違いました。風邪をひくと「アンフェタミン」を鎮咳剤として、「アヘン」も下痢止めで使われていたそうです。彼は大学生時代に「やせ薬」として売られていた「スピード」という覚せい剤を使って試験勉強をしていたそうです。成績は「全優」を取り、問題もなかったし、「NATURE」に載るような論文も書けました(文献2)。
もちろん私は、「彼が言うからきちんと使えば薬も悪くはない」などと言うつもりは毛頭ありません。絶対に止めておくべきだと思います。
この続きは、次回「覚せい剤を開発したのは日本人」ということをご紹介しながら話を続けます。
# COVID-19の検査でPCRという言葉が何回も使われています。
# マリスは2019年8月7日,肺炎のためにお亡くなりになっています。享年74歳,偉大
な一生でした。
望月吉彦先生
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