疾患・特集

002:傷は消毒しないとキレイに治る(望月吉彦先生) - ドクターズコラム

メディカルコラム

望月吉彦先生

更新日:2014/09/08

『湿潤(しつじゅん)治療』について

「傷は消毒しないとキレイに治る!」なんて言われて驚く方も多いかと思います。
今回は、『湿潤(しつじゅん)治療』についてご紹介致します。
ちょっと生々しい写真でもありますが、実際の写真を見ていただくのが一番と思います。

まずは、火傷を負ってしまった患者さん(6歳女児)へ『湿潤治療』を施した事例、治療前後の写真です。治療後1年で傷痕は殆ど目立たなくなりました。お解かりになりますか?

火傷時
写真:火傷時

湿潤治療 1年後
写真:湿潤治療 1年後

一方、下記の写真は、上記とは別人ですが、「旧来の治療」を行われた症例(6歳女児)です。

写真:「旧来の治療」を行われた症例

赤黒くなっている所が火傷による肥厚性瘢痕部です。こうなってからではキレイには治りません。 私のところにこの状態になってから傷痕について相談に来られましたが、残念な事にこの瘢痕は一生残ってしまいます。偶然ではありますが、同じ6歳の女児でした。
受療した治療方法の違いで人生が変わってしまうと思いませんか?

最近、当クリニックで行った治療例を示します。
最初から風呂、シャワーO.K.で湿潤治療を施した患者さんです。

写真:最近の治療例

ほぼ3週間できれいに治っています。
従来治療ではありえません。

これは火傷で皮膚移植をされた患者さんの写真です。

写真:火傷で皮膚移植をされた患者さん

この痕は一生消えません。『湿潤治療』を行っていれば皮膚移植は不要で、且つキレイに治ったと思われます。

皆さんは「旧来の治療法(消毒して皮膚移植治療)」を受けますか?
擦り傷、切り傷、火傷は消毒をしないでキレイに治ります。「えっ?消毒しないで大丈夫なの?」と言われることも多いのですが、全く大丈夫です。それどころか、「あれれ?」と思うほど痛くなく、しかもキレイに治ります。

消毒をして、ガーゼを当てるのが「旧来の治療」です。しかし、そういう治療は創面(きずぐち)を痛めてしまい痛みを生じさせ、創の治りを遅らせ、更には最終的に肥厚性瘢痕(一般の方は「ケロイド」と言いますが、正式には「ヒコウセイハンコン」と言います)を生じさせます。私がクリニックで行っている傷の治療(火傷を含む)は、『湿潤治療』と称される治療です。具体的には、創面をよく温水で洗浄して湿潤治療用の被覆材で創部を覆います。その際、創部にワセリンを塗布します。ワセリンを塗布することで創面に露出している神経末端が空気と接しなくなるので痛みは収まります。もちろん、痛みがゼロにはなりませんので、1~3日は痛み止めを服用していただくこともあります(創の大きさ、創の深さにもよります)。また、よほど創面が汚染されている時以外には抗生物質の投与は行いません。ドロで汚染されているときは破傷風予防で「破傷風トキソイド予防接種」を行うこともあります。

ここで少々話は逸れますが、破傷風ほか細菌について触れておきましょう。屋外での外傷時に破傷風トキソイドが必要かどうかは、実は不明です。破傷風トキソイドなど打った記憶が無い人がほとんどでしょう。しかし小学校時にDPTワクチンとして接種を受けていると思います。破傷風菌予防では消毒が必要と思われるかもしれませんが、破傷風菌は土中10cmまでの処に芽胞のカタチで寝ています。芽胞状態の菌は消毒はもちろんの事、100度の煮沸でも死滅しません。消毒をしても無意味なのです。沢山の細菌が手、顔、皮膚、口腔内、腸管など自身にはもちろん日常生活をしている場所には沢山います。電車のつり革、階段の手すり、椅子、机、パソコン、トイレ等で特にキーボードは汚く、実は便器よりも単位面積当たりの細菌数は多いそうです。
そういう菌は傷口にとりつきますがほとんどは共生して静かなのです。傷に細菌がいるのは普通のことなのです。穏やかにいる細菌をやっつけようとして消毒をしたり、抗生物質で殺そうとすると悪さをするようになります。それが「痛み」であり、「耐性菌の出現」なのです。

消毒薬の効果はせいぜい10-15分程度

治療の話に戻りましょう。これまで傷に細菌が入ったとして消毒が必要と思われてきたのですが、消毒薬の効果はせいぜい10-15分程度しかありません。一日1回の消毒をしたとしても、23時間45分は消毒をしていない状態に戻ってしまうのです。ですから、消毒にはさほど意味がないのです。それに加えて悪いことに、傷口から出てくる「じくじくした液(浸出液)」には傷を治す物質や細菌感染を生じないようにする細胞が沢山含まれています。消毒することによりこれら傷を治す成分や細胞を消滅させてしまいます。だから消毒をすると痛いし、傷が治りにくいのです。それでも(消毒しても)治ってきたのは身体が強いからとしか思えないです。
傷口を「湿潤環境」に保つことで、身体から出てくる傷を治す成分を活かすことが出来ます。 エミリオ森口クリニックでは『湿潤治療』のための材料を揃えております。ここまでの話の通り、火傷で旧来の治療を施すと醜い瘢痕が残る(私の右手にも小さいときの火傷跡が残っています)が、『湿潤治療』では残りません。これには最初びっくりしたのですが、本当にきれいに治ります。

創感染の予防策を提唱したのは英人外科医のリスターです。現在でも出版されている一流医学雑誌Lancetに「石炭酸に浸したリント布で傷を覆うと傷が化膿しない」と1867年発表しています。「ホラ見ろ!リスター先生が言うように傷は消毒しないとダメだ。」と医者も多いと思います。しかし、今では石炭酸の消毒力は極めて弱い事が判明しており、リスターの効果は洗浄によるものだろうと推定されています。当時のあるとても優秀な外科医が「いくら濃度の高い石炭酸に浸しても傷は治らない。治らないどころか悪くなる事も多い。消毒で傷は治るのか?」と述べていますが、消毒一辺倒となった医学界からは無視されます。今でもその無視状態が続いていると言っても良いかもしれませんね。因みに日本国内ですが、Y県、T県で『湿潤治療』をしているのは一人ずつしかいません。県庁所在地で『湿潤治療』をしていない県も沢山あります。もとより、この治療は日本で始まったので(畏友;夏井睦先生@練馬光が丘病院が「湿潤治療」の創始者です)外国でこういう治療を受けることは出来ません。余談ですが、普通の医師は大学卒業前も後も、創傷治療を習いません。明治時代のままの治療が続いています。
ご興味のある方は、http://www.wound-treatment.jp/tiryou-a.htm(※外部サイト)にある症例を時間のある時に見てください。「旧来の治療」を行うとどうなるか、『湿潤治療』を行うとどうなるかよく解りますよ。自身でこの治療法を実践してみて実感します。出来ることなら50年前に戻り、自分の腕の火傷治療を行いたい。そうすればこのような火傷痕は残すことはなかった……

『湿潤治療』は、慣れると素人でも治療は出来るようになります。治療中、シャワーも浴びられるし風呂に入っても構いません。外科医の出番は感染が生じているかどうかを判断するだけです。時間が経っても痛ければ感染が生じているかもしれないし、赤くなってくればさらに感染の確率が増します。逆に言えば、痛くなければ自宅治療していれば良いのです。こういう治療で感染するのは1%以下です。日本でもまだあまり行われていない、欧米でも全く行われていない最先端治療です。

望月吉彦先生

望月吉彦先生

所属学会
日本胸部外科学会
日本外科学会
日本循環器学会
日本心臓血管外科学会
出身大学
鳥取大学医学部
経歴
東京慈恵会医科大学・助手(心臓外科学)
獨協医科大学教授(外科学・胸部)
足利赤十字病院 心臓血管外科部長
エミリオ森口クリニック 診療部長
医療法人社団エミリオ森口 理事長
芝浦スリーワンクリニック 院長

医療法人社団エミリオ森口 芝浦スリーワンクリニック
東京都港区芝浦1-3-10 チサンホテル浜松町1階
TEL:03-6779-8181
URL:http://www.emilio-moriguchi.or.jp/

※記事内の画像を使用する際は上記までご連絡ください。