疾患・特集

うつ病と食事・栄養

うつ病は高血圧や糖尿病などと違い、血圧や血糖値といった客観的な診断指標がなく、現在の日本にどのくらいの患者さんがいるのか、正確にはわかりません。これは少し古いデータになりますが、厚生労働省の統計*1によれば2008年時点で推計70万4千人とされています。1999年には24万3千人で、その後、2008年に至るまで増加の一途を辿っていることが報告されていますので、今でもうつ病患者さんは増え続けていると考えられますし、新しい治療法の開発も進められています。ここでは、食事や栄養がうつ病の症状にどのように影響するのかについての比較的新しい研究を紹介したいと思います。

貧しい食事がうつ病に関係しているかも知れない

アメリカ心臓協会は、心血管の健康度を測る尺度として喫煙、身体活動度、BMI、食生活、コレステロール、血圧、血糖の7つの因子を挙げています。一方で、心臓病とうつ病の間に関係があるという報告もあることから、この7つの因子とうつ病の関係も明らかにしようという研究が行われました。
その結果、コレステロールを除き、残りの6つの項目がうつ病と明らかな関連することがわかり、食生活が貧しいとうつ病症状が増えることが明らかにされました*2

食生活改善にはうつ病症状の軽減が期待される

写真:食生活改善にはうつ病症状の軽減が期待される

そうなると、「食生活を改善すればうつ病が改善するのでは」という考えが浮かびます。
抗うつ薬による治療や心理療法を受けている平均年齢40歳の成人うつ病患者さんを対象に、食生活を改善するプログラムに参加するグループと通常の社会的サポートだけのグループ(対照グループ)に分けてうつ病症状を比較するという研究が行われました。ここで提供された食生活改善プログラムは、臨床栄養士による動機付けのための面接、目標の設定、個別食事療法アドバイス(12の主要食品の摂取+ワイン2杯/日に相当するアルコール摂取など)および栄養カウンセリングサポートで構成されています。アルコールについては赤ワインがお勧めというなかなか魅力的なプログラムです。この研究では、12週間に亘る介入の結果、食生活改善プログラムに参加したグループのうつ病症状の改善度の方が、対照グループよりも明らかに高かったと報告されています*3

食生活を改善するといっても簡単じゃないとお考えの向きもあるかも知れません。野菜、果物、全粒穀物、タンパク質、無糖の乳製品をそれぞれ1日3回、魚は1週間に3回、ナッツ類、オリーブオイル(1日2杯)、スパイス(ターメリックとシナモン)を摂取するという食事を3週間続けるだけというプログラムの効果を検討した研究があります。研究に参加したのは17歳から35歳までのうつ病患者さん101人です。食事介入プログラムには51人、参加したなかった50人を対照グループとしました。両方のグループとも3週間の研究を完遂できたのは38人でした。
この研究では、食事介入グループのうつ病症状の改善度が、対照グループよりも明らかに大きかったと報告されています*4。しかも、食事介入グループのうつ病症状の改善は、研究終了から3ヵ月後でも続いていたとのことです。

なお、食事の成分については、長鎖ω-3多価不飽和脂肪酸を適量摂取することがうつ病症状の改善に繋がることを支持する研究が多いようです*5,6

板倉先生ワンポイントアドバイス

うつ病はQOLを低下させるだけでなく、自殺の増加など大きな課題となっています。特にコロナ禍はうつ病を増加させる要因となっています。うつ病に関連する因子はいろいろありますが、なかでも食事・栄養が関連することが多くの研究から明らかにされています。オメガ3系脂肪酸やアミノ酸やビタミン、ミネラルなどさまざまな栄養素が脳神経系のはたらきに大切な役割をはたしていることが明らかにされています。楽しい気持ちで色々な食品を摂取していきましょう。

■参考文献

  • *1:気分障害患者数の推移
    https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/hoken-sidou/dl/h22_shiryou_05_09.pdf
  • *2:Kronish IM, et al. PLoS ONE 2012: 7(12): e52771
  • *3:Jacka FN, et al. BMC Medicine 2017; 15: 23
  • *4:Francis HM, et al. PLoS ONE 14(10): e0222768
  • *5:Sánchez-Villegas A, et al. Nutrients 2018; 10: 2000; doi:10.3390
  • *6:McNamara RK, et al. Nutr Neurosci 2016; 19(4): 145–155
公開日:2021/05/19
監修:芝浦スリーワンクリニック名誉院長 板倉弘重先生