疾患・特集

ウォーキングの効用

テーマに「ウォーキング(walking)」を採り上げてみました。ウォーキングは「歩く」の英語訳ですが、表現として日本語よりもsportyあるいはhealthyな響きを感じます。事実、厚生労働省の情報提供サイトe-ヘルスネット*1では、ウォーキングについて「「歩く」という老若男女を問わず行うことが可能な活動を、動作の質や強度を考慮することによって、健康増進や生活習慣病予防のための運動とすること」としています。そこで、ここではウォーキングの効用についての比較的新しい研究に紹介したいと思います。

ウォーキングには座りがちなオフィスワーカーの体重と体脂肪を減らす効果が期待できる

外出機会の多い営業職や工事現場で働くブルーカラー職に比べ、オフィスワーカーは就業時間の殆どを席についたままの仕事に費やしています。この座ったまま長時間過ごす状態は体重増加、肥満につながり、心臓病や2型糖尿病などの慢性疾患を引き起こす危険因子になると考えられています。このような背景から、座りがちなオフィスワーカーの肥満解消や体脂肪を減らす方法としてのウォーキングの効果が研究されました。
この研究には中高年のオフィスワーカー68人が参加しました。参加者全員が1日1万歩のウォーキングを勧められた上で、24人が一定時間連続歩行を加えるグループに、22人が休憩しながらの断続的歩行を加えるグループに、残りの22人は特別な歩行プログラムは加えないグループ(対照グループ)に分けられ、それぞれのプログラムに10週間参加しました。
その結果、座りがちという行動パターンに変化がないなか、体重は対照グループ以外の2つのグループで減少し、体脂肪量と体脂肪率は3グループともプログラム開始前に比べて明らかに減っていました*2。グループ間の比較では、継続的歩行グループよりも断続的歩行グループと対照グループの方が体脂肪指標の改善度が明らかに高かったと報告されています。この研究結果の解釈は難しいのですが、1日1万歩ほどウォーキングすれば、一定時間連続歩行するなどのプログラムの追加をすることなく、10週間後には一日中座りっぱなしというオフィスワーカーでも体重と体脂肪をともに減らせそうです。

ウォーキングするなら森の中

写真:ウォーキングするなら森の中

どこでウォーキングするかも重要であることを示した日本の研究があります。60人の若い女性(平均年齢21歳)が参加したこの研究では、森の中と市街地でウォーキングの効果に差があるかどうかが検討されました。
その結果、森の中での15分間のウォーキングは市街地に比べて明らかにリラックスした状態をもたらし、逆に、市街地でのウォーキングは森の中よりも明らかに神経の緊張度を高めることがわかりました*3。また、森の中をウォーキングしたときの緊張-不安、抑うつ‐落胆、怒り‐敵意、倦怠感、混乱などの否定的な感情の高まりを示すスコアは、市街地をウォーキングしたときよりも低いことがわかったと報告されています。森の中のウォーキングは贅沢ですが、心身ともにリラックスしたい方にはお勧めです。

ウォーキングは睡眠の質を改善する可能性がある

ウォーキングと睡眠の関係についても研究されています。この研究の対象は平均年齢49.4歳の中高年男女59人です。参加者は2,000歩/日を目標にウォーキングするグループ(歩行グループ)と目標のないグループ(対照グループ)に分けられ、歩数、歩行時間、睡眠の質と持続時間を4週間に亘って記録してもらう方法で、ウォーキングと睡眠状況の関係を検討しています。
検討の結果、まず、歩行グループの歩数は研究開始前に比べて明らかに増え、対照グループとの比較でも明らかに多かったことが示されました。また、睡眠の持続時間と歩数(身体活動性)の間に関係性はなかったのですが、歩数が多い(身体活動性が高い)ほど睡眠の質が改善したことが示されました。さらに、この関係性は男性よりも女性で顕著だったとされています。

板倉先生ワンポイントアドバイス

健康にとって食事、運動、休養(睡眠)は欠かすことの出来ない3本柱です。このなかの運動の基礎となるのがウォーキングといえるでしょう。ウォーキングの良さは、自分の体調に合わせて加減することが出来ることです。無理をせず、楽しくウォーキングをすると食事もおいしくなり、睡眠の質も良くなるなど、体にとってさまざまな良い効果が期待できます。

■参考文献

  • *1:厚生労働省情報提供サイトe-ヘルスネット「ウォーキング
  • *2:Rodriguez-Hernandez MG, et al. PLoS ONE 2019; 14(1): e0210447
  • *3:Song C, et al. Int J Environ Res Public Health 2019; 16: 229
  • *4:Bisson ANS, et al. Sleep Health 2019; 5(5): 487–494
公開日:2021/05/12
監修:芝浦スリーワンクリニック名誉院長 板倉弘重先生