疾患・特集

VDT症候群とは

VDT症候群のVDTは、Visual Display Terminalsの略号です。パソコンなどを長時間連続して使用することで生じるさまざまな身体的障害をまとめてVDT症候群と呼んでいます。国が2021年9月1日の発足を予定している行政機関の1つとしてのデジタル庁に象徴されるように、今やIT化はあらゆる分野で進められています。VDT症候群はこの状況の中に生まれた負の事象と言え、厚生労働省は「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」を策定し、VDT症候群から雇用者を守るように雇用主に対してその指針を示しています。

VDT症候群に含まれるさまざまな障害

写真:VDT症候群に含まれるさまざまな障害

実際にはどのような障害がVDT症候群に含まれるのでしょうか。広島大学の研究者がまとめたレビュー*1では、目の痛みや緊張、不快感などがVDTユーザーの約6割に、肩や首の筋肉のこわばりが約3割に見られているとのことです。さらに、VDT症候群にはこのような身体的な障害だけでなく、ユーザーの約6割が精神的健康に問題を抱えていると報告しています。どうでしょう。皆さんにも心当たりがあるのではないでしょうか。

VDT症候群の代表的な障害であるドライアイの要因と対策

世界保健機構(WHO)によれば、ドライアイはVDTの使用により顕著な増加を示しており、ユーザーのQOL低下の要因になっているとのことです。ドライアイは涙腺の機能が低下して起こる現象ですが、果たしてVDTの使用が直接的な原因なのか、やはり日本の研究者が注目し、この点に関する調査が行われました。
対象はVDTユーザー1,025人で、作業の経験年数、作業時間、涙液の分泌量や角膜上の涙液の保持状況などが調査されました。
その結果、VDT作業経験年数が長いほど、VDT作業時間が長いほど涙液分泌量の低下が顕著と報告されました*2。この結果について研究者は、VDTユーザーに生じるドライアイは、VDを長時間見続ける生活が長い期間続いた結果、涙腺機能が低下して起こる、つまり、VDTの使用が直接的な要因と考えられると結論づけています。

では、どのような対策を採れば良いでしょうか。ドライアイが生じる主な原因として、まぶたの中のマイボーム腺の働きの低下や腺の減少が挙げられています。マイボーム腺は涙液が蒸発しないように油分を分泌していますので、働きの低下や腺の減少が涙液の蒸発に繋がってしまうのです。その対策として、まぶたを蒸気で温める装置が2000年代初頭から使われるようになっています。
この装置がVDT使用で起こるドライアイにも有効なのではないかと考えた研究グループが、ドライアイ症状のあるVDTユーザー45人を対象にした検討を行いました。まず、45人の参加者を、装置を使うグループ22人と使わないグループ23人に分け、1週後と2週後のドライアイの重症度、涙液分泌量などを比べました。2週間後のQOLについても試験開始前からの変化を評価しました。
その結果、まぶたを温める装置を使ったグループでは涙液層の保たれる時間が明らかに延長し、使わなかったグループとの差が拡大しました*3。装置を使ったグループの6割が2週間後には非ドライアイと診断され、使用前に比べてQOLが明らかに改善したと報告されています3)。なお、まぶたを蒸気で温める装置(まぶたスチーマー)はすでに市販されているようです。

板倉先生ワンポイントアドバイス

パソコン、スマホ、テレビなど画面を見る時間が増えてきています。近視の子どもも増えてきていますが、眼の不適切な保健によって、ドライアイや眼精疲労などが増加し、健康障害を起こす人が多くなっています。眼の健康を考えた生活が必要です。


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■参考文献

  • *1:Shigeishi H. Biochem Rep 2016; 5: 7-10
  • *2:Nakamura S, et al. PLoS ONE 2010; 5(6): e11119
  • *3:Sun CC, et al. Sci Rep 2020; 10: 16919
公開日:2021/04/28
監修:芝浦スリーワンクリニック名誉院長 板倉弘重先生