疾患・特集

笑う門には「健康」来る

「笑う門には福来たる」ということわざ、聞いたことがないという人は殆どいないのではないでしょうか。この中にある「門」は「家族」のことを指しているとされていますから、このことわざの意味は「よく笑う家族は幸せになる」と考えられます。そして、このことわざは「茶柱が立つとよいことがある」などの迷信とは異なり、また都市伝説でもなく、科学的に証明されているのです。ここでは、笑いと健康の関係についての研究を紹介します。

笑うことは高齢者の体と心の健康を高める

写真:笑うことは高齢者の体と心の健康を高める

最初に紹介するのは、日本人の高齢者を対象にした研究です。これは、65歳以上の方14,233人について3年間追跡調査したという力の入った研究です。対象になった方々は全員、研究を開始した時点では介助や介護なしに日常生活を送れることができていました。その方々を殆ど毎日笑う、週に1~5日笑う日がある、月に1~3日笑う日がある、笑ったことがない/殆ど笑わないの4つのグループに分け、追跡期間中に体に障害を起こした人、亡くなった人の数からそれぞれのリスクを計算して比較するという方法が採られました。
その結果、まず、よく笑うグループには女性、社交的、教育レベルが高い人が多いことがわかりました。逆に、笑いが少ないグループには喫煙、飲酒などの習慣を持つ人が多いことが示されました。そして、3年ほどの間に、全体では605人(4.3%)が体に障害を起こし、659人(4.6%)が亡くなりました。4つのグループそれぞれの割合を比べたところ、体に障害を起こすリスクは、よく笑うグループに比べて笑わないグループで明らかに高いことがわかりました。
この研究を行った医師たちは、これらの結果から笑う頻度で体に障害が起こるリスクを予測できそうだという見解を示しています*1

次に紹介する研究はイランで行われたものです。老人介護施設に入所している90人の高齢者を週3回、1回1時間ほどユーモラスなビデオを鑑賞したり、ジョークを聴いたり、ゲームをしたりする「笑い介入グループ」と「何もしないグループ」に45人ずつ振り分け、研究開始前と終了時のうつ病スコアとQOLスコアを測りました。
結果をみますと、笑い介入グループでは研究開始前に軽度うつ以上だった割合(71.2%)が終了時には33.4%に減っていましたが、何もしなかったグループでは53.4%から55.6%へと、殆ど変化していませんでした。また、介入グループのQOLは、研究開始前に比べて終了時に明らかな改善を示していました*2

よく笑うことでストレスが緩和される

笑いが有効なのは、高齢者に限ったことではないようです。スイスでは、大学生が日常生活で感じるストレスをやわらげることができるかどうかについて、笑いの頻度と強さとストレス症状の間の関係を調べる研究が行われました。研究に被験者として参加したのは、大学で心理学を学ぶ学生41人(女性が33人、平均年齢21.6歳)でした。笑いの頻度と強さ、ストレスのかかる体験の有無とその後の症状の強さが測られ、両者の関係が調べられました。
その結果、笑う頻度が高いとストレスのかかる体験によって引き起こされる症状がやわらげられることがわかりました。笑いの強さとの間には関係性を見いだせなかったと報告されています*3

ここに示した研究結果からは、老若男女を問わず、ばか笑いをする必要はないのですが、よく笑う生活を送ると体の健康にも心の健康にもよい影響が現れるということが言えそうです。

板倉先生ワンポイントアドバイス

笑いの効果について多くの研究があります。そこで分かってきたことは、生活の質が向上するということです。日頃から笑いの多い人では、様々なストレスに対する抵抗力が高まっており、辛い思いを克服する力も大きく傷官を軽度にすると考えられます。人の体には恒常性を保とうとする回復力があり、笑いはそれを補強してくれると考えられます。

■参考文献

  • *1:Tamada Y, et al. J Epidemiol 2020. doi: 10.2188/jea.JE20200051
  • *2:Rezaei P, et al. Malas J Med Sci 2020; 27(4): 119-129
  • *3:Zander-Schellenberg T, et al. Plos One 2020; 15(7): e235851
公開日:2021/04/20
監修:芝浦スリーワンクリニック名誉院長 板倉弘重先生