疾患・特集

うつ病と生活リズムの関係

「規則正しい生活をしましょう」、「早寝早起き」、皆さんにも子供の頃に親から言われたり、教室に標語として貼られていたりという記憶があると思います。今ではそのようなことはないのかもしれませんが、少なくとも私たちが子供の頃はそうでした。その理由について深く考えたことはありませんでしたし、当時はゲーム機もスマホもない時代でしたから、夜遅くまで起きているようなこともありませんでした。生活のリズムが変わったのは、受験勉強をするようになってからでしょうか。夜遅くまで頑張る夜型、朝早起きして頑張る朝型の2つのタイプがありました。授業中に居眠りすることはありましたが、若いこともあって、調子が悪くなるようなことはありませんでした。皆さんも同じような体験をしていると思いますが、実は、生活リズムも乱れというのは人の体や心の健康にとって大問題なのです。ここでは、心や体の健康と生活リズムの関係について、比較的新しい研究を紹介します。

生活リズムの乱れは健康に悪い影響を与える

写真:生活リズムの乱れは健康に悪い影響を与える

私自身は受験勉強で生活リズムが乱れても大丈夫だったと書きましたが、本当に若ければ影響を受けないのかという点を明らかにした研究があります。
この研究では、夜型の若者を対象に、複数要素で構成されるSleep Health Composite Score(睡眠の健康度を測る複合的な尺度)と、精神面と身体面の健康度との関係性を調べています*1。対象となった若者の平均年齢は14.77歳ですから、中学生です。
Sleep Health Composite Scoreは7日間の睡眠日誌と自己評価点数から計算され、今までの研究と専門家の意見を合わせた境目の点数に照らし合わせて「good」と「poor」の評価が決められました。一方、健康度については自己評価、医師の評価、保護者の評価、身体検査の結果を総合して判定されました。
その結果、Sleep Health Composite Scoreがgoodなグループは感情的、認知的、社会的な健康障害リスクが低く、身体症状、肥満、気分障害、不安障害などが少ないことがわかりました。このような結果に基づいて、睡眠の健康度は若者の心や体にも影響すると結論づけられました。

生活リズムを整える治療はうつ症状の改善を促す

米国では、退役軍人を対象にした研究が行われました。軍人は、訓練の時は規則正しい生活を強いられますが、戦場では生活リズムを守ることは不可能でしょうし、さまざまな理由で退役後も夜型になる人が多いようです。この研究では、行動学的睡眠療法、簡単に言えば夜型を朝型に変えて生活リズムを整える方法の効果が研究されました。
その結果、朝型にシフトできたグループは、うつ病症状や睡眠の質に改善が見られたと報告されています*2。また、この研究を行った医師たちは、朝型、夜型というのは生まれつきではなく、環境の影響も受けるということも言っています。

双極II型うつ病(双極性障害なのですが、うつ病が前面に出ている)患者さんを対象に、対人関係および社会的リズム療法の効果を試した研究があります。患者さんを、この治療法と抗うつ薬を併用するグループ、プラセボを併用するグループに分け、20週後の症状の変化を比べています。
その結果、2つのグループとも治療開始前に比べて20週後に症状が明らかに改善していました。2つのグループの比較では、抗うつ薬併用グループの症状改善はプラセボグループより早かったものの、薬による副作用が出てしまっていました*3。また、自分の受けている治療法が好ましいと考えた患者さんでは、よい結果が得られていました。
このことから、乱れた生活リズムを整えることは、患者さんにその方法が歓迎されれば、うつ病によい影響を及ぼすと言えそうです。

板倉先生ワンポイントアドバイス

ヒトの体では、睡眠・覚醒のリズムがあり、覚醒時には身体活動と食事などの動作を刻むように作られています。ヒト以外の動物でも同様に生活リズムを持っています。このリズムは脳や体内臓器の機能維持に大切です。従って、生活リズムの乱れが、肥満や精神・神経機能などに影響してきます。健康で幸福感の高い生活をおくるためには生活リズムの調整をはかることが大切です。

■参考文献

  • *1:Dong L, et al. Sleep Health 2019; 5(2): 166–174
  • *2:Hasler BP, et al. Behav Sleep Med 2016; 14(6): 624–635
  • *3:Swartz HA, et al. J Clin Psychiatry. 2018; 79(2): doi:10.4088
公開日:2021/04/13
監修:芝浦スリーワンクリニック名誉院長 板倉弘重先生