疾患・特集

うつ病の大腸は乳酸菌が少ない?

プロバイオティクス(体にとってよいはたらきをする細菌)、乳酸菌サプリメントなどのコマーシャルを目にします。このところ、その機会が増えたように感じるのですが、みなさんはいかがでしょう。規制もあるので、TVなどのコマーシャルでは「腸の調子を整える」とか、「健康にいい」という宣伝しかしませんが、実は、うつ病などの心の病と大腸に棲みついているプロバイオティクスとの間には深い関係があることがわかっています。ここでは、健康な人とうつ病患者さんの腸内に棲みついている細菌の組成の違いに注目して行われた研究と、プロバイオティクスサプリメントを摂取するとどのような変化が起こるのかをみた研究を紹介します。

健康な人とうつ病患者さんでは大腸に棲みついている細菌の組成が違う

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うつ病にかかっている人の全人口に占める割合は、少し前のデータですが4.4%だと言われています*1。世界の人口を80億人として計算すると、うつ病の患者数は1億8千万人という大変な数になります。
うつ病は、慢性的なストレスがきっかけになって起こる病気で、気分が落ち込み、何もする気がなくなって、眠れなくなるなどの症状が出現します。うつ病は心の風邪という言葉が一時よく使われたように、誰もがかかる可能性のある病気なのですが、実は、女性の患者さん方が多くて、その数は男性の2倍だそうです*1

人の体にはストレスを弱めるための仕組みが備わっていて、その中で腸内細菌も重要な役割を担っています*2。では、慢性的なストレスをきっかけにうつ病になってしまった人の腸内細菌は一体どうなっているのでしょうか。
日本で行われたうつ病患者さんと健康な人の腸内細菌を比べた研究では、うつ病患者さんの腸では、ビフィズス菌と乳酸菌が健康な人よりも明らかに少ないことがわかったと報告されています*3

プロバイオティクスサプリメントを摂り続けると、うつ病の症状が軽くなる?

この日本の研究では、同じうつ病患者さんの中でも、ヨーグルトや乳酸菌飲料をよく飲むグループは飲まないグループよりも腸内のビフィズス菌の数が多いことも報告されていますので*3、プロバイオティクスを多く摂って腸内の細菌を増やせばうつ病の症状を軽くできるかもしれません。

この考えについて、実際に、確かめようとした研究があります。うつ病の患者さん40人を、抗うつ薬とプロバイオティクス(乳酸菌とビフィズス菌含有)サプリメントを飲む20人グループと抗うつ薬とプラセボ(プロバイオティクスサプリメントの偽薬)を飲む20人のグループに分け、研究開始から8週間後までのうつ病症状の変化を比べるという方法が採られました。その結果、抗うつ薬とプロバイオティクスサプリメントを飲んだグループは、抗うつ薬とプラセボを飲んだグループに比べて、うつ病症状の重さを現すスコアの減り方が明らかに大きかったことがわかりました*4
この研究を行った医師たちは、プロバイオティクスサプリメントにはうつ病の症状を軽くする効果がありそうだけれども、研究に参加した人の数が少ないこともあって、もっと多くのデータを積み重ねる必要があるとしています。

板倉先生ワンポイントアドバイス

腸内細菌と生活習慣病との間に関連のあることが多くの研究からわかってきました。なかでも、うつ病の人では健康の人と腸内細菌数が違うことから、プロバイオティクスやプレバイオティクスによってうつ病が改善できないか研究がすすめられています。プロバイオティクスやプレバイオティクスは炎症を緩和させるはたらきがあることから、精神・神経系の病気にも良い効果が期待されています。

■参考文献

  • *1:Ferrari AJ, et al. Plos One 2013; 8: e69637
  • *2:Kunugi H, et al. Neuropsychopharmacology 2006; 31: 212-220
  • *3:Aizawa E, et al. J Affect Disord 2016; 202: 254-257
  • *4:Akkasheh G, et al. Nutrition 2016; 32: 315-320
公開日:2021/04/06
監修:芝浦スリーワンクリニック名誉院長 板倉弘重先生