疾患・特集

気候と人の体~気温、気圧、湿度は人の体にさまざまな影響を及ぼします

雨が降る前には古傷が痛むという話を耳にすることがあると思います。なかにはご自身で体験されている方もいらっしゃるかもしれません。その真偽やいかに。ここでは、「天候は体調に影響するか」をテーマに行われた比較的新しい研究を紹介したいと思います。

気温や湿度が体調に影響を及ぼすことは明らか

聖路加国際病院公衆衛生大学院の研究グループは、4,500人を超える日本人の患者さんについて気温や湿度などの気象因子と体調の関係を調べています*1。その研究結果によれば、気温の上昇に明らかに影響される症状は関節痛、頭痛、筋肉痛、湿疹、疲労、興奮/不安、逆に、気温の低下に影響される症状は咳、喉の痛み、寒気、普通の風邪、こむら返りでした。湿度の影響では、上昇で悪化するのは関節痛、頭痛、こむら返り、疲労、低下で悪化するのはくしゃみ、寒気でした。咳や寒気などの風邪症状が寒くなれば悪化するのは常識として理解されていると思いますが、痛みについて気温が高いほど、湿度が高いほど悪化することはあまり知られていなかったかもしれません。また、この研究では男性よりも女性の方が気候による体調への影響を受けやすいこと、65歳以上の高齢者は65歳未満の若年者よりも低温や高湿度の影響を受けやすいことも報告されています。

天候の影響を受ける病気についての研究

特定の病気について天候の影響を調べた研究がありますので、いくつか紹介したいと思います。

関節リウマチについて、多くの医師は気候に影響されると考えています。それが事実かどうかを研究したMohammed First University(モロッコ)の研究者は、論文のタイトルに「Myth」(神話)という言葉を使っています。ウイットを感じます。この研究は、117人の関節リウマチ患者さんを対象に、季節と気温/湿度が症状とどのように関係したかを調べたものです。その結果、冬の気温と湿度が関節の腫れと痛みに影響し、夏は最低気温と気圧が関節の痛みに関係することがわかりました*2。降雨の関節痛や腰痛への影響を調べた研究もありますが、関係はなさそうというのが結論でした*3

アンケート調査を使った歯周病の患者さんに起きる急性症状と天候の関係についての研究もあります。その研究では時間あたりの気圧の急激な低下、1日の平均気温が急性症状の発生に関係するという結果が得られました*4。また、片頭痛についての研究では、温暖な季節には湿度が高い日に、寒い季節では自動車の排ガスなどが原因の微粒子状汚染物質が多い日に発作が起こるとされています*5。高齢の心血管疾患患者さんは、猛暑の日に救急搬送されるリスクが高まることが報告されています*6
気管支喘息については大気汚染との関係が常識化していますが、韓国の2つの大学病院でその他の気象因子に関する研究が行われました。その研究では、風の強い日や湿度が低い日に救急外来を受診する気管支喘息患者さんが増え、霧が出た日には少ないと報告されています*7

天候の影響は体だけにとどまらないようです。ポーランドで行われた研究では、精神科病院に入院中の患者さんは、低気圧やフェーン現象の日に身体拘束が必要な攻撃的行動を起こすこと、気温が高い日、湿度が低い日には攻撃性が増すことが報告されています*8

板倉先生ワンポイントアドバイス

ヒトは生命活動を維持するために、体内で熱を発生させ体温を一定に保とうとしています。環境温が上がると熱の溜まらないように調整し、環境温が下がると熱の産生を増やさなければなりません。恒に外界の変動を感知し、体内の調整を行っています。
体内に炎症が発生すると、それを治すために発熱します。疼痛、腫脹も起こります。外界の変動は炎症による症状に影響することが考えられます。
ヒトは体内の水分量も一定に保とうとして常に働いています。外界の湿度と温度の変化に応じて、意識して体内の調節機構を補助してあげるとストレスは軽減されるでしょう。


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  • *1:Lee M, et al. Int J Environ Res Public Health 2018; 15(8): 1670
  • *2:Azzouzi H, et al. Pain Res Manag 2020. 2020:5763080
  • *3:Jena AB, et al. BMJ 2017; 359: j5326
  • *4:Saho H, et al. Int J Environ Res Public Health 2019; 16(17): 3070
  • *5:Li W, et al. Environ Int 2019; 132: 105100
  • *6:Li M, et al. Int J Environ Res Public Health 2019; 16(12): 2119
  • *7:Lickiewicz J, et al. Int J Environ Res Public Health 2020; 17: 9121
  • *8:Lickiewicz J, et al. Int J Environ Res Public Health 2020; 17: 9121
公開日:2021/02/26
監修:芝浦スリーワンクリニック名誉院長 板倉弘重先生