疾患・特集

環境と人の体~環境が人の体に及ぼす影響について

人の体に影響を及ぼす環境因子の1つに「香り」があります。「香害」というkey wordをGoogleで検索すると、3800万件を超えるサイトがヒットします(2021年2月時点)。本家と言える「公害」は2,240万件ですから、「こうがい」主役が香害に交代したことは明らかなようですが、その原因はどこにあるのでしょうか。実際にどのぐらいの数の人たちがどのような被害を受けているのか、比較的新しい研究を紹介します。

悪臭は心的外傷後ストレス症状に繋がる

2007年、ノルウェーで低品質ガソリンと硫黄廃棄物を貯蔵していたタンクが爆発する事故がありました。周辺は汚泥に覆われ、事故後数ヵ月間に亘り、付近の企業に勤める従業員と周辺住民は悪臭に悩まされることになりました。この事故による悪臭が人体にどのような影響を及ぼすかを調査したノルウェーの研究グループは、アンケートの結果をスコア化して、悪臭への曝され方が高かったグループと低かったグループに分けて影響を比較しています。その結果、曝され方が高かったグループは、低かったグループに比べて健康についての苦情を訴える人、悪夢、反応の鈍麻、怒り、集中困難、ちょっとしたことにも驚くといった心的外傷後ストレス症状を訴える人の割合が高く、その状況は事故から3年が経過した時点でも続いていたとのことでした*1)。

悪影響を及ぼす「香り」は悪臭ばかりではない

化学物質が爆発して出た臭いなら健康に悪影響があっても当然と思われる方は多いと思います。ところが、人の体に影響するのは悪臭だけではないのです。

米国では、1,137人を対象に芳香剤の入った洗剤による健康被害が調査されました*2。調査対象の4分の1が喘息患者さんだったのですが、そのうちの4割が何らかの健康上の被害を受けていると答え、芳香剤や脱臭剤の匂うトイレを使えず、芳香剤含有柔軟剤を使っている同僚がいる職場で働けずに退職を余儀なくされたと回答しました。オーストラリアで行われた調査でも同じような結果が得られ、実際には化学物質が含まれているにも関わらず、同国では「グリーン」、「オーガニック」、「天然由来成分」という宣伝文句のついた芳香剤入り商品には成分表示義務のないことから気づかずに使ってしまう人が多い点が問題と指摘されています*3,4

芳香剤入りのベビー用品の多くから、揮発性有機化合物が放出されていることを明らかにした研究もあります*5。この研究ではヘアシャンプー、ボディウォッシュ、ローション、クリーム、軟膏、オイルなどのベビー用品42製品が検査され、684種類の揮発性有機化合物が放出されることがわかりました。そのうちの207種類は使用が規制されている成分であるにも関わらず、含まれることを表示していた製品は1割程度であったと報告されています。この研究結果は、自分では物事を判断できない赤ちゃんのことを考え、周囲の大人たちがヘルスリテラシーを高めることの必要性を示していると思います。

板倉先生ワンポイントアドバイス

嗅覚と健康とは密接に関係しています。犬など動物を見ても分かるように自分の居る環境を認知するために無意識にも嗅覚が働いています。それが安心感となり、ときにはリスクを知らせるシグナルにもなります。嗅覚は個人差が大きいので、周囲に対する配慮も必要でしょう。嗅覚と味覚とは関連しており、不快と感じる環境下では食事の楽しさも低下してしまうでしょう。

  • *1:Tjalvin G, et al. Ind Health 2017; 55(2): 127-137
  • *2:Steinemann A. Air Qual Atmos Health 2018; 11(1): 3-9
  • *3:Steinemann A. Prev Med Rep 2018; 10: 191-194
  • *4:Steinemann A. Prev Med Rep 2016; 5: 45-47
  • *5:Nematollahi N, et al. Air Qual Atmos Health 2018; 11(7): 785-790
公開日:2021/02/24
監修:芝浦スリーワンクリニック名誉院長 板倉弘重先生