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メディカルフィットネスで活力年齢が10歳若返る! キャンサーフィットネス・スマートライフ講座3

メタボ予防や肥満対策のために過剰なダイエットや運動をすることはよくありません。栄養バランスを考えた食事管理と筋力・体力の増強を図る運動を習慣化することを心がけましょう。キャンサーフィットネス主催の健康管理を学ぶヘルスケアアカデミー*1において筑波大学名誉教授・田中喜代次先生が講演した「がん患者のための体力増進法」のメディカルフィットネス=体力増進講座は、みなさんに役立つので紹介します。

健康に良かれと思っていた運動が体を壊すことも

講演では、筑波大学と㈱THFで開発されたスマートダイエットとスマートエクササイズを参考にして、栄養バランスの良い食事をとりながら、適度な運動により筋力や体力をつける「メディカルフィットネス=個人の医学的情報を勘案して取り組む体力増進活動」の重要性が強調されていました。
というのは、太ったまま運動するとケガしやすく、栄養バランスを考えないダイエットと運動は、自分の筋肉を壊してエネルギーを消費するだけです。
一方、運動のやりすぎはバーンアウト(燃え尽き)やケガの後遺症などに悩まされることがあります。田中先生の書籍「その運動、体を壊します」(SB新書、2019年発行)では、健康に良かれと思っていた運動が実は間違っていたケースを指摘しています 。

「その運動、体を壊します」(SB新書、2019年発行)
出典:「その運動、体を壊します」(SB新書、2019年発行)

また、高齢になると、転倒・骨折リスクのロコモティブシンドロームや筋肉が少なくなるサルコペニア(筋肉減弱症)のリスク、認知症やうつ病などのリスクが高くなっていきます。
たとえば、サルコペニア(筋肉減弱症)の人ではほぼ全員が著しくやせていて、骨折リスクが高くなり、活動性が低くなっていきます。そうすると、精神的に悪影響を及ぼし、それぞれが関わりあって負のスパイラルに陥ります。
そこで、栄養バランスの良い食事管理に努め、そして適度な運動を楽しみながら習慣化することが大事です。筑波大学発のスマートダイエットとスマートエクササイズが役立ちます。

運動を習慣化すると活力年齢が若返り10年維持する研究結果も

運動習慣のエビデンスとして、田中先生らの研究を見てみましょう。運動習慣の有無で体内をMRI画像で分析した結果では、運動習慣がある人はない人に比べて筋内・筋間脂肪の面積が少なく、運動習慣なしだと肝臓の脂肪も増えることが明らかになりました。
また、自分の体力情報から算出する生活体力年齢や、血圧・血液・肺機能・骨量・酸素摂取量・俊敏性などから算出する活力年齢*2を指標として、1990~2000年に心血管系の病気や糖尿病などがある中年女性を対象に運動による若返り効果を10年間追跡しました。
結果を見ると、開始時は暦年齢より7歳老けていましたが、3カ月後には暦年齢と同じ、1年後以降は活力年齢のほうが暦年齢よりも若返り、10年間にわたり維持していました。
また、虚血性心疾患や高血圧などの循環器系疾患,耐糖能異常や脂質異常症などの患者さんが長期にわたり運動を習慣化した場合の最大酸素摂取量(全身持久力に関わる指標です)の経年的変化を検討した研究結果を見てみましょう。
それによると、運動開始時の高年齢にかかわらず,10年以上にわたって低下はみられず、高齢になるほど健康な人との差は縮まったとの結果があります*3
田中先生は、週に何回かの運動を続けて習慣化していると、ダイエットで見られるようなリバウンド(より正しい表記はリゲイン*4)は起きないことと関係しているのではないかと推察しています。

がん患者さんも活力年齢が若返って生きがいある人生につながる!

がん経験者さんでは、どうでしょうか。田中先生らは2015年に筑波大学で乳がん女性を対象に運動習慣があるかどうかで体力年齢と活力年齢について調べた研究があります。
それによると、運動習慣がある乳がん女性10人の暦年齢51.8歳に対し活力年齢は平均46.0歳、体力年齢は49.1歳でした。さらに、運動習慣の有無で活力年齢を見ると、運動習慣があると、習慣がない人に比べて約7歳ほど若がえる効果が見られました(図)。

図:乳がん女性の運動習慣の有無で比較した活力年齢の比較 図:乳がん女性の運動習慣の有無で比較した活力年齢の比較

出典:キャンサーフィットネス・ヘルスケアケアアカデミー(2020年2月18日開催)での田中喜代次先生の講演「がん患者のための体力増進法」の講演資料

また、田中先生らが開催する乳がん女性向け健康づくり教室でBMIが25以上の6人、BMI21~24の17人に運動を習慣づけると、就寝時の満足度、朝に起床時の意欲度、労働や家事に対する意欲度が、運動していない人に比べて高いとの結果が得られました。

筑波大学発のスマートダイエットとスマートエクササイズで健幸華齢を目指そう

最後になりますが、スマートダイエットとスマートエクササイズなどを参考にして、まず栄養バランスを考えた食事管理の徹底、そして減量効果が現れてきたら適正な食習慣を維持したうえで適度な運動で体力の増強を図っていくことが推奨されます。
田中先生は、運動を習慣化すると(継続的に実践していくと)、ストレス緩和にもなり、楽しみながら没頭(エンジョイ)できれば、脳の神経細胞が活発に働くようになります。つまり、楽しさを感じられる運動を各自で習得することが重要としています。
田中先生と㈱THFは日本健康応援サイトで、世の中にない健康体操づくりを通じて、健康な街(まち)づくり、活力ある職場づくりに貢献するプロジェクトに取り組んでいます。
そのなかで、人手不足が深刻でかつ安全運転が求められる運輸業種(特にドライバー)のために、オリジナルの“健康・安全体操”の試験動画(Youtube)を制作しました。

田中先生は「人生100年時代といわれているので、病気にはなっていない未病の段階なら、『継続するチカラ』をもとに、元気長寿、健幸華齢といったサクセスフル・エイジングを目指していくべき」としています。

  • *1:一般社団法人キャンサーフィットネス(http://cancerfitness.jp/)は健康講座のヘルスケアアカデミーやリンパ浮腫患者スクールを定期的に開催しています〔リンパ浮腫患者スクールは年間12回・専門医15人による20講座、2020年度スケジュール(PDF)〕。
    2020年2月18日のヘルスケアアカデミーは、筑波大学名誉教授/日本介護予防・健康づくり学会会長/筑波大学発研究成果活用企業株式会社THF代表取締役・田中喜代次先生が、「がん患者のための体力増進法」のテーマで講演しました(参考書籍:日本スポーツ協会 スポーツ医・科学研究プロジェクト「健幸華齢のためのスマートライフ」)。
  • *:2:活力年齢に関する論文:人間福祉学研究第2巻第1号2009;11:8-17
  • *:3:体力科学2008;57:82-83
  • *:4:リバウントとリゲインの違い
    リバウンド(rebound)には、痩せの人が太った後に再び痩せた場合も該当します。減量をweight loss、増量をweight gainと言うので、いったん減った体重が再び増える場合はweight regainというのが正しい表記です。リバウンドは日本式の表記です。
公開日:2020/08/26
監修:筑波大学名誉教授/日本介護予防・健康づくり学会会長/筑波大学発研究成果活用企業株式会社THF代表取締役 田中喜代次先生、
一般社団法人キャンサーフィットネス