疾患・特集

職場の熱中症対策、遠隔デジタル・IoTで労働者1人1人のリスクを察知

熱中症は、高温多湿な環境と個人の体調が大きく関わります。職場によっては、離れたところで多くの人が働くチーム作業となり、1人1人の健康を管理するのは難しいのが課題です。そこで、デジタルセンサーとIoT(Internet of things)、自動学習するAIなどを駆使して、離れたところで働く人たちのリスクをリアルタイムで検知する取り組みが実用化されています。ゴルフ場や造船業、損害保険のかたの意見、医師の予防対策のポイントをふまえて紹介します。

ヘルメット装着型、リストバンド型、ウェア装着型などのデジタルセンサーが開発

熱中症は高温多湿な環境下で体内の水分と塩分(ナトリウムなど)のバランスが崩れることや調整機能が破綻すると発症します。気象条件などをもとにした暑さ指数(WBGT)に加えて、自分の体調も把握してリスクをいち早く察知することが必要です。

図:熱中症はなぜ起こるのか
図:熱中症はなぜ起こるのか
出典:熱中症環境保健マニュアル2018
(https://www.wbgt.env.go.jp/heatillness_manual.php)

■参考記事

職場などでは、デジタル・IoTの技術を駆使した熱中症リスク検知システムを導入する取り組みが導入されつつあります。
ウェアラブルのデジタルセンサーを装着すると、心拍数や脈拍数、深部体温(脳や内臓などの体の内部の温度)、歩数といった活動量などが自動計測されてBluetoothなどを介して送信され、個人の体調データと作業エリアの環境情報がAIなどで自動解析されてリスクを検知します。
ウェアラブルセンサーは、ヘルメット装着型、リストバンド型、ウェア装着型などがあります。
ヘルメット型は、脈波数、ひたい(額)の温度を測定するセンサーをヘルメットに装着するものや、脳の温度(深部体温)の上昇度を耳たぶで測定するセンサーなどがあります。
リストバンド型(腕時計型)は温度や湿度、心拍数、脈拍数、熱ごもり指数(熱エネルギーが体にこもることです)を計測するタイプのほか、転倒を検知できるものもあります。
ウェア型は生体センサーで心拍数などを計測するもので、学校の検証事例もあります。

個人の体調を正確に把握できる精度の高いデータが必要

職場の熱中症対策について、デジタル・IoT 技術を駆使した熱中症リスク検知システムを使った対策を検討されている管理者の方にお話を伺いました。
ゴルフ場では、日影が少ない炎天下で逃げ場が少ないプレイヤーさん、キャディさんやコース整備の方の熱中症リスクがあり、水分補給や塩飴などのほか、コース管理の方に扇風機付きの服を着てもらうなどの対策を講じているところもあるそうです。
熱中症で具合が悪くなる前に知らせてくれるようなシステムがあると、早めに休憩をとることができ、プレイヤーさんも従業員も安心です。
また、作業現場では安全管理のために、より精度の高いリスク検知システムを用いた熱中症対策が求められます。以下のような意見が寄せられています。

  • 作業現場では、安全管理者が見回りながら、あらゆるリスクをチェックするので、デジタルセンシング技術・IoTを駆使して中央管理できることは有益。
  • 熱中症は個人差があるうえに、作業する人は日々入れ替わるので、はたから見ているだけでは状況の把握が難しい。使いまわしができて、個々の状況に反応してアラートしてくれるセンシング技術が良い。
  • 暑さにも耐えられるセンサーが必要(造船場での作業では甲板は50〜60℃になることもあるようです)。

上記のようなニーズがあることから、デジタル・IoT技術を用いた熱中症対策に期待が寄せられています。

オリンピック・パラリンピックのボランティアも安心できるシステムが望まれます

損害保険担当の方からは、熱中症リスクを気にせずスポーツを楽しんでもらい、東京オリンピックやパラリンピックといったイベントのボランティアスタッフなども含めて、被保険者への熱中症対策をサポートできるようにしたいとの意見がありました。
2020年の新型コロナウイルス感染症の影響により外出自粛していた人たちが急にスポーツを復活させると、熱中症のリスクが高まることが考えられます。オリンピック・パラリンピックでも熱中症対策への備えが必要ではないかとの話もありました。
熱中症対策ツールに関しては、「具合が悪くなる前に知らせてほしいのはもちろん、体表⾯温度などに左右されない正確なデータ(深部体温など)をもとに体調の変化を把握できることは魅⼒がある」とのことです。
「たとえば、健康のためのリスク管理を前提として、精度の⾼い熱中症対策ツールを身に着けてもらうルールつくりなどを将来は考えていきたい」という意見もありました。

今後、熱中症リスクがますます高くなることが考えられます。だからこそ、精度の⾼いリスク検知ツールを用いて、より正確なデータから体調を把握するなどの対策が重要です。

職場の熱中症対策は作業環境だけでなく作業者への管理にも注意すべき

線維筋痛症患者であり、医師として患者さんに役立つ情報をSNSで発信しているみおしん先生に熱中症の予防ポイントをうかがいました。

みおしん先生によると、 熱中症による死亡数は乳幼児、40~60歳、さらに高齢者で多発しており、「特に梅雨明けに一気に増える傾向にあるので、意識して対策すべき」と声を大にしています。熱中症危険信号として以下のポイントを挙げています。

■症状のサイン

  • 顔が赤い・熱い・乾いた皮膚(まったく汗をかかない・触ると熱い)
  • ずきんずきんとする頭痛、めまい、吐き気
  • 呼びかけても反応がない、もしくは反応が微妙(意識障害のサイン)

日常生活では、暑さ(熱さ)を避ける、服装を工夫する(白い服OK、黒は熱を吸収するので着ない)、こまめな水分補給(アルコールは控えましょう)といったことに気を付けましょう。さらに重要なこととして「みんなで声を掛け合おう」を挙げています。

職場の熱中症対策としては、作業環境の管理と作業者の管理に注意すべきとしています。

■作業環境の管理

  • 作業開始7日目以内に熱中症を発生するケースが多いので、暑さ指数のWBGT値に基づいて高温多湿な作業所のリスク評価を行い、環境に順化させる期間を作る
  • 市販の冷房服や冷却グッズを使用する場合は、事前にその有効性や適用条件や限界を確認する

■作業者の管理

  • のどの渇きに関わらず、作業前後、作業中ともに定期的に水・塩分摂取させる
  • 7月と8月は、14時から17時の炎天下の状況でWBGT値が基準を大幅に超える場合には、作業を行わないことを含めて、見直しを図ることが重要

熱中症は真夏だけでなく5月や6月、残暑が厳しい9月、また朝9時以前や夜18時以降に救急搬送されるケース、死亡するケースも少なくありません。最近は「マスク熱中症」や「シールド熱中症」が問題視されています。
熱中症は、ますます増えるかもしれません。高温多湿の環境だけではなく、個人の体調も原因になるので、1人1人の健康をリアルタイムで察知するサポートシステムを普及させていくことが重要ではないでしょうか。

■関連サイト

■関連記事

公開日:2020/07/15