疾患・特集

乾癬患者さんが「つながる」をテーマに世界乾癬デープロジェクトを立ち上げ

乾癬(かんせん)は、皮膚や関節などの症状に加えて、皮膚症状がある肌を人に見られることへのストレスに悩み、感染するとの誤解から精神的・社会的な負担が大きくのしかかる深刻な病気なのです。そこで、一般における認知度は向上させて、正しい情報を提供して病気について広く理解してもらうことを目的として、患者さんが主体で一般社団法人INSPIRE JAPAN WPD乾癬啓発普及協会が設立されました。

乾癬は世界的に深刻な病気です

乾癬の患者数は世界で約1億人以上、日本では50万人といわれています*1。最近は、症状がほとんどない寛解という状態を治療ゴールとして目指すことができます。
ところが、正しい情報が行き届いていないので症状に悩む患者さんや、外見上の悩みにより精神的につらい思いをする患者さんが多いことや、「うつる」病気あるいは不衛生が原因との誤解や偏見があることが問題になっています。
周囲に相談ができず、やりたいことをあきらめる、社会から孤立するといった患者さんやうつ病になる患者さんが少なくないのが現状です(参考記事:乾癬(かんせん)の誤解と偏見がない社会を目指す!患者会が啓発活動)。

患者さんをエンパワーしたい、若い世代の患者さんも支援!

乾癬を啓発する必要性から、国際的な乾癬患者団体連合は2004年、乾癬患者さんへ捧げる日として10月29日を世界乾癬デー(World Psoriasis Day:WPD)と定めました。
2014年の世界保健機関(WHO)総会決議として、世界乾癬デーを通じて行われる活動の支援が奨励され、毎年にわたり世界乾癬デーの啓発イベントが世界各地で開催されています。
国内では、乾癬患者さんの有志6人により2017年6月に世界乾癬デープロジェクトチーム(INSPIRE JAPAN WPDプロジェクト)が結成されました。結成の背景は以下です。

  • 社会全般に乾癬の認知度と理解度をもっと向上させたい
  • 治療をあきらめて引きこもっている人、誤解や偏見のために社会から疎外感を持っている人、孤立している人々をエンパワーしたい
  • 若い世代とつながっていきたい

患者さん主催により世界乾癬デー啓発イベントを東京タワーで開催

若い世代の患者さんに関しては、低い自尊感情やネガティブな自己イメージを抱きやすいといわれます。そうなると誰にも相談できず、孤独感や疎外感を感じやすいこと、さらに学校、就職、結婚、出産などのライフイベントにも影響を及ぼすことが考えられます。
INSPIRE JAPAN WPDプロジェクトは、乾癬という病気を社会全般に理解して誤解や偏見を払拭して患者さんが暮らしやすい社会にすること、患者さんが正しい情報をもとに治療に前向きになってもらうことを目的に世界乾癬デーにイベントを実施しました。
また、若い世代と「つながる」ための工夫として、フェイスブックだけでなくツイッター、インスタグラムをオープンしました。
INSPIRE JAPAN WPDプロジェクトは2017年6月に有志6人によるプロジェクトチームを結成し、「世界につながろう」を合言葉に任意団体として誕生しました。同年10月29日に、日本のランドマークである東京タワーでイベントを開催しました。

病気に関わっていない人も「乾癬」という病名を認識してくれた意義あるイベント

2017年の世界乾癬デー啓発イベント*2では、乾癬という病気を啓発するためにパネルを展示して、乾癬啓発のパンフレット1000部を通りがかりの人に配布したほか、特製クリアファイルも配布しました。
現地で「乾癬という病気について知っていますか?」というアンケートを実施すると、回答した約120人のうち「知っている」は62%で、そのうち約1/4は患者さんや身内、友人でしたので、約半数は乾癬という言葉さえ知らないことが推察されました。
一方、東京タワーの観光客は海外の人も多く、アンケートに回答した外国人のほとんどは病気を知っていました。日本では、一般の認知度は海外より低い可能性があるので、認知度向上が課題であることがわかりました。
一方で、当日に東京タワー展望台へ上ったのは約5000人で、大半がINSPIRE JAPAN WPD 2017の会場の前を通りましたので、病気に関わっていない人も「乾癬」という病名を認識してくれた意義あるイベントであったことが朗報といえます。
北陸や九州など遠方から来てくれた患者さんもいました。「ここに来れば、乾癬の仲間に会えるかもしれない」、「いままでインターネットだけが情報源だった」という思いを持つ人たちと「つながれた」と感じた瞬間でした。

「患者力をアップして乾癬を攻略する」ためのシンポジウム企画を実施

INSPIRE JAPAN WPDプロジェクトは、2018年4月からは一般社団法人INSPIRE JAPAN WPD乾癬啓発普及協会として新たにスタートし、世界乾癬デーのイベントは10月28~29日に東京タワーで実施しました(写真)。

写真:2018年の世界乾癬デー(10月29日)イベント1 写真:2018年の世界乾癬デー(10月29日)イベント2
写真:2018年の世界乾癬デー(10月29日)イベント

2018年のイベントは、2017年と同様に、乾癬に関するパネル展示を行い、乾癬啓発パンフレットや特製クリアファイルも配布しました。
さらに、公開シンポジウムも開催しました。シンポジウムのテーマは、世界乾癬デーのテーマ「PsoSerious」とコミュニケーションメッセージ「treat psoriasis seriously, our lives depend on it」を主題としたものです。
テーマには、「乾癬は深刻な病気」、コミュニケーションメッセージには「乾癬治療に真剣に取り組もう、自分の命にかかわることだから」という思いが込められています。
乾癬の専門医による講演や、ペイシェント&ドクターセッション「患者力をアップして乾癬を攻略する」といった企画が催されました。
さらに、当日は現地に来ることができなかった患者さんとつながるために、公開シンポジウムの内容はインターネットで全国へライブ配信されました。

2019年も患者さん主催で世界乾癬デーのイベントを予定

乾癬の患者さんは、症状に苦しむだけではなく、誤解や偏見がなどによる精神的なストレスや悩みを抱えています。一方、症状がおさまる治療薬が登場しているのに、正しくかつ最新の情報のアクセスできていない患者さんが多いのが現状です。
社会全体に乾癬という病気を正しく理解してもらうこと、まだ孤独に病気と闘っている患者さんに、最新かつ正しい情報を届けることで適切な治療にアクセスしてもらうことは今後も課題です。
課題を克服して、患者さん同士で交流を深めてもらい「つながる」をキーワードに、INSPIRE JAPAN WPDプロジェクトチームは、2019年も世界乾癬デーに向けて啓発イベントを企画中です。

  • *1:臨床医薬 2014;30(3):279-285
  • *2:2017年の世界乾癬デーのテーマは「Psoriasis Inside Out」、コミュニケーションメッセージは「Pso Many Sides」と「Pso Me」(「Pso」は「Psoriasis」と「So」をかけたものです)です。単なる皮膚疾患ではなく、関節炎や重篤な全身性疾患を併発するリスクが高く、心理・社会・経済的にも深刻な影響を及ぼし、日々の生活に極めて大きな影響を与える疾患であることを知ってほしいというメッセージが込められています。
公開日:2019/03/01