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男が乳がんになるとは思わなかった!男性乳がんの会「メンズBC」(1)

乳がん*1は、女性だけでなく男性にも存在する病気です。男性の乳がん患者数は全体の0.5%程度ですが、過去10年間の男女比が同等で、女性の乳がん患者数が増加傾向ですので、男性乳がんも増えていると予測されます。しかし、男性乳がんの情報は乏しく、患者さんが困っているのが現状です。そこで、男性乳がんの会「メンズBC(Breast cancerの略)」が発足しました。

男性乳がんの実態が明らかにされていない

男性乳がんの実態は?

男性乳がんは、古代エジプトの外傷手術に関する書物「The Edwin Smith Surgical Papyrus」の中に紀元前3000年には知られていたと記載があります。しかし、国内外ともに研究が進んでいないようです。
日本人医師が男性乳がんに対して診療の参考にする情報は、ほとんどが海外の研究データが基本となっています。
女性の乳がん検診で使用されるマンモグラフィに関しても、女性では診断を補助する定量化ソフトが開発されるほど汎用化されていますが、データが少ない男性には応用することができません。
さらに研究分野においても、女性乳がんを中心に行われ、患者数が少ない男性乳がんでは研究が進んでいません
たとえば、乳がんの診断に今後応用が期待される、血液検査で悪性の腫瘍を判別する方法や、呼気の臭いでがんの発症を判別する方法などが開発中ですが、対象は女性となっています。

このように、男性乳がんの歴史は古くから知られてはいるものの、詳細な乳がんの実態は明らかにされていないのが現状です。
そこで、「メンズBC」がNPO法人キャンサーネットジャパンの支援で2018年に発足しました。男性乳がんの患者さんのサポートを目的として、今までに会合を4回開催しています。11月17日の会合では、昭和大学乳腺外科准教授の沢田晃暢先生が参加し、男性乳がんを取り巻く環境などを紹介しました。

男性の乳がんも増加傾向の可能性があり40歳代で発症するケースも

沢田先生によると、海外の報告では乳がんの診断年齢は女性でおよそ50歳、男性ではおよそ70歳代で、5年生存率の男女差はないようです*2。昭和大学の患者さんでも、平均の乳がん罹患率は女性53.7歳に対し男性は73.7歳でした。
男性乳がんは女性乳がんよりも高齢の傾向ですが、40歳前半で発症した人もいるので、中高年の病気ともいえます。
日本乳癌学会の年次登録では、2015年に新たに乳がんと診断された患者数は約8万7000人、そのうち男性は560人(0.6%)でした。過去10年間は、男性は毎年0.5%前後と一定ですが、乳がん患者数は右肩上がりの上昇傾向ですので、男性も増加傾向の可能性がありそうです(表)。

表:乳がんと診断された患者数(日本乳癌学会の年次登録) 表:乳がんと診断された患者数(日本乳癌学会の年次登録)
提供:昭和大学乳腺外科准教授・沢田先生

また、男性乳がん発症の危険因子として、男性ホルモン(アンドロゲン)欠乏による停留睾丸、睾丸委縮、睾丸炎、不妊症、女性ホルモン(エストロゲン)の過剰、高コレステロールや急激な体重増加、肥満(BMI25以上)、女性化乳房などが指摘されています。

乳がんは男性と女性で違いがある?

乳がん患者さんは男性と女性に違いがあるのでしょうか。沢田先生が海外のデータを要約して報告しました。
米国の大規模な患者データベースNCDBとSEER*3を用いて乳がんの男女の違いを検証した研究結果(2018年米国臨床腫瘍学会)によると、一般的に女性では「乳房切除術(全摘)」と「乳房部分切除術(温存)」の生存率は同じですが、NCDBのデータベースから検証した結果、男性では「乳房部分切除」+放射線療法による温存療法のほうが、乳房全摘手術に比べて生存率が高いとのことでした。
また、ホルモン感受性が陽性の男性乳がん患者さんにはホルモン治療として抗エストロゲン薬を服用するケースが一般的ですが、女性よりも副作用が強く現れる傾向にあることが、以前から指摘されています。
今回、米国のSEERというデータベースからは、抗エストロゲン薬の服薬を、副作用のために120日以上内服できなかった患者さんを調査したところ、半数の患者さんで5年間継続できなかったと指摘がありました。

これらの情報がすべて正しく日本人に当てはまるかどうかについては、さらなる検討が必要ではあるものの、海外では男性乳がんの実態を明らかにするために定期的に報告が行われています。しかし、国内での研究は進んでいないのが現状です。次回は、患者さんから寄せられた症状や副作用に関する情報に関して紹介します。

次回の「メンズBC」の会合予定:2019年2月16日
https://www.cancernet.jp/190216

  • *1:乳がんは正式には「乳癌」です。漢字で「癌」と示すのは、身体の表面をおおう上皮組織にできる悪性腫瘍です。ひらがなの「がん」は悪性腫瘍すべてを示すときに用いられます。本記事では「乳がん」に統一しています。
  • *2:J Clin Oncol. 2010;28(12):2114-22
  • *3:SEER:Surveillance Epidemiology and end resultsの略。米国では、地域がん登録に基づくがん診療の評価は、国立がん研究所(NCI)が中心となって1973年からのデータベースを構築しています。 NCDB:National cancer Databaseの略。全国がん登録と全がん協病院共同調査を兼ね備えた質の高いデータベースを1987年から構築しています。米国外科学会のがん部門と米国対がん協会の共同プロジェクトです。

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公開日:2019/01/25更新日:2020/09/25
監修:昭和大学乳腺外科准教授 沢田晃暢先生先生